DX支援からAIコンサル事業への進化
伊予鉄道の持株会社である伊予鉄グループ(愛媛県松山市)は2026年7月1日、傘下のデジタルテクノロジー四国の社名変更により、新会社「伊予鉄AIコンサルティング」を発足した。新会社では、これまでデジタルテクノロジー四国が積み重ねてきたDX支援の実績を生かし、AIの導入支援から運用、活用までを幅広く支えるコンサルティング業務を強化する。
【画像】「今と全然違う!」 約100年前の松山駅周辺を写真で見る(計9枚)
同日に開かれた新会社設立の記者発表会では、オフィス向け生成AIツール、AI面接などのAIサービス事業や、登録者数が10万人を突破した「みきゃんアプリ」での取り組みを紹介した。ヒューマノイド(AI搭載ロボット)の展示も行われた。
さらに伊予鉄グループは同日、東京支社を開設した。同支社では、首都圏から愛媛への観光客誘致を進めるほか、デジタル、不動産、商事、人材など幅広い分野の情報を集め、新たな事業を進める拠点として位置付けている。
新会社によるAI関連事業は、主に愛媛県を中心とする四国が対象となる。ただ、前身となるデジタルテクノロジー四国は、2021年4月に伊予鉄グループとAI関連企業のオープングループ(東京都港区)による合弁会社として設立された経緯がある。東京支社の開設は、新会社によるAI関連事業を含め、首都圏など四国外への事業展開も視野に入れた動きといえる。
伊予鉄グループのAI関連事業では、伊予鉄グループと旧デジタルテクノロジー四国が2024年9月にAIを活用したニュース動画配信を開始した。また、傘下の伊予鉄総合企画は2026年6月15日、AIを活用した人材マッチングサービス「よんなびAIマッチング」を開始している。
また、伊予鉄グループでは人事評価制度でAI活用力を重視し、社員のAIに関する知識水準を把握したうえで研修などを進めてきた。採用面でも、面談内容をAIが要約・評価する仕組みを導入するなど、自社でAI活用を進めてきた。
多角化を進める老舗私鉄の東京進出
伊予鉄グループは、1887(明治20)年に伊予鉄道として発足し、翌1888年に松山~三津間を開業した老舗私鉄である。現在では松山市を中心に43.5kmの鉄軌道事業を運営しており、地方私鉄としては比較的大きな規模を持つ。グループ全体では、鉄軌道事業に加え、
・バス事業
・海運業
・百貨店業
・不動産業
・旅行業
・デジタル事業
など幅広い分野で事業を展開している。地方私鉄でありながら、大手私鉄に近い多角的な事業展開を行っている点が特徴だ。
同社が運営する鉄軌道網の中心である松山市駅は、中心市街地の繁華街に位置し、駅ビルには四国最大級の百貨店やホテルなどを併設している。長年にわたり、まちの中心的な存在として機能してきた。一方で、繁華街からやや離れた場所にあるJR(旧国鉄)の松山駅は、県庁所在地の玄関口でありながら、長らく
「残念な駅」
とも評されてきた。近年は高架化などによる開発が進んでいるが、松山市駅とは異なる歩みをたどってきた。こうした地域事情もあり、伊予鉄グループは地元愛媛・松山では古くから存在感の大きい企業グループであった。
ただし、不動産事業や百貨店業、ホテル事業などを軸に沿線外でも全国展開する大手私鉄と比べると、全国的な知名度は必ずしも高くない。そのため、本業との結び付きが一見分かりにくいAI関連事業への注力や東京支社の開設は、老舗の有力地方私鉄が事業領域を広げる動きとして注目される。
地方の私鉄やバス会社のグループが東京に営業所や支店を置く例は珍しくない。ただ、その多くは自社の沿線や地域への誘客を目的とした拠点であり、首都圏の旅行代理店や広告代理店などへの営業、広報活動が中心となっている。一方、伊予鉄グループが開設した東京支社は、営業所や支店ではなく
「支社」
として位置付けられている。新規事業を進める中核拠点としていることから、誘客だけを担う組織ではなく、一定の判断権限を持つ拠点になるとみられる。開設当初は小規模な組織で始まるとしても、
「老舗の有力地方私鉄が東京へ進出する」
という事実は、見逃せない動きである。
不動産を上回るデジタル部門の収益力
一見すると本業とは直接関係が薄いように見えるAI関連事業だが、同社がこれまで進めてきたデジタル化、DX、AI活用の流れを踏まえると、全く新しい分野への挑戦ではなく、これまでの取り組みの延長線上にあるといえる。
伊予鉄グループが2026年6月26日に公表した第118期(2025年4月~2026年3月)の有価証券報告書によると、連結決算での営業収益は前期比3.1%増の347億5266万円、営業利益は同6.1%減の14億9828万円となった。
部門別の営業収益を見ると、鉄道・バスなどの交通部門は87億4710万円、百貨店・自動車販売などの流通部門は165億1985万円、不動産部門は20億2698万円、その他部門は74億5871万円だった。その他部門には、デジタル事業・広告事業の33億8082万円、デジタルコンサルティング事業の2億476万円などが含まれている。
営業収益で見ると、本業である交通部門は全体の約25%である一方、流通部門は約48%を占めており、グループ全体では流通事業が最も大きな収益源となっている。
多くの私鉄では不動産部門が大きな収益を生み出しているが、伊予鉄グループでは不動産部門の営業収益は6%に満たない。
一方、「その他部門」に含まれるデジタル事業・広告事業とデジタルコンサルティング事業を合わせると、全体の10%を超え、不動産部門を上回る規模となっている。
鉄道会社は、車両や駅といった広告を展開できる場所を自社で持つため、もともと広告事業を手掛けやすい特徴がある。
伊予鉄グループは、こうした広告事業の範囲を広げ、幅広いデジタル事業にも取り組んできた。インターネット広告やデジタルサイネージ、求人サイトなども手掛けている。
AI分野で全国展開を目指す老舗私鉄
デジタルという言葉自体は、今では当たり前のものとなり、かつてほど新鮮さを持たない表現になっている。その対になる言葉はアナログである。
今なおアナログのまま残っている業務をデジタル化し、効率を高めることがDX支援事業の役割だ。「デジタルに強い」とされる同社がDX支援事業に取り組むことは、自然な流れといえるだろう。
前述のとおり、今回発足した新会社・伊予鉄AIコンサルティングの前身であるデジタルテクノロジー四国が手掛けてきたのはDX支援事業である。
新会社が展開を予定しているオフィス向け生成AIツール、AI面接などのAIサービス事業は、これまで進めてきたDX支援事業の延長にあるものだ。ヒューマノイド(AI搭載ロボット)については、現時点では見た目の分かりやすい象徴としての意味合いが大きいとみられる。
ただ、同社の事業展開における軸がデジタルからDX、さらにAIへと移りつつあることを踏まえると、今後はAI関連事業が中心となり、その展開次第では四国・愛媛を拠点とする企業から
「全国規模」
で事業を展開する企業へ成長する可能性を示した動きといえる。前述した部門別の営業収益では、デジタルコンサルティング事業の割合は全体の1%に満たない。しかし、その伸び率は前期比21.8%となっている。
創業100年を超える老舗私鉄が、AI分野で存在感を持つ企業へ成長するのか。今後の動きが注目される。(銀河鉄道世代(フリーライター))
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みんなのコメント
毎年のように運賃上げすぎ。