今シーズン、DAMSからF1直下のFIA F2へ参戦している岩佐歩夢はチャンピオンに向けて向上なスタートを切っている。アルファタウリのF1シートに関する話題や、ホンダのF1への正式復帰など、彼の将来はバラ色に見える……。
2023年シーズン、F1直下のFIA F2にDAMSから参戦する岩佐歩夢は素晴らしいシーズンスタートを切っている。F2で2年目を迎えた岩佐はモナコ戦を終えた時点で既にグリッド最多の3勝と1回のポールポジションを獲得しており、ドライバーズランキング3番手につけている。
■チームが一時”トリコロール”に染まりかける危機……岩佐歩夢、F2制覇に向けた足場づくりで得た学び「チームメイト同士で争うだけでは何も得られない」
岩佐は2019年に鈴鹿レーシングスクール(現ホンダ・レーシングスクール・鈴鹿)のスカラシップを獲得し、日本のFIA F4を走ることなく翌年からホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)の育成ドライバーとして渡欧。今年アルファタウリでF1参戦3年目を迎える角田裕毅とも、似たキャリアを追っている。
2020年に岩佐はフランスF4へ参戦すると、6回のポールポジションを獲得し、9勝を含む15回の表彰台を記録してチャンピオンに輝いた。共にフランスF4を戦った佐藤蓮とは76ポイント差でのタイトル獲得だった。
2021年にFIA F3へステップアップを果たした岩佐は、ハイテックのマシンパフォーマンスに悩まされながらも、1勝と2回の表彰台を獲得しドライバーズランキング12位と健闘した。しかし、岩佐が注目を集めるようになったのは、2022年にF2へ昇格してからだ。
F2ルーキーイヤーは、今年ウイリアムズからF1デビューを果たしたローガン・サージェントに次ぐランキング5番手。ポール・リカール戦とアブダビ戦で勝利を挙げ、2シーズン目を迎えた。
そして岩佐は、2年目の2023年シーズンにもう1段階ギヤを上げてきた。ジェッダ戦レース1、メルボルン戦レース2、モナコ戦レース1で優勝。69ポイントを獲得し、メルセデス育成のフレデリック・ベスティ、2022年のF2でランキング2位になったテオ・プルシェール(ART)に次ぐランキング3番手となっている。
ただ、岩佐はこれまでの自身のパフォーマンスを批判的に捉えている。
「バーレーンとジェッダでは正直、良いパフォーマンスができませんでした」
岩佐は今季3勝目を挙げる前に、モナコの仮設パドックでmotorsport.comにそう語った。
「ジェッダでは優勝しましたが、レース運びが上手くいかず、スピードはありませんでした。そしてメルボルンではマシンがとても良いパフォーマンスを発揮してくれましたが、バクーではまたしても少しパフォーマンスが落ちてしまいました」
「僕のシーズンはここまでアップダウンがありますが、チームとしては良いパフォーマンスを維持することができています。だから、ランキングで3番手につけられているんだと思います。ただ、自分たちがトップだとは思っていませんし、チームとしてのパフォーマンスを向上させることがメイン目標だと思います」
「マシンとドライビングの両方を改善する必要があります。特にマシンの方は、もう少しステップアップしたいと思っています。正直、予選ではどこもかしこも少し物足りない状況です。レースでは予選よりも良いパフォーマンスを発揮することができましたが、それでも今ひとつなことが時々あります」
「例えば、バクーでは確かに足りていませんでした。メルボルンはずっと良かったですが、ジェッダやバーレーンはダメでした。僕らには何かが欠けているとは思いますが、もちろん大きく遅れているわけではありません。必要なのは小さな改善だと思います」
今年はフェラーリF1のシャルル・ルクレールの弟がチームメイトに
岩佐は今季、新たなチームメイトとして、昨年F3でランキング6位を獲得したF2ルーキーのアーサー・ルクレールを迎えた。フェラーリ・ドライバー・アカデミー所属のルクレールは、モナコ戦を終えて計34ポイントを稼ぎランキング10位に付けている。これは岩佐の2022年のチームメイトであったロイ・ニッサニーのシーズンを通しての獲得ポイントである14ポイントを既に上回っている。
岩佐は昨年と今年の差は「それほど大きくない」と考えており、次のように続けた。
「僕らは同じ方向性で進んでいますし、一歩ずつ改善しています。昨年の時点で既にスピードはありましたし、それを維持したまま、今シーズンに繋げようと思っています。僕は2年目ですし、もうルーキーではありませんからね」
そして、チームメイトと協力していくことが良い結果をもたらすと岩佐は説明する。
「良い結果を出すためには、全てをまとめなければいけません。また、アーサーという良いチームメイトがいますし、彼は速いですし、F3やフォーミュラ・リージョナルで2年間の経験もあります。そして僕らは、チームとして改善していこうとしています」
岩佐はルクレールが「シーズンを通してかなり改善している」と考えており、”複雑な”F2マシンに素早く適応していることを評価している。
また、ふたりは同じラウンドで成功したり、苦戦したりと、チームの進歩に役立っていると同時に、妨げにもなっていると岩佐は言う。
「メルボルンでもそうでしたが、フィーチャーレースでダブル表彰台を獲得できたことは大きなことでした。それからバクーでは共に苦戦していました。つまり、ドライバー側だけではなく、チーム一丸となって取り組む必要があるということです」
岩佐が言う通り、彼の2023年はここまでアップダウンの激しいシーズンとなっている。
開幕戦レース1では4位フィニッシュを果たしたものの、レース2では厳しい展開となり8位。ジェッダ戦では巻き返し、レース1では何度もピンチをしのぎきって今季初優勝を飾り、レース2では再び4位に入った。
オーストラリア戦ではザウバー育成のプルシェールと激しいバトルを繰り広げ、ポールポジションからレース2で優勝。しかしバクーではレース1でDRSが作動せずリタイアし、レース2では12位とポイント圏外に進んだ。
そしてモナコ戦のレース1では度重なるセーフティカー導入に阻まれながらも、最終盤のリスタートから一気に2位ジェハン・ダルバラ(MPモータースポーツ)まで6.6秒の差をつけて、トップチェッカーを受けた。
岩佐は自身のパフォーマンスに対して時に批判的だが、昨年のこの時期は現在の半分のポイントしか獲得できておらずランキングは11番手だったことを考えれば、成長は明らかだ。岩佐本人も昨年から大きくレベルアップしているということを認めている。
「昨年の今頃はスピードはありましたが11番手したから、昨年から大きく自分のパフォーマンスを改善できました。昨年は本当に悪いパフォーマンスでしたね」
岩佐はそう語る。
「僕のミスだったり、時にはピットストップだったり……スピードがあっても、結果が伴わないという状況でした。でも今は、全てをまとめ上げられています」
「完璧とは言えないですが、昨年よりはずっと良い状況です。だから、チームは大きな自信を持っています。それが理由だと思いますね」
そして岩佐はこう続ける。
「F2ではマシンはみんな同じですが、セットアップが違うので完璧なマシンはこの世に存在しません」
「だからこそ、僕らは常に改善を続け、シーズンを通して自分のドライビングさえも常に改善しているんだと思います」
「マシンは同じでも、コンディションは異なります。そのため、コース上では迅速に自分のドライビングを合わせ込む必要があります。いつもそうやって改善していくんです」
レッドブル育成の最上位に成長した岩佐。そしてホンダのF1正式復帰が後押しに?
こうしたアプローチと向上心に基づく執念が、彼を次期F1ドライバー候補に押し上げた。
レッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコは最近、F1オールドルーキーのニック・デ・フリーズがアルファタウリで苦戦する中、サードドライバーのダニエル・リカルドを差し置いて岩佐と、昨年のF2ランキング3位で現在はスーパーフォーミュラに参戦してランキング首位に立つリアム・ローソンのふたりの名前を後任候補として挙げていた。
レッドブル系の有望株として注目を浴びる岩佐だが、彼はF2に専念することを決め、F1でのフリー走行デビュー時期やグランプリについては語らなかった。
「F2に参戦しているレッドブル育成の中ではトップですが、かなりタイトな状況です」と岩佐は言う。
「デニス(ハウガー)やジャック(クロフォード)……みんながシーズンを通して改善しています。誰が最初にF1をドライブするかは言えませんし、言うこともありません。今の目標はF2に完全集中することです」
「F2で活躍できれば、F1で走る機会を得られます。それは普通のことです」
「あまりF1のことは考えず、F2に専念して全戦全勝する。F1に行くためには、それが本当に大事だと思うんです」
そして、岩佐の将来に影響を与える要因のひとつとして考えられるのがホンダのF1正式復帰だ。ホンダは2025年まで現在のレッドブルとのパートナーシップを継続した後、2026年からは新たにアストンマーチンへF1パワーユニットを供給することになる。
この発表が現時点で岩佐に影響を及ぼすことはないが、F1を目指す上ではアストンマーチンも選択肢のひとつとなるかもしれない。
アストンマーチンとホンダの提携がキャリアに与える影響について岩佐に尋ねると、彼は次のように答えた。
「正直、全く影響はありません。僕はレーシングドライバーとしてF1の世界チャンピオンになることに全てを集中しています。ただF1に行くことだけを考えている訳ではありません」
「だからまず、F2で良い仕事をして、チャンピオンになることが必要です。それから先はホンダとレッドブルが決めることで、僕が100%決められる訳ではありません。世界チャンピオンになるために、もっと強く、もっと速くなる必要があります。だから、あまり深く考えてはいません」
ただ岩佐はホンダドライバーとして、正式復帰の知らせを訊いて「とても嬉しかった」として、次のように続けた。
「僕にとっては『ホンダ=F1』なので、ホンダがF1に残るというのは僕にとってもかなり大きなニュースでしたし、本当に嬉しかったです」
今の岩佐の頭の中には、F2タイトル獲得という課題がある。シーズンの中で彼はプルシェールなど今季が正念場のドライバーと対峙することになる。しかし岩佐も後半戦に向けてタイトルを狙えるだけの実力を兼ね備えたドライバーのひとりだ。
アルファタウリの2023年以降のドライバーラインナップが不透明であり、ホンダが2026年からのF1参戦を表明していることからも、新たな日本人F1ドライバーの誕生にこれまで以上に期待できそうだ。
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