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【解説】ワーウィックがスチュワードを解任された理由……その背景にあるオンラインカジノのビジネスモデル

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【解説】ワーウィックがスチュワードを解任された理由……その背景にあるオンラインカジノのビジネスモデル

 FIAはジョニー・ハーバートに続き、いわゆるドライバー・スチュワードをもうひとり資格停止処分にした。1980年代から90年代にかけ、ルノーやロータス、そしてフットワークでは鈴木亜久里のチームメイトも務めた、デレック・ワーウィックである。

 FIAはカナダGPの金曜日夜、同グランプリのスチュワードから、ワーウィックを即時解任することを決定。後任として、エンリケ・ベルノルディを指名した。ただベルノルディはカナダにやってくるわけではなく、スイス・ジュネーブにあるリモート・オペレーション・センターから、スチュワードとしての役割を務めることになる。

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 この裁定についてFIAは、次のように声明を発表した。

「最近、メディアに無許可で掲載されたコメントを受け、FIAはデレック・ワーウィックを、今週末のカナダGPのドライバー・スチュワードとしての職務を資格停止処分にすることを決定した」

 ”メディアに無許可で掲載されたコメント”というのが、ワーウィックがスペインGP後に受けたインタビューの内容であるようだ。ワーウィックは、スペインGPで10秒のタイム加算ペナルティと、ペナルティポイント3を科されたマックス・フェルスタッペンについてコメントしたが、これが問題視されたとみられる。

 これについて問題はふたつある。

 ひとつは、自身がスチュワードを担当していないグランプリで、他のスチュワードが下した裁定についてコメントしたことだ。これは、あるスチュワードが、他のスチュワードの裁定を公に批判するのと同じくらい問題であり、FIAの利益に反することになってしまう。

 もうひとつは、このインタビューが従来のメディアではなく、PR会社が行なったインタビューであったということだ。このPR会社は、ワーウィックのインタビュー素材を、いくつかのメディアに提供した。「Plejmo」のクレジットを明記することを条件に、そのインタビュー内容をそれぞれのメディアで掲載することを許可した。

 このような情報提供は、最小限の労力で魅力的なコンテンツを提供できることが多いため、出典を明記して掲載することを選ぶメディアも多い。しかし落とし穴もある。今回ワーウィックのインタビュー提供元とされた「Plejmo」は、スウェーデンを拠点に活動するオンラインギャンブルのサイトなのだ。

 この裏には、計算されたビジネスモデルがある。オンラインカジノやギャンブルサイトは、メディアに多額の広告費を費やす代わりにPR代理店を雇い、著名なF1関係者にインタビューをさせる。そしてその代理店は、インタビュー内容をメディアに提供する。

 通常ではこういったインタビューを基にしたコンテンツを掲載する場合、そのメディアは情報源を明記するよう要求される。しかし今回のワーウィックのインタビューを基にした記事には情報源の名(今回の場合は「Plejmo」)が記載されておらず、オンラインギャンブルサイトへのリンクしか掲載されていなかったのだ。

 クライアントにとっての真の価値はここにある。すでに評判が確立されたニュースサイトにリンクが掲載されることは、Googleなどの検索エンジンにおけるSEO効果を高め、オンラインギャンブルサイトのトラフィックと検索順位を向上させることに繋がる。インタビューの内容は往々にして報道に活用する価値のあるものが多く、協力する既存メディアも少なくない。日本ではオンラインギャンブルは違法であり、当該のような情報を扱う上でが注意が必要だ。しかしオンラインギャンブルが合法な国も多く、そういう国では挙って提供された情報を使う。

 インタビューを受ける側は、通常こういうシステムに参加する際には、高額の報酬を得る。motorsport.comが入手した情報によれば、この手の契約を締結するPR会社は、年数回のインタビュー出演に対して、最大3万ユーロ(約500万円)もの報酬を支払うこともあるようで、ファン-パブロ・モントーヤやジャック・ビルヌーブらがこれに参加したことがあるという。

 経済的な観点から言えば、ワーウィックのような立場の人が、このシステムに参加するのは理解できる。FIAのスチュワードは、レースの週末には快適なホテルに宿泊でき、渡航費も支給される。しかし報酬は比較的控えめであり、グランプリ1戦あたり約1000ユーロ(約16万円)ほどに過ぎないと言われる。

 今回のような副業に手を染めたスチュワードは、ワーウィックが始めてではない。2024年にはハーバートが、複数回にわたってオンラインカジノのインタビューに応じたことを受け、FIA側が協力関係を解消。ハーバートはのちに、この役割については事前に承認を得ていたと主張した。

 FIAの声明によると、ワーウィックは今回の件について「FIAスチュワードとしての発言は軽率だった」と認め「謝罪」したという。そのためワーウィックは、次のオーストリアGPではスチュワードに復帰する見込みだ。

 なおワーウィックはこの後、ハンガリーGP、イタリアGP、シンガポールGP、カタールGP、そして最終戦アブダビGPでもスチュワードを務める予定になっている。

文:motorsport.com 日本版 Christian Nimmervoll

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みんなのコメント

13件
  • ton********
    ワーウイックがスチュワードのレースはアジアンドライバーに不合理な裁定が出る。
  • よっこいしょういち
    角田君にはアタリが厳しかったし、
    日本人には吉報かも。
    かつてのチームメイト亜久里さんにも
    一言聞いてみて欲しいもんだね。
    しかし、スチュワードの選考基準はなんだろう?
    元日本人F1ドライバーにはお声は掛からないんだろうか?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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