2025年5月16日、17日、東京・有明でFIAフォーミュラE世界選手権が開催された。今年で2度目の日本開催となる公道を使って行われる電気自動車のレースだ。ガソリンエンジン車のマシンとはどう違うのか? 公道レースとはどんなものなのか? 現地で取材してきた。
公共交通でサーキットへアクセス可能な都市型レース
フォーミュラEとは、“電気自動車のF1”ともいわれる100%電動フォーミュラカーによるレース。2014/15シーズンにはじまり、現在2024/25で11シーズン目を迎えている。
最大の特徴は、エンジン音も排ガスもないため、イギリス・ロンドンやブラジル・サンパウロ、モナコなど世界の大都市やリゾート地などの市街地コースをメインにレースが行われること。
日本でもZEV(ゼロエミッションビークル)の普及、そしてカーボンニュートラル社会の実現といった目標と合致することもあり、数年前から横浜市や東京都などでの開催が検討されてきた。そして昨年から小池百合子都知事の陣頭指揮のもと「東京E-Prix」が実現したという経緯がある。
「東京E-Prix」のコースは、東京・有明にある東京ビッグサイト(東京国際展⽰場)の周囲を走行するレイアウト。ピットやピットレーンは東京ビッグサイトの臨時駐車場に設営し、ホームストレート越しには有明や豊洲のタワーマンション群をのぞむ。クルマがなければ行けない遠方のサーキットではなく、電車など公共交通手段を使ってアクセスできるため、これまでレースを見たことがない人との接点をつくりやすいのもこうした都心開催のメリットだ。
0-100km/h加速はF1マシンをも凌ぐ!
今年で11シーズン目を迎えるフォーミュラEのマシンは、およそ11年の歳月をかけて第3世代の後期型である「GEN3 Evo」に進化している。車体をはじめ前後ウイングなどの空力パーツやフロントサスペンション、タイヤ、そしてバッテリーは各チームとも共通部品を使用するワンメイクとなっている。これは仮にF1のように空力パーツもパワートレインも自由競争にすると必要なコストは何倍にもなると言われており、チームのコスト負担を軽減し、新規参入を促す狙いがある。
したがって出場するマシンはカラーリング以外同じように見えるが、モーター・ジェネレーター・ユニット(MGU)、インバーター、ギアボックス、リアサスペンションなどは各チームが自由に開発することが許されており、出力や回生の制御など高度な技術競争が繰り広げられている。
この最新世代の「GEN3 Evo」のマシンは最大出力350kW(470PS)を発揮、最高速度は320km/hに到達する。0-100km/h加速は1.86秒! と、なんと現行のF1マシンをも凌ぐ加速性能を誇る。
ちなみに昨シーズンよりフォーミュラEのモナコE-PrixとF1のモナコGPは同じコースレイアウトでレースが行われるようになったためタイムを比較しやすくなった。今シーズンのフォーミュラE第6戦モナコE-Prixの予選での最速タイムはテイラー・バーナード(ネオム・マクラーレン・フォーミュラEチーム)が記録した1分26秒315。今年のF1モナコGP予選のポールタイムは、ランド・ノリス(マクラーレンF1チーム)の1分9秒954と奇しくもともにマクラーレンだが、まだ両者には大きな差がある。
F2のモナコの予選タイムが1分21秒142だったのでそちらのほうが近く、ラップタイム的にはまだ格下にある。しかし、フォーミュラEのマシンは年々着実に速くなっており、2026/2027年シーズン13でマシンは次世代の「Gen4」へと進化し、最大出力は現在の倍近い600kW(約816PS)に到達予定で、F1との差もかなり縮まることが予想される。
現在、自動車メーカーとして参戦しているのは、ポルシェ、ジャガー、DSオートモビル、マセラティ、マクラーレン、クープラ、そして日本の自動車メーカーとしては、日産自動車という顔ぶれ。また今シーズンからヤマハが電動パワートレイン供給メーカーとして、英国のレーシングカーメーカー・ローラと提携し参戦している。全11チーム、22台、22名のドライバーによって、世界10都市、全16戦で争われる。
エスピノーサ新社長インタビュー「モータースポーツは日産の“ハート”なのです」
「東京E-Prix」の週末、会場には経営再建計画「Re:Nissan」を発表したばかりの日産自動車の新社長兼CEO、イヴァン・エスピノーサ氏が訪れていた。経営の立て直しに向けて難しい舵取りを迫られているなかで、今後モータースポーツにどう取り組んでいくのか、話を聞くことができた。
エスピノーサ氏は、インタビューの冒頭にまずこのように述べた。
「東京 E-Prixはわれわれにとってホームレースであり、今日はとても大切な日です。今の会社の状況にあっても、やはりいい成績を出すことで私たちのファンや従業員には喜んでもらえると思っています。ご存知のように、モータースポーツは日産にとって“ハート”にあたる、コアな部分です。モータースポーツのいいところはチームスピリットを発揮できる、証明できるということ。チームとして勝利するか、敗北するか、そのどちらかです。私としては、まずは会社を一致団結させてワンチームにしたい。そして、ワンチームとして勝つ。これが今、私が目標として掲げていることです」
自動車メーカーが経営難に陥った際、まず予算削減の対象としてあげられるのがモータースポーツ活動だ。日産はスーパーGTなど国内最高峰のレースにも参戦している。今後、日産のモータースポーツ活動はどうなるのだろうか。
「撤退するという意図も計画もありません。だから私は、今日ここに来ています。まさにモータースポーツは日産の“ハート”なのですから、引き続きモータースポーツの活動は推進してまいります。多くのファンがいらっしゃいますし、日産のスピリットを発揮するのに最適な場所です。競争の精神、ワンチームの精神、そして勝つために戦うという精神、これは維持していかなければなりませんから」
フォーミュラEに参戦する唯一の日本の自動車メーカーとして、これまで一人も日本人のレギュラードライバーがいない現状をどのように考えているのか。
「フォーミュラEのドライビングには特別なスキルが求められます。ただアクセルを踏めばいいというわけではなく、またブレーキも回生エネルギーの管理をしなければなりません。しかも、道幅の狭い公道サーキットでのホイールtoホイールの超接近戦がほとんどですから経験も必要です。将来的には日本人ドライバーを育成したいですね。日本人ドライバーがいれば、フォーミュラEと日本とのつながりがより親密なものになり、日産にとってもいいストーリーができると思います」
エスピノーサ氏自身の“ハートビート”モデルはなにかと問われると、「フェアレディZ」だとこたえた。
「Zはわたしの心に近いクルマなんです。わたしがまだ10代でメキシコにいた頃、初めてZ32を見ました。日産のクルマは手頃な価格で信頼性の高い、そういうイメージでした。それがZ32は特にデザインがピュアで存在感があって、ディテールもよくつくりこまれている。インテリアも見てすごいと感じました。日産にはこんなにも素晴らしい技術があるなんて知りませんでした。
ですから私は日産で働くことを選んだんです。スポーツカーだからとか、速いからではなく、ストーリーが、ものづくりの精神がどれだけわたしの心と近いか。現行型のZの開発プロジェクトにはメンバーの一員として取り組むチャンスをもらえました。初めてZ32を見てから20数年後にそのZをつくることに携わることができた。これは私にとってこれ以上ないストーリーなのです」
エスピノーサ氏は、この週末をとおしてまさにチームの一員としてピット内でずっと戦況を見守っていた。そして劇的な勝利をチームとファンと従業員と共有していた。この“カーガイ”なら窮地に立たされた日産に活路を見出してくれる、そう期待せずにはいられない。
年を追うごとに速く、おもしろくなっているフォーミュラE
今回の東京 E-Prixは、土日の両日に予選と決勝を行う第8戦と第9戦のダブルヘッダー開催だった。土曜日はあいにくの雨の影響で予選はキャンセルに。午前中のフリープラクティス2(FP2)のタイム結果をもとにスタートグリッドが決定され、ポールポジションはホームレースとなる日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランド。2番手にはマヒンドラ・レーシングのエドアルド・モルタラがつけた。
決勝レースも雨のなかセーフティカーの先導でスタート。第8戦では今シーズンより導入されたピットブーストが義務化されているが、赤旗の出る荒れた展開のなか他チームよりひとあし先にピットブーストをすませたマセラティMSGレーシングのストフェル・バンドーンがトップに立ち今季初勝利をあげた。ポールポジションだった日産のローランドは2位に入る健闘をみせた。
翌日の日曜日は天候が回復。第9戦の予選では好調の日産のローランドがポールポジションを獲得。決勝レースでもポールトゥウィンで、ホームレース初勝利を飾った。
フォーミュラEは、マシンがほぼワンメイクだけにドライバーの腕はもとより、エネルギーマネジメントとチーム戦略が勝負の鍵を握る。したがってレースごとに誰が勝つのかわからない、最後までめまぐるしくバトルが繰り広げられる展開の面白さが魅力だ。
そして年を追うごとに速くなり、エンタテインメントとしての魅力も増している。チケットだってF1に比べれば安価だし(グランドスタンドA(一般、1日券):2万4000円、B:1万8000円、C:1万2000円など)、何よりサーキットへのアクセスがいい。決勝レースは1時間というスケジュールで夕方にはイベントが終わるので、帰りに銀座あたりで食事をするにもちょうどいい。
実際に、今回初めてレース観戦をしたという人たちからも、想像していた以上に楽しかったという声がたくさん聞かれた。フォーミュラEは来年も東京での開催が予定されている。
エキゾーストノートのないレースなんてつまらないと高を括っている人もぜひライヴで観戦してみてほしい。
藤野太一(自動車ジャーナリスト)
大学卒業後、自動車情報誌「カーセンサー」、「カーセンサーエッジ」の編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。最新の電気自動車からクラシックカーまで幅広い解説をはじめ、自動車関連のビジネスマンを取材する機会も多くビジネス誌やライフスタイル誌にも寄稿する。またマーケティングの観点からレース取材なども積極的に行う。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属。写真/安井宏充
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