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「鉄道オタク = 残念な人」の烙印はなぜ?──鉄道会社も「採用したくない」現実、純粋さが招く「閉鎖性」という社会断絶

掲載 更新 140
「鉄道オタク = 残念な人」の烙印はなぜ?──鉄道会社も「採用したくない」現実、純粋さが招く「閉鎖性」という社会断絶

知識量の意義

 鉄道は、単なる移動手段ではない。そこには、技術、歴史、文化、そして人々の記憶が凝縮されている。しかし、近年、一部の鉄道オタクによる過激な行為や偏った言動が、この豊かな世界を歪めてはいないだろうか。本連載「純粋鉄オタ性批判」では、本来の鉄道趣味の姿を問い直し、知的好奇心と探究心に根ざした健全な楽しみ方を提唱する。万国の穏健派オタクよ、団結せよ!

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※ ※ ※

 鉄道オタクにはさまざまな専門分野が存在する。技術に詳しい者、車両の構造に精通する者、歴史に強い者、運行ダイヤに明るい者など、その知識の具体性と蓄積には驚かされる。趣味としての豊富な知識は、鉄道文化の社会的理解と保存に大きく寄与する可能性が高い。

 筆者(北條慶太)は交通経済ライターとして交通関連の文献を多く読み込む。学術書や論文だけでなく、深い知識が詰まった

「同人誌」

も参考になることが多い。趣味の深さが価値を生み、その成果を示す同人誌やインターネットサイトは重要な情報発信の場となっている。

 また、多様な視点から学ぶことが趣味の可能性を広げる。これらの媒体や鉄道趣味誌への投稿は、社会に役立つ情報を残す重要な行為である。情報発信と社会との対話を繰り返すことで、鉄道オタクが抱えがちな閉鎖的なイメージから脱却できると考える。

 コミュニケーションが欠けると閉鎖的になりやすい。したがって、社会との適切な交流が必要だ。

排他性が招く自滅構造

 鉄道オタクの最大の問題は「閉鎖性」にある。

 近年、鉄道写真撮影のマナー違反がマスコミでも頻繁に報じられている。自身にとってよい構図で撮りたいという過度なこだわりがトラブルの原因だ。

・駅員など鉄道スタッフへの暴言や暴力
・陣取り合戦で他者を一切受け入れない態度

も目立つ。すべて「自分にとって」が問題の出発点になっている。

 こうした排他的な振る舞いが社会的批判を招き、鉄道マニア全体のイメージを損なっている。その結果、

「鉄道オタク=残念な人、失敗人間」

と見なされることも多い。自分以外を見ることやコミュニケーションを取ることすらできない人が多いのは残念だ。自身の利益だけを優先し開き直る人もいるが、そうした態度が趣味の健全な発展を妨げている。

 音声収録を行う「音鉄」でも、駅や車内で一般利用者を邪魔者扱いする排他的な態度が見られる。鉄道オタクは「自分にとって」の視点に偏りすぎて、周囲が見えていない点が最大の問題である。社会との関係性を重視せず内向きになり、コミュニケーション不足から孤立する傾向が強い。

 筆者は鉄道事業者に知人が多く、意見を聞く機会も多い。多くの事業者は、

「オタクを極力採用したくない」

と考えている。その理由は、乗客対応に重要な対人コミュニケーションが苦手で、偏執的な鉄道へのこだわりが強い職員は現場に不要とされているためだ。本来なら、鉄道好きの知識を活かして鉄道事業者でキャリアを築くのが望ましい。しかし、多くの鉄道オタクは就職活動という人生の分岐点でつまずいている。

 そもそもオタクという言葉は1980年代から使われており、代表的な辞書では

「特定の分野及び物事にしか関心がなく、そのことには異常なほど詳しいが、社会的な常識には欠ける人」

と定義されている。ちなみに、マニアは「ひとつのことに異常に熱中する人」、フリークは「ひとつのことに取りつかれたように夢中になっている人」とされる。問題は、

「オタク = 社会的常識に欠ける」

という定義が浸透し、歴史的・文化的背景から来る閉鎖性が根本的な要因であることだ。鉄道オタクが生きやすくなるためには、この閉鎖性から脱却することが極めて重要である。

知的探究が拓く社会的評価

 交通関連のイベントで穏健的な鉄道オタクと接する機会が少なくない。そのなかには、総じて高いコミュニケーション能力を持つ人も少なくない。

 コミュニケーションといっても、単なる会話力やプレゼン力にとどまらない。自らウェブサイトを立ち上げて情報発信を行ったり、同人誌や専門誌に積極的に寄稿したりするなど、発信力に長けた人も多い。SNS上のコミュニティーーでも活発に情報を提供している。

 こうした開放的な姿勢こそが、イベント登壇や鉄道オタクとしての成功につながっている。趣味としての発信が、社会的な価値を持ち始めているといえる。

 地域に目を向けると、特定のエリアや路線に精通した著名なオタクの存在も目立つ。撮影した鉄道写真や保存車両がイベントに提供され、地域活性化や観光振興に寄与しているケースもある。

 広く知られる人々は、社会との接点を大切にし、メディアの活用にも長けている。共通しているのは、

「他者の価値観や考えを柔軟に受け入れる姿勢」

だ。その起点となっているのが、積極的にコミュニケーションを図ろうとする意識と能力である。

 鉄道オタクは、知的好奇心と探究心に富んでいる。その結果として得られる豊富な知識は、情報として社会と共有されるべき価値を持つ。開かれた姿勢が重要だ。

 保存車両の提供や鉄道写真の公開といった行為だけでも、趣味の領域が経済的な波及効果を生み、文化的価値や社会的評価の向上につながっている。

知識の私有化が招く機会損失

 鉄道模型店に行くと、共通の興味を持つ2~3人のオタクが連れ立って店内を巡っている姿を見ることがある。彼らは模型の細かい部分を見比べながら意見を交わし、棚の前で知識を交換する。技術書や過去の資料にも一定の敬意を払って接している。

 店頭での会話に加えて、インターネット上にもさまざまな掲示板やSNSグループが存在する。ジャンルごとに分かれたそれらの場では、情報の細かさもやり取りの速さも際立っている。こうしたコミュニティーでは、高度な知識が前提となり、同じ資料を何度も参照しながら議論が行われる傾向がある。

 このように知識が集まり深まっていく過程は、前述のとおり、同時に外部の人を排除しやすい構造を生み出す。つまり、最初から高い理解力を求める空気が無言のうちにできあがる。情報の階層がそのまま趣味内の序列となり、理解の浅い発言はすぐに場違いと見なされ、発言の機会を失いやすくなる。

 これは、鉄道趣味における共感の基準点が極端に専門化した結果である。社会とのつながりよりも、知識の正確さが優先されているのである。

 知識の純度を重視する姿勢は、鉄道文化への深い敬意の表れともいえる。しかし同時に、その知識を社会に生かす回路が断たれる危うさをはらんでいる。つまり、語ることが内輪の納得で終わり、伝えることや開くことへとつながらない構造が生まれてしまう。

 例えば、技術用語を多く含む模型の評価は、本来なら鉄道文化の魅力を広める力を持っている。だが、それが限られたなかでのみ蓄積されているかぎり、その力は外に届かないままである。この閉じた循環を開くには、

「知識をやり取りする場のあり方」

を変えなければならない。模型店や趣味サークルの会話も、地域の交通の歴史やインフラ保存の話題に結びつけることは可能である。しかし現実には、趣味の空間と社会的課題とのあいだには高い壁がある。

 鉄道模型に見られる正確さや再現性への強いこだわりは、裏を返せば歴史的な時間や空間を読み解く力でもある。それならば、鉄道路線の存続や駅舎の保存、地方路線の観光資源化といった課題にも十分応用できるはずだ。必要なのは、語る相手の輪郭を変えることにほかならない。

 今のように、話す相手を同じ趣味を持つ人に限定している限り、情報は循環するが外には出ていかない。知識が蓄積されても、共有されず、意味が更新されない。結果として、趣味は社会とは別の世界として孤立してしまう。

 そこにとどまり続けること自体が損失である。知識という資源が活用されないままになるからだ。知っていることが役立たないのではない。

「役立てるための仕組みが整っていない」

ことのほうが、根本的な問題なのである。趣味の空間を開かれた場へと広げていくには、

・誰と話すか
・どこで話すか
・何のために話すか

といった点で、戦略的に変えていく必要がある。専門性を保ちながら、その対象や文脈を社会のなかで展開する取り組みは、すでに一部のオタクたちが実践して成果を上げている。

 模型が語る過去は、地域の物語とつながることで新たな価値を持つ。それは語る対象を変えるだけでなく、語り方を変えるという選択でもある。

知識活用で拓く地方創生戦略

 地方へ行くと鉄道という存在が地域社会の記憶や文化と深く結びついたインフラであることにあらためて気づかされる。撮影写真、保存車両、模型やジオラマの制作・公開などを通じて、個人の趣味が地域文化の保存・継承に貢献するケースが増えている。

 大学教員の友人によれば、キャリア教育では

「自分をどう社会のために生かすか」

を常に学生に問いかけているという。社会に生きる以上、仕事でも趣味でも、自分の知識やスキルを社会に還元する姿勢が求められる。

 鉄道に関する豊富な知識や情報も、閉じた世界に留めるのではなく、社会に還元すべき資源と捉えるべきだ。偏狭な趣味にとどめておくのは、あまりにも惜しい。

 開かれたコミュニケーションを通じて、地域や社会に資する取り組みを広げていけば、鉄道趣味そのものの評価も高まる。活動の幅も自然と拡張するだろう。

 鉄道は地域資産でもある。趣味活動は、その価値を高め、持続可能な文化継承や地域活性化の基盤として生かす視点が必要だ。

 情報を発信し、他者の意見に耳を傾ける姿勢。これこそが、鉄道趣味を社会と結びつけるカギとなる。最終的には、鉄道オタクという言葉の意味そのものを、社会的に再定義するような存在になってほしい。

 万国の穏健派オタクよ、団結せよ!

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みんなのコメント

140件
  • oza********
    今はオタクに限らず社会的常識をわきまえてない人多いと思いますけどね・・・
  • aid********
    単に鉄道好きで有能な人ならウェルカムだろう。
    ここでいう鉄オタは公私混同で趣味と仕事が切り分けられないという以前に、善悪判断がつかないとか、自分中心にしかものごとを考えられないとか、単なるダメ人間という意味だろう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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