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新型車が出ると、「やっぱり前のほうが良かった」と必ず言われる理由

掲載 更新 113
新型車が出ると、「やっぱり前のほうが良かった」と必ず言われる理由

空力性能と引き換えの魅力

 新型車のデザインが発表されるたびに、SNSや掲示板には「先代の方がかっこよかった」という声があふれる。タフさがなくなった、個性が薄れた、昔の方が魅力的だった――そんな感想が並ぶ。

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 一見すると、これらは主観的な好みの問題に思える。しかし実際には、自動車業界全体の構造変化と深く関わっている。

 近年、量販車の多くがクリーンなデザインを採用している。その背景には、

・安全性や空力性能の向上
・電気自動車(EV)化への対応
・グローバル市場を意識した戦略的な配慮

などがある。すべては合理的な判断の結果だ。

 だが、合理性が増す一方で、ユーザーの感性や車との関係性はどう変わってきたのか。なぜ、より美しくなったはずの車に、心が惹かれないのか。

EV化が奪う造形の個性

 いま、量販車のデザインではクリーンであることが、機能性や合理性だけでなく、先進性の記号としても作用している。かつて車のデザインは、動きのある造形やエッジの効いた形状、ブランドごとの個性を反映するものだった。しかし現在では、EV化とグローバル戦略の進展により、整って滑らかなデザインが主流になりつつある。

 とくにEVでは、エンジン冷却の必要性が低いため、フロントフェイスの開口部が小さくなる。その結果、シンプルで無表情に見える造形が増えている。だがこれは単なる構造上の制約ではない。環境意識や新しい価値観を視覚的に伝えるデザイン的手法でもある。トヨタ「bZ4X」やメルセデスの「EQシリーズ」は、その代表例といえる。

 こうしたプレーンでノイズの少ない外観は、文化的背景が異なる市場でも、先進的であることを共通語として伝える。そのため、記号性や遊びの要素は削ぎ落とされ、デザインは整然とした方向へと収束していく傾向がある。

 一方で、ユーザーが求めるかっこよさや存在感といった情緒的価値は、合理性と必ずしも両立しない。例えば現行型トヨタ「シエンタ」は、欧州車のような洗練されたスタイルを持つが、以前のような強烈なキャラクター性は薄れたという声も目立つ。

合理化に遅れる感性の壁

 人間は一般的に、見慣れたものを美しいと感じる傾向がある。これは認知心理学で「単純接触効果(mere exposure effect)」として知られている。つまり、車の場合も、長く街中で見てきた先代モデルのフォルムが、いつの間にか美の基準として定着しているわけだ。

 そこに突然、先代の趣を捨てたクリーンでプレーンな新型が現れると、前のほうがよかったという感情が生まれる。これは単なる好みの問題ではない。ユーザーが無意識に築いていた記憶とのつながりが断ち切られることによる違和感である。

 とくに個性的なモデルであった場合、その違和感は大きくなる。先述したシエンタしかり、ホンダ「ヴェゼル」もその一例だ。

 コンパクトSUVである先代ヴェゼルは、シャープなキャラクターラインとダイナミックな面構成が特徴の、スポーティーでアクティブなデザインだった。だが現行型では方向性が大きく変わり、都会的でクリーン、そしてエレガントなスタイルへと置き換えられた。その結果、違和感を覚えたユーザーも少なくなかった。

 こうした例が示すように、たとえデザインが時代性を踏まえた進化であっても、それが上位互換として素直に受け入れられるとは限らない。感性の変化は、合理性の変化よりも遅れて訪れるからだ。

“炎上回避”が奪う造形の物語

「先代のほうが……」という感想は、スペックや価格といった要素とは異なり、もっと感覚的な領域にある。それは「その車らしさ」の喪失に対する反応であり、ユーザーのなかにあった「この車はこうあるべきだ」という暗黙の期待と、新型とのズレに対する戸惑いでもある。

 自動車は単なる移動手段ではない。所有者の記憶や価値観と結びついた存在である。とくに歴史を背負ったモデルでは、ユーザーが抱くイメージと新型の造形が大きく食い違うと、失望が一層強くなる。

 失われたものへの郷愁と、時代に合わせて整えられたクリーンな雰囲気への倦怠感が交錯し、「やはり前のほうがよかった」という感情が生まれる。ただ皮肉なことに、そうして主流になったクリーンなデザインが街にあふれたとき、かつて愛着を持たれていた古いデザインは、途端に古臭く見えてしまう。

 現在のクリーンなデザインは、どれも平均点以上の洗練を備えている。個性的なモデルにありがちだった「ダサい」とやゆされるリスクは少ない。一方で、アイコニックな特徴は薄れ、没個性的で記憶に残りにくい車が増えた。

 これは、無難さや最大公約数を求めた結果である。記号性や物語性といった情緒的要素が削がれたのだ。SNSでの反応が即座に可視化される時代にあって、企業は炎上しないことを優先し、より無難なデザインを選びやすくなっている。

 今風で整った一台が欲しいだけなら、それで十分だろう。どれを選んでも間違いはなく、センスを疑われる心配もない。しかしその代償として、強く惹かれる意味を持ったデザインは、今や絶滅危惧種となりつつある。

ブランド記憶と形状維持の重要性

 現代の車は空力性能も安全性も燃費も優れている。見た目も整い、上質に仕上がっている。しかし、それでも欲しいと思わせる力が足りないとすれば、物語の断絶が原因かもしれない。

「先代の方がかっこよかった」という声は、美的嗜好や郷愁ではない。かつての車との関係性が継承されていないことへの違和感である。クリーンなデザイン自体が悪いわけではない。ただ、その造形に「なぜこの形なのか」という意味や、ブランドの記憶が宿っていなければ、いくら整っていても心は動かされない。

 BMWやアウディが象徴的なシルエットを守り続けてきた背景には、合理性と情緒性の両立を目指す姿勢がある。視覚的連続性は信頼や愛着を育む要素であり、それが「これでいい」ではなく「これがいい」と思わせる車を生んできた。

 洗練は否定されるべきものではない。しかし、整いすぎた先には意味を織り込む工夫が求められるのではないだろうか。(春宮悠(モビリティライター))

文:Merkmal 春宮悠(モビリティライター)
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みんなのコメント

113件
  • pur********
    内容が薄い記事だな
    本当にプロのライターが書いてるのか?
    思い込みで書いてるだろ
  • フリマ花子
    「前の方が良かった」と言うことで自分を救うしかない人の心の問題です。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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