2008年8月、2代目Aクラス(W169)と初代Bクラス(W245)が同時にマイナーチェンジして登場した。メルセデス・ベンツのエントリーモデルとして重要な役割を担うこのふたつのモデルは、どんな魅力と個性を持っていたのか。Motor Magazine誌ではこのマイナーチェンジを機に、あらためてメルセデス・ベンツの思想に迫っている。今回はこの時のレポートを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)
ベーシックモデルとして相応しい一新がなされた
メルセデスの巨大ラインアップの底辺を支えるという役割がすっかり定着したA/Bの両クラス。2005年に初のフルモデルチェンジを行って2代目モデルへと進化した現行Aクラスと、2006年にデビューのBクラスというそんな双方が、このほど「一部改良」を実施して再度リリースされた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
基本的な骨格構造、そして様々なランニングコンポーネンツを共有する両者だが、今回のリファインのメニューもほぼ同様。すなわち、「内外装デザインの一部変更」、「オーディオなどの装備充実」、「安全性能/燃費性能のさらなる向上」と、それら内容は主にこの3つの項目に大別することができる。
これまでは3種類の搭載エンジンの違いをベースにグレード分けが行われてきたAクラスだが、新型ではこれがA170系のみへと統合された。従来型同様に116psを発する4気筒SOHCの1.7Lエンジンに超コンパクトな設計が特徴のCVTの組み合わせ。これが日本のAクラスに搭載されるパワーパックのすべてとなる。
見方によってはこうしたバリエーション削減は「リストラ」にほかならない。が、一方でそれはあくまでも「メルセデスラインアップの底辺に位置するベーシックモデル」というキャラクターに重きを置くべきAクラスに相応しい見直しであるとも思える。
というのも、実はかつてのA200/A200ターボに搭載された2Lユニットは、正確には排気量が2034cc。これによって、日本の税制上は自動車税ランクが「2L超2.5L以下」へと区分され、わずかに「34cc」のために1ランク下の「2L以下」のカテゴリーに対して年額5000円以上を余分に支払う必要があるという理不尽さに見舞われていたからだ。
こうした「余分なコスト」の支出は、そもそも合理主義を基本としたAクラスのコンセプトに見合わないし、セールス上でもやり難い部分があったはず。それゆえ、むしろA170シリーズに一本化された新たなAクラスのラインアップ展開は、そのクルマのキャラクターをより明確に表すことになったとも受け取れるものだ。
フロントグリル上端からルーフ前端までをほぼ一直線とした独特のワンモーションフォルムを採用するゆえ、全般にはこれまで同様のイメージを発する新しいAクラス。が、従来型のオーナーであれば今度のモデルのディテールデザインの新しさには即座に気がつくことになるに違いない。
フロントバンパーがリデザインされ、そこへと食い込むグリル下部はよりシャープさを増した造形。遠目にもダイナミックさを増して感じられるのは、バンパー下部の「口」の開き方がワイドになり、ヘッドライトユニットのフェンダー部分への食い込みがより切れ長な造形とされた影響も大きいだろう。リアビューではコンビネーションランプ内がレイアウト変更されているが、こちらはフロントに比べるとイメージチェンジの規模は小さい。
AクラスとBクラスは独立したキャラクターのモデル
一方、新しいBクラスのエンジンラインアップは従来と同様で、Aクラスに積まれるものと同型の116psを発する1.7Lユニットを搭載するB170。例の2Lをわずかにオーバーする136psユニットを搭載のB200。そして、そこに過給を行い最高193psを得るB200ターボという3本立て。組み合わされるのはいずれもCVTで、こちらにも変更はない。
Bクラスにも前後バンパーの造形変更などのフェイスリフトが施されてはいるが、そんなデザイン変更のレベルがAクラスよりも控えめなのは、こちらの方がデビュー後の期間がまだ短いからか。それでも、以前のモデルよりもフロントマスクの迫力が増して感じられるのはグリル内の「スリーポインテッドスター」が大きくなったことと関係が深そう。A/Bクラス共に新型であることをてっとり早く知るには、ボディ色の上部とブラックアウトをされた下部との間に横長のウインカーレンズが挿入された、従来よりも大型化されたドアミラーケースに目をやるのが最善かも知れない。
A/Bクラスで異なるデザインのダッシュボードを採用するなど、相変わらず「お互いが独立したキャラクターのモデル」であることを主張しようと頑張るインテリアのデザイン/質感については、従来型からの大きな変更は感じられない。興味深いのはナビゲーションシステムで、エントリーモデルとしての価格訴求も大切であるゆえに両モデルとも全車でオプションの扱い。ただし、オーディオや携帯電話のハンズフリー機能表示を行う6.5インチディスプレイをセンターパネル内に標準装備。前出オプションを注文すると、ディーラーでHDDモジュールを装着することで、ナビゲーション機能も追加されるというユニークなシステムを採るのだ。
実はそんな新しいA/Bクラスには、今回のリファインの目玉として大幅な燃費向上を実現させるメニューも用意。メルセデスが「スタート/ストップ・ファンクョン」と呼ぶディバイスがそれで、それはすなわちいわゆるアイドリングストップシステム。が、その搭載が可能なのはMT車のみで、全モデルがCVT仕様の日本市場向けには残念ながら設定はなし。停車中でもトランスミッションを制御するための油圧が必要となるCVTやトルコンAT向けには、アイドリングストップへの技術的ハードルが高いのがこうした設定の理由と考えられる。
パッケージングの違いこそAクラスとBクラスの相違点
というわけで、日本仕様ではメカニズム上の変更点は少ない新型だが、クローズ時でも採光可能な「パノラミック・ラメラールーフ」に、革張りのパワーシートや左右独立調整式空調システムなどから成るパッケージオプションを装着したA170エレガンスで走り始めると、そこでは即座に「新しさ」を実感することになった。
まず感心させられたのは、その静粛性と滑らかな加速感。CVTを採用しつつも「エンジン回転だけが先に上昇をして速度はゆるゆるとその後を付いて行く」という空走感が少なく、エンジン低回転域からしっかりと車速がリンクをして行く印象に好感が持てる。
このあたりの人間の感覚に見合った加速感は、従来型よりもさらに向上した印象を受けた。インテリア各部の高質さに加えて走り出しの瞬間からのこうした好感触は、「さすがは小さくてもメルセデス」という第一印象をきっと多くの人に植え付けるに違いない。
微低速ゾーンからしっかりと路面凹凸を吸収するサスペンションの動きも、メルセデス・ベンツ車の一員として納得のできるもの。エンジントルクが限られるためもあってか前輪駆動モデルでもアクセルワークにかかわらず、ステアリングフィールは常に上質だ。
一方、そんな新しいAクラスでも、ドライビングという行為そのものは必ずしも「FUN」とは言い難い。それは、アクセルペダルの踏み込み量が大きく変化するほどに、実際の車速とエンジン回転数が乖離するCVT特有の特性がもたらす感触や、Cクラス以上のFRレイアウトモデルたちとは異なり、意外にも微舵操作に対する正確性が少々鈍いといったわずかなポイントの蓄積によって生まれるフィーリングであるようにも思う。サンドイッチ式ボディがもたらす「高床構造」ゆえ、乗降時の脚の運びが少々タイトであるという難点も相変わらず。しかし、このあたりが「不問」に付されるとすれば、それも「メルセデス」のブランド力の高さゆえということなのだろう。
加えれば、1595mmという全高が、多くのパレット式立体駐車場への入場を拒むという日本市場で特有のウイークポイントも、もちろん今回改善されるには至っていない。
一方、Bクラスは今回、中間グレードであるB200でテストドライブ。強力なターボ付きモデルを含め、こちらにより多くのグレードの選択肢を与えたのは、そもそもBクラスというモデルが単なる「Aクラスの拡大版」ではなく、よりカジュアルで多用途性を狙うモデルであるというインポーターの意思表示でもあるはずだ。
A170が搭載する1.7Lエンジンに比べると最高出力で20ps、最大トルクで30Nmとそのパフォーマンスは上回る心臓を積むものの、実際の加速感ではそれをおよそ60kgの重量が相殺という印象。すなわち、加速の力感はちょうど前出のA170と同等という感触。静粛性も同等の優秀さではあるものの、アイドリング+Dレンジ+エアコンONという条件ではこもり音が少々耳に付くという点も同様だ。
A170に比べるとタウンスピードでの路面凹凸に対する当たりがやや強く感じられたのは、A170の16インチに対し、こちらがより偏平率の強い17インチのシューズを履いていたこととも関係がありそう。荒れた舗装路面上でロードノイズが目立ちがちとなったのも、同様にシューズの違いの影響がメインと考えられる。
Aクラスより20cm以上も長いホイールベースや重量増の影響は、理屈からすればフットワークテイストの敏捷性低下の要因と考えられる事柄。が、実際にはそうした傾向を実感として捉えにくかったのは、そもそも「ショートホイールベース」のAクラスでも敏捷性に富んだフットワークは売り物としていないのに加え、やはりシューズ違いの影響が大きかったと考えられる。
ところで、そんなBクラスは外観から察するAクラスを大きく凌ぐ居住性の持ち主。が、実は後席足下のスペースはAクラスと大差のないものである点は改めて確認しておきたい。そもそも、Rクラスと共に「スポーツツアラー」なる新概念を訴求しつつデビューのBクラスでは、Aクラスのそれを遥かに凌ぐラゲッジスペースを備えている点が大きな売り物。5人が乗り込んでもそれぞれの人が持ち込んだ大量の荷物をしっかりと収容可能。これこそメルセデスが「ツアラー」なる言葉を使った大きな要因であるわけだ。
こうして、A/Bクラスのパッケージングの決定的な違いはそのラゲッジスペースに見てとれる。これこそが、この兄弟モデルの最大のキャラクターの相違点を示すことになっているのだ。(文:河村康彦/写真:井上雅行)
メルセデス・ベンツ A170エレガンス 主要諸元
●全長×全幅×全高:3885×1765×1595mm
●ホイールベース:2570mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1698cc
●最高出力:85kW(116ps)/5500rpm
●最大トルク:155Nm/3500-4000rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・54L
●10・15モード燃費:13.0km/L
●タイヤサイズ:195/55R16
●車両価格(税込):305万円(2008年当時)
メルセデス・ベンツ B200 主要諸元
●全長×全幅×全高:4275×1780×1605mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:2034cc
●最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
●最大トルク:185Nm/3500-4000rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・54L
●10・15モード燃費:12.6km/L
●タイヤサイズ:215/45R17
●車両価格(税込):370万円(2008年当時)
[ アルバム : メルセデス・ベンツAクラス(2代目W169)とBクラス(初代W169)マイナーチェンジ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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