幅広い製品を手掛けるヤマハの新たな施策
ヤマハ発動機が開発中の小型EV「ディアパソンC580」の製品説明会が開催され、その試作1号車に乗ることができました。こうしたケースでは、試作車と言いつつも、ほぼ完成に達しているのが通常で、情報が拡散されるメディア向けの場ならなおのこと。しかしながら、C580の各部は明らかにプロトタイプ然としており、走らせた印象もそうでした。
【画像】実用性だけではなく見た目もオシャレ!! ヤマハが開発中の小型EV「ディアパソンC580」を画像で見る
たとえばそれは、かなりハードな足回りだったり、キックバックを強めに伝えてくるハンドルだったり、タイトにレイアウトされたペダル類の位置関係だったり。これらを趣味目線で評価すれば、ドライビングプレジャーに富むと言ってよく、比較的自由な操作が許された今回の特設会場では、ちょっとしたレジャービークル感を発揮。出力特性をフルパワーにした時の加速力やハンドリングには、エンターテイメント性もありました。
とはいえ、C580はオフロードを楽しむためのバギーではありません。農業をサポートする汎用小型電動プラットフォームの一機種というのが実態で、運転には小型特殊免許を想定。田んぼに向かうため、公道をゆっくり走る小型トラクターを目にする機会があるかと思いますが、あれと同じカテゴリーです(普通自動車免許や普通二輪免許で運転可能)。
では、一体なぜヤマハ発動機がこれを開発しているのか。一般的にはバイクメーカーとして広く認知されていますが、手掛けている製品は電動自転車、ボート、ATV、ゴルフカート、除雪機など多岐に渡り、こうしたモビリティ以外にも汎用エンジンや自動車エンジン(かつてはF1も)、フォーミュラE用パワートレイン、電動モーター、産業ロボット、プール……と、ありとあらゆる分野で技術力を発揮。別会社になって久しいものの、楽器や音響機器の超メジャーブランドでもあり、そもそもなにを送り出しても不思議ではない下地を持っています。
電動小型特殊車両ゆえの美点
そんな中、C580は『小さなEVを、社会を変える力に ~働き続けたい方の小さな相棒~』をコンセプトに掲げて企画がスタートしたそうです。農業や林業といった第一次産業に従事する人材の高齢化と担い手不足は切実な問題であり、そうした現場の声に応え、あるいは新しい仕事のスタイルを創り出そうとしているのです。
第一次産業の最前線では、日本の環境にこれ以上ないほどマッチした超ドメスティックな乗り物が存在しています。そう、軽トラです。2人乗りの4輪で、後部に荷台スペースを持つ、というC580の車体構成は、その意味で軽トラに準ずるものですが、それらに取って代わろうというものではありません。
カギは、C580が小型特殊車両という点です。年齢を理由に普通免許を返納し、日常の運転はしなくなったとしても生活や趣味、健康維持のために畑仕事は続けたい、という人は珍しくありません。その場合、実は普通免許だけを返納し、そこに付帯していた小型特殊免許や原付一種免許は残すことができるのです。
小型特殊車両の一般公道における制限速度は、15km/hに定められています。したがって、長時間・長距離の移動は現実的ではないものの、車両の保管場所と畑が近い環境だったり、原付スクーターで作業場まで行ける人にとっては、働ける機会を残せることを意味します。
また、小型特殊車両は高齢者だけでなく、若者や海外からの働き手にもメリットがあります。普通免許と違って16歳で取得が可能なことや、その難易度が比較的低いため、幅広い人材をカバーできるからです。
加えてC580はEV、つまり電動であることも重要な点でしょう。ガソリンスタンドが減少している(もしくはそもそも無い)郊外や離島でも、着脱式バッテリーを採用するC580なら家庭でも手軽に充電できる他、排ガスを出さず、静粛性に優れるため、牛舎や厩舎、牧場でも動物にストレスを与えづらいなど、多くの美点があるというわけです。
すでに実証実験を開始しているヤマハの小型EV
こうした小型EVは、C580も含めてすでに7機種が発表され、多目的の作業車「UMX」をベースに持つ「C310」は、羽田空港内の手荷物輸送サービスにおいて、先頃より実証実験を開始。エネルギー効率やコストの面で、どれほどの効果があるのか。その検証が進められています。
いずれも大量生産・大量消費を見込むものではなく、つまりは即、大きなビジネスにつながるわけではないでしょうが、そこにこそ、ヤマハ発動機の長期ビジョンがあります。その点について、同社の技術研究本部共創・新ビジネス開発部の大東淳さんは、こう説明します。
「認知された既存の事業を拡大するではなく、未来にはこんな商品やサービスがあるのではないか、こういうことが起きるのでないか、と様々なことを想像し、その基盤になる技術やモノをいち早くまず投入してみる。やってみてから現場で磨き、改善しながら実現していく。そんな未来経営の視点に立った取り組みのひとつが、今回のプロジェクトです」。
ここで注目すべきは、「いち早くまず」という姿勢です。もし新しいコンセプトの2輪製品の企画が立ち上がった場合、人材と体制を新しく組織し直し、莫大なコストとエネルギー、そして長い期間をかけてから市場に送り出すのが通常です。
今回はそうではなく、「共創」の観点で、ビジネス上のプラットフォーム作りを推進。社内、社外問わず、すでにある資産を活用し、ヤマハ発動機がそのハブになることで、人・モノ・技術・情報を効率よくつなぎながら循環させようという狙いがあります。
事実、C580の動力には、ヤマハ発動機のモーターとホンダの着脱式バッテリー「Mobile Power Pack e:」を組み合わせる他、農業機械メーカーや自動車用品メーカーといった多数の団体が、ハードとソフトの両面を支えるパートナー企業として参画。その協業の成果が、非常に短い期間でカタチになった今回の車両というわけです。プロトタイプの段階で試乗会が開催されたのも「いち早くまず」という姿勢に則ったものであり、集められた声はすぐさま量産化に向けてフィードバックされることでしょう。
こうしたスタンスは、開発スピードの早さだけでなく、フレキシブルなモノ作りも可能にしています。C580はトレーラー、カーゴ、ブレードといったアタッチメントの脱着も想定され、それらはヤマハ発動機のみならず、地域や業態の特性に応じた各パートナー企業の技術によって、きめ細かいビジネスとサービスにつながっていくはずです。
車名は開発プロジェクトリーダーの名字に由来??
大東さんはまた、「人々が区分されることなく、自由な道具や翼を手に入れ、より豊かで活力のある生活を実現して頂きたい。そのために必要な身体能力や判断力を補完できる製品としても進化させるつもりです」と語ります。
小型特殊車両の死亡事故は、年間300件ほどもあるのだとか。多くがあぜ道での脱輪や斜面での横転に起因するもので、それらに備えるため、C580には頑強なパイプワークの他、車体姿勢や加速度を検知する6軸IMUを採用。安全性も高めつつ、2026年後半のモニター販売を目途に、量産化に向けた本格的な開発が始まろうとしています。
一方、実用一辺倒に留まらないところがヤマハ発動機らしさで、トーヨータイヤとコラボしたカスタムスタイルを提案するなど、遊び心も忘れていません。
ちなみに、ブランド名の「ディアパソン」は、「調和」や「共鳴」の他、ヤマハのロゴでもある「音叉」を意味する言葉に由来。
また、「C580」という車名は、「コンセプト(ConceptのC)」と、開発プロジェクトリーダーを務めるヤマハモーターR&D台湾の「小屋孝男」(コヤタカオ)さんの名前(コヤ=58)を組み合わせたものだそう。ということは、前述の「C310」はサトーさんになぞらえたものだと予想しますが、それは未確認です。
ヤマハ発動機を軸にした、新たな未来創造が今、始まりつつあります。(伊丹孝裕)
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