90年以上継承された曲線哲学
東京の地下鉄網を俯瞰して驚くのは、その曲がり方の激しさである。整然と直線を描く大阪の地下鉄と対比すると、東京の路線はあまりに不規則で、明らかに線形最短を目指した設計ではない。これは偶然でも美観のためでもない。むしろ、曲がらざるを得なかった結果である。要因は多岐にわたるが、その中心にあるのは
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「出来上がった都市の隙間を縫う」
という根本的な制約である。
1927(昭和2)年に開通した日本初の地下鉄・銀座線(当時の東京地下鉄道)は、浅草~上野間からスタートした。これは、浅草が当時の繁華街であり、旅客需要が確実に見込める地点であったからだ。
しかもこの開業は公営ではなく民営によるものだった。つまり、初期投資を回収できる区間を先に開通させる必要があった。続く新橋延伸も、日本橋や銀座という集客力の高い街を経由することで、運賃収入の最大化を狙ったものだった。結果、直線よりも
「乗客の多い地点をつなぐ」
線形が優先され、クネクネとした軌道が形成された。
これが、東京の地下鉄設計の基本方針として、その後の路線にも引き継がれることになる。銀座線の渋谷延伸区間は別会社(東京高速鉄道)によって建設されたが、こちらも戦略的に需要密集地を狙って開業しており、結果として整合性よりも区間ごとの採算が重視された。
公道優先が招いた地底迷路
東京の街は江戸時代からの道がそのまま現代に引き継がれ、江戸城を中心とする放射状の道と曲線的な街区が複雑に混在している。
これら既存の地上都市を掘り返さずに地下鉄を敷設するには、土地所有者との交渉、地下使用権の調整といった課題が立ちはだかる。特に民間所有地の下を通すには、多額の補償が必要になることもある。そのため、路線は国道や都道といった公共の管理下にある道路の直下を通すことが優先されてきた。
しかし、東京の道路そのものが直線ではない。江戸城を中心に形成された環状道路と放射線道路の配置に従って、地下鉄も同じように曲がることになる。地上の自由度のなさが、地下にも影響を与えているのだ。
この設計方針の典型が、都営大江戸線である。1972(昭和47)年に計画され、最終的に2000(平成12)年に全線開通したこの路線は、可能な限り公道の下を通すことで、個別の地権者との交渉を避けた。だがその結果、ルートは極めて複雑となり、半円を描くような環状線が出来上がった。
六本木や新宿といった高密度なエリアを通す必要もあり、地下深くを掘ることになった。地上と干渉を避けた結果、六本木駅は地下42m、汐留駅は地下40mに達し、利用者の移動負担も増すことになった。
三越前まで21年の苦闘
このように、東京の地下鉄は
・経済的制約
・土地所有制度
の影響下で建設されてきた。それを変える一歩として、1988年に運輸省が打ち出したのが大深度地下鉄構想である。地下50m以上を通る場合、地権者への補償を原則不要とする制度で、2001年には大深度地下利用法として立法化された。
しかし、この制度が即座に地下鉄建設の自由度を広げるわけではなかった。施工には高度な掘削技術と安全性確保のための膨大な追加コストがかかる。さらに駅設備の設置には、昇降エレベーターの設計や避難経路の確保といった課題もある。技術面では国鉄時代から鉄道総合技術研究所が地下50mでの鉄道敷設を研究していたものの、実現に至るには長い年月が必要だった。
一方で、半蔵門線の建設にも顕著な困難があった。1968(昭和43)年に構想されたこの路線は、都心のなかでも特に政治中枢を通過する。永田町や神保町、大手町などで新たな駅を設置し、既存路線と接続させるには、高度な精密施工が求められた。渋谷~青山一丁目間の開通は1978年、永田町までの延伸は1979年、最終的に三越前まで開通するのは1989年であり、20年近くかかった。すでに地上都市が高密度で成立しているなかで、物理的な隙間を掘り進むためには、直線よりも柔軟なルート選択が必要とされた。
こうした事情を総合すれば、東京の地下鉄が直線的なルートを描けなかったのは当然の帰結といえる。大阪が直線的な道路網とそれに沿った地下鉄を持つのに対し、東京は歴史的・法的・地形的要因が絡み合い、曲がりくねった都市交通となった。
加えて、開発費用の制約もある。例えば、
・新線開通の際に新たな用地を確保するための費用
・既存の空間を避けて湾曲した路線を採るための費用
とでは、前者のほうが圧倒的に高くつくことが多い。これにより、都市設計上望ましい直線路線は後回しにされ、より現実的な曲線路線が優先される。この判断の積み重ねが、現在の東京地下鉄網を形成しているのだ。
蛇行が物語る東京の限界
将来的に都市の地下空間活用が進んだとしても、すでに高密度で錯綜した地上構造をもつ東京では、線形の最適化を追求するには限界がある。むしろ、新しい交通投資の方向性は、都市全体の再構築を視野に入れる必要がある。
つくばエクスプレスの東京駅延伸計画が進められているが、その経路には
・既存の鉄道
・上下水道
・通信インフラ
・ビルの基礎構造
など、無数の障壁が存在する。たとえ制度上の自由度が広がっても、現場の制約条件は消えない。
東京の地下鉄はなぜ蛇行しているのか。それは都市空間の歴史的継承と現実的制約が連続して生み出した交通インフラのかたちである。そして、これから新たに敷設される地下交通においても、この「都市の痕跡」との交渉は続いていく。
曲がった路線は、東京という都市そのものの記録でもある。無理に正そうとするのではなく、それを読み解く視点が今後の地下交通計画に求められている。(弘中新一(鉄道ライター))
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みんなのコメント
大江戸線が深いのは後からの建設だから既存施設を避ける上で必然だし、大阪と京都の都市部の幹線道路が端から直線的なのだから、道路下に建設するのが基本の地下鉄もまた直線的になるのはこれまた必然。