■トヨタ「ランドクルーザー」 300系は伝統を上手く取り入れた「The Bestランクル」
誕生から70周年を迎える2021年、ついにトヨタ「ランドクルーザー」が300系にスイッチしました。
ステーションワゴン系としては55/56型から数えて6代目となる300系ですが、そのボディのなかには“大きな進化”と“歴代モデルへのリスペクト”が融合していました。
デビュー前から大ヒットとなってしまった300系ランドクルーザーですが、いまや契約さえ“待ち”の状態。
1年待ちは必至といわれ、試乗どころか実車を見ることさえも貴重となっています。
そんな状況下で、非常にわずかな時間でしたが、300系に触れる機会を得ました。
ランドクルーザー所有経験のある筆者(山崎友貴)が、原点回帰、歴代モデルへのインスパイアではないかと感じたところから紹介します。
第一にそのボディデザイン。公式のリリースにも書かれていますが、300系は歴代ステーションワゴン系モデルのヘリテージを追求しています。
300系をサイドから見ると分かりますが、100系や200系に比べるとボディ形状がかなりスクエアになりました。まさにふたつの箱を組み合わせた様な形です。
それを見て、ある名車を思い起こすランクル好きは多いと思います。それは55/56型です。
北米でのレジャーユースを意識して開発された同モデルは、ステーションワゴン(日本ではライトバンと呼んだ)モデルの源流ですが、300系の大まかなボディ形状やフェンダー回りのデザイン処理に、同モデルの影響を強く感じます。
この形は強い印象を残すだけでなく、車内のスペースユーティリティの高さをうかがわせます。
さらにフロントマスク。一見すると、最近のトヨタ車のデザインプロトコルである「キーンルック」なのですが、ヘッドライト下まで回り込んだグリルのデザインなどは、まさに55/56型を彷彿させます。
と同時に、細長いヘッドライトを横に張り出させることで、60系以降の正統な系譜を感じさせるようにも工夫されていることが分かります。
車内に乗り込むと、ここでもまたデザインヘリテージに出会います。80系以降、ランドクルーザーのインパネデザインは、オフロード走行に必要な水平基調を考えながらも、高級車乗用車「クラウン」や「セルシオ」、レクサスのゴージャスかつラグジュアリーさを標榜してきた感があります。
それを歓迎したユーザーもいますが、同時にクロスカントリー4WDらしい無骨さが失われたことに嘆いたランクル好きがいたのも事実です。
300系のインパネは潔いほどの水平さで、メータフードの形状と合わせると、60系そっくりです。ダッシュボードも極力低めに設計されています。
これであればオフロードで自車の傾きが直感に把握でき、先方視界も確保できます。
また、スターターボタンやモード変更のダイヤルなどが、60系時代の小メーターに見えるように考えられており、かつてのランドクルーザーが持っていた“コクピット感”を取り戻しました。
ニヤリとしたのは、メーターです。ライバルであるランドローバーが全面液晶式を採用し、グラフィックで丸形メーターを再現しているのに対して、300系は今回もしっかりとアナログメーターにしてきました。
中央に情報表示用の液晶モニーターを置いているものの、丸形メッキリングがランクル好きの心をくすぐります。
またメーター同士の間隔も55/56型からの伝統的なもので、それを敢えて壊さないことに、デザイナーの歴代ランドクルーザーへの愛を感じます。
さらに「AX」、「GX」にアナログの油温計、電圧計が復活したことで、ここでもクロスカントリー4WDらしさが戻ってきました。
後部座席に座っても、またデザインの遊びを感じることができます。それはセンターコンソール後ろに付いた後部座席用のエアコン吹き出し口と操作部です。
フロント同様の横ルーバーの吹き出し口はさらにクラシカルな意匠で、操作部と併せるとあるモノのデザインにそっくりです。
それはかつてのランドクルーザーに装着されていたデンソー製「吊り下げ式クーラー」。デザイナーがそこまで意図したかは分かりませんが、こういう部分にもヘリテージを感じます。
しかし、300系は当然ながら懐古主義で終わっていません。デザインには懐かしさを感じるインパネですが、例えば操作部はより現代的な感覚に合うように考えられています。
4WDのHiとLowを切り替えるレバーは、まるでウインドウスイッチのような小ささですが、これは路面変化などに瞬時に対応できる操作性を考慮していることが分かります。
走行・駆動系結合ダイヤルもしかりで、ドライブモードとマルチテレインセレクト、ダウンヒルコントロール、クロールコントロールの操作がひとつのダイヤルに統合されただけでなく、200系よりもダイヤル系が小さくなったことで、さらに直感的に操作できるようになっています。
走行に関する操作系は、200系よりもさらにドライバーよりに配置され、慣れてくれば走行中にブラインドで各スイッチをいじることができると思います。
このようにオールドファンにも新しいランクル好きにも受け入れられるように考えられた300系ですが、新旧の融合はデザインだけに留まりません。
■新型ランクル、走りの部分は何が変わった?
走行に関する部分で、大きく変わったのがドライビングポジションです。
200系までのランドクルーザーは、ゆったりとしたポジションながらも、どちらかというと家庭の椅子に近い姿勢で座るものでした。
これはクロスカントリー4WDの伝統的なもので、身体が飛び跳ねてしまうような激しい悪路でも、真上からしっかりと足で踏ん張れて、かつステアリングを確実に操作するためのものでした。巷でコマンドポジションなどといわれています。
300系ではこれをあえて覆しています。というのも、300系の大きなテーマのひとつとして「ラクに運転できる」というものがあるからです。
コマンドポジションは長時間運転していると疲労が溜まり、運転席から降りた時には脚に痛みを感じることさえあります。
300系は脚を前方に投げ出す「乗用車スタイル」を採用。かつての「ハイラックスサーフ」に近いドライビングポジションになりました。
それでいて、悪路でもしっかりと脚が踏ん張れるように、床面の前方がフットレスト状にせり上がっているのは、さすがランドクルーザーです。
ステアリングも、実に軽い力で操作できるようになりました。信頼性、耐久性を考えて、従来同様の油圧式を採用していますが、これに電気式のアクチュエーターでサポートさせることで、軽い操舵感を実現。
正直、この新機構にそれほど注目していませんでしたが、一般道を少し走っただけでも、その効果のほどが分かります。
例えば展開時や車庫入れ、縦列駐車などが非常に楽になり、200系で感じていたような車両の大きさ感さえ軽減されています。
さて、300系の大きなトピックスのひとつが、パワーユニットの一新です。まずガソリンエンジンは4.6リッターV型8気筒自然吸気から、3.5リッターV型6気筒ツインターボに改められました。新たに3.3リッターV型6気筒ツインターボのディーゼルエンジンも選択することができます。
両ユニットともいわゆるダウンサイジングエンジンで、4リッタークラスのスペックを発揮しますが、小さくなったことで別のメリットを生んでいます。例えば、前述のドライビングポジションもそうですし、軽量化や安全性の向上にも繋がっています。
V6エンジンというと、どうも“軽い”感じがしますが、乗ってみると印象は大きく変わりました。
まずガソリンエンジンですが、イマドキのダウンサイジング系ターボとは少し違うフィーリングになっています。
ターボよって鋭い加速を見せるというよりは、過給をあまり感じさせずに上まで力強く伸びる感じです。
オフロードにおいては、トルクの変動が時として邪魔になることを考慮してのことと思いますが、脳裏には別なことが浮かびました。
それは、56型や60系に搭載されていた2F型直列6気筒エンジンのフィーリングにどこか似ているということです。
ランクル好きには、その後に登場する3F型や3F-E型、1FZ-FE型よりも人気があり、直列6気筒の良さが素直に出ていたエンジンでした。フィーリングが旧モデルにどこか似ているという点では、新ディーゼルエンジンも同様です。
新ディーゼルエンジンは、スペックも環境性能もいかにも現代的なエンジンです。
しかし、ひとたびアクセルをグッと開けると、思いも寄らぬワイルドな顔を覗かせます。
そのエンジン音、加速は80系に搭載されていた1HZ型を彷彿させます。トヨタのことですから、もっと静粛性を向上させることもできたでしょうが、外連味としてこうした部分を“演出”したようにも思えてしまいます。
こういう五感で感じる部分も「ランドクルーザーだ!」という意識を持って開発していたとしたら、それはもはや脱帽です。
ただワイルドで楽しいフィーリングだけでなく、両ユニットとも10速ATと組み合わされたことで、通常の運転をすれば非常にスムーズかつ快適な走りを見せてくれるのは、やはり新型の由縁です。
■300系は「The Bestランクル」か その進化はどうなった?
一方、300系が素晴らしいと思えるのは、走行シーンで感じるさまざまな革新性です。
まず、新型は従来型よりも約200kgも軽量化し、反対に剛性は20%アップしているとしています。
とくに軽さはガソリン、ディーゼルとも走り出した瞬間に感じる部分で、エンジンの回転がかなり上がって発進するというようなことは皆無です。
人間の五感とは不思議なもので、軽さを感じると大きささえ気にならなくなります。200系とボディサイズはほぼ同じですが、日本の道では持て余すような感覚がかなり軽減されました。
さて、走りの変革という点で大きく寄与しているのが、新開発のリアサスペンション。
「運転しやすく、疲れない」という開発テーマのなかでの目玉のひとつです。まず従来型のサスペンションですが、ラダーフレームとの位置関係により、ダンパーが「ハ」の字になって取り付けられていました。
基本的にダンパーが傾けば、筒内のピストンにフリクションのロスが出やすくなりますし、ホーシングによって結ばれた左右輪の動きも規制されます。
300系はダンパーをより立てた状態に改善し、ジオメトリーの適正化、トラベル量の増加を実現しました。
これによりオンロードでは路面追従性が大幅に向上し、リジッドアクスル式サスペンションのクルマにありがちな“ドタバタ感”や“ひきづり感”が見事に解消されています。
クロスカントリー4WDなら当然と思っていた操舵後の挙動の遅れがなく、レーンチェンジもイマドキのSUVのようにスッと決まります。もはや運転時に理解しなければならないクセは、ほぼありません。
スラロームのような走行シーンでも、リアサスが付いてこられずに、タイヤが悲鳴を上げてしまうということがありませんでした。
長年、ラダーフレーム+リジッドアクスル式サスペンションのクルマに乗ってきた人にこそ、300系の素性の良さはすぐに理解できるはずです。
ちなみに、このリアサスの配置を実施するために、ラダーフレームの一部を凹ませているというのです。
オフロード走行は試せていませんが、ホイールアーティキュレーションが格段に向上しているということでしたので、モーグルやステアケースといった地形での走破性が段違いであることが予想されます。
また、「GRスポーツ」には、18インチサイズのタイヤ装着に加えて、E-KDSSというフロントスタビライザーの動きを制御する電子デバイスが採用されているので、さらなるオフロード性能が期待できそうです。
※ ※ ※
ランドクルーザーには、70年前から造り続けてきた人々の想いが、ギュッと濃縮されたような、先人達が目指したクロスカントリー4WDの理想が、ランドクルーザーの歴史的遺産と共に300系で昇華した感があります。
とくに評価したいのは、300系でもラダーフレーム構造とリアリジッドアクスル式サスペンションを踏襲したことです。
いくら理論上は十分な強度を持っていると謳っても、やはりモノコックボディやインディペンデンスサスペンションでは、信頼性と耐久性の点で懐疑的にならざるを得ません。
そういう点で300系は、クロスカントリー4WDに必要な基本性能と理想を完全に両立させたといえます。
誤解を恐れにいえば、まさに「The Bestランクル」なのではないでしょうか。
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