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ビッグ3は大混乱 マーキュリー・モナークとフォード・グラナダ(2) 無力感漂う小さな高級車

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ビッグ3は大混乱 マーキュリー・モナークとフォード・グラナダ(2) 無力感漂う小さな高級車

フランス女優をテレビCMに起用したフォード

アメリカン・ラグジュアリーの代名詞、ゼネラルモーターズ(GM)のキャデラックは、小型のセビルを1975年に発売する。マーキュリー・モナークは、ライバルへ対抗するため1977年にリンカーン・ブランドにも波及。ベルサイユの名を得ている。

【画像】無力感漂う高級車 マーキュリー・モナーク ベンチマークのW114 同時期の英フォードとキャデラックも 全117枚

フォード・グラナダとともに、1978年にフェイスリフトされ、ヘッドライトは円形から長方形へ変更。コラムシフトからフロアシフトになり、バケットシートやブラックトリムなども獲得している。オプション全部載せのグランド・マーキス仕様も登場した。

2ドアクーペもアップデート。ヨーロピアン・スポーツ・セダン(ESS)グレードも追加されている。テレビCMには、フランスの女優、カトリーヌ・ドヌーヴ氏を起用。欧州のエレガントさが、女性的に表現された。

右ハンドル車へ改造されたV8エンジン仕様のモナーク・ギアは、欧州大陸にも届けられた。オーストラリア製のファルコンや、2代目マスタングなどと並び、4ドアサルーンと2ドアクーペの2種体制で。

AUTOCARは、1977年にモナーク・クーペへ試乗。0-97km/h加速11.6秒、最高速度161km/hという動力性能を確かめている。平均燃費は、4.2km/Lだった。

ちなみに1972年には、欧州フォードも、全長4572mmとコンパクトな初代グラナダを提供している。これはモデル名が同じでも、北米のグラナダとはまったく別のモデル。北米への輸入も一度検討されているが、コストを理由に実現していない。

大人4名がゆったり過ごせる車内空間

輸入代理店のホデック社は、ボルボ164やジャガーXJ6に並ぶ選択肢として、モナークが英国人の関心を集められると期待した。ギア仕様として、パワーウインドウにリクライニング可能なバケットシート、フロアシフト式のATなどが組まれていた。

灯火類も、グレートブリテン島の法規制へ適応されたが、最終的に英国で何台売れたのかは明らかではない。筆者の記憶の限り、少なくとも頻繁に見かけるモデルではなかった。むしろ英国人は、アメリカ車ならマッスルカーを好む傾向が強かった。

それから半世紀近くが過ぎ、モナーク・ギアが目の前にある。高級なアメリカン・クラシックという印象は、正直なところ薄い。

ご登場願ったホワイトの4ドアサルーンは、左ハンドルの1978年式。20年以上前に、アトウェル・ウィルソン自動車博物館の創設者が、結婚式に乗られるウェディングカーとして並行輸入している。

大きく開くフロントドアを避け、上等に仕立てられたキャビンへ乗り込む。ボディサイズを考えると、空間効率は甘いといわざるを得ないが、大人4名がゆったり過ごせる。5名でも、快適と呼べるだろう。後席側も荷室も、広大だ。

内装のフィット感や作り込みでは、同年代のメルセデス・ベンツへ届いていないが、ソリッド感はある。走行中にガタつく部分はなく、フォードが1960年代に課題としていた製造品質の向上が、しっかり実を結んでいるようだ。

同時期のメルセデス・ベンツより静かかも

あいにく、直6エンジンは完調ではない。排気マニフォールドのガスケットが割れており、ボフボフとガスが漏れている。そのノイズがなければ、恐らくほぼ無音で回転するのだろう。この頃のメルセデス・ベンツより、静かといえたかもしれない。

乗り心地は快適。ホールド製の高いシートは、フレームもぐらつかず、グリーンのナイロン製クロスが上質。伝統のウェスト・オブ・イングランド社製クロスに劣らない。フェイクのウォルナット・トリムは、本物のベニアに見えないとしても。

メーターパネルは、かなりシンプル。速度計と燃料計は備わるが、それ以外は警告灯で賄われている。エアコンの操作系は扱いやすい。しっかり、冷風も出てくる。

今回の例ではパワーウインドウが備わらず、高級車の扱いでありながら、ワインダーで巻き上げる必要がある。アメリカに住んでいた初代オーナーは、電動である必要性を感じなかったのだろうか。ボンネットの前方には、マーキュリーのオーナメントが輝く。

トランスミッションは、3速マニュアルも選択できたが、殆どは3速オートマティックが組まれた。発進時から極めてシームレスで、変速は感知しにくく、スルスルとトップギアが選ばれる。

低域トルクが太く、走りは98psと1588kgの組み合わせから想像する以上に軽快。とはいえ、鋭い速度上昇を求めてキックダウンを誘っても、勢いが増すわけではない。

ビッグ3が大混乱に陥っていた事実

4.1L直6エンジンはトルクフル。驚くほど安楽に、現代の交通へ交わることができる。レスポンスは緩いが、走りはスムーズだ。

アメリカは、速度制限が厳しい。時速55マイル(88km/h)を大きく超えて運転するドライバーは殆どいないと、1970年代は考えられていた。目一杯引っ張れば、150km/hに届くはずだが、100km/h以下での利用が前提といえる。

ダッシュボードには、リンカーン・マーキュリー級に乗り心地を調整済み、といった旨が記されている。想像以上に硬いものの、ワイヤーホイール風キャップの被せられたスチールホイールが静かに上下し、快適性は高い。

パワーステアリングは極めて軽く、ほぼ無感触。むしろ、フィーリングが豊かなら、肩透かしだったかもしれない。それでも、回頭性は悪くない。少し気張った速度域では、ボディロールが盛大に発生するとしても。

1974年から1980年まで生産された、モナークとグラナダを悪く表現するのは簡単だろう。だが同年代に登場した、ダウンサイジングというコンセプトを掲げた高級アメリカン・サルーンで、この2台以上に優れたモデルを思い浮かべることは難しい。

もっとも、無力感という言葉がハマることは否定できない。アメリカ政府が強硬的に施行した法律と、市場の志向変化により、フォードとGM、クライスラーのビッグ3が大混乱に陥っていた事実を、モナークは全身で表している。

最小なわけでも、高速なわけでもない。だが、自動車史に刻まれるべき1台であることは、間違いないだろう。

協力:アトウェル・ウィルソン自動車博物館、ポール・エリス氏

マーキュリー・モナーク(1974~1980年/北米仕様)のスペック

北米価格:4855ドル(新車時)/6000ドル(約90万円/現在)以下
生産数:57万5567台
全長:5080mm
全幅:1880mm
全高:1346mm
最高速度:149km/h
0-97km/h加速:17.0秒
燃費:5.0-9.2km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1588kg
パワートレイン:直列6気筒4097cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:98ps/3200rpm
最大トルク:28.9kg-m/1700rpm
ギアボックス:3速オートマティック(後輪駆動)

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みんなのコメント

1件
  • fxnhe501
    モナークは日本でも、ヤの付く自由業の皆さんに絶大な人気があった。リンカーンの半額で見た目はほぼ同じというマーキュリーのマーケティングが、極東の島国でもヤの付く自由業の皆様にクリティカルヒットしたのだ。そのせいか、10代の頃に自動車雑誌を読み始めたころ、輸入車専門の中古車店の広告には必ずと言っていいほど載っていた。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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