欧州を代表する自動車ショーのひとつ「IAAモビリティ 2025」が9月8日から14日までドイツ・ミュンヘンで開催され、会期中50万人以上の来場者で賑わった。
IAAモビリティは隔年開催。1951年以来フランクフルトで行われていた自動車ショーを継承するかたちで、2021年に第1回が開かれた。有料で業界関係者向けのメッセと、無料で一般向けのミュンヘン市内会場の2拠点形式で、今回で第3回となった。
欧州の乗用車需要鈍化、技術革新の加速、中国での価格競争、米国の関税問題、保安・環境基準の厳格化、さらにはBEV(電気自動車)市場の期待を下回る伸び、といった諸問題を抱えるなかでの開催となった。
2大プレミアム、それぞれのアプローチ
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メッセ会場におけるドイツ系ブランドのスターは、いずれもBEVであるBMW新型「iX3」と、メルセデス・ベンツ新型「エレクトリックGLC(以下GLC)」といえた。ただし両車におけるデザインの方向性は、かなり異なる。
iX3は、同社が展開する新プラットフォーム「ノイエ・クラッセ」を使用した第一弾モデルである。エクステリア・デザインは、従来の同社製SUVにみられたアグレッシヴなデザインからの方向転換が確認できる。実際に、BMWグループのデザイン責任者であるアドリアン・ファン・ホーイドンクは、そのクリーンな造形を強調する。フロントフェイスのキドニーグリルも従来のクローム多用に代わる、すっきりとした解釈が導入されている。
いっぽうのメルセデス・ベンツ・エレクトリックGLCは、往年のメルセデス車のラジエターグリルを想起させる新フロントフェイスを採用。オプションで用意された942ドットのピクセルグラフィック機能を選択すると、多様な光を放つことができる。なお、メルセデスによれば、このフェイスは今後のモデルにも応用してゆくという。
いっぽうで、最新OSの搭載は両モデルとも同じだ。iX3を司るのはBMWオペレーティング・システムXである。コントロール・ユニットのひとつ「Heart of Joy」は、駆動系とドライビング・ダイナミクスに関する全機能を統合し、操縦体験を向上させるという。
いっぽうのGLCの車両制御には、AIと連携した「MB.OS」オペレーティングシステムを採用。ブレーキは回生モードを計算し、摩擦ブレーキの使用を最小限に抑える。標準装備のマルチソース・ヒートポンプは、電気駆動ユニットやバッテリーの廃熱や周囲の空気を利用して、効率的に車内を暖める。
iX3の航続距離は800kmを超える。また、わずか10分間で370km以上の航続距離を充電することが可能だ。GLCの最上位モデル「400 4MATIC」の最高出力は360kWに達し、最大713kmの航続距離を実現する。約10分のチャージで最大303kmの走行が可能だ。
持続可能性も両ブランドの訴求点である。iX3は、ライフサイクル全体を通じてCO2排出量を削減するというBMWの戦略を体現すべく、パーツの3分の1は二次原料(リサイクル材や再生材)による。対するGLCは、オプションで「ヴィーガンパッケージ」を設定している。動物由来の内装材を一切排除したもので、自動車業界で初めてザ・ヴィーガン・ソサエティーの認証を取得した。
「ウルトラモダン」vs「圧巻」
エクステリア同様、BMWとメルセデスの、インテリアデザインのアプローチもかなり異なる。
BMW iX3のダッシュボード「パノラミックiDrive」は、24年にわたるiDriveの集大成といえるもので、モダンさが光る。具体的にいうとパノラミック・ビジョンとセンターディスプレイに分けられており、前者は左Aピラーから右Aピラーに至るもので、乗員すべてに共有される情報を担う。後者は約72.5°に傾けられた平行四辺形で、運転者がステアリングから僅かに手を伸ばすだけの直感的操作を可能としている。これらにヘッドアップ・ディスプレイが加わる。
GLCはメルセデス・ベンツ歴代モデル最大である99.3cm(39.1インチ)の「MBUXハイパースクリーン」をアピールする。ダッシュボードほぼ全体に広がる画面は、それなりに衝撃的だ。バックグラウンドのモティーフは11種類の中から選択できる。メーカーは「MB.OS」により、現実世界と仮想世界をシームレスにつなぐと表現している。
BMW、メルセデス双方に仮想アシスタント機能が装着されて久しいが、もはやデジタルキャラクター付きだ。BMWのインテリジェント・パーソナルアシスタントは「ヘイ、BMW」と呼びかけると、ディスプレイ中央にある宇宙人のようなアニメーションが動きながら返答する。
対するGLCは「ヘイ、メルセデス」の呼びかけとともに、画面中央に登場するスリー・ポインテッドスターがキャラクターに変化して答える。会場スタッフによると、ChatGPT4、Microsoft Bing、そしてGoogle AIから最適な情報を抽出して制御しているという。
ドイツ車も続く? 衝撃のアイディア
今回のIAAも過去2回同様、日本の自動車メーカーの姿はなかった。かわりに目立ったのは中国系企業だった。中国の国営放送「中央広播電視総台」によると、同国系の出展社は部品なども含め116を数え、前回の70を大きく上回った。全出展社(748)の約6分の1が彼らだったことになる。
デジタルキャラクターといえば、別の意味で大胆な試みを中国ブランドで発見した。「リンクツアー(領途汽車)」が公開した都市用マイクロEV「アルーミ」のものだ。
フロントフェンダーに備えられた「アート・ウィンドウ」で、オーナーが好みの画像を表示できる。2台の展示車のうち1台には、ホログラム風のキャラクターが表示されていた。リリースには「グラフィックをシームレスに切り替えることで、リンクツアーを自作アートやコマーシャル表現のスマートキャンバスへと変貌できます」と解説されている。
日本では推しのアイドルやキャラクターのグッズを入れて歩くための透明バックが少し前から流行し、ついには透明のキャリーケースまで大手小売チェーンによって発売された。リンクツアーのアート・ウィンドウも、“推し活グルマ”として使えることを想定していると察した。
もしかしたら、2年後のIAAではドイツ系ブランドが同様に、推し活用デバイスを装備しているかもしれない、と筆者は考える。笑うなかれ。かつてドイツ車は、日本的快適装備を嘲笑い、質実剛健を貫いていた。あの頃、仮想キャラクターに「ヘイ!」と呼びかけながら走る時代が到来することを誰が想像しただろうか。今のクルマは何でもありなのである。
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