中古車市場には、驚くべきヒストリーが隠されたクルマが流通することがある。長年大切にされてきたクルマだけが放つ、オーセンティックな魅力とは?
ワンオーナー&1989年式の日産セドリック(Y31)
フレンチラグジュアリーの新たな象徴──新型DSオートモビル N°4 ETOILE HYBRID試乗記
1.エポックメイキングな1台2.高級スポーティセダン3.新車当時のオリジナルコンディション1.エポックメイキングな1台
高級セダンとは、後席でふんぞり返って乗るもの──。昭和のニッポンに漂っていた保守的な常識を鮮やかに覆し、オーナー自らがステアリングを握る歓びを突きつけたエポックメイキングな1台がある。1987年に誕生したY31型こと、日産「セドリック グランツーリスモ」だ。
連載の第3回に登場するのは、なかでも絶大な人気を誇ったセドリック 2000ツインカムターボ グランツーリスモ SVだ。センターピラーのない流麗な4ドアハードトップのボディに、当時としては驚異的なポテンシャルを秘めたVG20DET型V6ツインカムターボエンジンを搭載。フォーマルな装いのなかに獰猛な牙を隠し持ったセドリックは、バブル景気へと向かう日本において、若いエグゼクティブたちを熱狂させた。
あれから約40年。ハイパワーなFRセダンの素性ゆえに手荒く扱われたり、カスタムのベースとして消費されたりした個体が圧倒的に多いなか、まるで1980年代後半のショールームからそのままタイムスリップしてきたかのような、奇跡のフルオリジナル車両を発見した。
新車当時の空気の匂いすら閉じ込めているかのような、“時を止めた”Y31セドリック……圧倒的なオーラを放つタイムカプセルの扉を、今ここでお見せしよう。
2.高級スポーティセダン
1987年に誕生した第7世代の日産セドリック、通称「Y31型」は、日本の高級車像を根本から覆し、新たな時代を切り拓いた歴史的モデルだ。
それまでの日本の高級車市場において、セドリックや兄弟車の「グロリア」、そして最大のライバルであるトヨタ「クラウン」などは、もっぱら「運転手付きで後席でくつろぐためのクルマ」、いわゆるショーファードリブンとしての保守的な価値観が主流であった。
しかし日産は、Y31型において、オーナー自らがステアリングを握り、ドライビングの歓びを堪能するオーナードリブンの高級セダンへと大胆なパラダイムシフトを断行したのである。
その象徴であり、Y31最大のエポックメイキングとなったのが、走りに特化したスポーティグレード、グランツーリスモシリーズの新設だ。
かつての重厚長大でフォーマルなセダンからは想像もつかないほどアグレッシブなこのモデルは、当時のエグゼクティブたちの心を瞬く間に鷲掴みにした。
心臓部には、量産車として世界初となるV型6気筒DOHCエンジンにセラミックターボを組み合わせた「VG20DET型」も搭載。最高出力185ps、後のマイナーチェンジに伴うハイオク仕様化で210psへと進化したこのエンジンは、当時としては驚異的なスペックを叩き出した。ラグジュアリーで落ち着いた佇まいからは到底想像できないほどの獰猛な加速力を発揮し、“高級セダンであるにもかかわらずスポーツカーのように速い”といったギャップは、当時の自動車愛好家たちに鮮烈な衝撃を与えた。
また、エクステリアデザインを語る上で欠かせないのが、4ドアハードトップの美しいボディライン。とりわけ、センターピラー(Bピラー)を持たないピラーレスハードトップ構造は、Y31の造形美を決定づけている。前後すべてのウィンドウを下ろした際に現れる広大で開放的な空間と、ルーフがまるで宙に浮いているかのような錯覚を抱かせるサイドビューは、側面衝突に対する厳しい安全基準が設けられた現代の自動車では決して再現できない、当時の技術と美意識の結晶だ。フォーマルな威厳を保ちながらも、どこか艶やかな色気を漂わせる端正なプロポーションは、誕生から長い歳月が経過した現在において見ても色褪せない。
バブル景気へと向かう熱狂の時代を背景に誕生したY31は、内装の質感や先進装備の面においても妥協を見せていない。ドライバーを包み込むようなラウンド形状のインストルメントパネルは、まさに操るためのコックピットを体現した設計となっている。そこに、触り心地の良い上質なシート生地や、当時近未来的と持てはやされたデジタルメーターなどが組み合わされ、極上の室内空間が演出された。さらに、ラグジュアリー志向の最上級グレードである「ブロアムVIP」などには、路面状況や走行状態に応じて乗り心地を最適に制御する電子制御エアサスペンションが採用されるなど、日産の技術的フラッグシップとしての役割も果たしていたのである。
Y31型セドリックが残した功績は、単一のモデルのヒットにとどまらず、その後の日本の自動車史に多大なる影響を及ぼした。Y31のシャシーと基本構造をベースとし、さらにボディを拡大した上級の3リッター専用車として派生したのが、のちに日本中で社会現象を巻き起こす初代「シーマ」である。もしY31における“走りの高級車”といったスポーティ路線の成功がなければ、あの「シーマ現象」は決して起こり得なかったと言っても過言ではない。
Y31型セドリックは、単なる移動の道具や富の象徴としてのステータスシンボルではなく、ドライバー自身の生き様や美学を表現する手段として、高級スポーティセダンといった新たなジャンルを日本市場に完全に定着させた。
保守的な殻を打ち破り、革新的な技術と色褪せない美しいデザインで時代の最前線を駆け抜けた反逆児。それこそが、Y31セドリックが今なお多くのエンスージアストから熱狂的な支持を集め、語り継がれる最大の理由なのである。
3.新車当時のオリジナルコンディション
今回発見されたY31型セドリックの個体(支払い総額は¥3,480,000)は、業者オークションを経由して仕入れられたものだ。事故による修復歴やフレームの修正歴は一切なく、外装の塗装から内装に至るまで、新車当時のオリジナルコンディションが奇跡的に保たれていた。
前オーナーは現在の販売店と同じ神奈川県横浜市に居住していたため、塩害等の影響も受けておらず、非常に美しい状態を維持。
過去の整備は販売店と繋がりのある認証工場で行われていた記録が残っている。記録簿自体はすべてが揃っているわけではないものの、これは走行距離が少なく、主に車検を通す程度の運用にとどまっていたためと推測される。前オーナーが逝去した後はそのまま自宅の車庫にて大切に屋内保管されており、その後、ご子息の手によって売却され、オークションへと出品されたという経緯を持つ。
本個体が放つ最大の魅力は、何よりも「完全なノーマル状態」を維持している点にある。足元には純正ホイールが装着され、リアガラスにはスモークフィルムすら貼られていない。
Y31型のセドリックやグロリアは、素性からドレスアップやカスタムのベース車両として消費されることが圧倒的に多かったため、現存する車両の中でここまで一切の手が加えられていない完全なオリジナル状態を保つ個体は極めて希少だ。室内もオリジナルに近い状態が保たれており、新車当時の空気をそのまま閉じ込めたかのような“タイムカプセル感”を漂わせている。
機関系のコンディションも良好。エンジンは一発で始動し、第三京浜道路での往復テスト走行においてもストレスを感じさせないという。エアコンもしっかりと効き、高速域まで極めてスムーズに加速するのが確認されている。アクセルを踏み込んだ際にリアをグッと沈み込ませながら加速していく感覚は、この年代の大型セダンならではの特有の挙動であり、現代のセダンでは決して味わえない優雅な乗り心地を提供してくれるのだ。また、当時のデザインの特徴であるピラーレスハードトップの構造がもたらす圧倒的な開放感も、現代の自動車からは失われてしまった特別な魅力だ。
さらに、本車両を取り扱う販売店は、車両販売よりも整備業をメインとして展開しているプロフェッショナルである。自社の認証工場を完備しており、納車前には徹底した点検と整備が施される体制が整っているため、長期間車庫で保管されていたネオクラシックカーであっても、安心して本来の走りを楽しめるのだ。
【SHOP INFO】YBR横浜住所:神奈川県横浜市都筑区大棚町439-1
営業時間:10:00~19:00
定休日:不定休
TEL:045-624-8866
URL:https://www.ybr.yokohama/
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