現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > マクラーレン・セナ、驚くべき技術群

ここから本文です

マクラーレン・セナ、驚くべき技術群

掲載 更新
マクラーレン・セナ、驚くべき技術群

驚異的な性能を誇るマクラーレン・セナ。だが、それは最高出力800psや最大トルク800Nmというエンジンスペックだけから来るものではなく、空力やシャシー性能など総合的な最新技術からもたらされた結果なのだ。エストリルサーキットで感じた事実を踏まえ技術の詳細を解説する。REPORT◎島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)PHOTO◎McLaren Automotive

驚愕のエアロダイナミクス

 セナのプレス資料の冒頭には「空力主導の設計では、アピアランスよりも絶対的なエアロダイナミクスパフォーマンスを優先」という一節がある。その姿勢は、この武骨な外観にはっきり表れている。
 車体前方からボディに当たった空気は、まずP1のそれより150mm長いフロントのスプリッターを通り、強大なダウンフォースを生み出す。続いて通過するのは、左右のアクティブエアロブレード。これはリアのアクティブ・ウイングと連動して、前後ダウンフォースのバランスを常に最適に保つ。たとえばハードブレーキング中には、敢えてフロント側の押さえつけを緩めることでリアを安定させるのである。
 その後、空気は更に固定式エアロブレード、ヘッドライトとデイライトの間の隙間を通って後方に向かう。この空気は、アクティブエアロブレードの外側に位置するフェンダーのエアダクトから排出された空気と合流し、前輪周辺の整流を行なう。一方、その内側から排出された空気は、バンパー中央のダクトから入った空気とともにボディサイドに導かれ、リアのブレーキダクト、そしてダブルディフューザーへと送られていく。
 このように車体に開けられた穴という穴、複雑な空気の経路は、すべてがダウンフォースを生み出し、乱流を取り除くために機能している。そこに芸術的な美しさは無くても、代わりに圧倒的な機能美がある。
 CFRP製リアウイングは角度調整式。直線でのDRS設定から、もっとも高いダウンフォースを生み出す角度まで、最大25度の範囲で可変する。
 セナのエアロダイナミクスを語る上では、シャシーとの関係も重要だ。RACEモードでは油圧式サスペンションは車高をフロント39mm、リア30mm下げて、空力的な効果を高める。
 実際そのドライビングは、この空力に支配されている部分が大きい。特に鮮烈なのは高速コーナーで、アクセルオフでは相当速度を落とさないと通過できないのに、踏みっきりで飛び込むと強烈なダウンフォースによって却って容易にクリアできるという具合。考え方は、そのまま最新のレーシングカーである。


シャシー、タイヤ、ブレーキによる総合的ダイナミクス性能

 圧倒的なコーナリング性能を実現するシャシーには、P1用のそれを更に進化させたレース・アクティブ・シャシー・コントロールII(RCCII)が採用されている。その最大の特徴は、一般的な金属製スプリング/アンチロールバーに代わって、ガスを充填したアキュムレーターと油圧回路の組み合わせが使われていることだ。これにより硬さ、車高の自在な調整が可能になり、またハードなレートと、縁石を乗り越える際などのいなしを両立できるなど、あらゆるシーンで妥協の無い走りを実現する。
 アダプティブダンパーは前後左右が油圧回路で接続されており、ダンピングの調整はわずか2ミリ秒のうちに行なわれる。シャシーの設定はCOMFORT、SPORT、TRACKの3モードから選べる。更に、ルーフに設置されたスイッチにてRACEモードを選ぶことも可能である。
 これもMP4-12C以来の伝統で、機械式LSDは備わらず、代わりにブレーキ・ステアが用いられる。ESCは当然、標準。更にそれとは別にバリアブル・ドリフト・コントロール(VDC)によりオーバーステア許容量を変化させることもできる。
 タイヤは技術パートナーであるピレリと共同で開発したP Zero Trofeo Rを用意する。ドライ路面のサーキットに主眼を置きつつ、一般公道でも使用できるスペックとされている。そしてブレーキは、前後390mm径×34mm厚のカーボンセラミック製ローターを採用。従来と較べて4倍の熱伝導率、剛性の60%増を実現したことで、バネ下重量が低減され、また温度上昇が抑えられることからブレーキサイズの縮小も可能になり、更に重量削減に繋がっているという。
 そのパフォーマンスは、200km/hからの制動距離が、ちょうど100mという驚異的なもの。これはP1より16mも短い。実際、ブレーキはセナの走りの中でもインパクトの大きい部分で、280km/h以上の速度からフルブレーキングを何度繰り返してもまったくタッチが変わらず、踏力こそ必要ながらコントロール性は繊細。このブレーキがなければ、セナのダイナミクスは完成しないと実感させられるのだ。

圧倒的パフォーマンスを支えるパワートレイン

 最高出力800ps、最大トルク800Nmを発生するセナの心臓は、V型8気筒4.0ℓツインターボエンジン。それだけ聞くと、720Sと共通かと想像してしまうが、実際にはピストン、コンロッド、クランクシャフトにカムシャフトにインテークマニホールドなど多くの部品が専用とされている。
 ルーフ上部に沿って取り付けられたシュノーケル型のエアインテークも特徴だ。ここからCFRP製プレナムへと導かれる空気の流れは、室内に独特のサウンドとして流れ込んでくる。一方のエギゾーストは、インコネルとチタンで作られており、出口となるエキゾーストパイプはリアデッキから突き出ている。車体後部のエアフローに悪影響を及ぼさないよう、そのレイアウトは慎重に決められたという。
 サウンドにも留意されていて、エキゾーストノートは2000rpmごとに音量が10dBずつ高まるよう設計されている。エンジンマウントの剛性まで、迫力の音色のために吟味されているというから驚く。
 トランスミッションは7速シームレスシフト。変速中に一瞬、点火をカットすることで素早くスムーズなシフトチェンジを可能にしたイグニッションカット・テクノロジーは、675LTから採用されたものだ。
 マクラーレンのアルティメット・シリーズ第1弾となったP1ではハイブリッドテクノロジーが採用されたが、セナは敢えて電動化に背を向け、内燃エンジンだけを搭載する。テクノロジー的には一見、後退したように思えるかもしれない。しかし、これは敢えてのこと。ひとえにピュアなドライビングプレジャーを追求した結果なのである。

妥協なき軽量化の中身

 乾燥車両重量、何とたったの1198kgという圧倒的な軽さも、セナの凄まじいパフォーマンスの源泉である。シャシーは、CFRP製タブのMonocageIIIを採用する。新しいリアのダブルウォール式クラッシュ構造と、ルーフを一体化させることにより、室内に追加のロールケージを必要とすることなく堅固な構造を実現しながら、圧倒的な軽量化を果たしている。
 フロントのクラッシュビームを軽量なコンポジット素材製としたのは、マクラーレンでも初のことだ。しかも、これはクラッシュ構造の一部でありながら空力ダクトも一体化されている。こうして1つのパーツに複数の機能をもたせるのも、軽量化に貢献する要素である。
 ボディパネルも、当然ながらすべてが軽量かつ高剛性のCFRP製である。たとえばフロントのフェンダーパネル全体の重量は、たったの0.66kgに過ぎない。リアウイングも重量はわずか4.87kg。片手で余裕で持ち上げることができるこのパーツが、800kgものダウンフォースの多くをここで支えていることに驚嘆させられる。
 軽量化は、見えない部分でも徹底されている。あらゆる部分が再精査され、最後の5%を削り取っているのだと開発サイドも鼻高々だ。たとえば、M6ボルトのヘッドフランジを丸型にすることで、重量を33%削減。ドアリリース機構を電気スイッチにしたことでも、やはり20%の軽量化に繋げているといった具合である。
 シートについても触れておこう。最新のダブルスキン・シェル技術により、従来の同型シートに対して33%の軽量化を実現したというフルバケットシートは、1脚辺りたったの8kgしか無く、やはり片手でも容易に持ち上げられそうなほどである。このように、すべての面で一切の妥協が排されているのだ。

セナの室内も当然スペシャル

 ディへドラルドアを開けて、低いサイドシルをまたいで室内に入り、驚くほど軽いドアを閉めると、意外なほどの開放感に驚かされる。MonocageIIIはピラーが非常にスリムで前方視界に優れるし、特徴的なドア下側のウインドウの先には地面も見える。まるでヘリコプターにでも乗っているかのような、独特の雰囲気だ。
 インテリアは、ダッシュボードもドアも、そしてMonocageIIIもCFRPがそのまま露出しており、ディへドラルドアのダンパーも剥き出しになっているなど、見るからにスパルタンな仕立て。眼前には720Sと同様の折りたたみ式ドライバー用ディスプレイ。スリムモードにすると、走るのに必要最小限の情報のみが表示される。またダッシュボード中央には、テレメトリーデータなどの表示も可能な縦型8インチのインフォテインメントディスプレイを搭載。その下には、各種モード切替スイッチが並ぶ。
 エンジンスタートスイッチ、RACEモードへの切り替えスイッチは天井に設けられている。但し、ヘルメットをかぶった状態での操作は手探りになり、ちょっと難しいということだけは付け加えておく。ドアオープン、パワーウインドウのスイッチも、その脇に陣取る。
 シートは前述の通り超軽量なCFRP製で、フォーム成形された全面パッドと、軽量な7つのパッドのいずれかを選べる。後方には追加のロールケージが備わらないため、2人分のヘルメットとレーシングスーツを収納しておくこともできる。また、サーキット指向のユーザーに向けたオプションとして6点式のレーシングハーネス、更には水分補給システムも設定する。サーキットユースを考えているなら、少なくとも前者は必須だろう。
 一方、Bowers&Wilkins製の専用オーディオ、パーキングセンサー、バックカメラといった快適、便利装備は標準装備であり、また幅広シートとレザー内装をセットにしたツーリング仕様も選択できる。もちろん、この手もあり。特に、セナGTRを別に注文しているならば……。


【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
ベストカーWeb
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
AUTOSPORT web
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
AUTOSPORT web
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
ベストカーWeb
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
AUTOSPORT web
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
AUTOSPORT web
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
ベストカーWeb
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
AUTOSPORT web
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
ベストカーWeb
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
Auto Messe Web
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
AUTOSPORT web
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
AUTOSPORT web
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
AUTOSPORT web
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
AUTOCAR JAPAN
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
Auto Messe Web
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
AUTOSPORT web
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
くるまのニュース
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村