これまでイタリア車の大きな魅力のひとつと言われてきたエンジン。当然のようにいま、環境問題という大きな波を乗り切るための変革を求められている。そこで名門、マセラティが示したひとつの回答が「ギブリ ハイブリッド」。同社初のマイルドハイブリッドと言う新世代パワーユニットを搭載したスポーツサルーンが見せてくれた新しいマセラティ風味とは?
伝統あるイタリアンブランドだから出来る仕立てのよさ
次世代バイオディーゼル燃料として注目を集める「ユーグレナバイオディーゼル燃料」一般向け販売開始
イタリアにいる友人から来たメールに「最近は健康のことを考えて、ブラックティを飲むようになったよ」とあり、少しばかり驚いた。いやいやいや、君たちイタリア人と言えばエスプレッソにカプチーノにマキアートにラテに……。圧倒的にコーヒー文化であり、紅茶とはほとんど結びつかないのである。彼が言うには「もちろんコーヒーのない生活は考えられないが、カフェインのことも気になる。だから家ではブラックティを飲むようになった」と言うのだ。
カフェインのことを言うなら、イタリアでよく見かけるハーブティの間違いじゃないのか? と疑った。ハーブが古くから親しまれてきたイタリアでは外ではコーヒー、家に帰ればリラックス効果のあるハーブティという話はよく聞くからである。ところが「カモミールティと、アールグレイやアッサムとの違いぐらいは分かるさ」と返されてしまった。さらに、こうした嗜好の変化は徐々にイタリア人の生活の中に浸透してきているようだと、説明を受けた。イタリアンに対する、これまでの画一的なイメージが少しばかり変化した瞬間だった。
そんなイタリアンの変化を、マセラティ初のハイブリッドモデル、ギブリ・ハイブリッドを走らせながら、感じることになった。与えられている新しいパワーユニットは2Lの直列4気筒ターボエンジンに、スターター兼発電機として作動するモーター、そしてリチウムイオン電池などが組み合わされた“48Vマイルドハイブリッドシステム(以下、MHEV)”。このモーターの役割はエンジン始動や発電だけでなく、発進時や加速時に、駆動をアシストして、エンジンの負荷を低減し、さらに減速時にはそのエネルギーを電気として回収(回生充電)することで、燃費向上を図ることになる。
パフォーマンスをデータでチェックすればシステムでの最高出力は330馬力、最大トルク450Nmを発生。その最高速度は255km/h、0~100km/hの加速は5.7秒となっている。スポーツサルーンとしては圧倒的と言う内容ではないが、かと言って不足を感じるほどでもない。数値の比較で言えばギブリ・ディーゼルより、走りのパフォーマンスは上、3LのV6ターボエンジンを搭載したベーシックなギブリより、わずかにマイルドと言うことになる。すでにディーゼルモデルがファイナルとなっているため、このMHEVがマセラティブランドの環境対策モデルの一端を担うことになる。
佇まいはイタリアンでありながらエンジンが主張しない
伝統の大きく口を開けたデザインの中央にはトライデント(三叉の槍)のロゴが配されたフェイスと、サッシュレスの4ドアクーペフォルムは、相変わらずの流麗さを見せている。これまでのギブリと少しだけ違っている点と言えば、ホイールから覗くブレーキキャリパー、フロントフェンダーにある3連サイドエアベント、そしてCピラーのエンブレムのサイエッタ(矢)に「ブルー」のアクセントカラーがあしらわれていること。ブルーと言えば、マセラティに限らず電動カーの象徴的な色として認知されているから、ギブリ・ハイブリッドの演出は当然の流れである。
ドアを開け、ロッソ(赤)のステッチを配されたロッソのレザーシートに身を沈める。ここまでは正しき、と言うかこれまで慣れ親しんだイタリアンである。すっかり気分が盛り上がったところで、エンジンスタートする。
「ん?」。何かが違う。あの管楽器にも例えられる妙なるサウンドが響いてこないのである。早朝の住宅街でははばかられるほどの咆吼が聞こえてこない。体には2ヶ月ほど前に乗ったギブリSのV6エンジンの刺激的な感覚がしっかりと残っていただけに、なんとも拍子抜けしたのだ。環境問題はなにもCO2 だけで語るものではなく、騒音という尺度も当然ある。だからMHEVとすればこの振る舞いは実に正しいのだが、どこか物足りないと身勝手にも思ってしまったのだ。
気を取り直して走り出してみる。モーターだけでの走行は出来ないが、ターボチャージャーとモーターによるアシストを上手くバランスを取りながら、8速ATを駆使して走るギブリの走行感は、実にジェントリーであった。走行モードをスポーツモードにセットすれば、それなりにサウンドも響いてくるし、鋭い加速とのガッチリとした足回りを味わうことも出来るのだが、どこかお淑やかで心落ち着く感じなのである。あの艶めかしいほどのエンジンサウンドと加減速のフィーリングとは違った、新しい感触なのである。
悪くはない。だが、どこかよそよそしいというか、いつも感じていた、浮き立つような走行感とは違う感覚に戸惑いながらも、しばらく走り込んでみた。気が付くと、ギブリの妖艶なインテリアに囲まれながら、すっかり心を落ち着かせていることに気が付いた。走りにせかされることのない感覚も悪くない。マセラティならではの上質なイタリアンファッションをまといながらも、心穏やかなパワーユニットを手にしたギブリ・ハイブリッド。これはひょっとしてイタリア人にとってのブラックティのような存在なのかもしれない。
サッシュレスのドアとなだらかなルーフラインと言った基本的なフォルムは他のギブリと同じ。
スポーツモードにセットすると鋭い加速感と適度に心地いいサウンドを味わえるハイブリッドユニット。
フロントフェンダー後方に設けられたマセラティ伝統の3連サイドエアベントにもブルーのアクセント。
回生ブレーキのセッティングも良く、ペダルタッチが心地いいブレーキ。キャリパーはブルーに塗られている。
自動運転の「レベル2」に相当する先進運転支援システムを装備している。
艶めかしい雰囲気の「フルプレミアムレザー」と呼ばれるオプション装備。
8速ATのミッションはスムーズにシフトアップし、シームレスな加速感を味わえる。
(価格)11,060,000円(グランスポーツ/税込み)
SPECIFICATIONS
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,971×1,945×1,461mm
車重:1,950kg
駆動方式:FR
トランスミッション:8速AT
エンジン:直列4気筒DOHCターボ 1,998cc
最高出力:243kw(330PS)/5,750rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/4,000rpm
問い合わせ先マセラティコールセンター:0120-965-120
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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みんなのコメント
何代かモデルチェンジしないと完成の域には到達しないよ。