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カリフォルニアン・ポルシェ 356と911(930型/964型) スピードスター3台を乗り比べ 前編

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カリフォルニアン・ポルシェ 356と911(930型/964型) スピードスター3台を乗り比べ 前編

世界で最もエキサイティングなクルマ

レス・イズ・モア。より少ない方がより美しい。

【画像】カリフォルニアン・ポルシェ 356と911のスピードスター 992型タルガとカブリオレも 全104枚

往年のドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエ氏が唱えた思想だ。それと反するように、自動車は装備を充実させ、より贅沢で快適な乗り物へ進化してきた。

ところが、全員がその流れに納得していたわけではなかった。1950年代、ある1人がこの思想を真剣に捉え、誕生間もなかったポルシェへ大きな影響を与えた。ブランドを定義することにも繋がった。

1904年にオーストリアで生まれたマックス・ホフマン氏は、ニューヨーク・パークアベニューでアメリカ最大級の輸入車ディーラーを営んでいた。ジャガーやフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなどを、多くの人へ提供していた。

1950年、彼はフランス・パリのモーターショーでフェルディナント・ポルシェ氏と対面。本格的に生産が始まったポルシェ356を、アメリカで販売する契約を結んだ。

フェルディナントは、年間5台も売れれば充分だと話したが、ホフマンは1週間に5台売れなければ興味は持たないと返したという。実際、「世界で最もエキサイティングなクルマの1台」として売り出された356は反響を呼び、徐々に輸入台数は増えていった。

ポルシェとして最初の量産車が発売されたのは、まだ試作の延長上といえたものの、1948年。シンプルで機能的な2シーターのボディは、社内デザイナーのエルヴィン・コメンダ氏が描き出したものだった。

シンプルで3000ドル以下のポルシェ

空冷の1.1L水平対向4気筒エンジンは、基本設計がフォルクスワーゲンと共通。シリンダーヘッドとカム、クランクシャフト、吸排気マニホールドなどが独自設計で、ツインキャブレターを載せ、ビートルと呼ばれたタイプ1から40%増しの最高出力を得ていた。

フロントがトレーリングアーム式、リアがスイングアクスル式のサスペンションも、フォルクスワーゲン譲り。だが、リアアクスル後方にエンジンを搭載するスチール製プラットフォームは、356専用の設計だった。

ホフマンからポルシェを購入した1人が、カリフォルニア州でコンペティション・モーターズ社を営んでいた、ジョン・フォン・ノイマン氏。西海岸で開かれたレースへ356で参戦すると、大きな反響を呼んだという。

この反応を受け、ホフマンは356のライトウエイト仕様を作るよう、ポルシェに働きかけた。それに応じて用意されたのが、356 アメリカ・ロードスター。ハンドメイドのアルミニウム製ボディを載せていたが、サンデーレースには高価過ぎた。

356 カブリオレが当時4500ドルだったのに対し、価格は2割増し。積極的とはいえないポルシェの対応もあって、16台しか売れなかった。

ホフマンが求めていたのは、シンプルで3000ドル以下のポルシェ。装備は必要最低限に抑えた356こそ、クルマ好きの要望に応えるものだと考えていた。その強い主張から生み出されたのが、356 スピードスター。今回ご紹介する1台だ。

週末はサンデーレース、平日は通勤に使える

かくして、日曜日はサンデーレース、月曜日には通勤に使えるモデルとして、ポルシェはヒット。スティーブ・マックイーン氏やジェーム・ズディーン氏といった、ハリウッドスターまでもが愛車に選び、ステータスを掴んでいった。

1954年に導入された356 スピードスターの北米価格は2995ドル。ボディは356 カブリオレと同じスチール製で、防音材やカーペット、サイドウインドウを開閉するレギュレーターすら省かれていた。

フロントガラスは角度が寝かされ、湾曲した小ぶりなものへ置換。取り外すことも可能で、356の緩やかにカーブを描くサイドラインを美しく引き立てた。雨天時には、ベーシックなフードをかぶせることも可能だった。

装備が削られたことで、車重は356 カブリオレから68kgも減量。大きく開口部の開いたシルエットと、雨が降るとずぶ濡れになることから、バスタブという愛称も与えられた。

最初期のスピードスターは、A型と呼ばれる以前の356から派生しており、エンジンは54psか70ps版の1.5Lだった。本日ご登場願ったのは1956年以降に作られたA型で、オリジナルでは通常の356と同じ59psの1.6Lが搭載されていた。

英国でポルシェ専門ショップを営む、マーク・サンプター氏がオーナーで、2015年にカリフォルニア州から輸入。北米でのレストア時に、エンジンは1.9Lへボアアップされている。ちなみに以降のB型とC型には、スピードスターが設定されていない。

911というブランドに対する力強い表明

サンプターの356には、電子インジェクションと高性能なカムシャフトが組まれ、ツインプラグ化されており、最高出力は142psを発揮する。100psだった、レアな1500 GS カレラGT スピードスターよりパワフルなことになる。

艷やかなブラックのボディで颯爽と発車したいところだが、その前に残る2台のスピードスターに触れておこう。30年のブランクで登場したシルバーの930型カレラ3.2と、ホワイトの964型911だ。

ポルシェの原点となった356は、1965年に生産が終了。911へバトンタッチした。だがリアエンジンというレイアウトには批判がつきもので、924や928といったフロントエンジン・モデルでの方向転換をポルシェは模索していた。

しかし、テクニカルディレクターのヘルムート・ボット氏とCEOに就任したピーター・シュッツ氏は、オリジナルのスピードスターから着想を得た911を考案。再び注目を集めることに成功した。

1987年のドイツ・フランクフルト・モーターショーでお披露目されたのが、911 スピードスター・クラブスポーツというコンセプトモデル。ナローボディのカレラ・カブリオレをベースに、70kg軽く2シーター化されていた。

「スポーティでトップレス、ピュアなドライビングプレジャーを表現」したと、ポルシェは主張した。取り外しできるフロントガラスが与えられ、簡素なフードが、コブの付いたリアカバー内に収納されていた。

911というブランドに対する、力強い表明でもあった。そして1988年、カタログモデルとしてスピードスターが復活することになる。

この続きは後編にて。

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