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F1名ドライバー列伝(4)ジム・クラーク:王者たちが「史上ベスト」と敬う存在。雨のニュルで証明した速さと勇気

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F1名ドライバー列伝(4)ジム・クラーク:王者たちが「史上ベスト」と敬う存在。雨のニュルで証明した速さと勇気

 2020年はF1世界選手権にとって70周年にあたる。その歴史のなかで、33人のワールドチャンピオン、108人のグランプリウイナーが誕生、数々の偉大なるドライバーたちが興奮と感動をもたらしてきた。この企画では、英国ジャーナリストのChris Medlandが何人かの名ドライバーを紹介、彼らが強い印象を刻んだ瞬間を振り返る。

 今回紹介するのは、1960年から1968年にF1に参戦したジム・クラークだ。F1キャリアを通してロータスで走り、72回出走のなかで、タイトル2回(1963年と1965年)、優勝25回、ポールポジション33回を獲得した。

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 F1史上最速のドライバーのひとりと評されるクラークは、優勝できなかったレースでもその速さで強い印象を残した。

 クラークを称賛する声は多く、F1で5回タイトルを獲得したファン・マヌエル・ファンジオはクラークは「グランプリ史上最も偉大なドライバー」であると褒め称えた。3度のワールドチャンピオンであるジャッキー・スチュワートは「レーシングドライバーとしても、ひとりの男としても、私がそうなりたいと思った存在」、3度王座に就いたアイルトン・セナは「ベスト中のベストドライバー。僕にとって少年時代のヒーローだ」と崇めている。

 クラークは、1968年F1第2戦の前にホッケンハイムで行われたF2のレースでクラッシュを喫し、32歳の若さで命を落とした。

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 F1史上最も偉大なドライバーを選ぶ際に、優勝回数は確かにひとつの基準になるだろうが、必ずしもそれだけで評価を決めることはできない。

 ジム・クラークは出走数はわずか72回、今のF1でいえば、3シーズンを少し超える程度だ。優勝回数は25回で、全体の9位にとどまっている。だが、彼は勝てなかったレースでも、高い評価を得た。表彰台にすら届かなかったにもかかわらず、彼の才能を証明した一戦として記憶されているのが、1962年のドイツGPだ。

 1962年、クラークは、特別な才能を持つドライバーとして認識され始めていた。F1での3年目、17戦目にあたるベルギーGPで初優勝を達成。19戦目のイギリスGP(エイントリー)では圧勝、選手権においてポイントリーダーであるグラハム・ヒルにわずか1ポイント差に迫った。

 次のドイツGPの舞台ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェは、クラークにとって過去にF1で1回しか走ったことがないコースだったが、初めてのレースで4位を獲得しており、翌年の1962年にはそれ以上の好結果が期待されていた。ところが、結果よりもその展開が人々に衝撃を与えることとなった。

 ドイツGPでクラークが、BRMに乗る経験豊富なヒルを倒すことができるのかどうかに大きな注目が集まった。このレースで新しく登場したマシンはいずれも雨の予選で9分を切ることができず、クラークは3番手を獲得。ウエットとなった最後のプラクティスで好タイムを刻んだこともあり、ロータスはレースに向け自信を深めていた。

 ウエットの土曜に続き、日曜もサーキットを嵐が襲った。コースの一部が水と泥に覆われたため、スタートは1時間ディレイされることになった。危険なコンディションを考慮し、レーススタートは結局予定より75分遅れとなり、混乱のなかでクラークは重大なミスを犯した。

 エンジンをスタートさせた後、クラークは燃料ポンプのスイッチを入れるのを忘れたのだ。報道では、ゴーグルの曇りに対処しようとしていて手順を忘れたのだといわれている。そのためフラッグが振り落とされ、レースがスタートした時、彼のエンジンは止まってしまった。

 自分のミスに気付いたクラークは、燃料がフロートチャンバーに溜まるまで待ってからスタート、そのころには最後尾26番手に落ちていた。しかしそこから見せた追い上げは信じられないようなものだった。

■雨のニュルブルクリンク北コースで1周5秒速く走る勇気

 オープニングラップを終えた時点で10番手に浮上、2周目に入る時点でジャック・ブラバムの後ろに迫っていた。1周目のリタイアは2台。悪コンディションのなかでここまでポジションを上げるのに、クラークは恐ろしいほどのリスクを冒したに違いなかった。

 3周目にさらにふたつポジションを上げ、上位グループが見えてくる。ポジションが上がるにつれて、バトルの相手はより手ごわくなってくるが、それでも6周目の終わりには5番手となり、トップ4との差を縮め始めた。レースをリードするヒルとの差は34秒だ。

 7秒前のブルース・マクラーレンを2周後に抜き、4番手に浮上、クラークはトップ3のドライバーたちよりも1周5秒も速いタイムで走り続けた。ウエットコンディションでそれほどのスピードで走ることにはとてつもないリスクが伴う。しかもそこはノルドシュライフェなのだ。しかしクラークは自身がスタート時にミスを犯したことへの怒りに燃え、挽回することしか頭になかった。

 15周のレースの10周目、トップグループとのギャップは14秒まで減っていた。勝利をかけて接近戦を繰り広げているトップ3に追いつくのも時間の問題と思われたが、クラークはふと我に返った。そこに至るまで何度も高速スライドを繰り返したにもかかわらず、続行できたのは、彼自身のスキルもあったが、ある程度の運もあった。自分がどれほどリスクを冒しているのか気付いた彼は、ペースを落とし、ロータスを無事にチェッカーまで持っていくことに決め、4位でフィニッシュした。表彰台には届かなかったが、それでもスタート直後には予想できないような結果だった。

 それまでクラークが才能と勇気を持つドライバーであることに確信を持てずにいた者がいたとしても、あの日のニュルブルクリンクでの10周で、疑いはすべて吹き飛んだはずだ。

 ヒルはそのレースを制し、その年のタイトルを獲得した。クラークはランキング2位に甘んじたものの、翌年の1963年、圧倒的な強さを示してチャンピオンとなった。


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みんなのコメント

4件
  • クラークとチャップマン

    F1史上比類無き最強コンビ

  • 当時モータースポーツの情報をいち早く得る手法はスポーツ新聞しか無かった。
    朝、いつものように新聞を取ってきて布団の中で見ていた時、わずか数行のJ.クラーク死亡の記事を見つけた時の衝撃は忘れる事が出来ない。
    名車ロータス49フォードを得てチャンピオンが約束されていた矢先、まさかF2で亡くなるとは。
    セナの事故死と並んで私にとっては一生忘れる事の出来ない大事件だった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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