自動運転技術の最先端をレポートしてゆく本連載、第15回となる今回は、もし自動運転車両が事故を起こした場合、その責任はドライバーにあるのか? それともクルマ(メーカー?)にあるのか? という話。まだ発展途上の技術とはいえ、そろそろステアリングから手を話して運転できるクルマも増えてきました。そうしたときに、もし事故を起こしたら…。法律ではどうなっているのか? そして保険の支払いはどうなる??
文/西村直人 写真/AdobeStock(メイン写真は@Imaging L)、奥隅圭之
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■自動運転車の事故、責任はクルマ? ドライバー??
自動運転技術を搭載した車両が事故に遭遇した場合、その責任や賠償は誰が、どのように負うのでしょうか。
そもそも自動運転技術は「事故ゼロ社会を目指す最適解のひとつ」ですので、「事故を起こすことはあり得ない」、「事故を起こす可能性があるなら本末転倒」、との声が聞かれるでしょう。
しかし、日本において約8,100万台の車両がナンバープレートを交付されていて、公道はそれらの混合交通で成り立っています。
よって、優れた自動運転技術である自動化レベル3搭載車(条件付自動運転車)でも、たとえば停車中に自動運転技術をもたない一般の車両から追突される可能性は残ります。
人がどれだけ気をつけていても事故は起こる。それは自動運転車も同じ。ではもし事故が起こった場合、責任は誰がとるのか?(AdobeStock@dzono)
レベル3技術は現時点の国際制度上、高速道路や自動車専用道路などで60km/h以下の領域において使用可能です。よって「条件付~」と呼ばれ、国土交通省では当面、自動運行装置に関して「高速道路における60km/h以下の車線維持機能」と明確な定義付けを示しています。
このレベル3実行中は、ODD(Operational Design Domain/運行設計領域)に基づいてシステムが自車周囲の監視と、安全な運転操作を行います。
そしてODDの範囲外に出そうになった(≒システムが機能限界をむかえそうになった)場合は、システムがドライバーに対して危険を知らせ、ドライバーが運転操作に介入することで、可能な限り危険を遠ざける運転環境が実現します。このシステムからの呼びかけに応えることがドライバーの責任です。
システム側には機能のON/OFFになった日時のほか、ドライバーが適切な運転操作ができなくなったとドライバーモニターカメラなどからシステムが判断した日時などを、6ヶ月間または2500回分記録できることが要件に盛り込まれています。
さらに、ODD範囲外、もしくはドライバーによる運転操作の介入がない場合は、事故の発生リスクを最小限に留める制御(ミニマル・リスク・マヌーバー/Minimal risk maneuver)を自動的に稼働させて、車両を停止させる(車速をゼロにする)こともシステムの責任として定められています。
このようにドライバーとシステム、両者の責任分担領域は明確に示されていて、ODD範囲内ではシステム(クルマ=自動車メーカー)が責任を負い、そこから外れる領域ではドライバー(人)がすべての責任を負うことが定められています。
2021年3月に、ホンダが世界初の公道走行可能な「レベル3」技術を、レジェンドに搭載して発売した。「レベル3」搭載車両との事故は、もうあり得る話なのですね
■システムの設計上の欠陥はシステムの責任
万が一、事故が発生した場合は、システムに記録されているセンサー稼働状況や自車周囲の光学式カメラやドライバーモニターカメラの映像をはじめ、数多くの情報が検証され、ドライバーの責任なのか、それともシステムの責任なのか、はたまた両者に責任が発生するのかなど一事例ごと、検証が行われます。
もっとも、一口に事故といっても、発生した事故の主たる原因となる「第1当事者」が誰になるか、ここが過失割合や損害賠償の範囲を決定する重要な点です。
仮にそれがレベル3稼働時に発生した事故であれば慎重な判断が求められますが、幸いにも執筆時点(2021年6月12日)では前例がありません。
ここからはわかりやすく、ドライバーの責任と、システムの責任、この大きく2つに分類し、現行の保険制度に照らし合わせて考えてみます。
ドライバーを含む「人の責任範囲」はとても明確で、すでに法律において明文化されています。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」。
この文言は、民法第709条に定められたもので過失責任主義を示し、損倍賠償制度の考え方を説明しています。過失責任主義とは、故意や過失がある場合に限って当事者が損害発生時の賠償責任を負うという考え方です。
対するシステムの責任範囲は少し複雑で、システム設計と、システム運用に分かれます。
現在、自動運転技術が抱える課題のひとつに「協調」がある。運転するドライバーと車両との協調も重要だが、「(自動運転技術が搭載されていない)他の車両と(自動運転技術が搭載されている)自車両」との協調も重要なテーマ。法的な線引きが進められている
■システムは二重設計、そのうえで保険を手厚く
いっぽうシステム設計の責任は、欠陥が証明されない限り追及されません。
自動運転技術のシステム設計は、国連WP29でのルールに則っていることを前提に、自動操舵、自動ブレーキ、自動運転認証、サイバーセキュリティ、EDR、機能要件など各会議における決定事項に沿った詳細設計が求められます。つまり、決められた設計事項が満たされなければ販売できないわけです。
システム運用での責任は、正しく設計されていたにもかかわらず、システムが未知の欠陥によって事故が発生したと証明された際に発生します。
よって自動車メーカーでは、そうした事態に陥らないように、システムそのものの冗長性を高めています。
その一例が、電源システムの冗長性です。車載センサーである光学式カメラやミリ波レーダー、LiDAR、さらには電動パワーステアリグなど、自動走行に直結するパートには、すべて二重の電源系統が確保されています。
さらに万が一、車載センサーの一部がダメージを受けた場合(例/ミリ波レーダーが内蔵されたフロントバンパーの破損)でも、走行中であれば停止できるまでの制御を担保する「ミニマル・リスク・コンディション/Minimal risk condition」という考え方が採用されています。
それでも、避けられない事故の発生は混合交通である以上、現時点においてゼロにすることが非常に難しい、これが実状です。
よって日本では、自動運転技術をもたない一般の車両に加えて、自動運転車両(現時点はレベル3)においても損害保険で一定レベルの損害賠償をサポートする仕組みが採られています。
ご存知のように、日本の自動車に関する損害保険は「自賠責保険」と「任意保険」に分類されます。
自賠責保険は自動車損害賠償保障法(自賠法)で契約が義務づけられていることから「強制保険」とも呼ばれます。人身事故に対して被害者1人あたり、怪我を負った場合に120万円、死亡された場合に3,000万円、後遺障害を負った場合では障害等級などにより75~4,000万円の支払いが定められています。
日本の自動車保険制度はかなり進んでいて、だからこそ法制度も進めやすくはあるが、それでも課題は多く、ひとつひとつ整理している段階(AdobeStock@BlueBeans)
自動車保険は「任意保険」と呼ばれます。保険契約者が任意に契約することができ、自賠責保険では補償されない様々な損害を補償する保険です。ちなみに、対人賠償保険の加入率は75%前後(出典/損害保険料率算出機構)で推移しています。
■「レベル3」でも「運行支配」はドライバー
一方、日本損害保険協会ではかねてより、「自動運転の法的課題について」として定義し、自動運転に関する法的課題について検討を重ね、その結果を次のようにまとめています。
【自動化レベル2技術(運転支援車)について】
運転支援を受けた運転中であっても、ドライバーには常に運転責任があることから、対人事故・対物事故ともに、現行の法制度における考え方が適応できると判断しています。
【自動化レベル3技術(条件付自動運転車)について】
論点は大きく3つあり、それぞれに詳細な検討がなされています。
1つ目が、システム責任による部分的な自動運転となり、道路交通法上もドライバーの運転責任が一定範囲で免除される点。
2つ目が、システム責任とされる状況で発生した事故の損害賠償責任を誰が負うのかという点。
3つ目が、運行利益を得ている者と、運行支配を行なっている者の定義付が複雑である点。
運行利益とは、車両に乗り移動したことで得る利益を示します。レベル3においても従来からの解釈と同様に、「ドライバーや事業として運行している事業者が利益を得ること」と結論づけられました。
運行支配とは、文字通りの運転操作を主に行なっている者を示します。前述の通りレベル3では定められたODDに則ってシステムが機能するわけですが、たとえばODDの範囲外になる場合には、運転操作の権限委譲がシステム→ドライバーへと行なわれます。
よって、運行支配がシステム/ドライバーと変化するわけですが、レベル3が正しく稼働し、システムが運転操作の主体であったとしても、ドライバーはいつでも運転操作に介入可能です。
つまり、システムを機能させていてもドライバーが運転操作の主体者となって運転をオーバーライドできることから、「ドライバーが運行支配を行なっている」という解釈を行なっています。
これを対人事故で考えるとシステムの稼働/非稼働(ON/OFF)を問わず、これまで自賠法第3条に定められた「運行供用者責任」がドライバーに適応されるため、被害者はこれまでと同様に救済されます。
「レベル3」以上の技術で走行中、ドライバーは車内でたとえばハンドルから手を離してDVDなどの映像コンテンツを楽しむことができる。それでも「いつでも運転に復帰できる」という状態の維持が求められる
また、対物事故についても従来通り、双方の過失割合に応じて損害賠償責任を負うという、民法709条/715条に基づいた解釈が適応されます。
■サイバー攻撃を受けてクルマが暴走したら?
難しい専門用語がたくさん並びましたが、要約すれば、自動化レベル2/レベル3技術とも、対人事故に関しては自賠法による運行供用者責任とし、対物事故に関しては民法による過失責任が問われます。
システムが正しく機能し、ドライバーがそれを認識して安全な運転環境が保たれている場合には、自動化技術をもたない従来の車両と同じく保険制度が適応されます。普及過渡期に生きる我々としては一安心です。
しかしながら、将来的なシステムの高度化によって現行の法制度に新たな解釈が求められることは必至です。さらに、ボトルネックともいえる現行制度の弱点が問題視され始めました。
求められる新たな解釈の代表例は、システムが正しく機能している状態の把握と、それを失いかける可能性の高い運転状態や交通状況の把握です。
現行制度の弱点を補完するためには、共通フォーマットでのドライブレコーダーやイベントデータレコーダーの運用や設置、それらデータの保存・提出の義務化、さらには事故原因の分析体制の構築が望まれています。
また、いわゆるサイバー攻撃による事故の可能性も考えられ、仮にサイバー攻撃によって対物事故が発生した場合は、損害賠償の請求先がない可能性も考えられます。国連でもサイバーセキュリティの構築には余念がありませんが、それでも万全とはいかず、将来的な課題であると言われています。
加えて、この先の自動化レベル4になると、救済しなければならない被害者の範囲確定や、過失割合の算出など、損害保険にまつわる実務が急増することも指摘されています。
まだまだ検討すべき事項も問題も多いが、自動運転技術の発展と普及が進めば、交通事故は減っていくはず(というより「それ」こそが自動運転技術発展の目標)。そのためにも、課題をあぶりだしてひとつずつ解決していきたい
基礎的なところでは、システム欠陥が原因で発生した事故の場合、いわゆるPL(Product Liability)法に基づく製造物責任が問われますが、この解釈にも課題があります。
現行のPL法は分子が存在する有体物が対象範囲です。しかし、自動化レベルのソフトウェアアップデートが原因で発生した事故があった場合、現行制度上、ソフトウェアは無体物であるため、そもそもPL法の対象にはなりません。責任分担の明確化を目的とした、既存の法律に対する新たな解釈が求められています。
この先、技術昇華とともに自動化レベルのステップアップや、同じ自動化レベルであっても使用可能な場所が増える、即ちカテゴリーが拡がることが期待されています。
それに伴う社会的受容性の向上には、技術の進化とともに、こうした法整備の充足も不可欠です。そのためにも利用者である我々ユーザーは、政府関連のパブリックコメントや個人のSNSなどを通じて、建設的な意見を発信し、本格的な自動運転社会に対する環境整備に貢献していきたいものです。
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みんなのコメント
歩行者保護も止めるべき。信号無視や横断歩道以外は、歩行者が悪いとしないと。
いきなり715条の使用者責任が出てきたり(自賠法の運行供用者責任とは別の話)、適当にも程がある。