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日本屈指のアートコレクターである高橋龍太郎に学ぶコレクター道

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日本屈指のアートコレクターである高橋龍太郎に学ぶコレクター道

そのコレクションに収められることが若手アーティストの目標でもある、アートコレクターの高橋龍太郎。日本のアート界にとって欠かせない存在である高橋が考えるコレクターの役割とは?

コレクターの役割とは?その質と量で日本の現代アートコレクターの第一人者と言われる高橋龍太郎だが、そもそも日本の美術収集家の存在とは、どのような変遷をたどってきたのだろうか?

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「松方幸次郎コレクションが軸となって国立西洋美術館が誕生したように、戦前はコレクターと美術館が強固にリンクしていました。戦後は西宮の企業家・山村德太郎が前衛美術を集めた山村コレクションなど、個人コレクターはある程度の人数はいたと思います。ところが僕がコレクションをし始めた1990年代半ばはバブル崩壊直後で、個人コレクターはみんな消え失せちゃった。オークションはおろか現代アートのマーケットさえなかったのですから。当時、セカンダリーを扱うギャラリー同士の交換会が行われていて、僕はそこを通じて買っていました。多作な草間彌生や李禹煥などが、20万~30万円で売られているのを買ったりしてね。とにかく、そんなうすら寒い状況でしたよ」

高橋は2004年に東京・神楽坂にアートスペース「高橋コレクション神楽坂」を設け、2008年まで自身のコレクションを一般に公開する展覧会を不定期に開いていた。

「手元にある作品が500点を越えた頃に、あ、これはコレクションだと初めて自認しました。作品が『見せろ、見せろ』と語りかけてくるんですよ(笑)。だって飾る場所がないゆえに、一度も梱包を開けずに倉庫にしまっておくものが大半だったから、それは作品に対して失礼ですよね。それで神楽坂のスペースを作ったんです。その後2008年の〈霧島アートの森〉を皮切りに、公共の美術館で展覧会を開くようになりました。それまでは自分が好きな作品だけをひたすら買っていましたが、この頃から、美術館のキュレーター的な眼差しと僕の好みのちょうど中間ぐらいを意識して集めるようになりました」

高橋の年譜 (※1)を見ると、1999年にはアートに注ぎ込んだ資金がすでに3億円を越えたと書いてある。実に買いまくっている!

「作品が売れないと作家は生活していけません。買われることが作家としての第一歩なのだから、コレクターはアートの最初の証言者であり目撃者であると言える。そういう意味でコレクターの果たす役割は大きいと思います。この10年ぐらいでようやく現代アートのコレクターと呼べる人が徐々に増えてきました。それはいい状況だなと思います」

しかしその中でも、高橋は日本人の作品を中心に買い続けているのが特徴的だ。

「それはやはり、日本の若い作家を応援したいという気持ちがあるから。もちろん海外にも素晴らしいアーティストはたくさんいますし、海外の有名ギャラリーが次々と日本に拠点を構えるようになりました。僕も見に行きますが、海外の作家が日本で発表するために全身全霊を込めて描いた、その時点での最高傑作を並べているようには見えませんね。クオリティの高い作品はすでに世界のコレクターが買っているのだから、僕はあまり食指が動きません。だったら僕は日本の作家に限って、その作家の渾身の最良作を集め続けるという方針を貫いた方が、気持ちがすがすがしいですよ」

日本のアートの立ち位置海外と比較して日本の現代アート事情をどう見ているのだろうか。

「日本のアートシーンは世界の中で意味があると思っています。最近、アフリカやアジアの新興国のアートを、アートの未開拓地だからといって取り上げ、褒めそやす傾向にありますが、そういうのはあまり好もしいと思えません。上から目線で欧米の文脈に取り込もうとする姿勢自体、底が浅いなと思うし。それよりも日本は、欧米と肩を並べるぐらいの水準に達した、欧米とは異なる美学が室町時代から500年以上連綿と続いている国ですよ。そして現代では、ネオテニー (※2)的な独特の感性を持つ世代が、世界の感性の最先端をいくアートを次々と創り出している。こうした日本の現代アートシーンが仮に世界の中で意味がないと言うのであれば、世界のアートシーンそのものがもう無意味だと言いたいぐらいです。なぜ日本の現代アートが世界のアート市場の上位を席巻しないのか。この忸怩たる思いが飽和点に達して、いつか世界に届くことを願っていますが」

一部のスター作家を除けば、日本の現代アートがいまいち世界市場に響いていない状況を、どう打破すればいいのだろうか。

「国はもっと文化予算を現代アートに回してほしいです。たとえば韓国の文化予算は国民一人あたりで計算すると日本の約8倍ですよ。韓国人アーティストの展覧会企画を資金ごと持ち込んで世界のあちこちで開いています。これが続けば、K-PopのようにK-Artがいつか世界デビューを果たすかもしれませんが、日本ももっと戦略的に資金を投入して日本のアートを売りださないと……」

高橋の怒りと嘆きは、キュレーターにも投げかけられる。

「キュレーターの人たちはみんな欧米の教育を受けるでしょう? そうすると欧米流の見方を刷り込まれてしまって、外国の作品を借りてきて国内で開く展覧会ばかり企画して、日本の作品を海外に持っていって紹介するという発想があまりにも少ない。また韓国の例を出して悪いけれど、韓国では世界中の若い有能なキュレーターを交通費・宿泊費付きで招待し、一定期間滞在させて韓国の現代アートを研究してもらうという取り組みを行っています。そうすると、その人たちが勝手に情報を発信してくれるわけ。戦略が上手ですよ。日本も少しは見習わないと」

高橋は日本の現代アートが世界で存在感を増すことを期待している。

高橋龍太郎/Ryutaro Takahashi1946年山形県生まれ。精神科医。東邦大学医学部卒業。1990年タカハシクリニック開設。2004~2008年、東京・神楽坂に「高橋コレクション神楽坂」を設立。2024年東京都現代美術館で「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展を開催。

東京都港区にある高橋のプライベート・ビューイング

(※1)出典:『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』(図書刊行会)

(※2)ネオテニー:幼形成熟。幼い体を保ったまま性的に成熟すること。転じて、かわいい・幼いものへの指向と高度な表現力を持つアートを示唆する言葉。

Installation view of A Personal View of Japanese Contemporary Art: Takahashi Ryutaro Collection at the Museum of Contemporary Art Tokyo, 2024. Photo: Kenji Morita. From left in front: NISHIO Yasuyuki, Crash Sayla Mass, 2005 | O JUN, The Beautiful Nature, 2019 | Oscar OIWA, Arca de Noé (Noah’s Boat), 1999 | IKEDA Manabu, History of Rise and Fall, 200

PHOTOGRAPHS BY SATOSHI NAGARE
WORDS BY MARI MATSUBARA
EDITED BY KEITA TAKADA (GQ)

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