革新が求められる日本のエネルギー政策にあって、もっとクリーンな内燃機関に対する期待値は確かに高まっている。その一翼を担う次世代バイオディーゼルの試乗会を通して、なによりも「普通」であることの大切さと喜びを知ることができた。
BMWは出荷時の全ディーゼルモデルにCN燃料を採用
2024年末、BMWは2025年1月から、ドイツで生産されるすべてのディーゼルモデルに、軽油代替の再生可能燃料「HVO100」を充填して出荷している。全世界的に異常気象に見舞われている今、環境負荷低減への取り組みはまさにまったなし。そういう意味では、とんでもなくインパクトがある取り組み、と言っていいだろう。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
使用済みの食用油などバイオマス(生物資源)原料を水素化処理したHVO(「HydrotreatedVegetable Oil:水素化植物油」)は、ドロップインが可能な実質的カーボンニュートラル(CN)燃料の代表選手だ。
欧州では次世代バイオディーゼルとして、北欧地域を皮切りにイタリアで一般向けの給油施設でも「普通に」取り扱われてきた。2024年からはドイツ、フランスでも販売が承認されている。ほかにインドネシア、マレーシア、ブラジル、タイ、アルゼンチンなどでも軽油混合の「B●●」(●●の部分は、混合率の数値が入る)の販売が、供給サイドに義務付けられているようだ。
かたや日本はと言えば・・・もろもろ事情があることはわかっているつもりでも、ことCN燃料(次世代バイオフューエルも含めて)の社会実装に関しては、圧倒的に後れをとっているとしか言いようがない。
もちろん取り組みは始まっている。2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」では、「自動車・船舶・鉄道・建設機械等の分野で幅広く使用される軽油に対しては、原料供給制約があることも踏まえた上で、バイオディーゼルの導入を推進する」と明記された。
もっとも、触れられているのは80ページ超のレポート内のわずか2行と、決意表明としてはそうとうささやか。ちなみにガソリンに関しては、具体的な数値目標が挙げられている。2030年度までにバイオエタノールの混合率を最大濃度10%(E10)、2040年度までに同20%(E20)とした低炭素ガソリンの供給開始をそれぞれ「追求する」という。
対する次世代バイオディーゼルの社会実装に向けては、やっと「高いハードル」が認識されてきたところ、といった印象だ。
先の基本計画を受けて資源エネルギー庁がまとめた「バイオディーゼルの利用に関する検討会」の資料によると「HVOについてはJIS規格上の取扱いが定まっておらず、高濃度で軽油に混合することの品質管理も定まっていない」とのこと。
同時に「既存の化石由来軽油に比べて密度が小さいことから地方税法の軽油引取税における軽油の定義に該当していない。そのため、HVOを高濃度で軽油に混合した燃料も地方税法上、軽油と見なされない。したがって、HVO又は軽油・HVO混合燃料は、混和・かさ増しによる不正軽油を防止する地方税法上の規制(事前の製造承認や譲渡承認等)によって流通が大幅に制限される」などの課題に対する検討が必要になってくる、という。
単体運用であれ混合であれ、本格的なHVO導入を図るためにはまず、さまざまな規制・税制のほうも国際的な品質基準や規制内容への「キャリブレーション」が必要になるようだ。
軽油と混合でも単独でも利用することが可能
そんな状況の中で、日本におけるバイオディーゼル普及のカギを握ると思われるパートナー企業たちが合同で「次世代バイオディーゼル試乗会」を主催したのは、2025年8月の夏真っ盛りだった。
プレゼンを行ったのはマツダ株式会社、いすゞ自動車株式会社、株式会社ユーグレナ、平野石油株式会社そして三井住友ホールディングスの5社。それぞれに「つくる、はこぶ、つかう」というさまざまなプロセスにおいて、バイオディーゼルの社会実装によるCO2排出量の削減を目指している。
前述したとおり、欧州を始めとする海外におけるCNFに関する取り組みの進度に比べて、ずいぶんのんびりしている日本の「国」としての取り組みだが、さまざまな壁を前にしながらも挑戦を続ける企業の「今」は、非常に興味深いものがあった。
「つくる」に関して言えば、ユーグレナが開発した「サステオ51」は日本向けの軽油代替燃料として現時点での最適解と考えていいだろう。グローバルで持続可能な燃料として認められているHVOを51%混合しているのだが、この微妙に「きっかり半分ではない」というところがミソだ。
いわゆる燃料としての質を担保するためのJIS規格だけでなく、日本における混和型バイオディーゼル導入の高い壁になっている地方税法上の「軽油規格」にも適合。省エネ法の改正などによって事業者に義務付けられた化石由来のエネルギー依存からの脱却に向けた取り組みを、後押しすることも可能にしている。
端的に言えば「もっとコスパのよいCO2削減」が可能になる、というワケだ。惜しむらくは、SAFも含めたバイオ燃料生産の本格的な商業化に向けて、開発・生産の軸足が海外に移ってしまったことだろうか。
神奈川県横浜市鶴見区で2019年春から稼働していた日本初のバイオディーゼル燃料の実証プラントには、いわゆる「地産地消」の絶好のモデルケースになることを勝手に期待していたのだが、2024年1月末にその役目を終え、稼働を停止した。
代わりに立ち上げられたプロジェクトが、マレーシアにおけるバイオ燃料製造プラントだ。マレーシアの元売り大手PETRONAS社の子会社や、バイオ燃料大手のイタリアENI社の子会社などと合弁会社を設立、2028年下期までの稼働開始を目指しているという。
この新拠点から、ユーグレナは年間約10万キロリットルのバイオ燃料(航空機用SAFを含む)を日本に供給することを目指している。いわゆる第一世代のバイオディーゼルFAMEの2023年度通しての国内生産量が1万キロリットルほどしかないことを考えれば、飛躍的な増加、と言っていいだろう。
原料として使用済み植物油、動物性油脂、植物油の加工に伴う廃棄物といった「王道」を用いるとともに、中期的には微細藻類由来の藻油などのバイオマス原料からの製造もあきらめてはいない。「ミドリムシ(微細藻類ユーグレナ)」の食用屋外大量培養技術を世界に先駆けて確立し、さまざまな事業を展開してきたユーグレナ社の底力に、大いに期待したいところだ。
はこぶ、つかう、に新たなステップを刻む
大いに期待したい、という意味では、「はこぶ」領域を支える平野石油株式会社が考える「役割」にも、注目していきたい。自社営業所と提携会社によって日本全国に自社ローリーを使った燃料の運搬ネットワークを構築する平野石油は、主にBtoB分野での効率的な「少量配送」を実現している。
そうした最適な配送サービスのノウハウを活かすことで、サステオ51を日本全国に届けることが可能になる。平野石油は同時に、地下や高層階といった特殊な環境においても給油が行える燃料配送ならではの「対応力」を、災害時にも生かす「BCP(Business Continuity Plan)対応」を提案しているという。
2011年3月の東日本大震災を始め、実際に発生した災害後のさまざまなリスクには、エネルギーの安定確保という課題も含まれている。物資運搬や移動手段としてのトラックや自動車だけでなく、非常時の発電などにも使える軽油は確かに災害時に頼りになる。
平野石油はそうした観点から、消防法の適用外となる(事前の消防署への確認を推奨)容量190Lの簡易給油機をさまざまなシーンで活用することを提案する。サステオ51に関しても普段は「脱炭素」で貢献し、もしもの時の「備え」として活用することが、企業としての「信頼」というブランド強化にも役立つ、と考えているのだ。
基本、建設現場で使われる重機への供給を主としている平野石油だが、ちょっと畑違いのビジネスパートナーへの「供給」も始まった。お相手は、グループとしての「社会的価値創造」の一環として「ネットゼロ」を目指すSMBC三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)だ。
同グループの三井住友銀行は2025年4月から、メガバンクとしては初めて次世代バイオディーゼル車(マツダCX-80)を社用車として導入。同社ビルの地下駐車場に簡易給油機を設置して、運用ずる。こちらもBCP対応の一環としての利用が前提となるという。
1日も早いバイオディーゼルの導入を願うディーゼル車ユーザーである筆者的には、願わくば週に一度くらいCX-60とかCX-80に乗っているユーザー向けに一般公開してもらえるとうれしい。「知名度アップ=PR」という意味でも、非常に効果的だと思うのだが、いかがだろう。
次世代ディーゼル×MHEV×HVO=バッテリーEVを凌ぐ燃費効率
プレゼン後の「試乗会」では実際に、サステオ51を使ったCX-60/CX-80のハンドルを握ることができた。
搭載される直6ディーゼルターボ「SKYACTIV-D 3.3」は、HVOのメリットを引きだすための最新技術が盛り込まれている。とくに2段エッグ燃焼室/多段燃料噴射など独自の燃焼技術を採用することで、従来のディーゼルユニットでは解消できなかった異常燃焼を抑え、全域でスムーズなフィーリングを実現できたのだ。
実際、試乗前、同乗した開発者に「軽油と比べるとどんな違いがあるのか?」と尋ねたところ「ほとんど違いません」という、なるほど確かによどみない回転感やノイズの少なさは、「いつものCX-60」に他ならない。
しかもHVOが本領を発揮することのできるエンジンとして、燃焼キャリブレーションを最適化するとともに、48V MHEVや高効率な8速ATと組み合わせることで、LCAを通してのCO2削減は、バッテリーEVのそれを凌ぐ分析結果(マツダ調べ)も公表されている。
規格や税制といった課題を克服した先の、ちょっとだけ未来の内燃機関は意外に「普通」で「違和感」のないところが魅力だった。あとは、自分自身を巡る「生活環境負荷」もできるだけ低減してもらいたい、と切望する。
資源エネルギー庁による別のレポートでは、バイオディーゼルの価格動向についてHVOは軽油の3~5倍程度であると考えられる、と報告されている。マツダ調べでは欧州書状でのHVO小売価格は、軽油比で同等~10%程度に抑えられているというから「やりよう」はあるのだ、と思いたい。かの地では現在の生産量が年間約400万トン、2030年には1550万トンのHVO100の生産を目指しているというから、規模感は圧倒的に違うのだけれど。
ちなみに西ヨーロッパ向けランドクルーザーとハイラックスのディーゼルモデルは、すでにHVO100ディーゼルと互換性があるという。欧州車メーカーの動向も含めれば、需要の方でもある程度の「マス」が確保できるかもしれない。
結局はメーカー、行政、なによりもユーザーがどこまで本気でCN燃料の「可能性」に賭けることができるか、が確かに問われていることを実感させる試乗体験だった。(写真:伊藤嘉啓/マツダ)
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現状は、CX-90でも「遊びの自動車」だが、輸出仕様のハイエースのようなボンネットバン&マイクロバスなら、マツダ3.3Lヂーゼルは過疎地の中距離物流やバスにピッタリ。総重量が1.5〜2.5倍になるから、煤の問題も出難い。その代わり、ウェイストゲートは必須になる。
2−2−3−3−4の14人乗りで郊外15㎞/L走れば、軽油でもかなりCO2排出量削減になる。