自動運転への関心が高まってきている昨今、各自動車メーカーも商品化に向けて精力的に開発を進めている。
ドライバーを支援する、運転を支援する装置もいろいろ開発されているが、マツダが発表した「CО-PILОT CОNCEPT」について、松田秀士氏が実際に試乗して解説する。
【2021年を振り返る】未来のためにあえて問う 東京2020選手村 自動運転バスの接触事故はなぜ起こったのか
●CO-PILOT CONCEPTの理念
・ドライバーを選ばない
・特別な操作が不要
・一般道でも作動
※CO-PILOT CONCEPTはこの要素のどれかひとつが欠けても成立しない
※本稿は2021年11月のものです
文/松田秀士、写真/MAZDA ほか
初出:『ベストカー』2021年12月26日号
[gallink]
■運転中に体調急変で重大事故を引き起こすケースが増加中
マツダは2022年デビューのラージ商品群にCO-PILOT CONCEPT 1.0を搭載し、2025年を目処にさらに進化させた2.0を登場させる
ボクは昨年『安全運転寿命を延ばすレッスン』という本を執筆出版した。これまでにも中高齢者を対象とした講演や安全運転実習を行っています。
実はある安全運転実習の時、高齢のご夫婦から質問を受けた。質問は助手席に座った奥様からだった。
「主人は血圧が高いのです。運転中もし主人に発作が起きて意識を失ったら、私はどうすればよいでしょうか?」運転ができない奥様は、自分にできることはあるのかを聞いてきたのだった。
幸いご夫婦の自家用車は電動式のパーキングブレーキだったので、このボタンを引けばクルマは止まりますよ、と教えてあげたところ、ご夫婦はとても安心した様子だった(止まらないクルマもある)。
しかし、もしご主人がひとりで運転中に発作を起こしたら、いったい誰がクルマを停止させるのか? 答えはしたものの、その後ボクは複雑な気持ちになったものだ。
ちなみに発作・急病に起因する交通事故件数は増加傾向にあり、2018年には269件も発生。さらに注目なのはこのうち95.8%が60km/h以下で発生していることだ。
つまり一般道で多く発生しているということ。したがって歩行者を巻き込むなど、混在する交通の中での重大事故に繋がりかねない。
そこでマツダは先進安全技術のCО-PILОT CОNCEPTを提案している。CО-PILОTとは航空機でいう副操縦士のこと。つまり副操縦士としてクルマがあなたに代わって運転を行おうというものなのだ。
ということは自動運転? と考えがちだが、マツダは自動運転よりも事故を起こさないクルマ造りを目指している。
もともと、ドライバーが自らの意思で運転し自由に移動する「走る喜び」を体験することで、人間の能力を最大限に引き出そう、という考え方がマツダにはあるからだ。
しかし、事故による悲しい思いをしないようにするためには何をすればいいのか?
まず第1に視界視認性、ドライビングポジション、衝突安全技術などの基本安全技術の確立。第2に事故の原因となる眠気などを検知してドライバーに知らせ休憩を促すi-ACTIVSENSEによる先進安全技術。ここまではすでに現行車に投入ずみ。
松田秀士氏がCO-PILOT CONCEPTをテストドライブ
そして今回発表された第3の技術が、人の状態を検知してリスクを低減するMAZDA CО-PILОT CОNCEPTなのだ。
CО-PILОT CОNCEPTはドライバーが運転を継続できない突発的な異変が起きた時に、クルマがドライバーに代わって安全な場所まで運転し停止させる。
自動運転のようでちょっと違う。あくまで運転するドライバーが主人公なのだ。
そこで来年となる2022年にはCО-PILОT CОNCEPT 1.0として、現行モデルに搭載されているカメラやセンサー、ECUのままドライバーの異常を検知してクルマを止めるシステムの搭載車両を市場に投入する。
さらに2025年以降にはCО-PILОT CОNCEPT 2.0を投入する。今回はこのCО-PILОT CОNCEPT 2.0を搭載した開発車両にマツダの三次試験場(広島県)で試乗。運転席でわざと気を失い、クルマがどのようにして安全に停止するのかを体験したのでそのレポートをお届けしよう。
ちなみに、このCО-PILОT CОNCEPT 2.0の車両は既販車(現行モデル)のセンサー仕様に12個のカメラ、1個の車内カメラ、高精度地図/ロケーターECU、試作PC(ECU)を追加したものとなっている。
2025年以降の投入とは言うものの、実際にそのシステム制御が凄かったのだ。
■自動運転よりも事故をしないクルマ造りを最優先するマツダ
2025年の市販化に向けCO-PILOT CONCEPT 2.0の技術が盛り込まれたマツダ3の試作車と松田氏
では、CО-PILОT CОNCEPT 2.0を搭載した試作車両に試乗してみよう。
まずは助手席に座り運転席の試験官が居眠りの実演! 目を瞑ると直ぐに機器が反応して、センターディスプレイ、メーターパネルにアラートが表示され、クラクションが鳴り始める。外ではハザードランプが点滅して、さらにブレーキランプもフラッシングして外部の車両や人などに異常を知らせる。
ま、普通だったらこの時点で目を覚ますのだろうが、そのまま昏睡ということもありうる。さらには運転席で倒れ込む人もいるはず。
車内ではセンターディスプレイに「ドライバー異常を検知しました」と表示され、「ドライバー異常のため安全なところまで自動で走行し停車します」とアナウンスが流れる。
「減速します」、「左に進路変更します」、「500m先のパーキングに停車します」などとアナウンス。そしてパーキングに正確に停車したのだ。停車後はヘルプネットに接続してレスキューを呼ぶところまでやってくれる。
このあとボク自身が運転して、今度は倒れ込む演技で試してみたが、同じようにすぐに反応して安全にパーキングに停車した。
確かにこれなら意識を失ったとしても事故を起こす確率は大幅に低下するだろう。
これまでフラつきや眠気や脇見を検知してアラート等で警告する技術は市場導入してきているが、目を瞑っただけで居眠りを検知したことには感心する。
しかしこのドライバー異常検知システムは細かい。まず、その人の普段の運転操作から逸脱した運転をしていないかを診断しながら、頭部の傾きや挙動もセンサーリング。倒れ込みはこれで検知していたのだ。
さらに凄いのはドライバーの視線挙動を監視していて予兆をも判断することができるようになってきたという。
視線情報を基に脳がどう感じているのかをモデル化し、視線の向きに特定の個所への偏りが生じていないかを検知している。実際この偏りは脳疾患の有無によっても異なるのだそうだ。
詳しく言うと、交通事故は脳機能低下(内因性の病的なものも含む)によって引き起こされることが多い。
このような脳機能低下を前述した運転操作と頭部挙動、そして視線挙動の3つで判断するパラメータを持っているのだ。
今回の試乗では目を瞑って居眠りを装ったり、倒れ込んで病的異常を演技しての異常検知による安全退避停止までの体験をしたわけだが、実際に身体に異常を起こすドライバーは、さまざまな容態反応から脳機能低下を起こす。
事前にそれらの異常を予知検知できるようになれば、より安全な退避行動がとれるようになるだろう。
マツダの安全への取り組みの深さには感心させられる。
失神状態を再現する松田氏。CO-PILOT CONCEPT 2.0の車内カメラは物凄く優秀でビックリ。これなら安心して運転できる
ところで、ドライバーが失神した状態での自動退避がとてもスムーズだったのだが、完全自動運転で三次試験場の外周路(ワインディング路)を走行する貴重な体験ができた。
完全に手放し、アクセルもブレーキもクルマ任せでの走行。このような自動運転の体験ができることはまったく予想していなかったのでとても驚いたのだが、その自動運転がこれまたスゴイのだ。
スイッチをONにすると発進しますとアナウンスがありスルスルと発進。安全のために退避していたパーキングからコースに進入。そしてどんどん加速してゆく。
トップスピードは120km/hほどまで加速。そして圧巻だったのはブレーキングとコーナリング。
まずコーナー進入へ備えるブレーキングがとてもスムーズ。初期制動から身体が前のめりになることもなく、いつの間にかコーナー進入適正速度に減速。かといって遅すぎるほどの速度でもなくコーナリングを始める。
この時のステアリングの切り込み方が素晴らしくスムーズで、切り足しもバツグンのタイミングで修正操舵がまったくなく、キレイにコーナーをクリアする。エイペックス付近からのアクセルОNのタイミング、さらにアクセルを踏み込んだ際の加速のコントロールもバッチリ。
三次試験場のワインディングはアップダウンも激しく、コーナーそのものも深く曲がり込んでいたり連続したり、我々プロドライバーをも唸らせるコースなのだが、自動運転というよりプロドライバーが運転しているよう。コーナリングも60km/h前後の速度で旋回するので横Gもそこそこ感じたのだ。
この自動運転、詳細地図が必須とのことだがほかにGPSとカメラだけでここまで仕上げていることに、マツダの技術力の高さを再認識させられた。今すぐにでもキムタクの「やっちゃえ日産」レベルの高速道路でのハンズオフは可能だろう。
それを敢えてやらず、CО-PILОT CОNCEPTに技術投入し「走る喜び」に共感するドライバーを守るマツダの企業ポリシーに激しく賛同した一日だった。
【番外コラム】死亡重傷事故は減少しているが、無視できない3つのデータ
●78%のドライバーが運転中に眠気を感じている
●体調急変が増加
●体調急変による事故の95.8%が60km/h以下で発生
寝不足でなくても運転中に眠気に襲われたことはあるはず。データでもほぼ4人に3人が経験していると実証されている。
それに加えて、運転中の身体異常による事故ケースは報道が増えているだけでなく実際に発生件数が増えている。
誰にでも起こりうるこれらの事故要因に対しマツダは、一般道走行レベルで多発している点に注目し、CО-PILОT CОNCEPTの開発に鋭意取り組んでいる。
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