先日、中山競馬場に行ってきた。随分と久しぶりに赴いた競馬場だったが大いに感銘を受け、モータースポーツ界としても見習うべきことが多くあると感じた。
中山競馬場は関東にある中央競馬の開催競馬場のひとつ(もうひとつは東京競馬場)で、有馬記念や皐月賞の開催地といえば、ピンと来る方も多いだろう。
■モータースポーツをもっと盛り上げるためにはどうすればいいか? 大湯都史樹が考える将来「レースは、正直サブコンテンツでもいい」
所在地は千葉県船橋市で、JRの船橋法典駅や西船橋駅、京成電鉄東中山駅が最寄駅となる。都心からは結構距離があり、”行きやすい場所”とまでは言えない。しかしその全てがよく考えられている。
最も近い船橋法典駅は、競馬場まで地下道直結。しかも競馬の開催日には専用改札口がオープンし、駅を出るとすぐに「いらっしゃいませ」と出迎えられる。まあスタンドまでは地下道を10分ほど歩かねばならないのだが、左右の壁面には有馬記念および皐月賞の歴代優勝馬の特大パネルが掲げられており、懐かしい思い出が蘇った。競馬好きの友人と連れ立っていたならば、早くも競馬談義に花が咲くことだろう。しかも、雨が降っていたとしても濡れずにスタンドまで辿り着けるというのも素晴らしい。
そして入場ゲートに辿り着くと入場料金を徴収されるわけだが、その価格は200円と激安。私は事前に指定席券を買っていたが、これも安いものでは400円。スマホでQRコードを見せれば、入場券を買う長い列に並ばず、すんなりと入場できてしまう。
いざ入場してしまうと、そこはパラダイスである。地上5階、地下1階の近代的なメインスタンドは、背後にパドック、正面にレースコースが配置されている。
競馬をあまりやらないという方のために、馬券を買うまでの流れを説明しておこう。どの馬の馬券を買うかを自宅や移動中にある程度予想しておき、当日にはパドック(下見所)で実際に馬を見てその気配を見極め、コースに入場した馬の雰囲気も確認して最終的な買い目を決める……という流れが一般的だ(もちろん、皆さんそれぞれのスタイルがあるので、異論はおありだろうが)。つまり競馬場に行ったら、パドックとコース側のスタンドを行ったり来たりすることになるわけだ。
ただ、メインスタンドの背後と正面にパドックとレースコースが置かれているおかげで、ファンは雨が降っていたとしても、一切濡れることなくその両方を行き来できるようになっている。
しかもこのメインスタンドの内部には、様々な飲食店が軒を連ねている。これも実に素晴らしい。ハンバーガーや牛丼といったファーストフードから、寿司や鰻といったしっかりしたお食事まで、選びたい放題。少しの休息の際には、コーヒーやビールを嗜めるドリンクコーナーも至る所に存在している。
価格も安い。我々は当日、地下一階にあるトプカピさんのカレーを昼食に選択したのだが、ビーフカレーがわずか600円からという実に懐に優しいお値段である。ポークカレーならば500円だ。
このトプカピさんがあるエリアはさしずめフードコートのようになっており、椅子やテーブルがずらりと並ぶ。ちょっとした休憩にもいい。このフードコートエリア以外にも各所に椅子が設けられており、休息を取れるようになっている。まあ新聞や荷物を置いて場所取りをしてしまう人たちが多く、これはなんとか解消して欲しいが……。
朝から晩まで、”飽きさせない”プログラム
さてメインとなる競馬も大いに充実している。朝10時前から17時頃までの約7時間の間に、実に12レースが組まれている。そのレースも芝にダート、短距離から長距離、障害レースとバラエティに富んでおり、飽きることもない。しかもそれらのレースがほぼ30分間隔で執り行なわれるわけで、人々は慌ただしくパドックとスタンドを行き来し、マークシートを塗って馬券を買い、腹が減っては何かを頬ばって予想に励む。7時間と聞けば長いが、体感ではあっという間の7時間であった。
しかし慌ただしいとはいえ、レースとレースの間には適度な間隔があり、しかも昼には少し長い”お昼休み”があって、1時間ほど馬が走らない。お手洗いに行ったり、コーヒーを飲んで一服したり、昼食を摂る時間も十分にある。
ちなみにもっと競馬にどっぷりと浸かりたいという方には、同日に関西とローカル開催の競馬も行なわれているので、最大で36レースに中山競馬場にいながらにして投票できてしまう。まあ大変なので、あまりおすすめはしないが……。
我々はこの日、中山競馬場での12レースと、京都で行なわれたG1レースの合計13レースだけに留めた。
中央競馬のイメージ戦略
ただ今回特に驚いたのが、競馬場にいらっしゃるファンの層が以前とは大きく違っているように感じられたことだ。
かつて競馬場といえば、罵声や怒号が飛び交うのが普通だった。文章にするのが憚られるようなヤジが、競馬場中に溢れていた。しかしこの日はそういう声が聞かれることはほとんどなかった。これは日本中央競馬会(JRA)のイメージ戦略が好影響を及ぼしているに違いない。
長澤まさみさんをはじめ、有名タレントさんを起用したJRAのCMを、おそらくほとんどの方がご覧になったことがあるだろう。このCMは”仲間と楽しい競馬に行こうよ”というのがコンセプトであったはずだ。”推し活”の要素もあった。そこには、ギャンブルの匂いは微塵も感じられない。UMAJOという催しも行なわれており、女性だけでも競馬場に足を運びやすいイメージを作り上げた。
また別のCMでは、名馬を”ヒーロー”と見立て、スポーツイベントの要素を前面に押し出したものもあった。また擬人化した競走馬を育成するゲームが大流行りし、アニメ化されたり、キャラクターグッズが売られたりしているのも、同様の効果があっただろう。
つまり競馬はオシャレで楽しく、映えるモノであり、ヒーローたちが全力でその力を競い合うためのスポーツでもある……だから「ぜひ競馬場に行ってご覧ください」と、JRAは訴えているのである。そして「もしよろしければ馬券も買えますよ」と、小さな声で囁く。競馬初心者のためのビギナーズセミナーも、専用のコーナーを設けて開かれているのも商魂逞しい。
JRAのイメージ戦略の結果、若いグループやカップル、そしておひとりと思わしき女性のお客様など、以前は見られなかったような層のお客様が増え、以前からの熱心な競馬ファンは、居場所を奪われたのかもしれない。
馬券は今やインターネットを介しても購入することができる。昔からの競馬ファンは、そういう所で競馬を今でも楽しんでいるのだろう。ターミナル駅など、各所に場外馬券発売所(WINSという)もある。
ただインターネット上で馬券を買うのでは、通帳の残金が増減するだけだ。もし予想が外れて負けてしまえば、貴重な金を失った……という思いが強くなってしまう。しかし競馬場に行けば、1日をレジャーとして満喫し、スポーツイベントとしても楽しめる……たとえ1万円負けたとしても、「今日は1日楽しかったね」という満足感の方が残るように思う。
つまり競馬は、馬券を買うこと以上の価値をお客様に提供することに成功したわけだ。まさにお値段以上である。
当然、馬券の売り上げによる収入(馬券の売り上げの約25%は、自動的にJRAの収益になる仕組みとなっている)が莫大なため、これだけの設備投資やサービスを展開できるのだろう。しかし競馬場に来る人のほとんどは、1~2万円程度しか支出していないはず。あるいはもっと少ない額しか馬券を買っていないという人も多いかもしれない。
しかし馬券が当たろうが外れようが、馬券の購入金額がいくらであろうが、誰もが同じようなサービスを受けることができる。もちろん馬主席や貴賓席のような超VIPの方々へのサービスはまた別なのであろうが、それでも実に素晴らしいシステムである。その結果、惨敗しても「損をした」とは思わせない。
モータースポーツ界が参考にすべきこと
さてここまで、中山競馬場で感銘を受けたことをいくつか書き連ねてきた。そしてそのほとんどが、日本のモータースポーツ界にも活かせる、いや活かすべきであろうと思う。
昨年いくつかのレースをサーキットで取材させていただいた。そして走行セッションの合間にグランドスタンド裏を覗くと、疲れ切り、食事を取るために地面や階段に座り込んでしまっているように見えるお客様の姿も少なくなかった。しかも全てが屋外で、屋根もなし。その日は晴れていたからまだよかったが、雨が降るなどすればさらに大変なご苦労をされるだろう。そして場内に流される映像コンテンツは非常に限られており、スタンドの自席から離れてしまえばモニターやビジョンも皆無と言ってもいい状況である。
もちろんサーキットを運営するには巨額の費用・投資が必要だ。そしてサーキットや主催者の皆さんが、お客様や競技者を迎えるために十分ご尽力されているのは、重々承知している。しかしお越しになるファンの皆さんは、1万円前後という高額の入場料を支払う。レースによっては、それ以上になろう。そしてそのほとんどが、遠路はるばる車を運転してやってきており、競馬場のように鉄道で楽にアクセスできるわけではない。そういうファンの皆さんにもっと快適に観戦していただく、そのための方法をもう少し整備すべきではないだろうか?
レース観戦は修行だと誰かが言った。古来のファンであればそれでもサーキットに赴くのだろうが、それでは新規ファンを獲得するのは難しかろう。
競馬以外のスポーツでも、お客様にご満足いただくための施策を様々用意されていると聞く。今年はそんな他のスポーツの”ホスピタリティ”も、色々と見てみたいと思う。
ちなみにこの日の競馬は、DAZNでお世話になっている笹川裕昭アナウンサーと、ひょんなことからご一緒させていただいた。結果ふたり揃って大惨敗。しかしそれでも、心地の良い満足感があった。もちろん、勝っていたらもっと満足できたんだろうけど……。
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