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「ラフ・シモンズ」──連載:北村道子のジェントルマンを探して

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「ラフ・シモンズ」──連載:北村道子のジェントルマンを探して

数々の映画衣裳をはじめ、さまざまなメディアで衣裳デザインとスタイリングを手がけてきた北村道子による「現代のジェントルマン像」を探る連載。第15回は、デザイナーのラフ・シモンズについて語る。

ラフ・シモンズは自身のレーベルからスタートし、世界的なメゾンのデザイナーの立ち位置に移行していきますが、センスはずっと変わりません。何がいいって、その一貫したスタイルを持っていて、そこまで新しいものを追求してないところ。特に男たちは、これを着ていると気持ちいいんだよね、という感覚がスタイルのコアにあります。一生かけてベーシックを学び続けることが学問だと私は思うのだけれど、ほとんどのデザイナーはメゾンから課される仕事が多すぎて、残念ながらそうすることが難しくなってしまう。でも、ラフ・シモンズのデザインは、永遠に学問をしていると感じさせる、惚れさせてくれるところが、私にとってジェントルマンたるゆえんなんです。

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1995年、ラフ・シモンズの最初のコレクションを見たときに、ポストパンクやライダーズを平気で登場させる、それがラフ・シモンズという人のサブカルチャーを背景とする発想なんだと知りました。その後、2005年にジル サンダーのクリエイティブ・ディレクターになり、さらに世界に羽ばたきます。私は本当に才能のあるデザイナーは、最初はメンズで基礎を叩き込み、肉体化してからウィメンズに入っていくと思っているんです。それがまさに可視化されていたのが2012年、クリスチャン・ディオールのアーティスティック・ディレクターに就任した彼が、初のコレクションを発表するまでを記録したドキュメンタリー『ディオールと私』(14)でした。オートクチュールを手がけた経験がないところから、かつてディオールがやっていた曲線を復元しつつ、発想力と技術で自分のものにしていく彼に、お針子たちが協力していたのも頷けます。ベルギーの大学で工業デザインと家具デザインを学んでいるので、素材、テキスタイル、パーツへのこだわりも強い。そのディティールの美しさがウィメンズの世界でさらに発揮されていたなと。また、ルカ・グァダニーノが監督した映画『胸騒ぎのシチリア』(15)でも、ラフ・シモンズがデザインしたディオールの衣装が使われています。ティルダ・スウィントンの着る洋服をうっとりしながら見ました。プラスになるコラボレーションは、意外としっかりやってるんですよね。

2020年から、プラダに移籍していますが、共同クリエイティブ・ディレクターのミウッチャ・プラダが彼を生かしてることが伝わってきます。ただ残念なのは、ラフ・シモンズが自身のブランドを終了したこと。さらに、ドリス・ヴァン・ノッテンも退任したことで、いよいよデザイナーによるオリジナルと呼べる洋服が少なくなっている。プラダで年4回のコレクションをやりながら、自分のブランドを維持するのは難しかっただろうし、強い性格であればあるほど、すごく大変なことだと思います。

彼は有名な人と交わらないことで有名ですが、そういう生き方も好きです。プロダクトデザイナーだったラフ・シモンズがファッションの世界を志したきっかけはマルタン・マルジェラですが、束縛されたくないという二人ですよね。それは、ベルギー、アントワープの、強いけれど繊細で、独特なアウトロー感のある人間性からくるものなのかもしれません。私も8割ベルギーに傾いている人間ですからね(笑)。

ラフ・シモンズは今57歳。60歳で引退するデザイナーが多いなか、そうならないでほしい。数少ない、辞めてほしくないデザイナーの一人です。

RAF SIMONS1968年生まれ、ベルギー出身。大学で工業デザインを学び、インテリアデザイナーとして活躍。独学で服作りを学び、1995年秋冬、自身のブランド、ラフ シモンズのコレクションを発表。ジル サンダーのクリエイティブ・ディレクター、クリスチャン・ディオールのアーティスティック・ディレクター、カルバン・クラインのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを経て、2021年春夏、プラダの共同クリエティブディレクターに就任。2023年春夏でラフ シモンズの終了を発表

MICHIKO KITAMURA1949年石川県生まれ。30歳頃から、映画、広告、雑誌などで衣裳を務める。『それから』(85)以降、数々の映画作品に携わる。著書に、人気シリーズ『衣裳術』第3弾(リトルモア)などがある。

GETTY IMAGES, GORUNWAY.COM  ©CIM PRODUCTIONS

WORDS BY TOMOKO OGAWA

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