今やアウディのみが採用し続ける直列5気筒エンジンはいかにして生まれ、現在にいたったか。世良耕太が、その「進化」を解説する。
直列5気筒エンジン誕生の理由
直列4気筒以上、直列6気筒未満なのが直列5気筒エンジンだ。直4、直6それぞれのいいところと悪いところの中間的な特性を持つ。かつてはホンダやボルボ、そして一時期ボルボを傘下に収めたフォードも5気筒エンジンを持っていたものの、現在はアウディのみが展開し、「RS Q3スポーツバック」や「TT RSクーペ」など、一部のRSシリーズが搭載する。
アウディが最初に直列5気筒エンジンを採用したのは、1976年登場の「100」においてだった。アウディはこの2代目100シリーズを開発するにあたり、初代よりも上位のポジションを目指した。それにはライバルと同様に直列6気筒エンジンがふさわしいと検討を進めたが、壁が立ちはだかった。アウディはメルセデス・ベンツのように縦置きに搭載したエンジンで後輪を駆動するRWD方式ではなく、RWDと同様にエンジンを縦置きに搭載するものの、後輪ではなく前輪を駆動するFWD方式を採用していた。
エンジン縦置き+前輪駆動の場合、6気筒エンジンを採用したのでは搭載スペースの面で厳しいし、重たくなって前後重量配分が苦しくなる。そこで、当時の感覚としては“常識外れ”な直列5気筒を採用することにしたのである。“4”より数字は大きく、プレミアム性をアピールする効果もあった。2代目100シリーズが積んだ直列5気筒ガソリン・エンジンは、80シリーズに積まれていた1.6リッター直列4気筒をベースに1気筒くわえた格好で、排気量は2144ccとなった。
直列5気筒ガソリン・エンジンに“スポーツ”のイメージを植え付けたのは、1980年の初代クワトロだ。同年のジュネーブ・モーターショーで初公開されたクワトロは、80シリーズをベースにブリスターフェンダーでボディをワイド化。前後にスポイラーを装着し、ひと目で高いパフォーマンスを備えていることがわかるルックスとした。
技術上のハイライトは車名の由来となったフルタイム4WDで、心臓部には200シリーズが搭載していた2.1リッター直列5気筒ガソリンターボ・エンジンにインタークーラーを追加。最高出力を125kW(170ps)から147kW(200ps)に増強した。
クワトロを引っ提げて1981年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦したアウディは、直列5気筒ターボとフルタイム4WDの威力もあって1982年、1984年とマニュファクチャラー部門のタイトルを獲得する。
1987年にはスポーツ・クワトロS1で直列5気筒ターボエンジンの活躍の場をパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムに広げると、1989年には90クワトロIMSA GTOでアメリカのシリーズ戦に参戦。2.2リッター直列5気筒ガソリンターボ・エンジンは530kW(720ps)の最高出力と、720Nmの最大トルクを発生した。この“史上もっともパワフルな5気筒エンジン”により、アウディは7勝を挙げた。
RSシリーズへの搭載
一方、量産車向けの5気筒エンジンは1984年に排気量を2.3リッターに引き上げると、後に各気筒4バルブのシリンダーヘッドが与えられて車名に「20V」が付されるようになった。1991年には、それまでの「クワトロ」に代わる新しい4WDスポーツモデルとして「Sシリーズ」が誕生。シリーズ名は変わったが、心臓部に収まるのはそれまでと同様、直列5気筒ターボエンジンだった。
1994年にはさらにスポーティな「RSシリーズ」が誕生したが、エンジンはやはり直列5気筒。アバントRS 2の2.3リッター直列5気筒ターボエンジンは、232kW(315hp)の最高出力と410Nmの最大トルクを発生した。
その後、5気筒エンジン搭載モデルは一時途絶えるものの、2009年に横置きになって「TT RS」が採用し、復活した。TTのベース仕様は2.0リッターの直列4気筒エンジンを搭載していたが、高性能スポーツバージョンにふさわしいパワーを無理なく発生させるには排気量を増やしたい。
そこで、1気筒追加して2.5リッターの直列5気筒にし、ターボチャージャーと組み合わせた。最新のTT RSクーペは294kW(400ps)の最高出力と480Nmの最大トルクを発生するが、最初のTT RSの最高出力/最大トルクは250kW(340ps)/450Nmだった。
ただ1気筒を追加したわけではない
現代のRSシリーズが搭載するEA855型の2.5リッター直列5気筒直噴ターボエンジンは、EA888型の2.0リッター直列4気筒直噴ターボエンジンをベースとする。82.5×92.8mmのボア×ストロークは共通だ。
しかし、ただ1気筒追加しただけ、ではない。カムシャフトを駆動するバルブトレーンの位置が異なる。EA888のバルブトレーンはエンジン前側(車載状態で右側)にあり、一般的なレイアウトだ。
一方、EA855型のバルブトレーンはエンジン後ろ側、言い換えればトランスミッション側にある。カムシャフトの先端には可変バルブタイミング機構が取り付けられるが、そのぶんだけ張り出すことになる。
EA855ではこの張り出しを抑えるため、バルブトレーンをエンジン後ろ側に変更したのだ。1気筒分の追加で全長が増えるのを抑えるためで、実に合理的な設計である。
アウディの5気筒はひとクラス上のプレミアム性を生むために編み出されたが、途中でスポーツ性を高めるための手段に変わり、現在でもそれは変わらない。過去から現在にかけて共通しているのは、5気筒を選択するに至った合理的な理由だ。決して、注意を引くために「5」という割り切れない数字を選んだわけではない。
エンジンそのものがフェードアウトしていく流れだが、アウディにRSシリーズが残る限り、パフォーマンスの高さを象徴する直列5気筒エンジンも残り続けるに違いない。
文・世良耕太 写真・田村翔、アウディ
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