先日発表となった、北米仕様の日産「新型Z」。初代Zをオマージュしたデザインも話題となりましたが、最大の注目ポイントは、やはり、3.0L V6ツインターボの「VR30DDTT」エンジンを搭載していることでしょう。
スカイライン400Rにも搭載されている、VR30DDTTエンジン。本稿では、その特徴を解説しつつ、ほかのFRスポーツとの相違点や優位性についても考察していきます。
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文:Mr.ソラン、吉川賢一、エムスリープロダクション
写真:NISSAN、TOYOTA、Mercedes-Benz、LEXUS、BMW、MAZDA
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多くの工夫が施された、超高性能エンジン
今回新型Zに搭載されたVR30DDTTエンジンは、最高出力405ps/6400rpm、最大トルク475Nm/1600-5200rpmを発揮する、超高性能エンジン。その優れたエンジン性能を叩き出すために、多くの技術が採用されています。
・タービン回転センサー付き小型ターボと水冷インタークーラーをバンクごとに1基装着したツインターボ
タービン回転を検出しながら電子制御ウェストゲートによって過給圧を高精度に制御
・吸気側に電動VTC(可変動弁機構)
吸気バルブの開閉タイミングを回転数・負荷に応じて連続的に変更して出力を向上、燃費・排ガスを低減
・直噴(筒内直接燃料噴射)
直接シリンダー内にガソリンを噴射することによって燃料の応答性を改善
・可変容量オイルポンプ
エンジン回転数に応じてオイル量を最適化して、オイルポンプの駆動損失を半減
・エキマニ一体シリンダーヘッド
排気経路が短くなるため、ターボの応答性が改善され、触媒の暖気も早まるため排ガスも低減
405ps/475Nmを発揮するVR30DDTTエンジン搭載のスカイライン400R
なかでも注目の技術は、ミラーボアコーティングと呼ばれる、鋳鉄製シリンダーの代わりに溶かした鉄をシリンダーボアに吹き付ける技術です。これにより、フリクションは実用域で30%程度低減され、出力と燃費が大きく改善されています。
ミラーボアコーティング技術は、非常に手間がかかる高度な技術であることから、これまではレーシングマシンなどの採用に限られていました。日産は、独自の表面処理技術に成功し、GT-R用エンジンから採用を始め、現在は他への展開も図っています。
GRスープラRZ、RC350、AMG SLC43 あたりがライバル
この新型Zのライバルとなる、2ドアのFRスポーツカーといえば、国産車の中では、
・トヨタGRスープラの3L直6ツインスクロールターボ(B58)
・トヨタGR86&スバルBRZの2.4 水平対向4気筒NA(FA24型)
・マツダロードスターの1.5L直4NA(SKYACTIV-G 1.5)
・レクサスRC350の3.0L V6(2GR-FKS)
・RC300hの2.5L直4ハイブリッド(2AR-FSE)
・RC300の2.0L直4ターボ(8AR-FTS)、RC Fの5L V8 NA(2UR-GSE)
といったところが挙げられます。輸入車でいうと、
・メルセデスC180クーペの2L直4 NA(M264)
・メルセデスAMG C63クーペの4L V8ツインターボ(M177)
・メルセデスSLC180の1.5L直4ターボ(274M16)
・メルセデスAMG SLC 43の3L V6ツインターボ(M276M30)※受注生産のみ
・BMW 220クーペ&420クーペの2L直4ターボ(B48)
・BMW 840iクーペの3L直6ターボ、Z4の2L直4ターボ(B48)
・BMW Z4 M40iの3L直6ターボ(B58)
このあたりでしょう(EクラスクーペやCLSクーペ、AMG GTクーペにも2ドア後輪駆動はありますが、車格が大きく異なるため今回は除外)。MR(エンジンミッドシップ+後輪駆動)ではありますが、ポルシェケイマンもZのライバルとされてきました。
2019年デビューした5代目スープラを翌年パワーアップして登場したGRスープラRZ
このなかで、新型Zのように、排気量3.0Lクラスかつ400ps級となると、
・GRスープラRZ/Z4 M40iのB58(最高出力387ps/最大トルク500Nm)
・レクサスRC350の2GR-FKS(318ps/380Nm)
・AMG SLC 43のM276M30(390ps/520Nm)
といったところになります。
シャープなレスポンスが可能なVR30DDTT
新型ZのVR30DDTTは、出力と燃費性能のバランスに優れた、ボア径とストローク長が同じスクエアエンジン。ツインターボによってレスポンスは良く、高速域でターボの効果を発揮する高速出力重視となっており、スポーツ走行向けのパンチの効いたエンジンです。
●VR30DDTTエンジン
・水冷インタークーラー付き3.0L V型6気筒ツインターボエンジン
・最高出力405ps/6400rpm、最大トルク475Nm/1600-5200rpm
・ボア/ストローク(mm):86 .0/86.0、直噴、圧縮比:10.3(ハイオク)、可変バルブ機構
新型Z搭載のVR30DDTTエンジン。V6エンジンにツインターボを採用してレスポンスと出力を向上
低中速域が力強いトルク重視のB58型エンジン
GRスープラの最上級グレード「RZ」に搭載のB58型は、BMW製のエンジンです。ボアに対してストロークが長いロングストロークのため、低中速域が力強いトルク重視のエンジンです。
VR30DDTTと類似の先進技術を採用していますが、可変動弁機構のバルブトロニックはBMW独自の技術です。日産のVTCがカムの位相をずらす制御に対して、バルブトロニックはバルブリフトの制御を行うので吸入空気量をより広範囲に精度良く制御することが可能。
B58型エンジンは、スープラの兄弟車Z4はもとより、M240iスポーツやM240iクーペなどにも搭載されています。スープラはBMWとの共同開発車であったため、直6エンジンを得意とするBMW製のB58エンジンを採用したという経緯もあります。
B58エンジンのBMW Z4 M40i
●B58型エンジン
・水冷インタークーラー付き3.0L 直列6気筒ツインスクロールターボエンジン
・最高出力387ps/5800rpm、最大トルク500Nm/1800-5000rpm
・ボア/ストローク(mm):82.0/94.6、直噴、圧縮比:11.0(ハイオク)、可変バルブ機構
GRスープラRZ搭載のB58エンジン。3.0L 直6 スクロールターボエンジンは、387ps/500Nmを発揮
リニアで素直な加速と燃費が魅力の2GR-FKS
レクサスRC350の2GR-FKSの排気量は3.5Lですが、NA(無過給)エンジンなのでVR30DDTTに比べると、最高出力が21%、最大トルクが20%ほど劣っています。NAで高回転域の出力をのばすために、ボアの大きいショートストロークを採用。吸排気バルブ径を拡大して、高速域の吸入空気量を増やすのが狙いです。
ターボ特有のシートに押し付けられるような強い加速感は得られませんが、大排気量エンジンのリニアで素直な加速が体感できます。また圧縮比が高く、吸排気両方に可変バルブ機構(デュアルVVT-i)を装備していることから、出力性能だけでなく、燃費性能にもこだわっているエンジンと言えます。
●2GR-FKSエンジン
・3.5L V型6気筒NA(無過給)エンジン
・最高出力318ps/6600rpm、最大トルク380Nm/4800rpm
・ボア/ストローク(mm):94.0/83.0、直噴+ポート噴射、圧縮比:11.8(ハイオク)、吸排気可変バルブ機構(デュアルVVT-i)
RC350は、ターボ特有の強い加速感は得られないが、大排気量エンジンのリニアで素直な加速が体感できる
レスポンス良く、高速でグングン伸びる276M30
メルセデスAMG SLC 43の3L V6ツインターボ276M30エンジンの基本仕様は、VR30DDTTとほぼ同じ。若干ショートストロークエンジンですが、詳細なスペックも類似しています。
出力性能は、VR30DDTTに比べると最高出力-15ps(-4%)、最大トルクで+45Nm(+9%)と、ややトルク重視に設定されています。VR30DDTTと同様に、ツインターボの威力でレスポンス良く、トルクも太いので高速でグングン伸びるエンジンです。
走りとは関係ありませんが、このエンジンの特徴としてリーンバーンを採用していることが挙げられます。高性能を誇るAMGでも、燃費のために最新技術を採用している、世の流れですね。
●M276M30エンジン
・水冷インタークーラー付き3.0L V型直列6気筒ツインターボエンジン
・最高出力390ps/6100rpm、最大トルク520Nm/2500-4500rpm
・ボア/ストローク(mm):88.0/82.1、直噴、圧縮比:10.5(ハイオク)、可変バルブ機構、リーンバーン採用
390ps/520Nmを誇るV6ツインターボエンジンを積むAMG SLC 43。既にファイナルエディションのみ発売となっており、ボディカラーはサンイエローのみとなる
レスポンスなら新型ZかSLC、直6を楽しむGRスープラ、落ち着いた余裕ある走りのRC350
伝統的にフェアレディZはV6エンジン、スープラは直6エンジンを搭載しています。V6エンジンの方がコンパクトなためパッケージングの自由度が高く、その分スポーツカーとして優れた前後重量バランスが取りやすいエンジンです。
一方で直6エンジンは、全長が長いためパッケージング面では不利ですが、回転がスムーズで低振動という特長があります。ただし最近では、衝突安全性の観点から、コンパクトなV6が主流となっています。
Zは伝統的にV6エンジンを採用してきた
また高出力化のために大型ターボを採用すると、どうしてもターボ特有の過給遅れが発生してしまいます。これを解決するために新型ZのVR30DDTT が採用しているのが、小型ターボを2基装着するツインターボです。一方、ツインターボ化によるコスト上昇を抑えるために開発されたのが、スープラが採用している可変ターボのツインスクロールターボです。
2つのバンクを持つV6エンジンは2基のターボが搭載しやすく、またツインターボは排気干渉を避けられるメリットがあります。ツインスクロールターボは、切替バルブなどの高度な制御が求められるため、ツインターボを搭載した新型Zの方がよりシャープなレスポンスが実現可能です。
ちなみに、VR30DDTTエンジン(インフィニティQ50、日本名スカイラインのエンジンとして)とB58型エンジン(BMW M240iのエンジンとして)は、ともに米自動車雑誌が選ぶ2017年「10ベストエンジン」に選ばれています。
レクサスRC350の2GR-FKSエンジンは、NAなのでターボエンジンに比べると出力性能では敵いませんが、アクセルワークに対する出力特性が素直なので、大排気量エンジン特有の扱いやすいスムーズな加速が実現されます。スポーツ走行ではなく、落ち着いた余裕のある走りに適した、まさに高級車レクサス向きのエンジンです。
メルセデスAMG SLC 43のM276M30エンジンは、ANGの中では比較的出力性能を抑えたエンジンです。基本スペックはVR30DDTTと類似しており、出力性能に大きな差はありません。したがって、VR30DDTTと同じようにツインターボの威力でレスポンス良く、また高速で伸びていくパンチの効いた走りが実現できるエンジンです。
新型ZのVR30DDTTエンジンは、現行のフェアレディZ(Z34)の大排気量NAエンジン(VQ37VHR)とスペックで比較すると、低速域のレスポンスでは多少劣るものの、一般的な加速や高速の伸びについては圧倒的に優れることが期待できます。
現行フェアレディZ搭載のVQ37VHRエンジン。3.7L V6 NAエンジンは、無過給ながら最高出力336psを発揮
なにを重要視するかで、どれがベストかは変わってきますが、ひとことでいうならば、新型Zは、シャープなレスポンスと、エンジンを高回転まで回すことが楽しめるスポーツカー、GRスープラRZは、最新の直6フィーリングを味わえるスポーツカー、RC350はナチュラルで落ち着いた余裕のある走りを味わうスポーツカー、SLCはレスポンスと高速の伸びが良いツーリングカー、といったところでしょう。
このあたりは、好みや使い方で、それぞれのユーザーにとって「ベスト」をチョイスしていただければと思います。
最後に忘れてはならないのは、車両価格の安さです。歴代Zは、北米では「3万ドルで手に入るスポーツカー」として有名。実際に、現行型のZ34は、北米では、最廉価グレードが約3万ドル(30,090ドル=日本円329万円)で販売されています(日本仕様のベースグレードは397万円~)。
V型6気筒エンジン搭載のスポーツカーが、3万ドル台で購入できるというのは、もはや奇跡です。今作の新型Zの価格はまだ未定ですが、おそらくそう遠くない価格で登場してくるはずです。ちなみに、GRスープラRZは731万円、レクサスRC350は658万円、メルセデスAMG SLC 43 1037万円。Zのコスパの良さがお分かりになるでしょう。
日本向けの「フェアレディZ」の発表は今冬とされています。何か新しい情報が出てくるのか、いまから楽しみです。
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日本のベースグレードの方が豪華仕様だとしても本末転倒。Zも日本では、若者ではなくおじさん(下手するとお◯いさん)の乗り物になってしまった。Zは「自分で運転する最後の車」になる人も多そうを