現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「電気航続距離200kmのPHEV」が新しい武器に?? トヨタ「BEV販売台数目標下方修正」の狙い

ここから本文です

「電気航続距離200kmのPHEV」が新しい武器に?? トヨタ「BEV販売台数目標下方修正」の狙い

掲載 70
「電気航続距離200kmのPHEV」が新しい武器に?? トヨタ「BEV販売台数目標下方修正」の狙い

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。第35回となる今回は、変貌するトヨタの販売戦略について。BEV販売台数目標の下方修正から、まだ見ぬ「シナリオ」を読み解く。

※本稿は2024年9月のものです
文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:トヨタ ほか
初出:『ベストカー』2024年10月26日号

「電気航続距離200kmのPHEV」が新しい武器に?? トヨタ「BEV販売台数目標下方修正」の狙い

【画像ギャラリー】ISの後継車!? レクサスLF-ZCとトヨタ戦略の変遷をギャラリーでチェック(23枚)

ベストカーチャンネル特別映像「【トヨタのEV戦争】中西孝樹の特別授業~誰と何のために戦っていくのか~」プレスブリーフィング独占公開!

■BEV販売台数の目標を下方修正したトヨタ

次世代BEV専用プラットフォーム1号車として登場するレクサスLF-ZC。ISの後継車的位置付けだ

 トヨタは、サプライヤーに向けた長期生産計画のなかで、2026年の目線であった電気自動車(BEV)の販売台数を150万台から100万台へ引き下げました。

 33%もの下方修正は、現在のBEV販売の世界的な不振を如実に示すニュースとして取り上げられたのですが、大切なポイントが抜け落ちていると感じます。

 筆者はプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は2026年頃に40万台レベルに拡大すると予想しています。これを合わせた電動車(BEV+PHEV)で見れば、販売目線の150万台から大きく変化しているわけではありません。

 要するに、変わったのはユーザーの求める電動車の特性であり、それに応えるトヨタの電動車プラットフォーム戦略なのです。

 BEVは確かに成長が減速しています。世界の自動車メーカーがこれまでの強気な投資計画を次々と下方修正してきました。新技術と新製品に飛びつく消費者の需要が一巡したことが失速の主因ですが、次に控える巨大な消費者層に響くBEVの価値はまだ充分に確立できていません。

 中国においても、新エネルギー車(BEV、PHEV、燃料電池車)の販売は非常に好調ですが、実際に伸長しているのは「電欠」不安を取り除いたPHEVなのです。

 このなかで欧米自動車メーカーの不振が際立っています。特に、BEV専用化の投資に大きく舵を切った独フォルクスワーゲン(VW)と米ゼネラルモーターズ(GM)の2社の苦戦が目立っています。

 この結果、VWは不文律であったドイツ国内工場の閉鎖に踏み込み、労働者との関係に波紋が広がっています。GMは韓国の現代自動車との電撃提携に打って出ました。

 一方、専用化の反対側にいるのがマルチパスウェイ(全方位)プラットフォームです。エンジン、ハイブリッド(HEV)、PHEV、BEVなどの複数のパワーユニットに対応するプラットフォームを指し、基本的に現在のガソリン車のプラットフォームを全方位に改良していく手法です。

 量がまとまらないのであれば、専用化は逆に効率とコストが悪化します。既存の部品や工場を活用しながら幅広いニーズに応えたほうが、結果として効率は上がるという考え方です。

 マルチパスウェイプラットフォームを強化する動きはトヨタだけのことではありません。独BMWはもともとマルチパスウェイです。

 独メルセデスベンツが「エレクトリックファースト」と銘打ったメルセデスモジュラーアーキテクチャ(MMA)はBEVとエンジンに対応するマルチパスウェイです。ステランティスの「EVネイティブプラットフォーム」はBEV、PHEV、ICEすべてのパワーユニットに対応します。

【画像ギャラリー】ISの後継車!? レクサスLF-ZCとトヨタ戦略の変遷をギャラリーでチェック(23枚)

■2024年に変わったトヨタの電動化戦略

 2023年のトヨタの「テクニカルワークショップ」では、2026年のBEV販売台数150万台の目線が示されました。豊田章男社長(当時)が2021年末に掲げた2030年350万台の実現に向けた戦略です。

 2026年まではbZ4Xをベースに置くBEV専用プラットフォーム「e-TNGA」と、クラウンをベースに置く「GA-K」プラットフォームを改良したマルチパスウェイプラットフォームを中心に進められます。

 2026年からは新設したBEVファクトリーが開発する次世代のBEV専用プラットフォームを導入し、レクサスLF-ZCを皮切りに多数のBEVを展開して、2030年350万台の実現に向かうという図式です。

2023年のテクニカルワークショップでのトヨタのプラットフォーム別BEV販売計画(出所:筆者予想)

 この基本的なフレームワークが変わったわけではありません。変化点は2つあり、BEV専用プラットフォームよりもマルチパスウェイプラットフォームをより活用し、BEVだけではなくPHEVも増やすということです。これは需要の多様化に応えるためです。

 ここで思い出してほしいことが、佐藤恒治社長が2023年4月の方針発表で示した200kmの電気航続距離を有するPHEV(トヨタは「プラクティカルなBEV」と呼ぶ)と、今年5月の「マルチパスウェイワークショップ」で発表された小型高効率エンジンです。

 新エンジンは電動車と組み合わせる電気リッチ化を前提に開発した次世代のトヨタの内燃機関で、2027年頃からの欧米の次期排ガス規制に準拠します。

 筆者は次世代のカローラクラスのGA-Cプラットフォームもマルチパスウェイ化され、小型高効率エンジンを搭載してPHEVの主力に育てるシナリオが濃厚だと考えています。

 2030年頃には200kmの電気走行ができるPHEVが100万台規模に拡大し、トヨタの新しい武器へと成長するであろうと考えます。

 BEVファクトリーはレクサスブランドを中心にBEVをけん引していきます。トヨタブランドはマルチパスウェイプラットフォームを中心にBEV、PHEVを推進するでしょう。

 その結果、2030年には170万台のBEVファクトリーの専用プラットフォームが土台にあり、残る180万台はマルチパスウェイのBEV、そして100万台規模のPHEVが存在する未来図が見え始めているのです。

 2026年のBEV目線引き下げは、PHEVの引き上げと同義に近く、この未来図に向けたファーストステップと考えます。

現在のトヨタのプラットフォーム別BEV/PHEV販売台数予測(出所:筆者予想)

 2024年5月の決算説明会において、佐藤社長はBEV販売目線には「PHEVを含めて検討を進める」との新見解を示しています。

 BEV専用プラットフォームからマルチパスウェイプラットフォームを一段と重視する方向修正へのシグナルだと筆者は受け止めています。

トヨタのEV戦争中西孝樹1,870円(10/12 05:03時点)発売日: 2023/07/27Amazon楽天市場YahooAmazonの情報を掲載しています

●これまでの連載はこちらから!

【画像ギャラリー】ISの後継車!? レクサスLF-ZCとトヨタ戦略の変遷をギャラリーでチェック(23枚)

投稿 「電気航続距離200kmのPHEV」が新しい武器に?? トヨタ「BEV販売台数目標下方修正」の狙い は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

[冷たすぎ]ても[熱すぎ]ても[ダメ]!? クルマの冷却系の隠された技術
[冷たすぎ]ても[熱すぎ]ても[ダメ]!? クルマの冷却系の隠された技術
ベストカーWeb
日産がんばれ!「北米市場で大苦戦」「売れる新車がない」…大変な逆風でできることとやるべきこと
日産がんばれ!「北米市場で大苦戦」「売れる新車がない」…大変な逆風でできることとやるべきこと
ベストカーWeb
えぇぇぇ中古で[1000万円]て……日産[GT-R NISMO]買うなら覚悟が必要
えぇぇぇ中古で[1000万円]て……日産[GT-R NISMO]買うなら覚悟が必要
ベストカーWeb
メルセデスAMGがGT3界で存在感急拡大。WECに加えELMSにもアイアン・リンクスと組んで参戦へ
メルセデスAMGがGT3界で存在感急拡大。WECに加えELMSにもアイアン・リンクスと組んで参戦へ
AUTOSPORT web
V8ツインターボ搭載!? レクサス[LFA]はGRブランドで登場か!!
V8ツインターボ搭載!? レクサス[LFA]はGRブランドで登場か!!
ベストカーWeb
80歳フェラーリ「328GTS」オーナーの誕生日は3月28日! 憧れの跳ね馬オーナーになって14年「フェラーリは私のすべてです」
80歳フェラーリ「328GTS」オーナーの誕生日は3月28日! 憧れの跳ね馬オーナーになって14年「フェラーリは私のすべてです」
Auto Messe Web
シルバー昇格という挑戦に前向きなふたりの強力ブロンズ「抗議など一切していない」「今年は進歩した」
シルバー昇格という挑戦に前向きなふたりの強力ブロンズ「抗議など一切していない」「今年は進歩した」
AUTOSPORT web
ACコブラ Mk2 347シリーズへ試乗 60年前とほぼ同じ! 「要求の高さ」がむしろ楽しい
ACコブラ Mk2 347シリーズへ試乗 60年前とほぼ同じ! 「要求の高さ」がむしろ楽しい
AUTOCAR JAPAN
ジャック・ドゥーハン、アルピーヌから最終戦アブダビGPに出場へ。オコンはハースからテスト参加が可能に
ジャック・ドゥーハン、アルピーヌから最終戦アブダビGPに出場へ。オコンはハースからテスト参加が可能に
AUTOSPORT web
ルクレールの“少しラッキーな”2位で、フェラーリがタイトルの望みをつなぐ。サインツは不運なパンクで後退/F1第23戦
ルクレールの“少しラッキーな”2位で、フェラーリがタイトルの望みをつなぐ。サインツは不運なパンクで後退/F1第23戦
AUTOSPORT web
阪神高速湾岸線の延伸部「車線数減らすかも…!?」 事業費“めちゃ高くなっちゃった!”コスト縮減が課題に
阪神高速湾岸線の延伸部「車線数減らすかも…!?」 事業費“めちゃ高くなっちゃった!”コスト縮減が課題に
乗りものニュース
【イタリア】「斬新ドア」採用の高級「2ドアセダン」実車展示! RR駆動に「水平対向エンジン」×パカッと開くガルウィングが凄い! 4人乗れる「前衛的モデル」 ポルシェ試作車が登場
【イタリア】「斬新ドア」採用の高級「2ドアセダン」実車展示! RR駆動に「水平対向エンジン」×パカッと開くガルウィングが凄い! 4人乗れる「前衛的モデル」 ポルシェ試作車が登場
くるまのニュース
デザインの良し悪しって誰が決めるの? 客観的に判断できるか 英国記者の視点
デザインの良し悪しって誰が決めるの? 客観的に判断できるか 英国記者の視点
AUTOCAR JAPAN
BMW、主力SAVの第4世代『X3』を導入。新基軸の“斜めキドニー”や48Vマイルドハイブリッドを採用
BMW、主力SAVの第4世代『X3』を導入。新基軸の“斜めキドニー”や48Vマイルドハイブリッドを採用
AUTOSPORT web
ヒュンダイ「エクセル」が日本で150台だけ正規販売されていた! ジウジアーロデザインで中身は三菱「ミラージュ」というクルマとは【珍車百景】
ヒュンダイ「エクセル」が日本で150台だけ正規販売されていた! ジウジアーロデザインで中身は三菱「ミラージュ」というクルマとは【珍車百景】
Auto Messe Web
ステランティスCEOのカルロス・タバレス氏が即時退任 予定前倒し、不振の影響か
ステランティスCEOのカルロス・タバレス氏が即時退任 予定前倒し、不振の影響か
AUTOCAR JAPAN
【意外に知らない日本メーカーの動き】広州モーターショーで登場した注目車種は? 日本勢も日産N7はじめ新型車を続々公開
【意外に知らない日本メーカーの動き】広州モーターショーで登場した注目車種は? 日本勢も日産N7はじめ新型車を続々公開
AUTOCAR JAPAN
“軽さ”こそ正義!二人三脚で旅に出よう オフロード指向の「250ccアドベンチャー」バイク3選
“軽さ”こそ正義!二人三脚で旅に出よう オフロード指向の「250ccアドベンチャー」バイク3選
VAGUE

みんなのコメント

70件
  • MYFX
    EVの一番の欠点は無くても困らない!
  • dai********
    ■アメリカも中国EVに1000%の関税、ヨーロッパも50%の関税など、中国商品を締め出すのが最も温暖化対策である。
    ■そもそも中国が世界の40%近いCO2を出すのが温暖化の原因で、世界的に中国商品締め出しだけが、唯一優先する温暖化対策なのである。これを優先して行うように世界で協調しないと、温暖化は止まることはない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

481.0900.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

29.81110.0万円

中古車を検索
ISの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

481.0900.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

29.81110.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村