世界に1台だけのクルマ
クルマが登場してから間もない頃、ボディとフレームが別々の構造で、すべて手作業で組み立てていたような時代には、ワンオフ車の製作は容易だった。
【画像】エンジンを2基積んだモンスターラリーカー【フォルクスワーゲン・シロッコ・ツインエンジンを詳しく見る】 全17枚
しかし、モノコック構造の普及により、世界に1台だけのクルマを製作することはかえって困難になった。とはいえ、自動車メーカーは時折、顧客からの依頼やマーケティング活動の一環として、公道走行可能なワンオフ車を発表することがある。あるいは、量産モデルのプロトタイプとして公開したものの、日の目を見ることはなかったというケースもある。
たった1台しか作られず、公の場に姿を現す機会がないのは残念だ。せめて写真だけでも楽しみたい。今回は興味深いワンオフ車を33台紹介する。
プジョー404(1966年)
プジョーは404カブリオレをベースに、固定式のルーフを備え、最高出力70psのディーゼルエンジンを搭載したマシンを生み出した。フランスのモンレリー・サーキットで72時間にわたり走行し、その過程で22の速度記録を更新、そのうち3つは完全な新記録だった。
フォード・スーパーバン1(1971年)
1971年4月、英国のスラクストン・サーキットで開催されたイースター・レース・ミーティングでトランジット・スーパーバンが初公開された。フォード自身も、まさかこのマシンがこれほどまでに伝説的な存在になるとは予想だにしなかっただろう。ボディシェルは配送用バンとして親しまれる標準的な初代トランジットだが、そこには驚くべき秘密が隠されている。フォードGT40のシャシーをベースにしており、ミドシップに5.0L V8エンジンを搭載しているのだ。
最高出力435psと、スーパーバンのパフォーマンスは圧倒的だった。AUTOCAR UK編集部がフォード・モータースポーツのボアハム飛行場で試乗した際、0-160km/h加速わずか21.6秒を記録した。さらに、2速ギアで164km/hに到達! 最高速度は270km/hと推定されていたが、空力性能は劣悪だったため、そのようなスピードを体験するのは恐ろしいものだっただろう。残念ながら、スーパーバン1号車は1970年代に廃棄されてしまった。
フィアット130ファミリアーレ(1971年)
実業家のジャンニ・アニェッリ氏(1921~2003年)がフィアットを所有していた頃、彼のために数多くのワンオフ車が製作された。その中には、最高級セダンであるフィアット130をベースにした5ドア・ステーションワゴンもあり、3.2L直列6気筒エンジンを搭載し、最高出力は165psだった。
アニェッリ家は、この極めて実用的なステーションワゴンを4台製作させたが、それぞれ細部が異なっていた。当主が所有したのは、ルーフラックと側面に籐細工が施された1台で、こちらは「ヴィラ・デステ」と呼ばれ、現在は個人所有となっている。ここに掲載されている1台は、もともとウンベルト・アニェッリ氏(ジャンニの弟)が所有していたもので、現在はステランティス(旧FCA)が所有しており、イタリアにある同社のコレクション『ヘリテージ・ハブ』に収められている。
アストン マーティン・ブルドッグ(1980年)
アストン マーティンが、ウィリアムズ・タウンズ氏が設計した未来的なミドシップレイアウトのブルドッグを開発した際、最大25台生産するという話があった。電動ガルウィングドア、700psを叩き出すツインターボV8エンジン、そして想像しうる限り最もドラマチックなプロポーションを備えていたため、買い手はすぐに見つかったはずだ。
実測で320km/h近い最高速度を誇るブルドッグは、間違いなく世界最速の量産ロードカーとなっていたはずだ。しかし、開発作業がすべて完了した頃にアストン マーティンの経営権が移り、新オーナーは「典型的な英国の自動車メーカー」として進むべき道ではないと判断した。そのため、唯一製作された1台は売却されることになった。
その車両は現在も現存しており、最近、徹底的なレストアが行われた。そして、2023年6月、スコットランドの旧空軍基地でついに320km/hの壁を突破した。
フォルクスワーゲン・シロッコ・ツインエンジン(1983年)
アウディ・クワトロが驚異的な走破性能で世界中のラリーステージを席巻する中、フォルクスワーゲンも四輪駆動に興味を抱き、このモデルを考案した。フロントとリアに1791ccの4気筒エンジンを1基ずつ搭載したシロッコだ。この仕様により、最高出力360psを発生し、最高速度は290km/h、0-100km/h加速はわずか4.5秒を記録した。
このシロッコを2台製作されたた。1台はテスト用、もう1台は展示用だ。
1983年後半には、角ばったホイールアーチと異なるメカニカルスペックを備えた後継モデルが登場した。今回は各エンジンの排気量が1781ccとなり、141psを発生。共通のリンケージを持つ2基のマニュアル・トランスミッションに代わって、3速オートマティック・トランスミッションが2基搭載された。
フォルクスワーゲンは、量産化が可能となるレベルまでこのシロッコ・ツインエンジンの開発を進めたが、実際に製作されたのは1台のみだった。
フォード・スーパーバン2(1984年)
初代スーパーバンが、従来のトランジットのスチール製ボディを使用していたのに対し、2代目モデルには量産車の7割のサイズのグラスファイバー製ボディが採用された。駆動系は、未導入に終わった耐久レース用マシン『C100』のものを流用し、590psの3.9LコスワースDFL V8エンジンを搭載した。これにより、英国のシルバーストーン・サーキットで行われた計測の結果、スーパーバン2の最高速度は283km/hに達した。
ランチア・トレヴィ・ビモトーレ(1984年)
1984年、ランチアはラリーで勝利を収めた037の後継車を開発する際、競争力を維持するためには四輪駆動を採用せざるを得なかった。当初の(かなり奇抜な)解決策として登場したのがトレヴィ・ビモトーレで、ターボチャージャー付き2.0L直列4気筒ツインカムエンジンを2基搭載している。非常に速く、高性能だったが、機械部品が2倍あるため重量が重くなりすぎ、さらに後部エンジンは過熱しやすい傾向があった。
2基のエンジンは機械的に連結されておらず、2基のトランスミッションだけが接続されている。1本のシフトレバーで操作でき、1つのペダルで2つのクラッチを作動させることができる。ダッシュボードには2つのタコメーターがあり、2つ目はスピードメーターの代わりとなる。また、中央にある2つの計器は、各エンジンの水温と油圧を表示する。
ポルシェ928-4(1984年)
ポルシェ・パナメーラ・スポーツツーリスモの直接の先祖にあたる928-4。Bピラーより前部は通常のポルシェ928 Sと同じだ。しかし、車体後部はハッチバックに完全に置き換えられ、2列目乗員の足元スペースを確保するため、ホイールベースも250mm延長されている。
1984年9月、フェリー・ポルシェ氏の誕生日を記念して贈呈された928-4は、通常のリトラクタブルヘッドライトの代わりにプロジェクターヘッドライトを採用しているほか、緑色に着色されたガラスや、緑色で仕上げられた独自のレザー内装も備えている。この車両は現在、シュトゥットガルトにあるポルシェ博物館に展示されている。
ポルシェ928 H50(1987年)
ポルシェがシューティングブレイクの928を開発してから3年後、この5ドア・ステーションワゴンが完成した。ただし、リアドアは極めて小さかったため、「ハーフドア」と分類された。そのため、おそらく4ドア・ステーションワゴンと言えるだろう。1987年に完成したものの、初めて公開されたのは2012年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスだった。ポルシェはボディ剛性を十分に確保できなかったため、量産化を中止したのだ。
シューティングブレイクが928 Sをベースにしていたのに対し、H50は928 S4をベースとした。つまり、パワートレインは以前の4.7Lエンジンではなく、5.0L V8エンジンだ。330psにチューニングされたH50は速かっただろうが、剛性の低さゆえにハンドリングは悪かったと思われる。
ローテックC1000(1991年)
1990年代初頭、数多くのスーパーカーが市場に投入される中、ある石油王は「他人が決して手に入れられないものを所有したい」と考え、メルセデス・ベンツにワンオフのハイパーカーの製作を依頼した。これに応え、メルセデス・ベンツはスーパーカー専門メーカーのローテック(Lotec)に高性能のマシンを考案するよう依頼し、その結果としてC1000が誕生した。
車体中央には、公称1000psを発生するメルセデス製5.6L V8ツインターボエンジンが搭載されている。この出力数値が車名の由来だ。最高速度は431km/hとされていたが、信頼できる検証を受けたことはない。しかし、レース仕様のシャシーとカーボンファイバー製のボディシェルを備えており、その名称が示唆する以上に “ハイテク” な1台だった。
フォード・スーパーバン3(1995年)
フォードはスーパーバンの3代目モデルを製作するにあたって、スーパーバン2をベースに、トランジットの最新エクステリアデザインへと改造した。これにより、フロント部分、ドア、そしてカラーリングがまったく新しいものとなった。しかし、エンジンは従来のものを、650psのコスワースHB F1 V8エンジンに換装し、最高速度を320km/h近くまで引き上げた。
スーパーバンは3世代にわたって製作されたが、そのうち現存しているのはこの3代目だけだ。F1用V8エンジンは高価で、メンテナンスも困難なため、1990年代に撤去されている。この車両は長年にわたり倉庫で放置されていたが、2004年にフォードのプロモーション活動のために引き出された。数年前に搭載されていたコスワースチューンの24バルブV6エンジンには、さらなるパワーを引き出すためにスーパーチャージャーが装着され、英国各地のイベントで定期的に披露されている。
(翻訳者注釈:この記事は「中編」へ続きます。)
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