自転車青切符導入と企業の管理責任
2026年4月1日、改正道路交通法が施行され、16歳以上の自転車利用者を対象とした交通反則通告制度(青切符)の適用が始まった。信号無視や一時不停止といった比較的軽微な違反にも反則金の支払いが求められるようになり、警察の取り締まりは厳格化している。
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警察庁のまとめでは、制度導入から1か月間の青切符告知件数は全国で2147件(暫定値)に達し、指導警告票の交付も13万5855件にのぼった。個人の移動手段として定着している自転車だが、法改正による取り締まりの強化を受け、企業の通勤管理や安全配慮のあり方が改めて問われている。
顕在化する事故リスクと隠れた違反
KiteRa(東京都港区)が2026年7月に実施した調査(自転車などを通勤に利用するビジネスパーソン962人、2026年8月5日発表)では、現場の課題が明らかになっている。
回答者の約2割(19.6%)が、通勤中に実際に事故やトラブルなど、困った状況に遭遇したことがあると回答した。また、青切符制度の開始からわずか3か月半の時点で、12.9%がすでに青切符の交付や指導警告を受けた経験を持っていた。
事態をさらに複雑にしているのは、こうした違反の事実が企業側に伝わらない点である。青切符や指導警告を受けた人のうち、
「27.7%」
がその事実を会社に報告していないと答えた。
内訳を詳しく見ると、青切符を交付された人の未報告割合は11.3%にとどまるが、指導警告を受けたケースに限れば66.7%(3分の2)が報告を行っていない。現場で起きている危険行為の兆候を企業が把握できず、隠れた違反として放置される状態となっているのだ。
安全配慮義務と社内ルールの不全
そもそも従業員の通勤に対し、企業はどこまで責任を負うべきなのか。労働契約法第5条や過去の最高裁判例(1975年の陸上自衛隊事件など)で確立された安全配慮義務の原則に照らせば、事業主には労働者が安全に働ける環境を整える責任がある。
仮に会社が自転車通勤を容認、あるいは黙認しており、その従業員が重大な交通事故を起こした場合、適切なルール作りや指導を怠っていれば安全配慮義務違反に問われる余地が生じる。労働安全衛生の視点からも、従業員を取り巻く身体的リスクの予知と管理は、企業経営における重要な要素である。
それにもかかわらず、企業側の対応は遅れている。同調査において、青切符制度の導入後に勤務先から注意喚起やルールの見直しが特に何もなかったとの回答は54.2%を占めた。自社の自転車通勤ルールを理解していない人は6割近く(57.8%)に達する。
さらには自転車通勤規程がない、あるいは分からないとした回答も75.6%にのぼり、従業員1001人以上の大企業ですら
「64.3%」
が規程の存在を認知していなかった。通勤手段の選択を個人の裁量に任せきりにしてきたこれまでの企業姿勢が、コーポレートガバナンス上の課題となっている。
従業員の意識と問われる規程再構築
企業の対応が遅れる半面、当の従業員たちは明確なルールによる安全確保を求めている。調査によれば、通勤に関するルールが整備され、いつでも確認できる状態であれば安心して通勤できると答えた人が64.3%に達した。
就業規則などに盛り込んでほしい項目としては、自転車損害賠償責任保険への加入義務(22.7%)を筆頭に、通勤距離の上限といった許可基準(20.7%)や事前許可制(18.4%)が続く。従業員自身が個人の賠償リスクに備える制度や、無秩序な自転車利用を防ぐ基準を会社側に期待している現実は、今後の制度設計の参考となる。
青切符制度の適用開始を受け、企業には自転車通勤を取り巻く管理体制の見直しが求められる。労働契約法の周知・合理性の原則に則り、法的に有効な自転車通勤規程を就業規則の一部として整備し、社内に周知徹底させることが対策の一歩となる。これにより、個別の同意を取り付けることなく全社的な法的拘束力を持たせることが可能だ。
新設する規程の要件として、いくつか不可欠な要素が挙げられる。基本となるのは事前許可制の導入である。会社が把握しきれない無許可での利用に対しては、就業規則の懲戒規定と連動させる仕組みが求められる。
あわせて、通勤距離の上限や利用可能な車両の安全基準を客観的に定めておくことも必要となる。原付に分類されるモペットなどを自転車扱いから除外するような、明確な基準を用意しておく。
さらに、万が一の事態への備えとして、損害賠償責任保険への加入を許可の条件とするほか、ヘルメットの着用や日常的な自主点検もルール化していく。事故を起こした時だけでなく、青切符の交付や指導警告を受けた際にも会社への報告を義務づける運用フローを組み込めば、現場での違反隠しを防ぐ体制につながるのだ。
もちろん、こうした規程を厳格に運用するには、
・事前の周知徹底
・日々の利用状況の確認
まで、一定の事務コストや労力が発生する。しかし、個人の利便性に依存してきた通勤手段に対して適切な管理体制を構築することは、単なるコスト増ではなく、従業員の安全を守るための安全配慮義務の履行として重要となる。どこまでの管理体制を築くのか、実態に即したルールの再構築と経営陣の迅速な判断が求められているだろう。(石坪マナミ(自転車ライター))
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みんなのコメント
会社に報告されるのが怖い?舐めてるのか。
企業としては通勤途中の事故で賠償金が会社に請求されなければそれでいいんですよ