中古車市場には、驚くべきヒストリーが隠されたクルマが流通することがある。長年大切にされてきたクルマだけが放つ、オーセンティックな魅力とは?
ワンオーナーのメルセデス・ベンツ190E 2.6
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1.通好みのグレード2.「最善か無か」3.ベストコンディション1.通好みのグレード
日本がバブル経済の絶頂を迎えようとしていた1989年、国内の自動車業界もまた“狂騒”の渦中にあった。しかしドイツで生み出された1台のコンパクトセダンは、時代の熱狂とは無縁に、ただ実直に「最善」だけを追い求めていた。
連載第5回でピックアップするのは、メルセデス・ベンツ190E 2.6(1989年式)。ボンネットの下に2.6リッター直列6気筒エンジンを収めた、通好みのグレードだ。
「小ベンツ」と親しまれ、日本の風景にも溶け込んだW201型。だが本個体は、ただのノスタルジーでは終わらない。
生産から約36年を経た今なお、当時のショールームからそのまま現れたかのようなコンディションを保つ。コストダウンとは無縁だった「最善か無か」時代のクオリティに迫る。
2.「最善か無か」
メルセデス・ベンツの歴史において、W201型こと「190クラス」が果たした役割は大きい。
1982年に登場した190Eは、当時のメルセデスにとって未知の領域だったコンパクトセダン市場への挑戦だった。「最善か無か」という妥協なき理念を小さなボディに凝縮すべく、開発には膨大な時間と予算が投じられた。
こうして生まれたのは、「Sクラス」と同等の安全性と快適性を備えた、オーバークオリティと呼ぶにふさわしい1台だった。
ラインナップ最上級が「190E 2.6」。当初は4気筒を前提にコンパクト設計されたエンジンルームに、Sクラスやミディアムクラスに積まれていたM103型2.6リッター直列6気筒を押し込んだ。直6を収めるためだけに、フロントのラジエターサポート周辺を専用設計とする手間までかけている。
アクセルを踏み込めば、滑らかな回転フィーリングとともに豊かなトルクが静かに湧き上がる。4気筒モデルの軽快でスポーティな吹け上がりとは異なる、グランドツーリングカーとしての性格が与えられているのだ。コンパクトな車体に上質な多気筒エンジンを組み合わせる手法は、まさに「小さな高級車」である。
車体を支えるシャシーの完成度も高い。W201型で初めて実用化されたマルチリンク式リアサスペンションは、その後の各メーカーの足回り設計の指標となった。これにより高速域でも安定して直進し、さまざまな路面でタイヤがしっかりと接地し続ける。チーフデザイナー、ブルーノ・サッコによる無駄のないデザインも相まって、空気抵抗の低さと高速安定性は同時代の量産車を上回っていた。
3.ベストコンディション
販売車両は1988年半ばに発注され、1989年1月に登録・納車。前オーナーのもとで36年もの長きにわたり愛されてきた、正真正銘のワンオーナー車である。
左ハンドル仕様、エクステリアはアストラルシルバー、インテリアはサンルーフなしのブルークロスだ。
途中、10年ほど車検を切らして動かさない時期もあったが、しっかりしたガレージ内で保管されていたという。
約10年前、再び走らせることを決めた前オーナーは、そこから約5年をかけて復活整備を進めた。自宅には和室ひと部屋分にもなるスペアパーツがストックされていたそうだ。
昨年10月に販売店へ渡ってからは、ごく軽い洗車のみで、内外装も機関系も一切手を入れずにベストコンディションを保っている。
販売店への入庫経緯にも、クルマへの愛情がにじむ。昨年9月、前オーナーは引っ越しに伴う駐車場事情から手放すことを決意。この190Eが今後も大切に乗り継がれるよう、信頼できる売り先を吟味し、SNSや動画で知った現在の販売店へ買い取りを相談したという。メール画像からでも伝わる状態の良さに惹かれた担当者は、すぐさま新幹線で現地へ。実車を前に、これ以上の190E 2.6はそう出てこないと確信し、翌週には積載車で引き取った。
プロの目から見た最大のセールスポイントは、本個体が「原型」を保っている点にある。サッコプレートなしの初期デザインでありながら2.6リッターを搭載する個体は、いまの日本では希少だ。欧州の旧車で鬼門とされるルーフライニング(天井裏の生地)の垂れや剥がれも見られない。ピンと張られた明るいグレーの天井材にはシミも汚れもなく、車内を清潔な印象に保つ。サンルーフなしの仕様はルーフ構造がシンプルなぶん、経年劣化のリスクを抑える一因にもなっているのだろう。
ボディのクリア塗装には経年による細かなひび割れが見られるものの、過去に板金修理を受けた履歴がないため、あえて手を加えずオリジナルの状態を尊重している。重厚な音を立てて閉まるドアの裏には、シートと同じブルークロスのドアトリム。プラスチック部品の白化や割れ、ファブリックの浮きもなく、状態はきわめて良好だ。無骨なドアハンドルや収納力のある大型マップポケットなど、実用を重んじるドイツ車らしい質実剛健な造りだ。
オーディオは、新車当時のままの「Technics」製純正カセットデッキが残る。「社外部品のためにダッシュボードを分解されたくない」という東北地方在住だった前オーナーのこだわりから、現代では必須とされるETC車載器すらあえて装着していない。ダイヤルやスイッチ類の印字に擦れはなく、各操作系の節度あるクリック感も当時のまま。本個体のオリジナル度を物語っている。
【SHOP INFO】メルセデス・ベンツ浦安 ALL TIME STARS住所:千葉県市川市塩浜3-10-25
営業時間:09:30~18:00
定休日:水曜日・年末年始
TEL:047-356-2400
URL:https://stern-s.co.jp/urayasu/ucar/alltimestars/
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