夜行便のドライバーは眩しさに強い?
編集部:今回は高速道路を走行中に逆光で前方が見えづらくなるというケースでした。西に向かって走っているような場合、トンネルなどを出た瞬間に西日が目に入って視界が利かなくなることはありますね。
夜間のカーブミラーで、ハットヒヤリ?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第33回
長山先生:そうですね。そもそも冬期は太陽が低いので、日差しが目に入りやすくなります。トンネル内ではサングラスは使いづらいですが、トンネルを出る前にサンバイザーを下げておくなど、対策をしておくことが大切ですね。
編集部:神奈川県にある首都高速湾岸線の下りには、西日で有名な所があります。海底トンネルの出口なのですが、南西方向に向いていて、しかも上り坂なので、季節や時間帯によって出口で強烈な西日が目に入ってきます。眩しくて減速してしまう車も多いのか、トンネルの出口には「西日に注意」という電光掲示板があるほどです。
長山先生:それは危険ですね。「明順応」といって暗い所から急に明るい所に出た場合、目が明るさに順応して十分見えるまでに少し時間がかかります。トンネルが長かったり、トンネル内と外の明るさに差があったりすると、視機能が回復するまでに時間がかかるので注意が必要です。ちなみに、太陽の直射日光が直接目に当たって視界内の対象把握が不可能となることを「不能グレア(Blinding glare)」と呼びます。今回の場面が不能グレアに該当するかどうかは不明ですが、少なくとも視界内の対象が見えにくい「減能グレア(Disability glare)」が生じていると考えることができるでしょう。
編集部:Blindingは「目を眩ます、目が眩むような」で、glareは「眩しい光、ギラギラする光」という意味なので、直訳すると「目を眩ますような眩しい光」という意味になりそうですが、「不能グレア」になるのですか?
長山先生:Blindingには「目が眩んで見えなくなる」という意味もあるからです。不能グレアは、夜間自動車のヘッドライトが直接目に当たった場合にも、瞬間的に生じます。特に目が暗順応している場合にはヘッドライトの光の影響は強く、周囲の対象が見えなくなってしまいます。対向車のヘッドライトが上向き(ハイビーム)になっている場合には、その可能性が高くなります。
編集部:わかります。たまにハイビームになっていることに気づかないのか、ロービームの光軸がずれているのか、ライトがやたら眩しい車がいますけど、直視すると周囲がまったく見えなくなりますね。それで事故を起こす危険性もあるので、本当に迷惑です。
長山先生:そうですね。ただし、そのような状況でも視力がすぐに回復することが求められる人もいます。昭和37年頃のことですが、ある運送会社で運転手の運転適性検査の研究をしていた時代がありました。長距離運送会社の運転手は夜間運転が主体になることが多く、ヘッドライトの照射を受けて見えなくなっても、すぐに視力が回復する能力、耐眩惑性能を持っている必要があり、夜間視力とともにその検査を行っていました。
編集部:そんな能力が求められるのですか!? でも、どんな方法で計測するのですか?
長山先生:検査は暗室で行い、二輪車のヘッドライトを光源として使用し、光源を数秒直視し、それを消して薄暗い視力計のブルドン指標を見せて、正しく見えるまでの回復時間をストップウォッチで測定するのです。
編集部:バイクのヘッドライトを直視するなんて、目が悪くなりそうな過酷なテスト方法ですね。
長山先生:たしかにそうですが、人によって非常に差があり、視力回復にかなり時間がかかる人があるものだと驚いたものでした。耐眩惑性能の低い人は夜間運転での適性が低いとされ、昼間の運転に回されたと記憶しています。現在でも、バス、トラック、タクシーなどの運転手の適性診断を実施している、独立行政法人の自動車事故対策機構では、近代的な夜間視力計を導入して夜間の明順応後の回復時間測定なども診断に採用しているようです。
編集部:テスト方法は違っても、同じようなテストは行っているのですね。人の命を預かる職業ドライバーには必要なことかと思いますが、たいへんですね。でも、眩惑されやすいかどうかより、暗い所でも人や自転車をしっかり確認できたほうがいいような気がします。鳥目(夜盲症)のほうが危険だと思いますから。
二輪車の常時点灯は、米国がお手本?
長山先生:もちろん、夜間視力計でそのあたりの視機能もちゃんと計測しています。職業ドライバーは照明がなかったり、照明が少なかったりする暗い道も走りますから、いわゆる「夜目(よめ)がきく」ことが大事です。
編集部:速度が出るバイクはとくに危険ですね。今でこそバイクは常時点灯になり、昼間からライトが点いていますが、以前はバイクに乗る人が暗くなったら自主的に点けていたので、点けるタイミングが遅かったり、点け忘れたりすることも少なくなかったかと。そんなバイクはドライバーにとって見落としやすい要注意対象でしたね。
長山先生:そのとおりです。最近の二輪車はすべて昼間でもヘッドライトを点けて走っています。これは、平成10年4月1日以降製造の二輪車は、エンジンがかかっているときは強制的に前照灯が点灯する構造になっていて、そのぶん目立ちますが、それまでは見落とされやすい対象でした。
編集部:20年以上も前でしたか? 私はずっとバイクに乗っていて、仕事柄バイクが見落とされやすく、右直事故などの被害者になりやすいことも知っていたので、バイクの常時点灯化には大賛成でしたが、人によっては、昼間でもライトが点いていることに抵抗がある人もいましたね。わざわざライトが切れるようにスイッチを付けたり、当時まだ常時点灯でなかった輸入車を羨ましがる人もいました。
長山先生:そうでしたか。たしかに昼間点灯については、いろいろな意見があったと思います。平成10年の常時点灯化のかなり前、昭和54年(1979年)に昼間点灯による事故防止効果が九州で検討されました。熊本県警が秋の全国交通安全運動で二輪車の昼間点灯のキャンペーンを行ったのです。同じ年に宮崎県延岡市でも昼間点灯運動が実施されるなど、九州全県をはじめとして、全国の一部の府県で実施され始めました。実は、そのきっかけを作ったのは私だったのです。
編集部:長山先生が、ですか? どんな経緯だったのですか?
長山先生:それに先立つ1年前、昭和53年(1978年)8月号の『人と車』(全日本交通安全協会発行の月刊誌)に「二輪車前照燈の効果」という原稿を書いたことによります。米国のいくつかの州ではすでに1960年代に「二輪車前照灯昼間点灯法」という法律が制定されていて、それが実際に効果を上げているかどうかについての論文を読んで日本に紹介したものです。二輪車事故原因の一つとして二輪車の存在自体が見落とされやすいことが証明されていますが、そうだとすれば二輪車をいかに目立ちやすくするか、誘目性(noticeability)を高くすることができるかが重要な問題です。
編集部:目立ちやすさのことを誘目性と言うのですね。米国では1960年代にすでにそんな法律があったのですか。でも、ハーレーなど米国を代表するバイクは、以前は常時点灯ではなかったような気がします。
長山先生:そのあたり詳細はわかりませんが、法律では二輪運転者に対して昼間点灯を義務付けるもので、二輪メーカーに対して常時点灯する機能を義務付けるものではなかったのではないでしょうか。
編集部:なるほど。車両を常時点灯化させれば話は早そうですが、安全に対するライダーの意識改革こそが重要で、それを目的にした法律だったのかもしれませんね。
長山先生:そうだったと思います。私が紹介した論文は、フランクリン研究所のキャセル及びジャノフ両氏が行った ”Effect of daytime use of motorcycle headlight and taillight on motorcycle noticeability” 「二輪車ヘッドライトとテールライトの昼間使用の二輪車の誘目性に対する効果」という3篇の研究論文で、全米研究評議会の1971年の機関紙Highway Research Record 377に掲載されていました。内容は昼間点灯法が施行されて、その前後で二輪車の事故が実質34%減少していると言われているが、本当にそうなのかを確かめるものです。研究の一部を紹介すると、昼間点灯を実施している州と実施していない州での実施前後の年度の二輪車の事故を比較すると、実施州での事故減少数は表1のように40%減なのに、非実施州では3%減でした。1万台当たりに換算しても表2のように43%減と9%減で、昼間点灯の効果が著しいことが明らかになりました。
編集部:どちらの表でも、昼間点灯による事故減少の効果は明らかですね。
長山先生:昼間点灯実施州での昼間と夜間の減少数と減少率も調べています。その結果が表3で、夜間にも39%減少していますが、昼間は44%と、夜間よりも大幅に事故が減少したことがわかります。つまり、昼間点灯を実施している州においては、二輪車の事故を減らそうとのキャンペーンが行われ、それは昼夜を問わず効果を上げたことを示しています。点灯に関しては夜間においてはこれまでと状況は変わらないにもかかわらず事故が若干減少していますが、明るい昼間に点灯しているときには大幅な事故減少の効果が見られたものです。
編集部:夜間はそもそもライトを点灯していて条件的には同じなので、不思議ですね。事故防止キャンペーンによる効果なのでしょうけど、キャンペーンが終わったあとも効果が持続したのか気になりますね。ちなみに、日本の熊本で実施した昼間点灯のキャンペーンによる効果はどうだったのですか?
四輪の昼間点灯は、日本では不向き?
長山先生:熊本でのキャンペーンに続いて、全国的に二輪車は相手から見落とされないように昼間にも点灯しようとの活動が広がり、自主的にヘッドライトのスイッチをONにする人も増え始めましたが、当初は原付バイクなどのバッテリーが昼間点灯するには容量が不足しているとか、ランプの寿命が短くなるなどメーカー側からの反対がありました。また、二輪車のライダーが昼間に点灯するのを面倒がって普及しないだろうといった反対意見もありましたが、昼間点灯車が順調に普及していきました。
編集部:そうでしたか。じゃ、事故も減少したのでしょうか?
長山先生:事故件数の変化など詳細な報告は聞いておりませんので、実際はどれくらい効果があったのかわかりませんが、いくつか問題点も明らかになりました。二輪車で点灯しているものは被視認性が高くなり、四輪車や自転車・歩行者から見落とされにくくなりますが、その反面「二輪車は点灯しているもの」と思われると、点灯していない二輪車は目立たず見落とされかねないといった問題があり、キャンペーンや活動だけでは二輪車全体の事故が必ずしも減少しないという結果になりかねません。外国では全車が点灯できるような二輪車の機構の改良が前提となる点灯法が制定されたことを受けて、日本でも道路運送車両の保安基準の細目を定める告示の第120条(前照灯)7項十二によって、「二輪自動車及び側車付二輪自動車に備える走行用前照灯及びすれ違い用前照灯は、原動機が作動している場合に常にいずれかが点灯している構造であること」との改定が行われたわけです。二輪車の昼間点灯が実施されるようになるとともに、四輪車でも昼間点灯を実施する機運が高まり、運送会社の中には全社で昼間点灯をするようになったり、安全運動期間中はバス会社などが昼間点灯を実施したりするようになりました。
編集部:以前、運送会社やバス会社が昼間点灯をしていましたね。ヘッドライトだと眩しいとか、バッテリーの消耗を気にして、一部の宅配会社やレンタカー会社ではヘッドライトではなく、別の青いLEDライトを設置して常時点灯していました。でも、四輪車の昼間点灯というと、北欧のスウェーデンなど日照時間が短い国が実施しているというイメージが強いですね。
長山先生:おっしゃるとおりで、スウェーデンでは1977年に昼間点灯が義務付けられており、北欧諸国やカナダなど緯度の高い国では四輪車の昼間点灯が広く実施されています。日本での考え方に関しては、平成14年・15年に四国の愛媛県で「愛媛県昼間点灯モデル実験検討会」が開催されて、私が座長を務めました。そこでの結論は、昼間点灯による事故件数の減少は認められませんでしたが、ドライバー等の安全運転意識の向上といった心理面での効果はみられるということでした。
編集部:事故件数的には効果はなかったのですか?
長山先生:そうです。でも、ドライバーの意識調査からは状況によって好評価が得られました。(1)中山間地の道路、交差点付近の道路、カーブなどの道路環境での点灯 (2)雨天、曇天等の悪天候時の点灯 については、「視認性が高まる」との評価が得られたのです。その点を踏まえ、現在、交通安全県民総ぐるみ運動で推進している「夕暮れ時のライト点灯キャンペーン」を拡大して、「見られるための前照灯点灯」を促進する広報・啓発を行い、昼間時にも適宜・適切に前照灯を点灯して安全確保ができるドライバーを育成することが望ましいとの結論で報告書を収めております。太陽の光量の多い愛媛県では、昼間に点灯しても目立ち方が低いとも考えられる点が特徴でもありました。
編集部:たしかに日照時間が短く、昼でも暗い国では効果が高いでしょうけど、明るいとあまり効果はないかもしれませんね。また、四輪車も点灯していると、ライトを点灯しているバイクが目立たなくなる危険性を指摘する声もあったと思います。
長山先生:そうですね。北欧などの北の国々では昼間点灯が望まれますが、南の国々では実施されていません。また、私がスウェーデンのストックホルムで四輪車の昼間点灯を見た経験からは、1台で近づく車に気づくのには役立ちますが、2車線ある道路で車がたくさん走ってくるのに出くわすと、眩しすぎて不愉快に感じました。日本における二輪車の昼間点灯は、特に眩しさを感じず、被視認性を高めるという効果が上がりますが、四輪車の昼間点灯の必要性はどうかという感じがします。しかしながら、日本では交通安全運動期間などにバス会社や特定の運送会社などが点灯しているようですし、冬季の期間に限って点灯を実施している会社もあるようで、北海道などの北国では四輪車の昼間点灯を実施して効果を上げているのかもしれません。
『JAF Mate』誌 2018年1月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。
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