僅かに手が加えられた美しいボディ
筆者は、オースチン・ヒーレーはクラシック界の英国版マッスルカーだと考えてきた。ボディサイズも、大きいと記憶していた。だが、ケイトンによるレストモッド・モデルを目前にして、想像以上に小柄だったと実感した。
【画像】美しいボディに3.0Lエンジン ケイトン・ヒーレー レストモッドで復活する往年の名車 全136枚
ケイトンというブランドは、英国のエンジニアリング企業、インヴィジジ社が新たに立ち上げたもの。同社が得意とする分野が、ジャガーXKSSやDタイプといった、非常にレアなクラシックカーの復刻版ボディを製造することだ。
それが反映して、今回試乗したクルマも非常に美しい。見事な仕事ぶりといえる。
ケイトンの技術者は、1953年から1955年にかけて作られた、オースチン・ヒーレー100/4、シリーズBN1のスタイリングへ僅かに手を加えている。基本的にはオリジナルと非常に似ているが、フロントグリルの造形などが異なる。
ボディサイドには、大きなエアベントが開けられている。ドアハンドルも省かれている。インテリアの仕上げも素晴らしい。これから25台を製造する予定にあり、オーナー次第で様々なカスタマイズも可能だという。
キャビン後方のデザインが変更されており、車内は広々としている。スペアタイヤやソフトトップは備わらない。センタートンネルも小ぶりだ。
187psの3.0L直列4気筒に5速MT
美しい見た目だけではない。ヒーレーのクラシックカーを得意とする、JME社によるメカニズムによって完成されている。
エンジンは、オリジナルの2.6Lから3.0Lへ拡大された、自然吸気の直列4気筒。最高出力は187ps、最大トルクは26.9kg-mを発揮する。トランスミッションはオーバードライブ付きの3速から、5速マニュアルへ載せ替えてある。
ドアを開き、シートの背もたれを掴みながら腰を下ろす。新しいペダルボックスに据えられた3枚のペダルは、かなり奥の方に位置している。ステアリングホイールは大きく直立気味で、位置は調整できない。
エンジンを目覚めさせると、荒々しいノイズとともに、ボディを揺らす振動を伴ってアイドリングを始める。エグゾーストは、左側の低い場所へ導かれている。エンジンが温まると、往年のレーシングカーのようなサウンドに変わった。排気ガスの匂いも。
クラッチペダルは若干重めだが、扱いやすい。ステアリングホイールも同様。シフトレバーは、ストロークは長いものの滑らかに動く。エンジンは低回転域で少々息苦しそうに感じられたが、難なく発進できた。
このケイトン・ヒーレーは、カリカリのレストモッドというより、レストアに近い。運転してみると、クラシックカーのような印象がしっかり残っている。
タイヤはミシュランのラジアルで、15インチの185/70というサイズ。乗り心地には落ち着きがあり、姿勢制御も良好。路面が酷く荒れていると、大きな衝撃がまれにドライバーを襲う。
親密なメカニズムとドライバーとの関わり
ボディシェルは、現代のロードスターと比べれば柔らかい。だが、充分な剛性感はある。
ステアリングホイールは切り始めの数度が遊びの領域で、クルマに目立った変化は起きない。そこから回していくと、正確で良好な反応が得られる。
タイヤのサイドウォールは厚く、手のひらには感触が伝わってこない。アスファルトを走っているという曖昧な雰囲気だけだが、それも魅力の1つといえる。
エンジンはトルクフルで、1500rpm以下を好まず、4000rpm以上にも回りたがらない。近年のクルマでは得難いほど、メカニズムとドライバーとの関わりが大きい。ノイズやヴァイブレーションも。
このケイトン・ヒーレーの英国価格は、47万4000ポンド(約7915万円)から。JME社がレストアを手掛けたオースチン・ヒーレー100なら、メカニズムが調整済みで特別な仕様を指定しても、その半額以下で購入できる。
ケイトン・ヒーレーの場合は完璧なプロポーションを目指し、職人によってアルミニウムのパネルが丁寧に加工されている。その価値は認めるものの、金額の妥当性に悩む人もいると思う。
少なくとも25名の顧客は、この美しいスタイリングに魅了されたのだろう。確かに筆者も、ボディに見惚れてしまった。彼らにとっては、理想のクラシックなのかもしれない。
親密でアナログなメカニズムによるドライビング体験を、より少ない費用で堪能できる例は多い。とはいえ、EタイプUK社のアンリーシュドの狙いも、ケイトンと共通している。
レストモッドの感じ方は人それぞれ。評価は読者にお任せしよう。
ケイトン・ヒーレー(欧州仕様)のスペック
英国価格:47万4000ポンド(約7915万円/ベース車両を除く)
全長:3835mm(オースチン・ヒーレー100)
全幅:1524mm(オースチン・ヒーレー100)
全高:1251mm(オースチン・ヒーレー100)
最高速度:193km/h
0-100km/h加速:8.0秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:920kg
パワートレイン:直列4気筒2954cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:187ps/5000rpm
最大トルク:26.9kg-m
ギアボックス:5速マニュアル
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