現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ただの「楽な位置」だと思っていないか!? 「ドラポジ」の追求が真の人馬一体に近づく道だ!!

ここから本文です

ただの「楽な位置」だと思っていないか!? 「ドラポジ」の追求が真の人馬一体に近づく道だ!!

掲載 5
ただの「楽な位置」だと思っていないか!? 「ドラポジ」の追求が真の人馬一体に近づく道だ!!

 良い運転には「ドライビングポジション」が重要だといっても、それは単純に「座り方」さえ気を払っていればいいというワケではない。車両との一体感を得るために考えるべきことはなにか!? 理論派レーシングドライバー中谷明彦氏が「ドラポジ」の深さを語る!

文:中谷明彦/写真:Lamborghini、McLaren、三菱、富士スピードウェイ、ベストカーWeb編集部

【画像ギャラリー】ドライビングポジションはまさに運転の根幹! スーパーカーはシートはやっぱ伊達じゃない! レーシングドライバーが絶賛するランボルギーニ ガヤルドSTS(11枚)

ドラポジを極めるとクルマは変わる!?

 ドライビングポジション(以下ドラポジ)の重要性は、今さら言うまでもない。自身が主宰している「中谷塾」でも、また多くのドライビングスクールにおいても、必ず最初に解説されるのはドラポジの基本だ。操作の正確さも、車両との一体感も、その出発点はすべてドラポジに集約される。

 すなわち、ドライバーとクルマとのインターフェースを決定づける根幹である。ただし、ここで多くのドライバーが誤解しているのは、停止状態で「楽だ」と思えるポジションが、そのまま理想のドラポジであると信じてしまうことだ。

 実際には、走り出して加減速や横Gを受け、ステアリングやペダル操作を行うと、身体はシートに押し付けられたり、ステアリングに引き寄せられたり静止状態では想定できない力を受ける。そのとき初めて「少しステアリングが遠い」「シートバックから肩が離れる」などの違和感が現れる。

 だからこそ、走行を開始してから微調整することが不可欠だ。特にサーキットでは、やや窮屈と感じるくらいのポジションが最適となる。高い横Gや減速Gを受け止めるには、身体をしっかり支える環境が欠かせないからだ。

ホールド感×快適性×フィット感!

 ドラポジを最大限に活かすには、シートそのものの質も重要な要素になる。ホールド性、快適性、そしてフィット感。この3つが揃わなければ長時間の走行で集中力を維持することは難しい。

 自身が経験した中で、市販車ベストと感じたのは、ランボルギーニ・ガヤルドSTS(スーパートロフェオストラダーレ)に装着されていたカーボンバケットシートだった。一体式ながら身体が吸い込まれるように馴染み、腰から肩まで無駄なく支持してくれる。

 結果としてステアリング操作も、ペダルワークも極めて精度が高まった。シートが身体を受け止めてくれるからこそ、ドライバーは余計な力を使わず、繊細な入力に集中できるのである。

 シートに加えて重要なのがシートベルトだ。サーキットでは最低でも5点式、できれば6点式以上のハーネスが必須となる。4点式は一見レーシーに映るが、実際には衝突時にバックルが腹部や胸部を圧迫し、内臓損傷のリスクを抱える。

 むしろ市販車の3点式プリテンショナー付きの方が安全性が高い場合もある。

シートだけでなく、拘束システムも進化がほしい

 安全装備において「見た目」や「雰囲気」に惑わされるべきではない。ここで僕が強く疑問を抱くのは、レーシングハーネスの締結方式が半世紀以上変化していないことだ。未だに人力でベルトを引き、金具に通して締め上げる方法が主流である。

 確かに物理的な確実性はあるが、ベルトが血管を圧迫し心拍数を上げ、長時間では疲労を増大させる。そろそろ医療や航空分野の技術を応用した新しい拘束システムが登場してもいいはずだ。身体をソフトに包み込み、均一な圧力で固定できる構造や、伸縮率を制御可能な新素材ベルトなどが望まれる。安全性と快適性を両立する技術は既に存在しており、自動車分野が取り入れない理由はない。

  これまでの体験を振り返れば、フォーミュラカーやGTマシンのドラポジ調整には毎回苦労が伴った。例えばかつて搭乗したマクラーレンF1 GTRでは、車体センターマウントのシングルシーターというレイアウトゆえ膝周りを支えるコンストラクションがない。

 ドライバーはシートだけでなく、モノコックやバルクヘッドなどに膝や肘を当て、振動や高G下に置いてペダルやステアリング操作を正確に行おうとする。そこが省かれてしまうと正確な体制の保持ができない。

人馬一体とは最も身体に適したポジションを探すこと

 また、耐久レースでは複数のドライバーでマシンをシェアする。そうした場合、一人のドライバーだけに合わせる事ができないので、ほぼ全員がドラポジに妥協しなければならなくなる。こうした微妙なズレが、限界域での挙動制御に大きな差を生むのである。

 F3以上のフォーミュラカーには基本的にシートが付いていない。ドライバーがマシンに乗り込み、背中や臀部に発泡剤を注入して専用の発砲シートを作るのだ。この方式も少なくとも40年変わっていない。この発砲シートも、製作時は車両停止状態だから、走行してみないと完成度が分からない。

 一流チームならドライバーが納得するまで何度でもシートを作りかえる。例えばF1では低速のモナコ用と高速のシルバーストーンでは異なるドラポジをプロドライバーが求め、それに対応してくれるものだ。

 こうして身体に完璧に合ったポジションに座ったとき、車両との人馬一体感は高まり、ラップタイムも向上する。

実はこんなに違う!? 国産車と欧州車に見る設計思想

 市販車に目を向けても、国産と欧州車では設計思想に違いが見られる。国産車は米国車由来で比較的誰にでも「楽に」座れるポジションを優先する傾向があり、シートバックが柔らかく、ステアリングのチルトやテレスコ調整幅も限られることが多い。

 一方で欧州車はドライバーが積極的に車を操作することを前提に設計され、ステアリングやペダルの位置関係が論理的で調整幅も広い。結果として、ドライバーは「操縦に集中する姿勢」を自然に取ることができる。こうした設計思想の差が、走行フィールや運転の疲労感に直結するのだ。

 将来を考えると、ドラポジの意味も変わってくる。自動運転が普及すれば、ドライバーは操縦者から「乗員」へと役割を変える。しかし完全自動運転に至るまでの過渡期では、人間が主導権を持ちながらも支援を受けるという状況が続くだろう。

 そのとき、適切なドラポジは依然として安全と快適の鍵となる。誤操作を防ぎ、必要な時に瞬時に制御を取り戻せる姿勢を保証することも、相変わらず今後の車両設計において重要になるはずだ。

ドラポジこそ最も妥協してはいけない!?

 ドラポジとは単なる「座り方」の問題ではない。ステアリング、シート、ペダル、ベルト、それらすべてが連鎖して「人と車の一体感」を形づくるシステムと言える。適切なポジションに身を置けば、ドライバーはより少ない力で、より正確に車を操れる。

 逆に妥協したドラポジでは、どれほど高性能なマシンであっても潜在能力を発揮できない。

 これまで多くのレーシングカーを走らせてきたが、そのたびに痛感するのは、マシンの性能を完全に引き出すのはエンジン出力やタイヤのグリップだけでなく、まずは「ドラポジ」であるという事実だ。ドライバーが機械と一体化できた瞬間、良いマシンは見違えるほど従順に、自在に操れる存在へと変貌する。

 ドラポジを極めるとは、すなわちクルマの走行性能そのものを左右することになるのだ。

文:ベストカーWeb ベストカーWeb
【キャンペーン】第2・4金土日は7円/L引き!ガソリン・軽油をお得に給油!(要マイカー登録&特定情報の入力)

こんな記事も読まれています

ドライバーとして生まれたからには一度は操ってみたい……!? 現代F1マシンは肉体だけでなく究極の知性を求めるマシンだった!!
ドライバーとして生まれたからには一度は操ってみたい……!? 現代F1マシンは肉体だけでなく究極の知性を求めるマシンだった!!
ベストカーWeb
24時間戦えますか?? ル・マン参戦経験もあるドライバーが名車ポルシェ 962C日産 R90(91)CKを語る!
24時間戦えますか?? ル・マン参戦経験もあるドライバーが名車ポルシェ 962C日産 R90(91)CKを語る!
ベストカーWeb
北の大地で人気SUV「フォレスター」を再検証! “日本最北端のテストコース”で実感!! スバルの真摯な開発が具現した“優れた安全性”と“抜群の走破力”とは?
北の大地で人気SUV「フォレスター」を再検証! “日本最北端のテストコース”で実感!! スバルの真摯な開発が具現した“優れた安全性”と“抜群の走破力”とは?
VAGUE
スバルSTIの決意表明!! 運動性能と実用性の両立を狙う2台の「パフォーマンス」
スバルSTIの決意表明!! 運動性能と実用性の両立を狙う2台の「パフォーマンス」
ベストカーWeb
見た目も機能も強烈! 特徴的なリアウィングを備えたクルマ 22選(後編) 1990~2020年代
見た目も機能も強烈! 特徴的なリアウィングを備えたクルマ 22選(後編) 1990~2020年代
AUTOCAR JAPAN
チューンドカーに手を出す前に確認ができる!? トヨタ GR86 by TOM’Sに乗れるのマジか
チューンドカーに手を出す前に確認ができる!? トヨタ GR86 by TOM’Sに乗れるのマジか
ベストカーWeb
パガーニ・ウアイラRで学ぶ最上級のドライビングレッスンとは!? 圧巻すぎる内容に驚きの連発!!
パガーニ・ウアイラRで学ぶ最上級のドライビングレッスンとは!? 圧巻すぎる内容に驚きの連発!!
ベストカーWeb
CR-V e:HEVはアコードを超えたホンダのフラッグシップSUV!! 超豪華装備満載で子育て卒業組のハートを狙い撃ち!!
CR-V e:HEVはアコードを超えたホンダのフラッグシップSUV!! 超豪華装備満載で子育て卒業組のハートを狙い撃ち!!
ベストカーWeb
「最新スバルの考え方」がここに。厳寒期のフォレスター試乗で体感した、揺るぎなき安全哲学
「最新スバルの考え方」がここに。厳寒期のフォレスター試乗で体感した、揺るぎなき安全哲学
月刊自家用車WEB
あぁ、心躍る猛牛!! まさにスーパーカーの象徴!! ランボルギーニ カウンタック LP400を全開試乗!!
あぁ、心躍る猛牛!! まさにスーパーカーの象徴!! ランボルギーニ カウンタック LP400を全開試乗!!
ベストカーWeb
イケオジだって大満足! 遊び倒せる「大人の4WDスポーツ」4選
イケオジだって大満足! 遊び倒せる「大人の4WDスポーツ」4選
ベストカーWeb
手強いから楽しい!! おじさん脳をくすぐる“修行系”中古車セレクション
手強いから楽しい!! おじさん脳をくすぐる“修行系”中古車セレクション
ベストカーWeb
LSを超えた! レクサス最長寿モデルになったISは一体どこまで現行型で行ってしまうのか
LSを超えた! レクサス最長寿モデルになったISは一体どこまで現行型で行ってしまうのか
ベストカーWeb
GR GTは“公道を走るレーシングカー”として誕生したトヨタGRのフラッグシップ。開発では3つのキー要素を重視
GR GTは“公道を走るレーシングカー”として誕生したトヨタGRのフラッグシップ。開発では3つのキー要素を重視
AUTOSPORT web
プラグインなのに価格は国産ハイブリッド並み!! フル装備のPHEVが398万2000円!!! BYDシーライオン6にシーライオン7オーナーが速攻試乗!!!
プラグインなのに価格は国産ハイブリッド並み!! フル装備のPHEVが398万2000円!!! BYDシーライオン6にシーライオン7オーナーが速攻試乗!!!
ベストカーWeb
【最新モデル試乗】ホンダのイメージリーダーはどっち!? 「非日常のときめき_プレリュード」と「FF世界最速_シビック・タイプR」の気になる関係性
【最新モデル試乗】ホンダのイメージリーダーはどっち!? 「非日常のときめき_プレリュード」と「FF世界最速_シビック・タイプR」の気になる関係性
カー・アンド・ドライバー
もっとうまく走らせたくなる不思議なクルマ!? トヨタ GRヤリス Mコンセプトは「名馬のごとし」
もっとうまく走らせたくなる不思議なクルマ!? トヨタ GRヤリス Mコンセプトは「名馬のごとし」
ベストカーWeb
車高アップは乗り心地が悪いは昔の話? TEINがクロスロードで証明した最適解~カスタムHOW TO特別編~
車高アップは乗り心地が悪いは昔の話? TEINがクロスロードで証明した最適解~カスタムHOW TO特別編~
レスポンス

みんなのコメント

5件
  • ....
    この人も人馬一体って書いときゃ何とかなると思ってる低脳記者と同レベルになってしまったか...
  • ********
    腕が短いから、脚に合わせるとハンドルまでちょっと遠い、腕に合わせると、脚が窮屈すぎる・・・
    困った体型ですわ
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

177 . 7万円 257 . 8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

7 . 8万円 296 . 0万円

中古車を検索
ホンダ フィットの買取価格・査定相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

177 . 7万円 257 . 8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

7 . 8万円 296 . 0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村