住民感情と地域の役割に揺れる空港
東京都の多摩地域東部に位置する調布市。そこにある調布飛行場は、滑走路延長800mの小さな空港である。東京の島しょ部に向かう新中央航空のコミューター機が出発する空港であり、航空測量や防災、緊急医療などに用いられる航空機が発着する空港としても重要な役割を果たしている。
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しかし、住宅街に設けられた空港であるため、批判が絶えない。2015(平成27)年には住民も巻き込む事故が発生し、それ以来、同空港ではプライベートジェットの発着が一時禁止されるなど、空港としての機能に厳しい制約がかけられることになった。
事故から10年以上が経った今も住民感情は回復せず、イベントを開くことも難しい状況にある。
・地域住民との関係
・産業や地域を支える空港としての役割
その両方をどう両立させるかという課題を抱える調布飛行場を取材し、現在の姿と今後について筆者の考えを伝える。
返還初期に定められた三年以内移転
調布飛行場は1941(昭和16)年4月、当時の東京府によって公共飛行場として開設された。
当初は1000mの滑走路を持つ空港だった。その後、陸軍に接収され、1945年の敗戦後は米軍に28年もの間、接収されることになる。
調布飛行場は1973年に日本側へ返還された。この際、北側の焼却炉が障害物になると考えられたため、滑走路は200m短くされた。この焼却炉は2008(平成20)年に撤去されたものの、2026年現在も滑走路の長さは変わっていない。
しかし、もともとは空港として長く使う計画ではなかった。
返還の2年前にあたる1971年、調布市は「調布基地跡地全面返還と飛行場使用反対に関する決議」を可決し、地元での受け入れを拒む方針を固めた。
一方、国や東京都は飛行機の発着場が必要だったため、調布飛行場の活用を求めていた。しかし、
「5万人」
もの調布市民が反対運動に参加するなどしたこともあり、国・東京都と協議した上で、3年以内の1974年に代わりの空港を建設して廃止する方針となった。
ところが、代わりの場所が見つからないまま、民間航空は増え続けた。特に東京都が管轄する伊豆諸島への航空需要に応える必要も生じてきた。
正式空港化と根強く残る住民の反発
そこで東京都は、当時も混雑が深刻だった羽田ではなく、暫定的な利用ながら空港としての形が整っていた調布飛行場から、新島・伊豆大島・神津島といった路線を開設した。また、航空測量などに使われる民間の小型機の拠点としても引き続き利用された。東京都は1980年代になると、当時の鈴木知事のもとで
「地域航空の拠点として必要性は高い」
との考えを示すようになり、正式な飛行場として認めてもらうための取り組みを進めるようになった。
調布市も、飛行場の拡張を抑えることや騒音対策を徹底することなどを提案し、同意する姿勢を示した。こうした協議を経て、2001(平成13)年になってようやく正式な空港として認められることになった。
2013年4月2日にはターミナルビルの供用が始まり、同年6月18日には離島路線に計器飛行方式が導入されるなど、空港としての機能が強化されてきた。こうして、
・伊豆諸島への玄関口
・小型機の発着拠点
としての役割を強め、返還から28年もの時を経て正式な空港となった調布飛行場だが、暫定的な利用のはずだった飛行場の役割が広がったことへの市民の反発は、なお強く残った。また、周囲を住宅に囲まれていることから、騒音などによる生活への影響を心配する声も出始めた。
1980(昭和55)年には、調布飛行場を発着する飛行機が調布中学校に墜落する事故も発生し、安全性を心配する声も上がった。市民の間には、飛行場のあり方に納得できないという声も残っていた。
2015年の墜落事故と運航の制限
そうした中、2015年7月26日、深刻な事故が発生した――。
調布飛行場を離陸した小型機PA-46が、調布市富士見町の住宅街に墜落した。飛行機の乗員ふたりと、墜落に巻き込まれた住民ひとりが亡くなった。事故の背景には、
・重量オーバー
・重心位置の不適切さ
・燃料やフラップの扱いに関するミス
などが重なっていた。また、亡くなった乗客ひとりについては、運航会社が必要な許可を得ないまま搭乗を認めていた。
安全対策が十分でない状態で運航が行われ、飛行機の利用者だけでなく市民も巻き込む事故となったことで、調布市民の反発は強まった。市議会では、東京都に抗議する決議が可決された。
この影響で同空港では、自家用機の運航を控えるよう求めるなどの対応に追われることになる。自粛要請は2018年に解除されたが、800mある滑走路のうち、最長でも760mしか使えない制限が設けられた。
また、自家用機の利用に対する調布市議会の反発も強かった。同年9月11日に発表された議長声明では、住民への事前説明や周辺3市(三鷹市、調布市、府中市)への打診が十分でないまま再開されたことについて遺憾の意を示し、引き続き自家用機の全面的な運航停止に向けて取り組む考えを示している。
調布飛行場と管轄する東京都は、このほかにも、航空機の専門員による滑走距離や重量の確認を徹底する方針を打ち出したほか、整備士の訓練、取り付け誘導路の接続位置を変えて滑走路への出入りを改善するなど、多くの取り組みを進めている。
今も解消されない地元の厳しい視線
しかし、空港や東京都の取り組みが進められている一方で、地元の調布市が調布飛行場を見る目は今も厳しい。
同市は、PA-46墜落事故から10年となる2025年にも、市長就任にともなう声明として調布飛行場に関する声明を発表している。その内容は、調布飛行場の公共性を尊重しつつも、自家用機の分散移転を最優先とし、安全管理の徹底と地元の理解があってこそ飛行場を運営できるという考えを示すものだ。
この声明には、事故の悲しみを乗り越え、空港を生かして街づくりを進めようという考えは示されていない。そのため、あくまで筆者(前林広樹、航空ライター)の私見ではあるが、調布市にとって調布飛行場は今も
「本来なら地元では受け入れたくない施設」
として扱われているような印象を受けた。また、市民からも調布飛行場に対して厳しい意見が寄せられている。その中でも特に厳しい意見を示しているウェブサイトが「調布ネット」である。
同サイトでは、離発着数を細かく数えており(2026年8月21日時点で16日までのデータがある)、厳しい姿勢を示している。また、平均75~85ホンに及ぶ騒音被害などを訴え、近い将来の空港閉鎖を目指して活動している。また、調布飛行場から離島路線が運航されていることについても、そもそも離島の住民は羽田発着を望んでおり、調布市民が納得したものではないとしている。
コミューター路線を観光客が利用することについても、ウェブサイト上で
「調布市民は、どこかの誰かの遊びのために、生活を犠牲にされる覚えはないはずです」
と厳しく批判し、調布飛行場を発着する飛行機を釣りやゴルフなどのレジャーや観光目的で利用することを控えるよう促している。市民と飛行場が互いに理解を深める場も少ないように感じる。
小型機の展示や飛行場内の公開など、多くの市民が調布飛行場を知るきっかけとなっていた調布飛行場まつりは、PA-46墜落事故が起きた2015年から中止されている。その後、島しょ地域の物産展などは開かれているものの、以前のように空港施設を公開する大規模な催しは、事故から10年以上が経った2026年現在も行われていない。このままでは、
「互いに不信感を抱いたまま」
になってしまう。何かできることはないのかと思う。
現地取材で実感したターミナルの姿
2026年8月中旬の土曜日、筆者は調布飛行場を訪れた。
ちょうど三宅島や神津島行きの便が出る頃で、その便を利用する人とみられる人々が、チェックインを済ませていた。また、航空便を利用する人だけでなく、飛行機が飛び立つ様子を見に来たとみられる近隣の住民も見られた。
空港の周りには大きな公園があるほか、ターミナルの近くにも子どもが遊べる遊具が設けられた場所がある。親子連れにも向いた場所といえるだろう。
空港ターミナルは2階建てだが、小規模である。羽田空港や成田空港にいくつもあるような飲食店や売店は見られなかった。ただ、伊豆諸島に向かう路線が発着する空港らしく、1階にはクサヤや明日葉の加工品などを販売する自動販売機が設けられていた。伊豆諸島の観光案内パンフレットも多く、島へ向かう空港らしさが感じられる。
空港ターミナルの2階には、東京都による安全への取り組みを紹介するパネルが多数展示されていた。特に自家用機の乗り入れについては、航空法に基づく決まりだけでなく、調布飛行場独自の取り組みなども紹介されていた。
前述の通り、地元自治体や住民の感情が決して良いとはいえない空港だけに、安全面に大きく配慮していることがうかがえる。
展望デッキの魅力と機能拡張の限界
筆者は展望デッキから飛行機を眺めた。新中央航空のドルニエ228機が、就航の準備をしていた。
アクリル板越しになるため、写真をうまく撮れないのは残念だった。それでも、プロペラを回す姿や離陸する様子はなかなか見応えがあった。身近な場所で飛行機の迫力ある姿を見られるのは、羽田や成田にはない特徴だと感じた。
2階の展望デッキには、近所の親子連れとみられる人や、カメラを構えた航空ファンとみられる人も見かけた。前述の通り、調布飛行場は市が強く反発している施設である。一方で、飛行機の離発着に魅力を感じる人も一定数いることを認識した。
ただ、調布飛行場の周囲は住宅街やスタジアムなどに囲まれている。騒音や事故への心配が出てもおかしくはないと感じた。もちろん、拡張も難しいと考えられる。空港としての役割を
「これ以上広げることは難しい」
という認識を、改めて持つに至った。
立地環境がもたらす厳格な運用制限
実地調査で見たように、飛行機を見たいと思う人も多い一方、建物が多い場所に立地しているのが調布飛行場である。
こうした土地の条件から、離発着に関する規制も多い。発着回数は年2万3000回に制限され、さらに休日は平日より3割減らすよう努めることが求められている。
調布飛行場では、計器を使った飛行も2013(平成25)年から認められた離島路線に限られ、それ以外の離発着はすべて目視で行われる。
このため利用時間の制限も厳しく、朝8時30分から18時までとなっており、夜間の利用は一切できない。これは24時間運用の羽田や関空はもちろん、成田や伊丹、福岡など、騒音に悩まされる他の空港と比べてもかなり厳しいものだ。
また、自家用機の場合はさらに厳しい。前述の通り、800mある滑走路のうち、使用できるのは760mまでである。
この条件を満たしていても、遊覧飛行や体験飛行には利用できず、1日1回までしか離発着できないと定められている。機材にも制限があり、ジェット機は使用できない。
こうした規制もあり、新たに乗り入れることは事実上難しいといえるほど、厳しい条件が設けられた空港である。
短期的な存続と長期的な移転の構想
では、調布飛行場の今後はどうなるのだろうか。短期的には、現状を保つのが適切と思われる。
現在、調布飛行場をいきなり廃止するのは、伊豆諸島の交通や物流への影響を考えると難しい。しかも、飲酒運転による東海汽船の業務停止命令の問題もあり、コミューター航空の重要性は増している。この状況で廃止することは難しいだろう。
そのため、地元が調布飛行場を前向きに受け入れる姿勢をつくることが必要になる。かつての調布飛行場まつりのように、空港の内部を公開する催しを開き、市民が飛行場を知り、理解するきっかけをつくることも重要になるだろう。
しかし、調布飛行場を首都圏第三空港として機能を高めるのは難しいと思われる。筆者は
「長期的には移転するべきだ」
と考える。前述の通り、調布市の立場は、調布飛行場を積極的に活用するというより、騒音や安全性などを心配しながらも受け入れている――という意味合いが強い。
空港が立地する大田区や成田市のように、空港をまちづくりの中心にするという考えは持っていないように感じる。そもそも半世紀以上前から移転を前提としていた空港だけに、地元として拡張などの前向きな動きを進めるのは難しい。首都圏の主要空港を目指して機能を高めていくことも難しいといえるだろう。
また、調布飛行場は交通の便にも課題がある。鉄道駅からは、最も近い駅からでも徒歩20分以上かかる。調布駅や三鷹駅からはバスもあるが、片側1車線で道幅に余裕のない道路を通る区間もある。
調布駅からの場合は、病院や電気通信大学など、飛行場以外の利用者もいる。仮に調布飛行場に発着する路線が増えれば、交通が混み合う可能性もあるだろう。そのため、将来的には
・コミューター航空を羽田へ移す
・ビジネスジェットを第三空港へ移す
ことも考えられる。
他空港への移転課題と新たな拠点像
特にコミューター航空については、近年のビジネス需要の減少にともなう国内線の減便分や、国際情勢の影響で今後も使われない可能性が高いロシア路線の発着枠などを活用すれば、羽田空港へ移すこともできるかもしれない。
ただ、大型機が多く発着する同空港に、調布を発着する航空路線を移す場合、設備面には不安がある。空いている場所を活用して、専用ターミナルを新設するなどの対応が必要になるかもしれない。
ビジネスジェットについては、東京都が伊豆大島に格納庫を整備して移す取り組みも始めている。
しかし、都心から離れた離島では交通の便に課題があり、移転は進んでいない。飛べなかった期間の駐機料などの補償を求める声もあり、所有者との対立も深刻になっていると報じられている。
こちらは長期的には、入間飛行場などの自衛隊空港を民間でも使えるようにするなど、新たな拠点を整えるべきだといえるだろう。
自家用機や社用機は、柔軟な移動を求める富裕層を呼び込むうえで欠かせない。仕事の機会を広げたり、観光客の消費額を高めたりするためにも、現状のように東京都内の空港への乗り入れがほぼできない状態を変える取り組みが求められる。
●参考文献
・東京都港湾局「調布飛行場」2026年5月25日
・調布市「東京都調布離着陸場の整備及び管理運営に関する協定書」
・調布市「調布飛行場自家用機運航再開にともなう議長声明(平成30年9月11日)」
・調布市「調布飛行場の厳格な管理運営に向けて 市長就任に当たってのメッセージ(令和8年7月26日)」
・調布ネット
・「都心から100キロ、遠すぎて格納庫は空っぽ…調布飛行場から伊豆大島に移転進まず」読売新聞 2022年11月30日
・東京都港湾局「調布飛行場使用協定」
・東京都都議会「平成二十八年度各会計決算特別委員会第三分科会速記録第三号」
・国土交通省運輸安全委員会「東京都調布市における小型機墜落航空事故」
・中島二郎「羽田じゃない方の都内空港で続く”異常事態”…「事故の対策です」←本当に解決になってます?」乗りものニュース 2024年7月22日(前林広樹(航空ライター))
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みんなのコメント
「飛行場の周囲が宅地化した」のです。