瀬戸内、金沢、前橋、東京と、世界のアート好きがそこを目指してやってくるアートスポットがある。そしてその多くの“場”を作っているのはコレクターたちだ。日本を世界有数のアートディスティネーションにしたコレクターたちに、その場所に込めた想いを聞く。3回目は、anonymous art projectの牧 寛之だ。
アートを介した新しい社会貢献のかたち表参道の交差点からすぐ近くの場所に、少し異質なアートスペースがある。anonymous bldg.とサインが記されたガラス張りのビル。牧寛之によるanonymous art projectの展示スペースだ。異質と言ったのには理由がある。通りから見えるように作品が配置されているものの、その中に入ることはできないこと。また一見コマーシャルギャラリーのようだが、ここで作品を買うこともできないこと。実際に展示されている作品は、その後原則として公立美術館に寄贈されることになっており、牧はここで、美術館に収蔵される前に一般の人に見てもらおうと、あえて歩行者が行き交う通りに向けて、作品を公開しているのだという。
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パソコン周辺機器を展開するメルコホールディングスで代表取締役を務める牧は、企業活動とは別に、このプロジェクトを通じて日本のパブリックミュージアムを支援する活動を展開してきた。「いわゆる社会貢献活動です。7年前に69歳で他界した私の父は、その財産の大半を教育機関に寄付していました。母も同じように社会福祉法人に財産を投じました。そういった両親を見て、自分もそれができる立場になったら同じことを行いたいと昔から思っていたんです。それをアートの分野で、と決めたのは、2023年。所有していた黒田アキさんの作品を京都の美術館に寄贈したことが一つのきっかけになりました。学芸員の方たちと話す中で、急激なインフレの影響もあって、美術館の運営が苦しくなってきたことを知ったのです。一方、黒田さんも自身の生まれ故郷である京都の美術館に作品が収蔵されたことを大変喜ばれた。そこで、作家から作品を購入し、公立美術館に寄贈するというかたちで、作家と美術館をともに支援していこうと考えました」
表参道のビルは、たまたま日課のランニング中、空きビルになっているのを見つけた。そのほか、表参道の交差点に面したOMOTESANDO CROSSING PARKなどのスペースを使い、キュレーターを起用して展覧会を開くケースもある。「後でわかったのですが、表参道は六本木や銀座など他のショッピングエリアと比べて平日と休日の人流の差が少ないんですね。あくまで私の仮説ですが、表参道に来る人々は、具体的なショッピングのためだけではなく、何か新しいものに出会うために訪れているのだと思います。つまり、街を歩き、偶然何かに出会えることを楽しんでいるのではないかと。それはアート作品をパブリックに展示し、見てもらうのに絶好の場所であり、作品を展示する作家にとってもポジティブなことだと思いました」
今までに寄贈した作品は220ほど。今年1月には、金沢21世紀美術館に池田亮司のインスタレーション《data.gram [nº6]》を寄贈した。「金沢21世紀美術館の池田さんの展覧会で発表された新作ですが、昨年1月の能登半島地震の影響でその展覧会が中止になってしまったんです。私としては復興支援の意も含め、もう一度展示していただければと作品を購入し、寄贈することにしました」
近年はこうした作品を寄贈する活動に加え、日本のキュレーター支援にも注力する。アート作品は展覧会などで多くの人に見てもらうことが大事であるが、その場を作るのがキュレーター。彼らを支援し、いい展覧会をつくってもらうことで、アーティストたちも輝ける。そうした好循環が生まれればいいと考えた。主な支援は、予算を多く持たない公立美術館のキュレーターの海外への研究派遣。昨年はヴェネチア・ビエンナーレへの派遣事業を含め、100名ほどのキュレーターをサポートした。「まだ実験段階ですが、キュレーターの方に海外で滞在研究してもらう“キュレーター・レジデンス”も始めました。最終的には現地で日本人アーティストを紹介する展覧会を行ってもらうことまでを含めた支援活動で、4月にはドイツのアートフェアのひとつアートデュッセルドルフで、すでに滞在サポートをしているキュレーターの方がエキシビションを開く予定です」
並行してこの4月には母校である京都大学で寄付講座も開講。金沢21世紀美術館の長谷川祐子など日本を代表するキュレーターを客員教授に迎えた講座で、その成果発表を展覧会形式で行う予定だという。続いて5月にはヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の関連展示でサポート。拝戸雅彦と弘前れんが倉庫美術館の木村絵理子をキュレーターに、鬼頭健吾、蜷川実花のエキシビションを開く。「美術館やギャラリー、大学などの垣根にとらわれず、キュレーターの方々に自由にそのポテンシャルを発揮していただく。そうした支援活動を充実させることが今の一番の目標ですね」
どんな瞬間に喜びを感じるか。そう問うと「やはり自分が寄贈した作品が展示されるのを見たときですね」と答えた。「特に、素晴らしい展覧会の中でその作品を見れたときは、まさに感無量。すべて報われた感じがします」
牧 寛之/Hiroyuki Maki1980年愛知県生まれ。2003年、京都大学を卒業。14年メルコホールディングス代表取締役社長に就任。23年にanonymous art projectを立ち上げ、公立美術館への作品寄贈、キュレーターの海外派遣といった支援活動などに力を入れている。
PHOTOGRAPHS BY SATOSHI NAGARE
WORDS BY MASANOBU MATSUMOTO
EDITED BY KEITA TAKADA (GQ)
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