■フランスの高級ブランド「DS」のSUV第2弾
「DS3クロスバック」は、グループPSA(旧名PSAプジョー・シトロエン)の高級ブランド「DSオートモビル」のコンパクトSUVだ。
FFスポーツの頂点を極める ルノー「メガーヌR.S.トロフィー」を筑波サーキットで試した
DSオートモビルは当初、シトロエンのサブブランドとして2009年に登場。2014年に単独のブランドとして独立している。
欧州の景気低迷もあり、その立ち上がりこそ伸び悩んだものの、このDS3クロスバックなどが牽引し、2019年の世界新車販売は6万2512台と前年比17.4%増を記録。日本においても前年比20.7%増の904台と、台数そのものはまだ少ないが堅調に数字を伸ばしている。
日本では2019年6月に発売が開始されたDS3クロスバックは、DSブランドのSUVとしては、2018年7月に日本に上陸した「DS7クロスバック」に次いで2番目のモデルとなる。
全長4120mm×全幅1790mm×全高1550mm、ホイールベースは2560mmと、サイズ的にはBセグメントSUVというジャンルにカテゴライズされる1台だ。
パワートレーンには130ps/230Nmを発生する新開発の1.2リッター3気筒ターボ「ピュアテック」エンジンに8速ATの「EAT8」を組み合わせ、燃費はWLTCモードで15.9km/Lという数値。
グレードは基本的に2種類。オートエアコンやフルLEDリアライト、フロントソナーやバックカメラが標準になる「ソーシック」は363万6000円、レザーシートに18インチアルミホイール、ヘッドアップディスプレイやFOCALのHiFiスピーカーなどが標準装備される「グランシック」は411万5000円となる。
試乗したモデルは最上級グレード「グランシック」。ボディカラーは8色を用意するが、試乗車はDS3クロスバックのイメージカラーであるブルーミレニアム(オプション:6万500円)で、3色用意されるルーフ色は、ノアールオニキス(オプション:2万5500円)が組み合わされている。
実際に目にすると、DS3クロスバックのエクステリアは妖しい雰囲気に包まれている。ソリッドなボディラインは、昼間の太陽の下、夕方、そして夜と、見る時間によって雰囲気を変えていくのが面白い。スタイルはたしかにSUVなのだが、他のどのクルマとも似ていないデザインだ。
鍵をポケットに入れたままクルマに近づくと、ボディと段差がなくツライチだったドアハンドルが自動的にポップアップし、ドライバーを出迎えてくれる。
ドアを開けて車内に入ると、エクステリア以上にオリジナリティあふれるインテリアが待っている。ダイヤモンドパターンのスイッチとクロームのベゼル、ダイヤモンドステッチの本革シートなど、すべてが高い質感。どこにも抜かりはない。
■内外装の印象とマッチした、しっとりとした走り
スタートボタンを押してエンジンを始動、シフトセレクターをDにして発進する。
新型1.2リッター直列3気筒ターボエンジンは、しっとりと速度を上げていくジェントルな印象だ。ほかのプジョー/シトロエンモデルに採用される1.2リッター直3ターボエンジンは、低速域でのトルク感が薄めで、結果としてエンジン回転を上げてしまいがちになるのだが、DS3クロスバックのエンジンは、そのあたりが解消されている。
130馬力/230Nmと、エンジンスペック的にはそれほど特筆すべきものでもないのだが、それでも不足感を覚えることはまったくない。8速ATもなめらかに変速していく。走行モードは任意でスポーツ/ノーマル/エコの3モードを選択でき、エンジンレスポンスやシフトスケジュールなどを統合制御するが、3モードそれぞれにきちんとした差があり、選ぶ楽しみが味わえる。
パドルシフトも標準装備。このATは8速と多段化されているため、ひとつシフトダウンしてもエンジンブレーキがかかりづらいのは最近の高級車の常であり、このDS3クロスバックも同様だ。
高速走行では、非常に静かな室内を保っている。相当遮音には気を配っているようで、速度を上げていってもエンジンノイズは室内に届いてこない。この静けさはプレミアムな走りを際立たせている。
ダイアモンド柄のステッチが入ったシートは、一見デザイン優先な印象を受けるが、じつはその座り心地も抜群で、身体にゆったりとフィットしながらコーナリング時のホールド性も確保するという、なんとも不思議なテイストを実現している。
DS3クロスバックの走りで特筆すべき点は「ハンドルを切ったら切ったぶんだけ曲がる」というところ。これは当たり前のことのように思う人もいるかもしれないが、とくにこのクラスのSUVではあまり味わうことのない感覚だ。
これは、プジョー/シトロエンなど「グループPSA」で初採用となる新世代プラットフォーム「CMP」の採用が大きいと思われる。従来のプラットフォーム「PF1」比で約30kgの軽量化を実現しながら、剛性は約30%向上。さらにクリップによるパーツ固定のかわりにビス止めの比率を10%アップさせ、ノイズの軽減も実現しているそうだ。
※ ※ ※
BセグメントのSUVといえば、輸入車ではアウディ「Q2」やルノー「キャプチャー」、シトロエン「C3エアクロスSUV」、プジョー「2008」、国産車だとマツダ「CX-3」やトヨタ「C-HR」ホンダ「ヴェゼル」など、いまや世界的にもライバルがひしめく激戦区になっている。
そんななか、今回試乗したDS3クロスバック「グランシック」は、411万5000円という車両価格。最上級グレードとはいえ、BセグメントSUVで400万円台は「高い」と感じてもおかしくはないだろう。
だが実際に試乗してみると、外観、室内、走り、どれを取ってみてもすべてが作り込まれていて、すべてが質感高く仕上がっているのがわかる。
コンパクトモデル、とくにコンパクトSUVというのは、一般的にはどんなに豪華なオプションを装着しても走りがガサツだったりと、どう頑張ってもネガティブな部分に目が向いてしまうのだが、ことDS3クロスバックに限っていえば、そうしたネガはいっさい感じることがなかった。
プレミアムという言葉は一見、「コンパクト」と相反するもののように感じるが、DS3クロスバックに乗ると、まさに「プレミアム・コンパクトSUV」という呼び名がふさわしく思えてくる。ほかに似たクルマがないエクステリアも、きらびやかななかにも落ち着いた印象があるインテリアも、フランスのモデルらしいアバンギャルド(前衛的)なプレミアム感に包まれている。
ドイツ・プレミアムブランドのモデルにはない、この妖しい高級感。DS3クロスバックは、他人とは違った価値を求めるユーザーにお勧めの1台だ。
ちなみに2020年中には、フルEVバージョンの「DS3 クロスバック E-Tense」が日本にも導入される予定だ。
DS3 CROSSBACK GRAND CHIC
・車両価格:411万5000円
・全長:4120mm
・全幅:1790mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2560mm
・トレッド前/後:1540mm/1550mm
・車両重量:1280kg
・エンジン形式:直列3気筒ターボ
・排気量:1199cc
・駆動方式:FF
・変速機:8速AT
・最高出力:130ps/5500rpm
・最大トルク:368Nm/1750rpm
・サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
・ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
・タイヤ前後:215/55R18
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