この記事をまとめると
■ジムカーナ競技の最高峰である全日本ジムカーナの活動費用を調査
金食い虫のモータースポーツのなかではかなり手頃! 全日本ダートラに「かかるお金」をズバリ選手たちに聞いてみた
■クラスごとに予算は異なりPNクラスでは年間100万円前後から参戦可能なケースもある
■走る魅力と達成感を原動力に高額でも多くの社会人が挑戦している
もっとも敷居の低い参加型モータースポーツの最高峰の活動費用は?
全日本ジムカーナ選手権第5戦「北海道オールジャパンジムカーナ」が6月21~22日、北海道砂川市のオートスポーツランドスナガワを舞台に開催。第1ヒートは雨/ウエット、第2ヒートは曇り/セミウエット・ドライといったように難しいコンディションとなるなか、第1ヒートから各クラスで激しいバトルが展開されていたのだが、果たして彼ら全日本ドライバーは、どのくらいの予算で活動しているのだろうか?
というわけで、今回は第5戦・北海道ラウンドの会場で、数名のドライバーに全日本ジムカーナ選手権における活動予算を直撃。以前、全日本ダートトライアル選手権や全日本ラリー選手権の活動予算をリサーチしてみたが、さすがはモータースポーツの入門カテゴリーといわれているだけあって、全日本選手権ながら、ジムカーナはなかなかリーズナブルな金額となっている。
なかでも、1500cc未満の前輪駆動のPN車両で争われるPN1クラスは、コンパクトカーかつ改造範囲が狭いことから、参戦コストも低く、22号車のヤリスで同クラスに挑む矢島 融選手は、わずか100万円でシリーズに参戦している。
「1戦あたりのコストで考えるとエントリーフィーが約5万円。あとは遠征先にもよりますが、ガソリン代と高速代は1戦あたり3万円ぐらい。宿泊代が7000円ぐらいなので1戦にかかる費用が約9万円ぐらいです。つまり、全8戦に出るなら、エントリーフィーと交通費、宿泊代だけで約50万円。これに年間でタイヤを約4セット使うとするならば約40万円の費用がかかりますし、エンジンオイルやミッションオイルも年間で3回ぐらい交換しているので、約4万円はかります。実際には金曜日の練習会から参加しているので、もう少し費用はかかっていますし、北海道の遠征費はもっとかかっていますが、参戦するだけなら100万円あれば1シーズン、全日本に出場できると思います」と内訳を解説する矢島選手。
ちなみにハード面に関しても。「ダンパーとスプリング、ブレーキパッド、LSDぐらいなんですけど、ホイールが2セット以上は必要ですからね。それでもベース車両にプラスして、改造費が100万円あれば十分だと思います」と語っているだけに、競技車両としてはリーズナブルな金額となっている。
これと同様に1500cc未満で後輪駆動のPN車両を対象とするPN2クラスもなかなかリーズナブルな金額で、32号車のロードスターで同クラスに挑むSHUN選手は年間100万円の予算で活動している。「僕は自走しているので遠征費は安く抑えられていると思います。あとはエンジンオイルも2戦に1回、ミッションオイルも3戦に1回のペースで交換しているので、そんなに費用はかかっていないと思います」とのことだ。
とはいえ、SHUN選手は2024年のPN2クラスでチャンピオンを獲得するなど、豊富な実績をもつことから、現在はタイヤメーカーがタイヤを供給。つまり、SHUN選手の参戦コストにはタイヤの購入費用が含まれていない。
「正直、コンディションによっては新品タイヤでなくてもタイムが出ますので、チャンピオンを取ったシーズンも年間5セットぐらいで戦っていました。うまく戦えば4セットでも十分にマネジメントできると思います。その場合、タイヤを購入したら、プラスで70万円ぐらいですかね」とSHUN選手は解説する。
ちなみにSHUN選手のロードスターも、「ロールバーが必要になりますが、ベース車両に100万円の改造費で競技に参戦できると思います」とのことで、リーズナブルな金額だといえるだろう。
また、同じPN車両でも1500cc以上の二輪駆動車を対象とするPN3クラスでは、より多くの予算をかけているドライバーもいるようで、GR86で同クラスに挑む野島孝宏選手は約200万円で1シーズンを戦っている。
「エントリーフィーや交通費・宿泊費は、ほかのドライバーと変わらないと思いますが、僕の場合はメカニックにきてもらっているので、その人件費がかかりますからね。1戦あたり約25万円で計算しています」と野島選手。さらに、野島選手もタイヤと油脂類はサポートを受けているようで、「タイヤを購入するなら年間で130万円ぐらい必要でしょうね」とのこと。
そこに油脂類のメンテナンス費用を加算すると年間で350万円の参戦予算は必要になってくることだろう。野島選手によれば、PN3クラスのGR86に関しても、気になるハード面の予算はベース車両にプラスして改造費が100万円前後……とのことだが、やはりメカニックが帯同するとなると、かなりのランニングコストが必要になっている。
多大なコストを押してでも熱中する価値のあるジムカーナの魅力
一方、四輪駆動のB・SC車両を対象とするBC3クラスは、全日本ジムカーナ選手権の最高峰クラスということもあって、ランニングコストは高く、同クラスにGRヤリスで挑む一色健太郎選手は「積載車両が必要になってくるし、メカニックも必要なので、だいたい年間で350万円はかかっていると思います」と語る。
しかも、この金額はタイヤ代と油脂類を除いた金額で、一色選手によれば「タイヤやオイルはサポートをうけていますが、もし購入するとしたら、追加で200万円ぐらいかかると思います」とのことだ。
さらに、B車両は車検対応の範囲、SC車両はナンバーなしの範囲で自由に改造できることから、BC3クラスはハード面でもかなりの予算が必要になっているようで、「最低限の改造なら、ベース車両に200万円をプラスすればBC3クラスに出場できると思いますが、上位を争うつもりなら1000万円ぐらいの費用は必要になってきます。僕のクルマもエンジンは1750ccキットを入れているんですけど、部品だけで130万円はかかるし、ミッションも150万円、クラッチも100万円ぐらいかかっています。僕が乗っているクルマはATSのデモカーという位置付けなので多くのパーツをサポートしてもらっていますが、なにもサポートを受けない状態で作ろうとしたら1500万円ぐらいはかかっていると思います」とのことだ。
入門向けのカテゴリーとはいえトップクラスはドン引きするレベルの車両コストだが、前述のとおり、比較的にリーズナブルなPNクラスでも年間のランニングコストは100万円が必須である。一般の会社員にとって100万円はなかなかの金額だが、それでも全日本ジムカーナ選手権に参戦し続けるのは、やはり同シリーズに魅力があるからにほかならない。
「人と競って客観的な順位が付く競技が好きなんですね。スキーのタイム競技ができればそれでもよかったけれど、クルマが好きということもあって僕はジムカーナでした。やっぱり、タイム争いは面白いですね」と、一般企業の会社員ながらPN1クラスに挑む矢島選手が語れば、普段は大学の事務員として働きながらPN2クラスに挑むSHUN選手も「自分のドライビング技術が進化していることがタイムでわかるし、セッティングによるクルマの動きの変化も生き物みたいで楽しいです。データをもって予想しながらセッティングをするところが面白いですね」と語る。
さらに、農業を営みながらPN3クラスに挑む野島選手は、「イメージどおりに走れたときの充実感はジムカーナならではの魅力だと思います。それに優勝したときの喜びは格別ですね」とコメント。
そして、製造業の会社に勤務しながらBC3クラスに挑む一色選手は、「収入のほとんどをジムカーナに注ぎ込んでいますが、人生のなかで“日本一”になれることってあまりないですよね。クルマが好きなので、ジムカーナなら日本一を目指せるかも、というところからはじまって、実際にシビックでチャンピオン(注:2019年全日本ジムカーナ選手権・SA1クラス)になれたし、今度はGRヤリスでタイトルを取りたいと思ってチャレンジしています」と語る。
さらに、一色選手は「クルマの運転がうまくなれば一般道でも危険の回避ができるし、クルマの知識が増えれば自分でトラブルにも対応できるようになる。なにより競技会の会場に来れば、普段の生活では会えないようないろんな人に出会えて、いろんな話を聞くことができることも魅力だと思います」と付け加える。
このようにモータースポーツの入門カテゴリーであるジムカーナは魅力が満載だ。当然、全日本選手権に参戦するためにはそれなりのコストが必要になるが、それでも大人が熱中できるだけの面白さが秘められている。
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