レーサーとしての活動を含め、数多のクルマに乗ってきた自動車ライターが今なお最高峰と絶賛し買い戻したいと切望するクルマがある。今なお忘れられないその名車への熱い想い。 極寒のテストコースで叩き出した驚愕の走行性能や所有した者だけが知る極上のパワーユニットがもたらす走りの質感……さらに、かの有名SUVへと受け継がれた知られざる開発秘話まで中谷明彦氏が激白する!
文:中谷明彦/写真:ベストカーWeb編集部ほか
【画像ギャラリー】数え切れぬほどクルマに乗ったプロが絶賛する7シリーズ(E38)がコレ! ベストカー所蔵の740iと3代目レンジローバーの蔵出し写真もあるゾ!(21枚)
ベンチマークとしての1台 雪道で衝撃を受けたE38型7シリーズ
これまで数え切れないほどのクルマを試乗し、所有してきた台数も多い。その中で「もう一度買い戻したいクルマは何か」と聞かれたなら、迷うことなくBMW7シリーズを挙げるだろう。
1995年から2001年にかけて販売されたは、自身にとって今なおクルマの評価基準、いわばベンチマークとなる存在なのだ。
E38型7シリーズとの最初の出会いは冬の北海道で開催された試乗会だった。雪に覆われたテストコースで750iを走らせたときの衝撃は、今でも鮮明に覚えている。特に印象的だったのはそのトラクション性能の優秀さだ。当時国産の四輪駆動車でさえスタックしてしまうような雪道だったにもかかわらず、後輪駆動の750iは高度な電子制御トラクションコントロールを駆使し、難なく登坂していったのだ。
さらにハンドリングコースでは、雪上とは思えないほど正確なライントレース性能を発揮し、安定した姿勢を保ちながら思い通りにパワースライドまでコントロールできた。大型高級セダンの常識を覆す走りに、すっかり魅了されてしまった。
まさに絶品、V12エンジン搭載フラッグシップという至高
その体験が忘れられず、後に中古の740iを購入した。4.4L V型8気筒自然吸気エンジンを搭載した740iは、750iLほどのロングホイールベースではなかったものの、十分すぎる室内空間を備えていた。
タンカラーのレザーを採用したインテリアは高級感に溢れ、前席は左右とも電動パワーシートを備える。シートヒーターは全席に備わり、電動チルト/テレスコピックステアリング、電動ランバーサポートなど、当時考えられる高級装備が惜しみなく盛り込まれていた。
しかし、本当に感動したのは走りだった。路面の小さな継ぎ目や凹凸を驚くほど抑え込み、不快な振動をほとんど室内へ伝えない。そのしなやかな乗り味は、現代の高級セダンと比べても決して色褪せていない。
実際、その後に国産スポーツカーで同じ道を走った際、路面の荒れや細かな振動がこれほど多かったのかと改めて気付かされE38の完成度の高さを再認識したほどだった。
約4年間で6万kmほど乗り続けたが、その完成度に惚れ込むと、さらに上のモデルが欲しくなってしまう。そして選んだのがV12エンジンを搭載するE38型750iLである。BMWのV12は同社が得意とする直列6気筒の滑らかさをそのままV12型へ発展させたようなエンジンだった。5.4Lの大排気量から生み出される圧倒的なトルクとシルクのような回転フィールは、まさに別格だった。
ただ豪華なだけではない、名車とはなにかを教えてくれる存在
しかも当時、このV12エンジンをベースとしたユニットはマクラーレンF1 GTRやBMW V12 LMRにも採用され、自身もドライブしたル・マン24時間レースでその耐久性を証明していた。そうしたモータースポーツでの実績も、このエンジンへの信頼をさらに高めていた。
750iLは740iより約14cmホイールベースが長く、そのほとんどが後席スペースに充てられていた。後席には電動リクライニングが備わり、サンシェードやテーブル、シートヒーターなども装備される。当時としては驚くほど贅沢な空間だった。
サイドウインドウには二重ガラスが採用され遮音性も極めて高い。外界から切り離されたような静寂の中で、V12エンジンはほとんど音も振動も感じさせず、滑るように加速していく。約1.7tの車重をまったく感じさせない操縦性と、しっとりとしたステアリングフィール。
この「滑らかさ」と「安心感」が絶妙なバランスで共存していた。そして、この乗り味こそが現在でもクルマ評価の原点となっているのだ。
「乗り味が同じ理由」に納得! レンジローバーとの意外な系譜
興味深いことに、その感覚を再び味わえたクルマが1台だけ存在した。2002年に登場したレンジローバーである。
自身750iLで試乗会場へ向かい、そのままレンジローバーへ乗り換えた瞬間「これは750iLと同じ乗り味だ」と驚いたのを覚えている。
試乗後、その感想を独人の開発エンジニアへ伝えると、彼は満足そうに微笑み「そう感じるのは当然だ。私がE38型7シリーズを開発し、BMW社を辞めてこのレンジローバーの開発も担当したのだから」と答えたのである。表に停めてある750iは君の車だったのだね、と笑っていた。
さらに彼は、その乗り味の秘密まで教えてくれた。鍵となるのはフロントサスペンションを支えるクロスメンバーであり、レンジローバーにはE38型と全く同じクロスメンバーを採用していたという。そのサプライヤーとの関係まで含めて、この構造がなければ独特の乗り味は再現できないと語っていた。
その違いに気付いてもらえたことを彼自身がとても喜んでくれたことも印象に残っている。そして彼は最後に「E38型7シリーズは20世紀最高傑作だ」と断言した。私はその言葉に全面的に賛成である。
E38が「20世紀最高傑作」であり続ける理由
もちろん欠点もあった。街乗りでは燃費は5km/L前後、100Lタンクへハイオクを満タンにすれば維持費は決して安くない。それが理由で最終的には手放すことになった。それでも、もし十分な保管場所と維持する余裕があるなら、今でも再所有したい一台だ。
自身は実は750iを2台所有した。1996年式と最終型となる2001年式である。装備面では2001年型の方が進化しており、ワイドナビやルーフアンテナなど現代的な仕様になっていた。
しかし、大型バッテリーをトランクへ2基搭載するなど重量配分にはやや無理があり、完成度という意味では初期型の1996年モデルの方が優れていたという印象だ。
実際、熱心なオーナーの中には1998年以前の完成度が高い車体へ後期型のナビやアンテナだけを移植して乗り続ける人もいた。それほどまでにE38型7シリーズは多くのオーナーを魅了し続けたクルマだったのである。
時代は変わり、自動車は電動化やデジタル化が急速に進んでいる。しかし、ドライバーがステアリングを通じて感じる安心感や、路面をいなすサスペンションの上質さ、長距離を走っても疲れない乗り味といった価値は、決して色褪せるものではない。
だからこそ私にとってE38型BMW 7シリーズは、今なお「買い戻したい一台」であり、20世紀最高傑作車として、そのドライブフィールを感じ続けていたいと思うのだ。
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みんなのコメント
家と車の存在感が全く釣り合ってないので、きっとよほど走りが気に入ってるんだろうな。
しょっちゅうトラブっているのか、2~3か月単位で代車に変わってるにもかかわらず、継続してるのがスゴい。
乗り換えたのと思うと忘れた頃に復活する(笑)
王者Sクラスではなく、ちゃんとスポーティーでエレガントな7シリーズにも存在意義がありました。
それに比べて、現行7シリーズって、、、
世界一ブサイクなセダン選挙を開催したら、必ず現行7シリーズはノミネートされますね。