インディアンが目指しているスポーティの境地を具現化
1901年創業、アメリカ最古のモーターサイクルメーカーであるインディアンモーターサイクル(以下インディアン)。2021年にはスタンダードクルーザーであるチーフの生誕100周年を記念して既存シリーズをフルモデルチェンジし、2023年には新モデルの「スポーツチーフ」がお目見えした。今回はMIGLIOREディレクターの小川(バイク歴30年)と編集のムラタ(バイク歴1年10カ月)が、スポーツチーフとともに暮秋の富津海岸へ向かった。
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インディアン流『クラブスタイル』の最新型
スポーツチーフ試乗前夜、バイク歴1年10カ月の私(ムラタ)は慄いていた。少しずついろんなバイクに試乗する機会が増えたとはいえ、スポーツチーフは排気量1890cc/燃料搭載時で311kgというビッグマシン…。これこそアウトローの重量車に違いない!と、勝手に思い込んでいた。
試乗当日、インディアンモーターサイクルの老舗/PLAIN Indian Motorcycle YOKOHAMAで初対面したスポーツチーフ。10インチのライザーバーで高めにセットされたハンドルは、まるでライダーを威嚇しているかのように見えたし、やはりデカかった。
とはいえ、少し見慣れてくると印象は変化。なにより今回お借りしたルビースモークのカラーをまとったマシンは美しかった。見ようによっては、削り出しのトリプルクランプと10インチのライザー(オプションアクセサリー)を備えたハンドルまわりは、バレエのルルベ(バレエシューズでのつま先立ちのこと)のような気品があり、洗練されたバイクに感じる自分もいるのだ。とはいえ、実際に乗ってみるとあばれ馬に違いない! と、勝手に不安を抱いていた。
MIGLIOREディレクターの小川がスポーツチーフを試乗し、私はその後ろをスカウト ローグで走行。この日の目的地である千葉の富津海岸を目指した。
インディアン スカウト ローグ 試乗インプレ【“クルーザー”という先入観を打ち消してくれるスポーティーさと軽快さが魅力】はこちら
―― アメリカでは、大排気量クルーザーをベースにして走りのパフォーマンスを高めたカスタムバイクを「クラブスタイル」と呼び、昨今では一つのカテゴリーとして確立。このスタイルをインディアン流に提案するかたちとして生まれたのがスポーツチーフと言っても、過言ではないだろう。
―― ライディングモードは、スポーツ/スタンダード/ツアーの3つから選択することが可能。
―― シート高686mm、身長165cmの小川が跨った様子。両足裏がベッタリと着き、見た目よりも違和感のない自然なライディングポジションを取ることが可能。
―― シート高686mm、身長173cmの村田が跨った様子。シートの形状が立体的で必然的にポジションが決まるため、自然なライディングスタイルが完成。
排気量1890ccの空冷Vツインエンジン「サンダーストローク116」
首都高速から東京湾アクアラインへと流れていく道中、後ろから眺めるスポーツチーフは走行モードを変えたときの加速変化が驚きだった。後ろから見ても、小川がスポーツモードに変えたタイミングが瞬時に分かるほどだった。
単にアクセルを回した加速とは明らかに異なっていた。地を這うようなロー&ロングなスタイルで、空気を切り裂いているかのような鋭さで前進し、私との距離が一気に広がっていく。あの巨体をあの勢いで加速させるスポーツチーフとは何者なのか? 一体、実際に乗っているライダーはあの加速感をどう感じるのだろうか? と興味がわいた。
―― 途中で私もスポーツチーフに試乗。人生最大排気量バイクの試乗のため、おとなしくスタンダードモードのみを使用。それでも十分なパワーを体感。とくに信号待ちなど停車時に全身で感じた鼓動感は、まさに乗馬で感じるようなマッシブな存在感で印象的だった。
チーフ100周年を記念して2021年に誕生した現行のチーフシリーズは、アメリカンモーターサイクルの栄光の時代にオマージュを捧げたラインナップが特徴。スポーツチーフが発表された際には、「気負うことのないライディングスタイルとアメリカンマッスルのダイナミックさを維持しつつ、パフォーマンスクルーザーの水準をさらなる高みに引き上げるコンポーネントパーツでまとめ上げたいと考えてた」と、インダストリアルデザイン担当ディレクターのオラ・ステネガルドさんはコメントしている。
このパフォーマンスクルーザーというキャラクターを語る上で欠かせないのが、排気量1890ccの空冷Vツインエンジン「サンダーストローク116」だ。このエンジンの個性とパワーを引き立てるように、スポーツチーフのサスペンションは、フロントにKYB製倒立フォーク、リヤに4インチ(約100mm)のトラベルを持つFOX製の2本ショックを採用。ブレーキはブレンボ製のラジアルマウントキャリパーで構成され、ハンドリングの良さと高パフォーマンスをかなえるための充実した装備も魅力だ。
―― 【2024 INDIAN MOTORCYCLE SPORT CHIEF】主要諸元 ■全長2301 全幅842 全高1270 軸距1640 シート高686(各mm) 車重302kg ■水冷4ストOHV49度V型2気筒リアシリンダー休止システム付/サンダーストローク116 1890cc 内径103.2×行程113mm 圧縮比11:1 最大トルク16.52kg-m/3200rpm 変速機6段 燃料タンク容量15.1L ■キャスター28°/トレール111mm ブレーキ形式F=φ320mmWディスク+4ポッドキャリパー R=φ300mmディスク+2ポッドキャリパー タイヤサイズF=130/60B19 R=180/65 B16 ●価格:ディーラーへお問い合わせください
―― 排気量1890ccの空冷Vツインエンジン「サンダーストローク116」は最大トルク162Nm。ピッチが細かいシャープな冷却フィンなど造形も美しい。他のインディアンの最新モデルと同じく、気筒休止システムを搭載。停車時にリヤシリンダーをひとつ休止することで、エンジンからライダーに伝わる熱を抑えてくれる。
―― オプションのパワーフィルターを装着。これによりアクセルを開けた際の吸気音も明確に。丸みのあるデザインのエンジンまわりは、いつまでも眺めていられるほど。OHVならではのプッシュロッドや高さを抑えたまとまり感が、クラシカルでありつつモダンな雰囲気を醸し出す。
―― オプションのFoxパフォーマンスアジャスタブルピギーバック型リヤショックを装着することで、見た目と性能のスポーティーさを演出。タイヤはピレリのナイトドラゴンを装着。フロントブレーキにはブレンボ製の4ピストンキャリパーとφ320mmの2枚のセミフローティングロータークルーザーを採用。クルーザーなのに、スポーツバイクのようなブレーキを装備している点も、このバイクのキャラクターを物語っている。
―― 駆動はベルトドライブで、静粛性とメンテナンス性を両立。テールライトはウインカーと共用。
―― モードはツアー/スタンダード/スポーツから選べる。3種類は明確な違いがあり、スポーツはかなりアグレッシブだ。4インチ&タッチスクリーン仕様のデジタルメーターは、デザインが異なる2種類の表示をワンプッシュで選択できる。
―― 今回借りた車両には、ノーマルより大型のウインドディフレクターを装着。ヘッドランプは特徴的なデザインのフルLED。オプションでタンデムシートやステップも用意されているので、タンデムも可能だ。
―― 巨体を軽々と動かすことが可能。スポーツチーフはきちんとハンドリングが考慮され、ステップを擦りながらダイナミックなコーナーを楽しむことも可能。立ち上がり重視の組み立てて、独特のスポーツワールドを楽しみたい。
「スポーツチーフ」のスポーツモードは心して乗るべし!
この日、小川とは互いにバイクを交換したりして千葉の富津海岸へ向かった。インディアンの2台(スカウト ローグとスポーツチーフ)を乗り比べる機会を経て、バイク歴30年のモーターサイクルジャーナリストはどう感じたのかを聞いてみた。
小川「スポーツチーフは、見た目と乗り味のギャップがおもしろい! 1890ccだからもっとヌルリとしたエンジンだと思っていたけれど、乗ってみるとライダーに“回せ!”と訴えかけてきて、そして回した時の加速はすごかったね」
村田「スポーツモードの加速は、側から見ていても驚きでしたよ」
小川「あの加速はまさに痛快。普通は全開にできないと思う…。5000回転しか回らないエンジンだから、3000回転を越えたらもう高回転の領域に入るんだけど、たびたびバイク自体がその領域に飛び込みたがるというか…。要はスポーツモードはかなりイケイケなのよ。洗練とかスマートさとはかけ離れていて、良い意味でワイルド。まるで猛獣に乗っているような感じ」
村田「インディアンのエンジンは、良い意味でどれもスポーティーな傾向が強いって言ってましたもんね。それがより明確になっている感じなのかな」
小川「そう、スポーツモードはそこに一切のブレがない。1890ccなのに…本当にビックリした。一方でスタンダードモードはマイルド。でも、排気量のわりには、トルクで走るというよりは、やっぱりきちんと回転を上げて走りたくなる。通常はスタンダードモードで、きちんと気持ちを入れ替えてスポーツモードをたまに楽しむような感じかな。スポーツモードはスキルも必要だけど、インディアンが目指した凄まじい加速と、スポーティーなクルーザーの世界を多くの方に知ってほしい」
村田「私は今回スタンダードモードのみで試乗したけれど、マイルドだなという印象は確かに同感! スカウトシリーズ以上にスポーツチーフのスタンダードモードはジェントルで、それは丁寧に調教された馬に乗った時のような上質さも感じたというか…」
小川「そう。良いバイクに乗っているという実感はすごく高い! ユニークなポジションのハンドルだなと思っても、乗ってみるとカチッとキマるし、加速も受け止めてくれる。ハンドリングも独特で、豪快な立ち上がりを重視した組み立てをすると、コーナリングもズバズバ決まる。巨体を駆る感覚が抜群に楽しいんだよね。こういった走りの魅力を知ると、インディアンってやっぱり面白いメーカーだなと思う。これが彼らの求めるアメリカのスポーツバイク。スポーツとファッションをリンクさせて、日本でも自由なスタイルで楽しんでほしいね」
村田「今回試乗後に、インディアンモーターサイクルの老舗/PLAIN Indian Motorcycle YOKOHAMAの三浦さんにお話を伺った時も『長年クルーザー乗りを見てきたけど、インディアンを選ぶライダーはジェントルな人が多いよ。さらに言うと、見た目やファッションでなくバイクそのものが好きな感じ。だから、一見するとクルーザーだけど、走るとスポーティーというスポーツチーフを選ぶと、より新しい世界を体感できるんじゃないかな』とおっしゃっていたのが印象的でした。
私自身もクルーザーの印象が大きく変わった1台。いつかスポーツモードでも乗って、その暴れっぷりを体験してみたいですね!」
―― 今回一緒に借りたスカウト ローグと一緒に。
―― 絶妙な深みのある赤が印象的で、ブラックアウトしたディテールがその色をより引き立てている。
―― 日が暮れるにつれ、その光に照らされるスポーツチーフは、日中とは異なる色気のある表情を見せてくれた。
―― オプションのサイドバッグを装着して、このままもっと遠くまで走りたい…。旅に出たいという衝動に駆られる。
―― インディアンのバイクは各所にロゴなどの意匠が施されており、こうした細かな美しいデザインが所有欲を満たしてくれる。
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スポーツチーフは5カラー展開
―― ブラックスモーク
―― ゴーストホワイトメタリックスモーク
―― グラナイトグレー
―― スモーキークォーツメタリックパール
―― サンセットレッドスモーク
―― 今回の撮影用に借りたのは、2023年モデルのルビースモーク/336万円
―― 今回借りた車両には、10インチChief Motoハンドルバーライザー/Chiefクォーターフェアリング トールフレアードウインドディフレクター/サドルバッグ/Foxパフォーマンスアジャスタブルピギーバック型リアショック/ピナクルミラー/Chiefシンジケートシートなどのオプションパーツが装着されている。
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