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苦労を選んだはずの埼玉トヨペットGreen Brave。本人たちも予想外の劇的勝利《第1戦GT300決勝あと読み》

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苦労を選んだはずの埼玉トヨペットGreen Brave。本人たちも予想外の劇的勝利《第1戦GT300決勝あと読み》

「うちの代表は、より苦労する方をとるんですよ(苦笑)」

 新型コロナウイルスの影響でもう今から半年前になってしまったが、GRスープラのボディをまとったJAF-GTマシンが富士スピードウェイでシェイクダウンされたとき、埼玉トヨペットGreen Braveの関係者は笑った。2019年、チームは躍進の一年を遂げた。第1戦富士ではチーム初の表彰台を獲得、第5戦富士では堂々たるトップ争いを遂げた末の2位。同じパッケージでも2020年は戦えたはずだが、チームは新型車両、それもブランニューのJAF-GT車両を投入することを決断したのだ。加えて、吉田広樹のパートナーには、ルーキーの川合孝汰を起用した。2019年と同じようにはならないはず……。チームも含めて、そんな予想が大半だった。

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「昨年は惜しいところまでいったので、早いうちに勝ちたいと思っていましたが、あいにく新車に変えてしまったので(笑)、『またこれからふたたび積み上げなのか』と思っていました。なので、こうして開幕戦で勝てるとは思っていなかったですね」とレース後笑顔をみせてくれたのは、先ほどのコメントのなかでの『うちの代表』、平沼貴之チーム代表だ。

「いまは喜び半分、驚き半分という感じです。テストが良かったので期待はしていたんですけどね」

 とはいえ、その予兆はあった。シェイクダウン時からこのマシンはトラブルもほとんどなく、岡山、そして富士の公式テストでもスピードは十分。何よりルーキーの川合も好タイムをマークしていたからだ。不安定な天候で、公式練習の時間が少なかったにもかかわらず、予選でも川合がQ1を見事突破。「はじめて後輩と組む」という吉田がQ2で4番手につけた。

 そしてチームが考えた戦略が、JAF-GT+ブリヂストンだからこそできるタイヤ無交換作戦だ。しかし、川合は初めてのスーパーGTであり、これまでフォーミュラで育ってきていただけに、タイヤを温存する走り方も初めて。「僕がタイヤを使ってしまうクセがある」と川合も認めていたが、予選順位が前方だったこともあり、中団のバトルでタイヤを酷使する心配も少ない。川合がスタートを務め、タイヤ無交換作戦を良く知る吉田が後半を務めることになった。

 レースは序盤から川合がクレバーなバトルで順位を上げ、チームの想定どおりに進むが、暗雲が立ちこめたのが、37周目に投入されたセーフティカーだ。すでに無交換でピット作業を終えていたSAITAMATOYOPET GB GR Supra GTはトップに立っていたが、コクピットにいた吉田に苦い記憶が蘇る。

「またこれかよ! 去年と一緒だ。この後何台抜かれるんだ……」

「これ」とは、昨年の第5戦のこと。同様に無交換作戦を採っていながら、セーフティカーのタイミングで勝利には届かなかった。無交換作戦は、タイヤは厳しくなるために四輪交換組のペースが優る可能性もある。リスタート後、吉田はトップを守るが、後方からGAINER TANAX GT-Rも追い上げていた。「まだなのか……」吉田にとってチェッカーは遠い。ピットの川合も「SC明けはもう長くて長くて……。ずっと祈っていました」とモニターを見つめた。

 昔の吉田なら、ここでミスを犯していたかもしれない。しかし、「それを気にしてプッシュできないのは良くない」と最後まで集中を切らさず、待ちに待ったチェッカーを受けた。長年スーパーGTに参戦し、やっと掴んだ初勝利。そして川合はまさかのデビュー戦での優勝だ。「夢のようです」と川合は笑顔をみせた。

■多くのライバルたちも祝福した勝利
「やっとです! まだ勝利の実感はあまりないですね。チェッカーを受けたときは『はやく終われ!』と思っていたので、そのときは感じたのですが、いまは少し落ち着いています。でもこうしてみんなが祝福してくれるので、それでまた実感しています。チームも喜んでくれていると思うので、それが何よりですね」と吉田はホッとした表情でレース後語った。9年目のGT300でようやく手にした栄冠だ。

 もちろん、吉田の言うとおりチームの喜びもひとしおだ。埼玉トヨペットGreen Braveは、他のチームと異なり埼玉トヨペットの社員たちで構成されたチーム。「この勝利が人材育成にはずみをつけてくれますし、社員ひとりひとりがモチベーション高くやってくれています。彼らを目指す若手後輩社員、学生が増えてくれると思っていますし、この勝利をきっかけに、少しでもクルマ業界が盛り上がってくれれば嬉しいな、と思っています」と平沼代表は語った。

 そしてこの勝利は、多くのライバルたちが祝福するものでもあった。SAITAMATOYOPET GB GR Supra GTは、製作にあたってはTOYOTA GR SPORTS PRIUS PHV apr GTを走らせるaprが協力した。設計や製作はaprのファクトリーで行われ、そこに埼玉トヨペットGreen Braveのスタッフが加わって作り上げられたクルマだ。

「うれしいことですよ。僕たちを信頼してくれて、基本設計や製作も僕たちの工場でやったけれど、埼玉トヨペットさんもフレーム作るところから一緒にやって、向こうの意見で設計を変えたことだってある。クルマに対する情熱がすごい」とaprの金曽裕人代表。

「彼らが本当に情熱的にクルマを作りたいという思いがあったんです。ひとつひとつを探求するし、なんでも質問してくる。だから素直におめでとうと伝えたいですし、(プリウスとGRスープラの)3台のうち、1台でも『僕たちが作ったものがすごい』と証明したかったから、レース終盤はずっと応援してました(笑)。僕にとってもすごく幸せです」

 また、ライバルや先輩たちに“愛される”キャラクターの吉田、川合のもとにはたくさんのドライバー、スタッフが祝福に訪れていたのも印象的だった。ちなみに吉田によれば、“師匠”の服部尚貴レースディレクターも、表彰式の前に手荒い祝福をしてくれたという。

 GT500クラスのGRスープラ勢の完勝に花を添え、かつチームにとっても最上の喜びとなった開幕戦。しかし、ドライバーふたりはまだまだ前を向く。「まず1勝はできたのですが、シリーズを考えると甘くないのは分かりますし、これでウエイトの60kgを積むと大きく変わると思います」と吉田。また川合も「タイヤの使い方は今後の課題ですし、ウエイトも積んだらまた謙虚に出てしまう。自分のなかでは、まだ完璧に仕事がこなせて勝てたかというとそこまでではないですし、まだ先だとは思いますが、ファンの皆さんがスタンドにいる、あの雰囲気のなかで勝つのが次の目標です」と意気込んだ。

 同様に、「重かろうがトラブルがあろうが、淡々とポイントを獲れるような強さを身につけたい」と平沼チーム代表はまだまだ満足していない様子だ。当然、ライバルたちも手をこまねいているわけはない。埼玉トヨペットGreen Brave、そしてドライバーふたりは今回こそパーフェクトなレースを展開したが、今後要求されるものも上がるだろう。

 とはいえ、やはりフレッシュなウイナー誕生は新鮮な気持ちにさせてくれる。新型コロナウイルスの影響で延びに延びた開幕戦だったが、新時代を感じさせる一戦となった。

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みんなのコメント

2件
  • 脇阪薫一を切ったのが良かったのでしょう。
    サーキットで会ったことあるけど、ものすごい横柄な奴だった。兄とは雲泥の差、レーサーとして足元にも及ばない意味が分かった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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