ウィリアムズからF1復帰
F1にたどり着く人は少ない。また、たどり着いた人の中でも、そのほとんどが一度しかチャンスを掴めない。アレックス・アルボンは、最初はトロ・ロッソ(現アルファタウリ)、2019年から2020年にかけてはレッドブルでチャンスを得たが、チームメイトのマックス・フェルスタッペンの存在もあり、そのチャンスを最大限に生かすことができず、2021年は傍観者になってしまった。
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しかし、ロンドン生まれ25歳のタイ人であるアルボンは今年、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)に参戦する傍ら、レッドブルのリザーブドライバーとして一年を過ごし、来年はメルセデスに移籍するジョージ・ラッセルの後任としてウィリアムズに復帰することになっている。当初は1年契約だが、レッドブルは将来のための選択肢を残している。
「プランAは常にF1だったけど、それが叶わない場合に備えて選択肢を用意しておいた」とアルボン。「インディカーも見たし、フォーミュラEという選択肢もあった。でも、自分が本当の意味で楽しんでいるのはF1だということがはっきりしたよ」
「メディアではウィリアムズやアルファ・ロメオの話題が多かったけど、その背景では結構自信があった。ヨースト(ウィリアムズのCEOであるカピート)と初めて話した感じは、かなり良かった。F1のすべてのことがそうであるように、一度決定が下されると、すべてがあっという間に起こり、すべてが数週間のうちに終わってしまったんだ」
穏やかな口調のアルボンにとって、これは大きな転機となった。彼は、過去に対戦した人たち(特にラッセル、シャルル・ルクレール、ランド・ノリス)からその才能を高く評価されているドライバーだ。実際、ノリスは、アルボンがカートで活躍していた頃、彼のポスターを壁に貼っていたことがあると認めている。しかし、トロ・ロッソからレッドブルに昇格した2019年は有望なスタートを切ったものの、2020年は2回の表彰台獲得にとどまるなど苦戦を強いられた。
チーム代表のクリスチャン・ホーナーとレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコは、もう1シーズン引き留めることを正当化しようとしたが、アルボンはそれに応えられなかった。その結果、経験豊富なセルジオ・ペレスと交代することになったのだが、彼は今年、フェルスタッペンしか乗りこなせない運転の難しいレッドブルのマシンで苦戦を強いられている。
「今年を見てもわかるように、レースに参加してマシンに慣れ、すぐにスピードに乗れるようになるのはそう簡単じゃない」とアルボンは話す。
「でも、みんな僕を信じてくれた。ヘルムートやクリスチャンとの関係は常に良好だ。大変なときでも彼らは僕をサポートして、今年もF1に参加させてくれた。シミュレーターではとても良い仕事ができているし、新しいタイヤなど、来年のマシンのことも考えている」
「ヨーストと最初に話したときも、彼のサポートと信念をすぐに感じた。このチームとは絶対に一緒にいたいという気持ちになったよ。来年に向けて集中し、彼らと一緒に仕事ができることに喜びを感じている」
傍観の一年を終えて
重要なのは、レッドブルで果たせなかったことを、ウィリアムズで実現できるかどうかということだ。チームメイトのニコラス・ラティフィは有能なドライバーだが、F1の世界では特別な存在というわけではない。アルボンは、ラッセルが過去3年間活躍してきたシートを引き継ぐと同時に、非常に好調なウィリアムズを牽引していかなければならない。
今年、ウィリアムズのフォームは劇的に改善され、アメリカGPまでに23ポイントを獲得することができた(過去3シーズンでは8ポイント)。ウィリアムズはミッドフィールダー以上の存在にはなりそうにないが、アルボンは結果を出せるチームに行くことになる。
また、傍観者であることも彼にとっては有益だったかもしれない。レッドブルの一員として積極的に活動しながら、2021年の苦闘を振り返ることができたのだ。延々と続くシミュレーターでの作業に加えて、2022年型のタイヤテストのためにレッドブルの18インチホイールのテスト車両に試乗することもあり、さらにはプロモーションのために現行マシンで数日過ごすこともあったという。そして、おそらく最も価値があるのは、F1の最前線から離れたことでF1に対して異なる視点を持てるようになったことであり、それがよりよいドライバーへの道に繋がると期待している。
アルボンは、今年得た新たな視点について、次のように語っている。
「今年は反省の年だ。去年を振り返って、『もっとうまくできたのではないか』と考えることがある。裏方に回ったことで、マックスやチェコ(ペレス)がこのような状況にどう対処しているかを見ることもできる。特にチェコの場合は、F1で10年の経験を持つチームの新加入者だったから、彼がどのように仕事を進めているかなど、状況を俯瞰できてよかったよ」
「それに加えて、シミュレーターや開発作業に携わることで、チームの全体像を把握することができる。レースチームだけではなく、ミルトン・キーンズにいるすべての人たちのこともね」
「来年のマシンのためにシミュレーターで多くの作業を行っているので、F1マシンの動作に必要なものを理解することができる。レースドライバーであれば決して話すことのないような人々とも会話を交わすことができるんだ。サーキットでは、コミュニケーションをとる人の数がとても少ないからね」
瀬戸際から立ち直る能力
アルボンには、1年間の活動休止の後にドライビングの鋭さを取り戻すという課題もある。F1のシーズン後もレースに参加している人たちでさえ、いくつかレースを重ねることで鋭さを取り戻していく。それがアルボンの今シーズンの重要な目標の1つだ。来シーズンのウィリアムズの競争力は知れないが、アルボンは自分の力を最大限に発揮し、マシンのポテンシャルを最大限に引き出すことに集中している。
「僕の場合、とにかくスピードを上げることだ。エステバン・オコンやフェルナンド・アロンソを見てもわかるように、1年休んだ後はペースを取り戻すのに少し時間がかかる。プレシーズンテストがあるので、早くスピードを取り戻して、正しくフィードバックしなければいけない」
「グリッド全体にとって新たなスタートとなる。チームとしてどこにいるのか、それは時間が経ってみないとわからない。重要なのは、最初にどこにいようとも、スタートが良くても悪くても、前進してマシンのパフォーマンスを維持または向上させることだ」
そもそも、なぜ2回目のチャンスを得たアルボンに活躍を期待するのか。結局のところ、ウィリアムズの現在のレベルを考えると、ドライバーを選ぶことはできなかった。特に、メルセデスからドロップアウトしたバルテリ・ボッタスがアルファ・ロメオへの移籍を決めたこともあり、アルボンはそうした状況の中では最高の人材であると言えるだろう。しかし、アルボンはキャリアの中で発揮してきた基本的な能力(チャンピオンになったことはないが、レースにはたくさん勝っている)だけでなく、「バウンスバックアビリティ(悪い状況から立ち直す能力)」と呼ばれるようなものなど、持つべきものは持っている。
彼がF1に参戦できたのは奇跡的なことで、というのも、2019年にフォーミュラE参戦を決めていたときに、それまで彼をジュニア・プログラムから外していたレッドブルが声をかけてきたからである。そして、それ以前にもF2でのレースは望み薄と思われていたが、2018年に総合3位に輝くなどしっかりと結果を残した。
「F2ではすでにそういう経験を積んでいた」と、アルボンは瀬戸際から復活する傾向について語る。「F2では、かろうじてシートを争っていた。どちらかというと、それが反発心とF1への固い決意を与えてくれたと言える。その感覚を味わったからこそ、F1で戦えると思っていた。困難なプロセスを経てきたから、もう動揺することはない」
さて、アルボンのカムバックにより、彼の能力がどのような結果をもたらすかを見極める時が来た。
アルボンが考えるDTMとは
フェラーリ488 GT3でのレースは、多くの人にとって夢のような体験だ。しかし、2021年のアレックス・アルボンにとっては、F1から脱落したことで失ったものを浮き彫りにする警鐘だった。
アルボンは、レッドブルの支援を受けたAFコルセの一員としてDTMに参戦した。ニュルブルクリンクで優勝し、トルコGPに参加するために最後の2レースを欠場したにもかかわらず総合6位に入賞するなど活躍を見せたが、彼が「ABSとトラクションコントロールを備えた、まったく異なるスタイルのレース」と表現するレーシングマシンに、あまり魅力を感じていなかったことは周知の事実だ。
GT3マシンは速いとはいえ、重量は70%大きく、パワーは40%低く、ラップタイムは25秒も遅いのだから、F1を卒業したばかりで、いまだにグランプリマシンをテストしているドライバーにとっては遅いとしか思えないのではないだろうか。
「その通りだけど、DTMを貶めているわけじゃない。AFコルセのスタッフやフェラーリとの仕事、そしてDTM自体は大好きさ。だけど、F1を経験し、その本質を知ってしまえば、だれでもF1ドライバーになりたいと思うものだよ」
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