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日本をアートの聖地にするキーパーソンたち Vol.5 金沢を巡り、アートと街を楽しめる新しいシステムを構築──林田堅太郎

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日本をアートの聖地にするキーパーソンたち Vol.5 金沢を巡り、アートと街を楽しめる新しいシステムを構築──林田堅太郎

瀬戸内、金沢、前橋、東京と、世界のアート好きがそこを目指してやってくるアートスポットがある。そしてその多くの“場”を作っているのはコレクターたちだ。日本を世界有数のアートディスティネーションにしたコレクターたちに、その場所に込めた想いを聞く。5回目は、KAMU kanazawaの林田堅太郎だ!

街・作家・美術館に “三方よし”な仕組みアートコレクターの林田堅太郎が、石川県金沢市内に私設現代アート美術館KAMU kanazawaをオープンさせたのは2020年6月のこと。この美術館がユニークなのは、金沢市の中心エリア内に“増殖”するように、展示スペースを増やしていることだろう。レアンドロ・エルリッヒの螺旋階段のインスタレーション作品があるKAMU Centerを皮切りに、サウンドとストロボライト、レーザー光線を使った黒川良一の作品を体感できるKAMU BlackBlack、香林坊東急スクエアの屋上を活用した野外展示スペースKAMU sky。また、夜はバーになる森山大道のインスタレーション《Lip Bar》を常設展示するKAMU Lや、用水路が流れるせせらぎ通りの一角につくったKAMU SsRgなど。なお、2022年冬には、コロナ禍の打撃を受けた市内随一の歓楽街・金沢新天地で森山大道の写真作品を見せた。店舗の突き出し看板をライトボックスにアレンジして作品を展示するこの企画は、当初期間限定のプロジェクトだったが、好評を集め現在も姿を残している。

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狙いは明確だ。各スペースは徒歩圏内。こうした展示スポットを巡りながら、来場者に金沢の街の魅力を感じてもらおうという試みである。

「美術館と芸術祭のいいところを組み合わせた感じですね。僕はどちらかというとシステムや仕組みを考えるのが好きで、KAMUをはじめたのも、“三方よし”ではないですが、金沢という街とアーティスト、加えて地方美術館が抱える課題と可能性を考えたとき、“このシステムならうまくいくかもしれない”とその構想が思い浮かんだから。まずは試してみよう、そのトライアルが世の中のためになるかもしれないと」

林田自身が作品を購入するようになったのは、20代、社会人になってから。当時購入したのは、アーティストが手がけたプロダクトや桑田卓郎の器などだったという。「ただコレクションが増えていく過程で、そうした作品を永遠に自分が持ち続けていくのかということに疑問も湧いてきたんですね。すべて自宅に飾ることもできないし。加えて、僕はモノを愛でることと同じように、アートを媒介にして人とコミュニケーションすることも好きだった。だったら美術館というシステムをつくってしまった方がいいのではと思った記憶もあります」

KAMUで展示している作品はインスタレーションやサイトスペシフィックなものが多い。作家とプロジェクトを行う中で、それがKAMUのコレクションに加わっていくこともある。どういう基準で作家を選んでいるのか。

「個人的な嗜好も多少混じるかもしれませんが、大切にしていることのひとつは、その作家や作品がどのように自分たちのいる社会や日常と繋がっているかということです。KAMUでも作品を展示しているサイモン・フジワラが、以前、こんなことを言っていたんですね。“作家が美術館にある作品を通じて50%くらいメッセージを伝えて。あとの25%は鑑賞者本人がその場で感じること、そして残りの25%は美術館を出て鑑賞者が日常に戻ったときに感じること”。そうやって日常で思い出せるものがいい作品だと。彼は社会や個人の問題を作品を通して問いかける作家ですが、僕もその考えに共感できるところがあります」

また、アートは文化の戦力になるとも話す。「たとえば、レアンドロの金沢21世紀美術館にある《スイミング・プール》やKAMUの《インフィニットステアケース》。それを見にたくさんの方が美術館に訪れます。ただ、金沢にある限り、基本的に、アジア圏で同じ作品を常設することはできないそうです。それが日本、金沢にあるということの意義は大きい。それは国や地域の未来にも関わってくることだし、もし予算や制度的な問題があるのなら、新しい仕組みを作って、そうした文化的資産をもっと持つべきだと僕は思います。KAMUでもその場に来ないと体感できない作品、文化的な力がある作品は意識しています」

最近は改めて60年代から70年代にかけて世界で隆盛したコンセプチュアルアートに注目し、リサーチしているという。「きっかけは2つ。ひとつはやはり昨年能登半島地震があって、モノをコレクションすることはやはり怖いなと思ったこと。もうひとつは、当時コンセプチュアルアートの作家が行ったことに、新しいヒントがあるのかもしれないと思ったこと。彼らは、社会と繋がるために、美術館の閉ざされた展示室ではなく、その外で作品を発表する場を求めたんですね。モノではなくコンセプトなので外に持ち出せるので。そうしたアイデアのもと、今の時代、僕らは美術館としてどのようなことができるのか、彼らの仕事を掘り起こしながら考えてみたいと。想定を超えた場所づくりや方法が見えてくるかもしれないし、それを美術館として提案できれば、また新しいことが起こるかもしれないと思うんです」

林田堅太郎/Kentaro Hayashida1987年福岡県生まれ。高校時代は単身上海に留学、その後、金沢の学校でプロダクトデザインを学んだ。現在は東京を拠点に活動。2020年6月に金沢に私設現代アート美術館KAMU kanazawa(石川県金沢市広坂1-1-52)を開館。

PHOTOGRAPHS BY YUKIHITO KONO
WORDS BY MASANOBU MATSUMOTO
EDITED BY KEITA TAKADA (GQ)

1. Ichikawa Yasushi © Daido Moriyama Courtesy of KAMU Kanazawa, 2. Ichikawa Yasushi © Hiroko Kubo Courtesy of KAMU Kanazawa, 3. Ichikawa Yasushi © Simon Fujiwara Courtesy of KAMU kanazawa

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