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「嫌がらせが怖くて言えない」 中小運送業者に輸送事故を押し付ける“無慈悲な商慣習”――1000万弁済でも現物没収、荷主選別の必然とは

掲載 更新 36
「嫌がらせが怖くて言えない」 中小運送業者に輸送事故を押し付ける“無慈悲な商慣習”――1000万弁済でも現物没収、荷主選別の必然とは

物流現場で起きる責任の押し付け合い

「やりきれないですよ……」

「ヤンキーはなぜ高級車に乗れるのか?」 ネットの素朴な質問が示した、都市部ホワイトカラーとの「逆転現象」

ある運送会社(A社)の役員は、そういって言葉を落とした。役員が筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)に見せたのは、有名ビールの輸送中に発生したという貨物破損事故の写真だった。缶ビールを詰めた外装箱がパレットにまとめられ、2段に積み上げられている。上段のパレットは傾き、下段の上から2層目の箱が押しつぶされている。中身のビールは漏れ、外装箱にまで染み出している様子がはっきり確認できる。

「ビールメーカーの物流センターからは、「お前のところのトラックドライバーが誤ってフォークリフトの爪を外装箱に刺し、外装箱を突き破って缶ビールが破損したんだ」といわれましたが」

役員はそう振り返る。だが写真を見る限り、フォークリフトの爪が突き刺さった痕跡は見当たらない。むしろ上下から強い圧力がかかり、全体が押しつぶされたような状態に見える。

「缶飲料は上下方向の力には強いんですよ。でも、左右に細かい振動が加わると、破裂することがあります。これはおそらく、パレットを2段積みした状態でフォークリフトで輸送し、そのときの揺れで缶が破裂したのだと考えられます」

役員はそう分析する。本来、缶ビールを積んだパレットを2段積みのままフォークリフトで荷役する行為は、破損防止の観点から禁止されている。ドライバー本人も、そのような作業はしていないと否定している。さらに不可解なのは、写真の撮影時刻だ。

「それに、この写真は、うちのドライバーが荷卸しをしてから2時間も経って撮影されたものらしいです。もし2時間も経過していたのであれば、漏れたビールは下に積まれた外装箱まで染み出しているはずです」

そう説明する。状況を総合すれば、荷卸し先の物流センター側で、フォークリフトのオペレーターがルールを無視して2段積みのまま貨物を移動させた可能性が高い。

「お客さまの作業員が起こしたミスを、うちに押し付けようとしていることは明白なんですよ。でも、これを指摘したら、どんな嫌がらせをされるかわからないし、取引だって切られるかもしれない。うちのような中小企業の立場では、泣き寝入りするしかありません」

役員はそういって、再び小さく息をついた――。

運送会社を苦しめる環境貢献活動

 次は、別の運送会社(B社)の事例である。B社は最近、ある大手飲料メーカーとの取引を見直す判断を下した。

 近年、環境配慮の一環として、包装や梱包資材を減らす動きが広がっている。エコバッグの推奨なども、その延長線上にある取り組みだ。

 清涼飲料の分野では、簡単にへこむ軽量タイプのペットボトルが主流になりつつある。あわせて、12本や24本単位で収納する外装箱も薄肉化が進んだ。資材削減の効果はあるが、その分、強度は落ちている。

 B社によれば、こうした軽量タイプの外装箱に入った飲料を大型トラックで輸送する際、やむを得ず急ブレーキをかけただけで箱が潰れ、破損事故につながるケースがあるという。通常の走行範囲内でも、荷崩れや変形が起きやすい構造になっている。A社とB社の事例に共通しているのは、

「損害の弁済だけを求められ、現物はすべて回収される点」

だ。潰れて中身が漏れた缶やペットボトルの補償であれば、まだ理解できる。しかし外装箱に問題のない製品まで一括で弁済対象とされ、しかも商品は回収されるとなれば、負担は一方的である。

 こうした商慣習は、飲料業界に限った話ではない。

 布団輸送でも似た事例がある。コンテナの雨漏りで積荷の一部が濡れた運送会社が、布団メーカーからトラック1台分すべての布団を買い取るよう求められた。高級品だったこともあり、金額は1000万円を超えたという。しかも現物はすべてメーカー側が回収した。

 この運送会社は、この件を機にそのメーカーとの取引を打ち切った。

個人責任では済まない現場構造

 この手のエピソードは、「運送会社は不利な立場に置かれている」「荷主は横暴だ」といった主張を補強する材料として語られることが多い。筆者自身も、これまで同様の切り口の記事を書いてきた。

 だが本稿では、あえて視点を変える。荷主の側に立ち、

「どうすれば運送会社に選ばれる荷主になれるのか」

という問いから考えてみたい。あわせて、近年注目される物流統括管理者(Chief Logistics Officer〈CLO〉)が担うべき役割についても、この文脈で捉え直す。

 A社とB社の事例には、共通する課題がある。それは、荷主企業の従業員が物流の最適化をどこまで自分ごととして捉えているか、その意識の水準である。まずA社の事例から考える。

 前述のような事故分析は、ビールメーカーの物流センター側でも当然把握しているはずだ。だとすれば、本件はフォークリフト・オペレーター個人のモラルの問題ではない。組織としての運用や管理体制に起因する構造的な課題である。そもそも「ビールパレットを2段積みのままフォークリフトで搬送する」というルール違反は、なぜ起きるのか。単発のミスというより、現場で常態化している可能性すらある。

 次にB社の事例である。外装箱は梱包材の一種であり、本来の役割は中身の保護だ。それにもかかわらず、輸送中に起こり得る急ブレーキ程度の負荷にも耐えられない設計になっているのはなぜか。資材削減を優先するあまり、物流現場の実態が十分に織り込まれていない可能性がある。

 ビールメーカーの物流センターでは、人手不足が慢性化しているのかもしれない。あるいは、小売店などの着荷主からの要請が強く、入荷や仕分け、出荷を短時間で回さざるを得ないタイトなスケジュールに追い込まれているのかもしれない。社内の風通しが悪く、ミスや問題を報告しにくい組織風土も考えられる。

 B社のケースについても同様だ。環境対応を推進する部門や製品開発部門の発言力が強く、物流部門の意見が通りにくい社内の力関係があるとすれば、「環境には配慮しているが、物流には負担をかける」設計がそのまま採用されても不思議ではない。

 さらに、両社に共通する弁済金の問題も見過ごせない。この非合理な弁済の仕組みを見直そうという発想自体がなく、「以前からこうしてきた」という慣習がそのまま踏襲されている可能性が高い。個々の事故やトラブルの裏には、こうした組織運営や制度設計の歪みが横たわっているのだ。

事故対応を定めた業界ガイドライン

 飲料輸送における事故対応については、すでに一定のルールが示されている。

・国税庁
・農林水産省
・経済産業省
・中小企業庁
・国土交通省
・公正取引委員会

に加え、運送会社や飲料メーカーが参加した飲料配送研究会が、2019年7月に「飲料配送研究会報告書」を公表し、対応の指針を整理した。そこでは、

・損害賠償(運送会社による弁済)の対象は、実際に破損している製品のみ
・運送会社が(未破損の製品を含めた)貨物全額賠償した場合、その所有権は運送会社が得る
・現物を飲料メーカーが引き取る場合には、「メーカーが相当程度に減額された金額で買い戻す」といった方法を契約で明文化する

こうした原則がガイドラインとして定められている。つまり、過度な一括弁済や現物の無償回収を防ぐための枠組みは、すでに用意されているということだ。

 それにもかかわらず、現場ではこれらが十分に守られていない。実態を見る限り、飲料メーカー側に

「物流を経営課題として捉える意識が根付いていない」

といわざるを得ない。

CLOに課される経営横断の責任

 2026年4月1日に施行される「物資の流通の効率化に関する法律」(物効法)では、一定量以上の貨物を扱う特定荷主に対し、物流効率化への取り組みが義務づけられる。その柱のひとつが、CLOの選任である。

 法令上、CLOは物流効率化の責任者と位置づけられている。ただ、その役割を

「運送会社に選ばれる荷主になるための責任者」

と広く捉えれば、本稿で取り上げてきたような現場の課題は無視できないテーマになる。

 まず問われるのは、CLOとその組織が、A社の事例に見られたような現場のルール逸脱や誤った慣行を把握できるかどうかである。現場で起きている問題が経営レベルに届かなければ、改善は進まない。

 さらに、社内には別の力学もある。短納期を当然のように物流部門へ求める営業部門や、対外的な環境配慮を優先し、輸送に耐えにくい外装箱を容認してきた環境部門や製品開発部門など、

「物流は販売や会社方針に従うものだ」

と考える勢力と、CLOは向き合わなければならない。

 最近は「運賃を上げればそれで十分」と考える荷主も見受けられるが、それは誤解だ。適正運賃の支払いは前提条件にすぎない。それだけでは、運送会社から選ばれる存在にはなれない。

 本来求められるのは、全従業員が「物流効率化なくして経営は成り立たない」という認識を共有することだ。そのうえで、

「どうすれば物流を効率化できるか」
「自部門の都合が物流の足かせになっていないか」

と自問し続ける組織に変えていく必要がある。そうした意識改革まで担うのが、CLOの本来の役割である。

許可更新制が迫る経営淘汰の時代

 運送会社も必死だ。

 A社のように「取引を切られると困る」として問題のある荷主との関係を維持できるのは、見方を変えれば、まだ体力が残っている会社だ。近い将来、運送事業許可の5年ごとの更新制度が導入される予定で、更新要件に経営状態を含めるかどうかも検討されている。赤字が続けば、事業許可が取り消される可能性もある。

 つまり、たった一度の製品破損事故で利益が吹き飛ぶような取引を抱え続ける余力は、もはや運送会社にはない。

 このため、優越的地位を背景に無理な条件を押し付けてくる荷主とは、一定の痛みをともなってでも関係を解消しようとする動きが広がっている。取引先を選ぶのは荷主だけではない。運送会社側もまた、取引先を選別し始めている。

 運送会社に選ばれる荷主になる必要がある――この現実を、本当の意味で危機感をもって理解している荷主は、まだ多くないのが実情だ。(坂田良平(物流ジャーナリスト))

文:Merkmal 坂田良平(物流ジャーナリスト)
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みんなのコメント

36件
  • rxf********
    氷山の一角ですね〜ひどいとちょっと横にズレた荷物📦️も返品、
    今日中に、もってこい!と言われる所もある(フォークマンの気分次第)とか、理不尽極まりない
  • suj********
    メーカーさん! うちが自社で運べば出来る!
    そんな荷崩れとかあり得ない!
    とでも言ってるように聞こえますが??
    想定内に値する事案と考えるようには
    出来ないなら、メーカーさん自社便で配送を
    すれば良いのですよ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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