日本に戻るつもりでいたのだが
2月1日、F2ドライバーの松下信治選手が離日してヨーロッパへと向かった。来るべき今シーズンの準備のためだ。
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そう、松下選手は今年もヨーロッパを拠点にFIA F2を戦う。チームはMPモータースポーツ。まさに先ほど、契約が発表されたところである。
昨年、カムバックしたFIA F2で2勝を挙げランキング6位となった松下信治選手だが、先日発表された今年のホンダのドライバーラインナップの中に、その名はなかった。昨年12月のスーパーフォーミュラ(SF)のテストに参加していたことから国内復帰が濃厚と言われていたのだが結局、松下選手は今年、チームを移籍してFIA F2を戦い、引き続きその上を目指すことを決めたのだ。
「MPモータースポーツに移籍して、FIA F2を戦います。狙うのはチャンピオンです。それしかありません」
そう教えてくれたのは松下選手本人。帰国していた日本を離れヨーロッパに戻る前日という慌ただしいタイミングで、話を聞かせてくれた。
「最終戦のアブダビのちょっと前くらいからオファーが来始めて、結局3つのチームから声をかけてもらってました。ホンダからは2020年は国内でと言われていて。自分ではF2をやりたいと思って動いていたんですけど、現実的に厳しい部分もあるし、かと言って下位チームからのオファーということもあって、最初は悩みましたね。」
ランキング4位以内に入りスーパーライセンスポイント40点をクリアしてF1への道を開くことを目指していた昨年の松下選手。中盤以降に調子を上げて2勝を挙げるなど活躍するが、序盤の取りこぼしが響いて目標を達成することはできなかった。
「前半、3戦目くらいまではメカトラブルがとにかく多かったですし、あとは自分自身も1年ぶりのF2だったのでタイヤをうまく使い切れなかったですね。初戦のバーレーンで『これはダメだ』と自分でも思って、チームも助けてくれたのでタイヤの理解はすぐに進んで、トラブルもなくなって、中盤以降、結果が出始めてきたということですね。」
サマーブレイクに入る前、8月初旬のハンガリーGP終了時点でランキングは7位。ホンダが、ここで松下選手のF2挑戦を終わらせると決めたのは納得できないことではない。松下選手自身も一旦は、日本に戻るつもりになったという。
「それでイギリスの家を片付けに行ったんです、モナコでのFIAの表彰式もあって。そして、その時にマクラーレンの今井さん(注:マクラーレンF1チーム チーフレースエンジニアの今井 弘氏。松下選手とは2015年にシミュレータードライバーだった時からの仲)と食事をしたんですが、今井さんに『後悔しない道を選んだほうがいい』と言ってもらって、自分自身でも本当はヨーロッパで走りたいと思ってモヤモヤしていた気持ちだったのが吹っ切れて」
ホンダが用意した国内のシートを捨ててまで
自分は本当は何をしたいのか。再度、自分と向き合って松下選手が出した結論は、F2で走るという道だった。
「ホンダにはクリスマスのころに自分の覚悟を伝えに行きました。すでに国内の体制もほとんど固まる時期だったので本当に申し訳なく、正直言って二度とここに来ることはないかもしれないと思いましたが、快く受け入れてくれて」
実際、ホンダは松下選手のためにSFそしてスーパーGTのGT500クラスのシートを用意していたと言われる。それを捨てても、挑戦することを選んだのだ。でも、下位チームからの挑戦に不安は…?
「じつはMPモータースポーツに、昨年カーリンで担当してくれたエンジニアが移籍したんです。チームとしても勝ちたいと強く思っていたからで、彼がチームに僕のことをプッシュしてくれたんです。去年のレースを見ても、結果は出ていないけれど実はトラブルは少なくてメカニックにも不安はない。しかも、F2に乗る条件としては破格のものを用意してくれたんです。」
FIA F2を1年戦うのには2~3億円という金額のスポンサーフィーが必要だという。しかし松下に提示された額は、その数分の1ほどだった。チームはすでにもう1人のドライバーを決めていて、そのスポンサーフィーは確保している。ただし、彼はルーキーなのですぐに結果が出せるものではない。要するに資金よりも実力を求めての松下選手の起用なのだ。
一方で、これまでのようにホンダが全面的にサポートする体制では、もはやない。まさに背水の陣での戦いになる。しかし松下選手は、あえて厳しい道を選んだのだ。レーシングドライバーとして、後悔のない生き方をするために。
そうと決めた松下選手はこの年末年始、トレーニングの傍ら支援者たちとともにスポンサー活動に明け暮れていた。そして最初に述べたとおり、引っ越し、チームとのミーティング、トレーニング等々のために自身はヨーロッパへ発ったが、今も日本ではスポンサー活動が続けられている。
「やらなければいけないことがいくつもあるので、そこは助けてくれる皆さんに託して、ヨーロッパに戻ります。着いたら、まずはチームとのミーティングのために(本拠地のある)アムステルダムに行きます」
ちなみに今年、松下選手はイタリアに住むのだという。イタリアにはシャルル・ルクレールなども育てたドライバーの精神・肉体トレーニング・センターとも言うべき存在、フォーミュラメディスンがあり、松下選手もここの所属。トレーニングのための最良の環境を求めての引っ越しである。
「今年のF2はタイヤが(18インチに)変わりますが、他はそのままです。1年やってきましたし、同じエンジニアと一緒なので、去年の後半戦のような戦いが最初からできればチャンスは大きいと思います。当然、チャンピオンになることしか考えていません」
今年のF2には他にもホンダ、そしてレッドブルのバックアップを受けてカーリンのシートを得た角田裕毅選手、そして昨年後半から参戦を開始した佐藤万璃音選手が参戦する予定だ。久々の日本人F1ドライバー誕生の日は近づいている。その中での松下選手の戦い、楽しみにしたい。
〈文=島下泰久〉
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