2350kgのボディを4.5L V8で走らせる
完全受注で生産はたったの11台
「全長5.7mオーバー! 平成バブルが産んだ、問答無用の国産スーパーリムジン」日産プレジデント・ロイヤルリムジン【ManiaxCars】
法人需要を見込んだ日産のフラッグシップサルーン、プレジデント。89年デビューのインフィニティQ45をベースに全長とホイールベースを延長し、歴代の中でも最も押し出し感の強い3代目JG50が発売されたのは、日本の土地価格がピークに達した1990年10月のこと。まさにバブル絶頂期に登場したという事実が、JG50のすべてを物語ってるような気がする。
全長5225mm、ホイールベース3030mmという圧巻のボディ。92年には全長とホイールベースを150mm短縮した個人オーナー向けのプレジデントJS(車両型式PG50)も登場した。
今回取材したロイヤルリムジンはロングホイール版がベースで93年に発売されたモデル。500mmストレッチ仕様で全長はアメ車もビックリな5725mm、ホイールベースは現行軽自動車の全長よりも100mm以上長い3530mmを誇る。開発はオーテックジャパン、生産は高田工業が担当するというのは、すでに発売されてたセドグロロイヤルリムジンと同じ流れだ。
エンジンはベースのインフィニティQ45と同じ4.5L V8のVH45DEを搭載。ただし、スペックはQ45の280ps/6000rpm、40.8kgm/4000rpmに対して、ロイヤルリムジンを含むプレジデントはクルマの性格に合わせて270ps/5600rpm、40.2kg/4000rpmとデチューンされている。
でもって、ロイヤルリムジンはセンターパーテーションなしのロイヤルセレクションIと、ありのロイヤルセレクションIIという二本立て。新車価格はIが1980万円! IIはなんと2500万円!! だったってんだから、当時どんだけバブってたのよ!?って話だ。
取材場所に近づくとガードレール越しだったにも関わらず、そこに明らかにデカイ物体が停まってることに気が付いた。もう、どうにも隠しようがない圧倒的な存在感。初めて実車を目の前にしたけど、コイツは目立つ!
トランクリッドを囲うように装着されたモール類はロイヤルリムジン専用。非常に凝ったデザインで、ひと目で素のプレジデントと見分けられる識別ポイントになる。マフラーはワンオフ、ホイール&タイヤは20インチを装着。オーナーいわく、「車高調を入れて、さらにローダウンさせるかどうかを検討中」とのこと。
というか、全長5.7mオーバーってのは想像以上のデカさ。それはアメリカンフルサイズSUVの代表的モデル、サバーバンをも上回る長さで、本来ならベンコラ3列シート9人乗り+余裕のラゲッジルームというパッケージングを可能にするほどなのだ。なのにプレジデントロイヤルリムジンは、ほぼ同じサイズにして4ドアセダンでしかも4人乗り。これを贅沢、あるいはムダと言わずしてなんと言おうか!?
さらに、ただでさえJG50は見た目がコワモテ系なのに、ロイヤルリムジンになるとフロントグリルやオーナメント類が専用品に交換され、巨漢ボディと合わせて威圧感が5割増しだ。こんなのが後ろから迫ってきたらソッコー道を譲るし、できることなら並走とかも勘弁願いたいとマジで思う(笑)。
左右リヤフェンダーにそれぞれ設けられた電動アンテナは、奥が前席オーディオ用、手前が後席オーディオ用。また、トランクリッドに備わるのは当時の定番だったHITACHI製テレビアンテナHCA-T200(手前)と、DoCoMoの自動車電話用アンテナ(奥)だ。
続いて内装は、英国王室御用達のコノリーレザーをふんだんに使っていて、まさに贅沢の極み。前席は前後スライドやリクライニング、座面の高さ調整などはドアに設けられたスイッチで行う電動式となる。ちなみに、本革仕様は当時250万円のオプションだったそうだ。
また、フロアマットはペルシア絨毯で、こちらはなんと17万円! のオプション品というから開いた口が塞がらない…。
さらに、“その”ためにこのクルマが存在してると言っても過言じゃないのが後席。背もたれ角度が連動する前後スライド機能とシートヒーター機能を持つ。
センターアームレストには後席専用エアコン&ラジオの操作スイッチが内蔵される。その後方には10連装CDチェンジャーの操作スイッチと、パーテーションで仕切った際に前席と会話をするためのインターホンが備わる。
さすがフル装備のロイヤルセレクションIIだけあって、後席は“動く応接室”そのものだ。センターのプッシュスライド式コンソールから自動車電話を取り出し、目の前の引き出しに格納されたファクスを使って仕事に励むもよし、専用ポットでお湯を沸かしてのんびりテレビやビデオを観ながらティータイムを楽しむのもよし。上下開閉式のセンターパーテーションを上げとけば、そこは前席と隔離された個室になるのだ。
木目パネルがあしらわれた豪華なキャビネットの中央には上段にモニターが、下段に後席専用オーディオが備わる。モニターは配線を加工することで、前席モニターに映し出す映像を後席でも楽しめるように改良。エンターテインメント性を高めている。
VIPが座る後席左側、その目の前には製氷機とシガーソケットから電源を取って使う専用ポットが格納されている。さらに、その奥にはオーテックのロゴ入りコーヒーカップが2つ。こんなところにまでプレジデントロイヤルリムジン専用アイテムがあることにビックリ。もちろん、オーナーは「もったいないから使ってない」とのことだ。
下段の引き出しには、なんとFAX機が。当時、どんな人がコレを使ってたのか? それを想像するだけでもけっこう楽しめる。VHSビデオデッキ同様、使える使えないは関係なく、歴史の生き証人的アイテムとして現状維持を願うばかりだ。
いや、マジで撮影&試乗場所がお台場でよかったと思う。これまでセドグロロイヤルリムジンやデボネアVリムジンに乗ったことがあるから気楽に考えてたけど、さすがにこのサイズになると、クルマがバンバン走ってる都心では周囲にばかり気を遣うことになるだろうから。
運転席に腰を降ろす。目の前のスピードメーターは当時インパルがラインアップしてた280km/hフルスケールタイプに交換されている。ちなみにECUもインパル製に交換。スピードリミッターは解除され、VH45DEのポテンシャルを最大限に引き出す。
シートポジションを合わせて、ちょっと緊張しながら発進。右後方確認のためミラーを見た瞬間、「ボディ長っ!」と実感する。でも、走り出しちゃえば、それもあんまり気にならなくなるから不思議だ。
それより4.5L V8のトルク感が想像以上。1500rpmも回ってればフツーに走ってくれるし、アクセルを軽く踏み込んでるだけなのにシュルシュル…とスムーズな吹け上がりとともに2.3トン超のボディを力強く加速させてく。パワーやトルクの数値もあるけど、それ以前の話として「排気量の大きさは偉大だ!」と改めて思った。さらにECUがインパル製に交換されてるから、もちろんその効果もあるはずだ。
乗り心地がどこまでもフラットで快適なのは言うまでもなく、走りはとにかく安定しまくり。コーナーを攻めたわけでないから突き詰めたところまではわからんけど、車線変更や交差点を曲がるくらいでは2.3トン超の車重を意識することはない。それが唯一あるとするならブレーキング時。前に出ようとする重い物体を一生懸命に引き止めるような感覚があった。
生産台数11台で、実働車両は数台と言われるプレジデントロイヤルリムジン。ボディサイズも搭載エンジンも動力性能も、他の国産リムジンとは格が違うことを痛感したしだいだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:JG50
全長×全幅×全高:5725×1830×1455mm
ホイールベース:3530mm
トレッド(F/R):1570/1570mm
車両重量:2350kg
エンジン型式:VH45DE
エンジン形式:V8DOHC
ボア×ストローク:φ93.0×82.7mm
排気量:4494cc 圧縮比:10.2:1
最高出力:270ps/5600rpm 最大トルク:40.2kgm/4000rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRマルチリンク
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR215/65R15
PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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