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【ヒットの法則110】ルポGTIは純粋にクルマに夢を託していた時代の特別なスモールカー

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【ヒットの法則110】ルポGTIは純粋にクルマに夢を託していた時代の特別なスモールカー

1991年に登場したフォルクスワーゲン ルポは、惜しまれながら2005年に生産が終了となっている。なぜルポは姿を消すことになったのか、ルポとはどういうクルマだったのか。Motor Magazine誌ではその真相に迫っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年12月号より)

ルポGTIはなぜ贅沢な内容を持つことになったのか
始めからちょっと唐突ではあるが、ぼくはこう宣言をしたい。「ルポGTIはきっと、もうこれからの時代には生まれ得ることのない、とても贅沢なスモールスポーツであった!」と。

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こうして過去形の表現になってしまうのは、残念なことにこのモデルの生産がすでに終了しているためだ。ルポGTIには2006年モデルは存在しないのである。欲しい人は今から在庫を探して、販売店へ走ろう! !

それはともかくとして、ぼくがルポGTIをかくも「贅沢なクルマ」だと確信したのは、実は2000年9月にこのモデルが欧州で発売されてからちょうど1年後に、イタリアで開催された新しいメルセデス・ベンツSLの国際試乗会に招かれた時のことだった。

新型SLの担当開発陣は当然のごとく、メルセデス・ラインナップの頂点に立ち自らの技術の全てを投入したこのゴージャスなスポーツモデルが、いかに贅を尽くした内容の持ち主であるかをプレスカンファレンスの中で詳細に説明した。

曰く「ボディは軽量化のため、フロントフード、フロントフェンダー、ドアパネルなどをアルミニウム化」、「ヘッドライトは最良の視界を目指しロービームをキセノン化し、オプションでハイビーム側もキセノンとしたバイキセノン式を設定」、「ワイパーブレードは、見栄えや空力特性向上のために金属部分をなくした エアロブレードを採用」といった具合。

それは、さすがにメルセデスのフラッグシップスポーツに相応しい内容だとその時は納得したものだ。しかし、それからしばらくの時間が経ってから、ふと気が付いてしまったのである。

「それって、ルポGTIと同じじゃん! !」 そうなのだ。アルミ化されたフードやフロントフェンダー、ドアパネルはルポGTIも使っている。エアロブレードもルポGTIが先に採用。ヘッドライトに至っては、新型SLがオプション設定にとどめたバイキセノン方式をルポGTIは標準採用。ちなみに、ウチのルポGTIが納車されたのが2001年8月末のこと。というわけで、このあたりの事情については個人的にもちょっとばかりウルサイのである。

それにしても、いくらシリーズ中で最も高いプライスタグを提げるスポーツモデルとは言え、それでもフォルクスワーゲンラインナップ上で言えば『末っ子』に過ぎないルポの一員に属するGTIが、何故これほどに贅沢な内容を持つことを許されたのだろうか? 

それは、このモデルの開発が行われた当時のフェルディナント・ピエヒ氏率いるフォルクスワーゲンというメーカーが、まだまだ純粋に自動車の夢を追うという体質を強く備えていたことと無関係ではないと思う。

よく知られているようにフェルディナント・ピエヒ氏は、あのポルシェ社の創設者であり、初代ビートルの設計者でもあるフェルディナント・ポルシェ氏の孫にあたる人物だ。無類のクルマ好きでもある氏はポルシェ社での活躍の後アウディへと移籍。そこでアルミスペースフレーム式ボディ構造のASFや4WDのクワトロシステムなど現在のアウディがセールスポイントとする多くのキーテクノロジーを手掛けた後、さらに1993年からフォルクスワーゲングループ全体を率いる立場になってからもグループ全体のプレミアム性を高める方向で事業を推進した。

2000年に本社の敷地に併設してオープンさせた巨大な自動車テーマパーク「アウトシュタット」も、だからさながら「ピエヒの夢」の具現化であるように見えてしまうほどだ。

もちろん、ルポGTIが完全にコストを度外視したクルマと言うつもりはない。アルミ製のボディパネルは、燃費チャンピオンを狙って開発されたエコカーの3L ルポと共有アイテムだし、インテリアのデザインも基本的には普通のルポと同様だ。

しかし、そもそもさしたる量産効果は望めないにもかかわらず、ヘッドライトはユニット自体が専用の設計。派手なメッキ製のリングが与えられたメーターはフード部分の形状までが他のルポとはまるで異なっていたりと、やはり掟破りのクルマづくりが行われた形跡が垣間見える。

実は、そんな「理想を追った」クルマづくりの手法を象徴するのがルポGTIのリアフェンダー周り。一見では見逃しそうになるが、205/45というサイズの15インチタイヤを収めるために、スチール製のこの部分の張り出し量も、標準車のそれより大きいのである。すなわちルポGTIのボディはあろうことか、ルーフとガラス、そしてテールゲート以外は「全てが専用品」ということ。ここまで気合いを入れた設計が可能になったのも、やはりこのクルマが「ピエヒの夢」のひとつであったためだろうナ、と、ぼくはそう思いを馳せてしまう。

軽量化の効果抜群で、その走りはまさに痛快
発売後1年足らずで、そのトランスミッションを「5速MTから6速MTへと換装する」というこれまた気合いのマイナーチェンジを密かに(?)やって退けたルポGTIの走りは、それはもう痛快と表現するしかないものだ。

軽量化の成果がバッチリ表れ、1トンそこそこしかない重量に対して1.6Lの4バルブDOHCエンジンが発する125psのパワーと152Nmというトルクの大きさはどんなシーンでも十二分。さすがに、205km/hという最高速ではアウトバーンの最速レーンを常時キープし続けるまでには至らないが、それでも180km/h程度までのスピードであれば、はるかに排気量の大きなモデルと堂々渡り合える加速の実力を備えているのもこのモデルだ。

ちなみに、手首の動きだけで軽快・確実に決まるフィーリング抜群の6速MTは、100km/h時のエンジン回転数6速で3000rpmというクロスレシオの持ち主。だから、6速でクルージング中でも、必要とあらばそのままのギア位置でしっかりと加速が効いてくれる。

一方で、そうした加速性重視のギアリングゆえに、120km/hも出ればそろそろオーディオの音色は諦めなくてはならないというオマケも付いて来るわけだが。

フォルクスワーゲン車に共通の美点としてトラクション能力に長けていることに加え、高速時の安定感、乗り味のフラット感が抜群なのもこのクルマのセールスポイントだ。ボディ4隅で車輪が踏ん張るとはいえ、絶対的なホイールベースが短いので低中速時には路面の凹凸を拾って時にピッチング挙動が目立ちがち。が、速度が上がるにつれてここでもフォルクスワーゲン車に共通のボディコントロールの良さを味わわせてくれる。

34Lと小さい燃料タンク容量に泣かされながら途中に給油を挟んでの500~600kmの連続したアウトバーン走行を行っても、ノイズの喧しさの割に疲労感が小さいと思えるのは、こんな「兄貴分たちとさしたる差のない」乗り味によるところがきっと大きいに違いない。

利益率の低いルポが消えざるを得ない現状
しかし、このところ営業赤字を報告されるようになったフォルクスワーゲンを取り巻く環境は、まさに今、現在進行形で大きく変わりつつあるようだ。まずは利益を上げられるクルマづくりを目指すフォルクスワーゲンにとって、当然ながら「儲かるクルマづくり」こそ急務であるというわけだ。

となると、ルポGTIといったモデルがカタログから落ちるのも、やむを得ないことなのだろう。もっと言えば、やはり高コスト設計ゆえに利益率が低いとされたベース車であるルポそのものも、すでに欧州のカタログからは姿を消している。

最新のスポーツモデルであるゴルフR32の心臓が、当然採用と思われていたヘッドの直噴化を見送ったのも、このところのこうしたフォルクスワーゲンを取り巻く雰囲気と無関係ではないとぼくは読んでいる。

ちなみに、ルポの後継役として現地で設定されたのはブラジル工場製の『フォックス』なるニューモデル。が、全長がおよそ3.8mとルポよりもひと回り大きなこの3ドアモデル、正直なところ特にインテリアの出来栄えなどはルポと比べると チープカーそのものという印象を拭えない仕上がりだ。見方を変えればそれだけルポというモデルがオーバースペックの持ち主であったと言えるのかも知れない。そして今思えば、それはひと昔前のフォルクスワーゲン車の、良き時代の特長を満載した特別なスモールカーであったのではないだろうか。

それにしても、フォルクスワーゲンの末っ子モデルがこうした変遷を遂げるのも納得すべき事柄なのであろうか。やはり時代は変わりつつあるのか……。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年12月号より)



フォルクスワーゲン ルポGTI(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:3525×1640×1465mm
●ホイールベース:2320mm
●車両重量:1010kg
●エンジン:直4DOHC
●排気量:1597cc
●最高出力:125ps/6500rpm
●最大トルク:152Nm/3000rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FF
●車両価格:226万8000円

[ アルバム : フォルクスワーゲン ルポGTI はオリジナルサイトでご覧ください ]

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