■かつての日本には遊び心あふれる商用車があった!
「コマーシャルバン」とは、乗用車タイプの商用車のことです。
ステーションワゴンなどと構造はほぼ同じですが、乗用車タイプのワゴンは居住性や快適性を優先させるのに対し、バンは荷物を運搬することを重視した作りとなっていました。
荷物の運搬が使用目的のため乗車車としてのスペースよりも貨物用の面積を広く確保しなければならず、さらに乗車部分と貨物部分の間に仕切りや壁があることなどが条件となっています。
そんな仕事の道具であるコマーシャルバンですが、かつては商用とは思えない、個性的で可愛い見た目のモデルが存在していました。
そこで今回は、かつてあった個性派コマーシャルバンの魅力を探ってみました。
コマーシャルバンの主力は小型貨物車で、車両のサイズなどの規定があり、全長4.7m以下×全幅1.7m以下×全高2.0m以下、さらにエンジンの排気量は2000cc以下(ディーゼルは制限なし)となっています。
さらに乗車面積より貨物面積が広いこと、貨物スペースの床面積が1平方メートル以上あること、荷物の積卸口が縦横80cm以上(トラックを除く)、貨物スペースと乗員用座席の間に壁や保護仕切りがあることのほか、普通車ベースのコマーシャルバン場合は最大積載量500kg(座席で守られている必要あり)といった規定が設けられています。
これらの条件を満たせば、普通車・軽自動車に関係なく4ナンバーとして登録可能です。
現在のコマーシャルバンは、専用設計のトヨタ「プロボックス」と日産「AD」のようなステーションワゴンタイプのモデルが市場の90%以上を占めています。
そして、最盛期には27万台を超える市場規模でしたが、普通車ベースのコマーシャルバンは社用車需要が減少して販売数も減少傾向。
一方で軽自動車ベースの貨物車は2017年の統計で25万5000台以上も新車登録されており、宅配への需要などの高まりでまだまだ高いニーズがありそうです。
そんな貨物スペース優先の仕事の道具であるコマーシャルバンですが、過去には奇抜なデザインを採用した車種がありました。
個性派コマーシャルバンの誕生には、1987年から1991年に日産が発表した「パイクカー」シリーズの大ヒットが大きな影響を与えたといわれています。
パイクカーの第1弾として1987年に発表された「Be-1」は当時の「マーチ」をベースにレトロチックな先鋭的デザインで内外装を仕立てたモデルで、1万台限定の予定に購入希望者が殺到。抽選での販売になるほどの大ヒットを記録しています。
さらに1989年には第2弾「パオ」、1991年には第3弾の「フィガロ」が誕生。
またパイクカーシリーズではありませんが、レトロっぽさをも感じさせる個性的なスタイリングの「ラシーン」も1994年に誕生するなど、いわゆる変わり種のモデルが普通に受け入れられる風潮や土壌がありました。
最近では「軽トラ」をベースにカスタムするのがトレンドになっていますが、それをけん引しているのはバブル期を経験した熟年層が中心。
この世代の人たちは「クルマって楽しい」というマインドを現在でも持ち続けており、運搬用の軽トラをカスタムして楽しむという文化が生まれたのです。
見た目重視の可愛いコマーシャルバンたちも、よくよく考えれば登場や開発期間がバブル期に絡んだモノばかり。それが何周も回って現在は魅力的に見えるのですから、面白いものです。
■今見ても斬新すぎる個性派コマーシャルバンとは?
では、かつて存在した個性派コマーシャルバンにはどのようなモデルがあったのでしょうか。
バブル期前後に登場した可愛いコマーシャルバンを3台紹介します。
●日産「エスカルゴ」
1989年に日産のパイクカーシリーズ唯一の商用車として登場したのが、ユニークな形状の「エスカルゴ」です。
全長3480mm×全幅1595mm×全高1835mmというノッポなボディは、当時の「パルサーバン」のプラットフォームがベースで、73馬力の1.5リッターエンジンを搭載。スパッと断ち落したような大型リアゲートを持つ3ドアバンです。
ネーミングから連想されるように「カタツムリ」を再現すべく、フロントにはグリルがなく(実際はバンパー部にパンチングで穴が開けられていた)、目玉っぽい丸目2灯を配置。ちなみにボンネットは特殊な形状でプレス加工できず職人による手作りだったとの話もあります。
ボディ形状はノーマルルーフ、リアクォーターウインドウの有無、キャンバストップと4タイプが用意され、側面の大型パネルには会社やショップのロゴなどが描かれることで高い広告効果があると期待されていました。
ただし全幅が狭い割に全高が1.8m超のため高速では横風に弱く、また荷室もホイールハウスの出っ張りが大きく、商用車としての実力はあまり期待できませんでした。
それでも販売されたのは、現在以上に「やっちゃえ!日産」状態だったことも大きいでしょう。
●ダイハツ「ミゼットIIカーゴ」
ダイハツの歴史を語る上で外せない名車「ミゼット」は、1950年代から1970年代までの高度経済成長期に大活躍した軽オート三輪で、小口配達向けとして小回りが効くコンパクトさが特徴でした。
そんな名車を1990年代の技術で蘇らせたのが「ミゼットII」です。
当時の軽自動車規格を下回る全長2790mm×全幅1295mm×全高1650mmの超コンパクトな軽トラスタイルで1996年に登場。当時のキャッチコピー「ミゼットを飼おう」からもわかるように、実際の配達用以上に乗用としての購入が想定されていました。
コスト削減のため、当時の「ハイゼット」(軽トラ)からパーツを流用。専用施設「ミゼット工房」で手作業による組み立てがおこなわれた少量生産モデルでした。
さすがに1名乗車では実用性も低すぎたのか、翌1997年には全長と全幅を40mm、全高も55mm拡大したシェルボディを被せたバンタイプ「ミゼットIIカーゴ」が追加されました。
これに合わせてコラム式3速AT、2名乗車に変更されています(ちなみにバンタイプの「カーゴ」と区別するため、トラックの荷台を持つモデルは「ピック」とネーミングが変更)。
このミゼットIIカーゴ最大の魅力は、いうまでもなくスタイリングとサイズです。エンジンは33馬力の直列3気筒エンジンと非力なものですが、車重もわずか700kg(カーゴカスタム)。
耐候性や居住空間は少しマシになりましたが、そもそもが「どんなに狭い道でも配達できる」というコンパクトなサイズのため、快適性はあまり重視していません。
非力ゆえに速く走ることはできませんが、それを超えた「一緒にお出かけする」楽しさにあふれたコマーシャルバンです。
●三菱「ミニカトッポ タウンビー」
「軽自動車の規格内で居住空間を広げるには?」という長年の問題に対して、最初に答えを出したモデルがありました。それが1990年に誕生した三菱「ミニカトッポ」です。
キャビンの上部を延長させることで広々とした車内空間を確保しようとした三菱の意欲作でした。
とくにミニカトッポは、商用で背の高い荷物を運搬することを見込んだ作りになっており、ベースとなった「ミニカ」の着座位置はそのままに、上部だけ大幅に伸ばしたモデルを実現しました。
そんなミニカトッポは、1993年にはミニカのフルモデルチェンジに伴い2代目へと進化。ホイールベースも延長されるなど、より実用性と快適性を高めていきます。
さらに1997年には、丸目2灯のヘッドライトとメッキグリル、ホワイトホイールなどを採用したクラシックテイストを感じさせる外装パーツを採用した「ミニカトッポ・タウンビー」が登場しました。
全長3295mm×全幅1395mm×全高1725mmというサイズはそのままに、より愛くるしいデザインを採用。フロアも低く、1700mm超の全高は荷物の積載には好都合で、十分な実用性を持った可愛らしいコマーシャルバンでした。
4WDも採用されていましたが、1998年のフルモデルチェンジでは残念ながら「トッポ」自体が消滅し、後継車の「トッポBJ」シリーズに移行しました。
※ ※ ※
過去のモデルには「よく商品化できたな」という奇抜なモデルがありますが、この個性派コマーシャルバンたちもまさにそんなモデルです。
現在だったら間違いなく存在しなかったジャンルだったかもしれません。
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みんなのコメント
アート系の知り合いがペイントしてすごく綺麗だったな。
なかなか商才のある子で、しばらくして都内の方に移転してた。今でも頑張ってるようです。
そんなわけでエスカルゴには特別な思いがあります。
俺も若かったな