2004年に衝撃的なデビューを飾った初代メルセデス・ベンツCLSが、2008年には初めての大幅なフェイスリフトを受けて日本に上陸している。Motor Magazine誌ではそのリフレッシュされたCLS350を早速フルテスト。今回はその時の模様をを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)
CLSの流麗なフォルムは4ドアクーペと呼ぶに相応しい
自社ラインアップには存在しなかったカテゴリーへの初参入となるブランニューモデルとしてデビューを果たしてから、すでに丸4年。しかし、「誰もが振り向くメルセデス」としてのこのモデルが放つ独特のオーラは、現在でも決して薄れてはいない。
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CLSが備える他の4ドアメルセデスには真似のできないそんなパフォーマンスというのは、まずはその独創的、かつ個性的なエクステリアデザインによって実現されていることは言うまでもない。「このルックスでなければCLSの存在意義は失われてしまう」、そう表現ができそうなスタイリングこそが、CLS最大のセールスポイントであるというわけだ。
「前後に流線型」と比喩をしても良さそうな翼断面調プロポーションに、4ドアモデルとしては有り得ないほどに小さなサイドのウインドウグラフィック。これがまず、CLSというモデルならではの独特の見栄えを形成する。4.9mという全長には不釣合いなほどコンパクトにまとめられたワンモーションのルーフラインが作り出すキャビン部分は、4枚ドアを備えつつもこのモデルがありきたりのセダンではなく、むしろ「4ドアクーペ」と呼ぶに相応しいパッケージングの持ち主であることを見る人に強く印象付ける。
もはや到底「3ボックス」などとは呼べそうにないこうしたフォルムは、しかし大いなる実用性のトレードオフとの末に成り立っていることもまた間違いない。初めてこのクルマの後席に乗り込もうとした9割がたの人は、その際に強く前傾したCピラーへと頭部をぶつけることになりそうだし、何とか乗り込んだとしてもフロント部分からシートクッションへと連続するフロアコンソールのため、反対寄りのポジションへと横移動をすることも不可能だ。高いベルトラインと前出の強く前傾をしたCピラー形状のために、4ドア車の後席としては例外的なまでに閉塞感が強いこともこのクルマならではの「特徴」だ。
もっとも、それゆえにスモークガラスなどを用いなくても、車外からの視線を程良く遮断して高いプライベート性が保てるという点を歓迎するゲストもいるかも知れないが。
後ろ下がりのラインを描くトランクリッドは、それだけトランクルーム内の高さを削り取ってしまう理屈。また、こうしたローデッキ処理によるデザインが空力性能的には不利に働くというのも、デザイン界では常識だ。自分は後席には乗らないし、大きな荷物など積むことはないという人でも、やはり実用性とのトレードオフの影響から逃れることはできない。
ドライビングポジションを採ると妙な圧迫感を受けるのは、他車では経験がないほど顔面近くにルームミラーが迫るため。急傾斜で迫る低いウインドシールド上端に据え付けられたルームミラーがかくも近くに位置する点にも、このモデルの特異なパッケージングを教えられることになるのだ。
しかしながら、そうした様々なハンディキャップは先刻承知の上。それでも自分は「ファンクショナルなデザインよりもファッショナブルなデザインを好む」という人のためのメルセデスが、このCLSというモデルなのだ。そんなCLSにも、今年の5月に大幅改良が施された。グレー塗装が施された2本ルーバーのフロントグリルや新デザインのアルミホイール、「アローデザイン」を備えたドアミラーの採用などが、そうしたリファインの主なメニュー。ホワイト基調でコントラストが明快なメーターパネルや新デザインのステアリングホイールなども同様の識別ポイントになる。ミュージックサーバー機能付きのHDD式ナビゲーションシステムや12セグ地上デジタル放送対応テレビから成る「COMANDシステム」の採用によるマルチメディア機能の充実も、やはり最新モデルの売り物だ。
ハンドルから濃密に伝わるメルセデスらしい安心感
今回テストドライブを行ったのは、そんなこのモデルの個性をさらに引き立てるべく用意された「AMGスポーツパッケージ」をオプション装着のCLS350。ベース車に対する相違点は、AMGスタイリングパッケージと呼ばれるエアロパーツ類の取り付けやブルーティンテッドガラス、クロームエキゾーストパイプ採用などのドレスアップ項目に加え、エアサスペンションやAMG5本スポーク19インチアルミホイールの採用など直接走りの質感にかかわる部分など、かなり多岐に及ぶ。
各部素材を徹底して吟味し、そのデザインもメルセデスが本来得意とするビジネスライクなものへと寄り過ぎないようにとの配慮が感じられるインテリアの仕上がりも、エクステリアデザインほどではないにせよ、かつてのメルセデスのユーザーとは異なる層を獲得するための重要な原動力足り得るだろう。
ただし、ナビゲーションモニターが比較的下方に位置することや、同じ「COMANDシステム」でもその操作系がコンソール上のダイヤル方式となっていない点などに、そろそろ少々デザインの古さを感じさせられるのもまた事実ではあるのだが。
すでに述べたように、とくに後席へのアクセス性に関しては、とくに頭部の運びの点で4ドアモデルとしては相当なハンディキャップを抱えるのは事実。が、ボディサイズが大柄なこともあり居住スペースそのものは、大人4人にとって不満のない水準を確保しているのもこのモデルだ。それにしても、各部のデザインといい、色使いといい、とてもメルセデスに乗っているとは思わせないのがこのモデルでの居住感。すなわち、すでにこうしたテイストを演じているという時点で、既存のラインアップが持たないニッチなマーケットを開拓しようというCLSの狙いは、大いに成功していると言っても良いだろう。
2855mmという同一値のホイールベースも示すように、CLSがEクラスの骨格をベースに構築されているのはよく知られている事柄。そして、走りの感覚の点でも良くも悪くもそんな「出典」のイメージを強く受け継いでいるのがこのモデルでもある。
基本的な走りのしっかり感、信頼感が高いのは、メルセデス各車に共通の美点。とくに、フロントタイヤが路面とコンタクトする感触がステアリングホイールを通じて濃密に伝えられてくるのは、前輪が駆動力の伝達から解放されたFRレイアウトを持つクルマならではのメリットでもある。
一方で、微低速時に大舵角操作を行った後の「戻りの鈍さ」は、Eクラスの、というよりもメルセデス・ベンツ各車に共通の気になるポイントだ。もしもこれが日本車であったならば不評噴出となるはずの、こうしたポイントが長年にわたって「放置」されているのもまた、メルセデス・ベンツというブランド力の高さなればこそということだろうか。
コンフォート、スポーツ1、スポーツ2と3つの設定モードを持つ「AIRマチック DCサスペンション」は、後者になればなるほどサスストロークのダンピングが増す感はあるものの、いずれのポジションを選択してもその乗り味に極端な差は生まれない。サスペンションストローク初期の動きがマイルドなのはエアサスペンションならではと思えるものの、路面の凹凸を拾って時に突き上げ感が強かったのはフロント255/35、リア285/30と、エンジンパワーや車両重量からすると少々オーバーサイズ気味とも思える19インチシューズの影響も少なからずあるだろう。
轍など、路面外乱に対しては良い意味で「鈍感」なモデルが多いメルセデス車だが、このモデルではそうしたシューズの影響もあってか例外的にワンダリング現象がやや気になった。と同時に、50~60km/hといったタウンスピードを中心にタイヤ空洞音が目立ったのもこのモデル。走り、そしてコンフォート性の両面から、このシューズの選択には少々疑問が残る。
ボディに入った振動のダンピングにやや時間がかかり、結果としてややウエット感をともなう乗り味を示していたのは、エアサスペンションとボディ特性とのマッチングの問題でもありそう。「スポーツパッケージ」の名は与えられたもののコンベンショナルサスペンション+18インチシューズというオリジナルの仕様に対して、見た目はともかく走りのテイストで正直なところ格段にスポーティさが増したとは納得し難いのが今回テストの仕様だ。
一方、動力性能に関しては、そのデビュー当初から素性の良さが印象的だった3.5Lの4バルブDOHCユニットの実力の高さを、改めて教えられたという印象が強い。
1.8トンに近い重量に272psという最高出力ゆえ、その絶対加速力は格別に強力というわけではない。しかし、エンジンから効率良くパワーを引き出す7速ATの働きもあって、常用シーンで物足りなさを感じることはまったくなかった。
低回転域からしっかりとトルクを発してくれるこの3.5Lエンジンは、しかしいざ上まで回してみると意外なほどに高回転域も得意とするユニットであることに気付く。3800rpm付近から音質はよりスポーティに変わり、そのままパワフルに6400rpmのレッドラインを目指す。ただし、パドル操作に対する変速のレスポンスはさほど素早いとは言えないし、またAMGモデルのようなダウンシフトごとのプリッピング機能も備えていない。そんなわけで、敢えてトランスミッションのマニュアルモードを選択してまで走ろうとは思わないのもこのモデルではある。
いずれにしても、こうして3.5Lエンジンを搭載したモデルが実現させる動力性能を知ってしまうと、「V型8気筒エンジンを搭載」という記号性を必要としないのならば、敢えて5.5Lエンジンを積むCLS550など必要ないのではないかとも思えてしまう。その流麗なルックスこそがCLSの最大の価値、と考えれば、そうした思いはいよいよ強くなってくるものだ。(文:河村康彦/写真:村西一海)
メルセデス・ベンツCLS350 主要諸元
●全長×全幅×全高:4915×1875×1430mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:200kW(272ps)/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・80L
●10・15モード燃費:8.5km/L
●タイヤサイズ:245/40R18
●車両価格(税込):898万円(2008年当時)
[ アルバム : メルセデス・ベンツCLS350 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
若い兄ちゃんたちが乗ってイメージ。
もう次はないよ、という意味を込めてW219としたんだろうけど、売れすぎちゃって後継モデルがW218に逆戻りしたのも斬新だった。
いいクルマだった。