豊田章男社長が2021年4月22日に、カローラ スポーツをベースとしたスーパー耐久レース車両に水素エンジンを搭載し、5月21日~23日に開催される「スーパー耐久シリーズ2021富士SUPER TEC24時間レース」に、「ORCルーキーレーシング」から参戦すると発表した。
それから6日後の4月29日、富士スピードウェイで富士SUPER TEC24時間レースのための公式テストが行なわれ、注目のルーキーレーシングのカローラ スポーツが出走した。
次世代の高効率エンジン スカイアクティブ-X以上の超希薄燃焼
水素エンジン搭載のカローラ スポーツ
搭載エンジンはGRヤリス用のG16E-GTS型3気筒1.6Lエンジンを搭載している。もちろん水素を燃焼させるために、直噴の水素インジェクターを備えたターボエンジンだ。
燃料となる水素はFCVのミライ用の高圧水素タンク4本(ミライは3本を積載)をリヤシート位置に積載しており、その4本のタンクをさらにカーボンパネルでカバーしている。そのため、リヤシート部分は大きな黒いボックスを積載しているかのように見える。また前席とは安全性を考慮しカーボン隔壁で完全に遮断されている。
燃料電池車のミライは3本のタンクで141Lの70MPa(700気圧)の水素容量だが、このカローラ スポーツはミライ用の高圧水素タンク4本で約200Lを搭載していると考えられる。そしてこのタンクに高圧水素を充填するため、水素ステーションも持ち込まれた。
ミライ用の高圧水素タンクを使用していることから、このカローラ スポーツは700MPaの高圧縮水素を使用することがわかり、かつてのBMWハイドロジェン7は極超低温の液化水素を、マツダの水素ロータリーエンジン、ニュルブルクリンク24時間レースに出場したアストンマーティン ラピードS水素バイフュエルは、いずれも35MPaの圧縮水素を使用していた。
BMWハイドロジェン7が液体水素を採用したのは航続距離を稼ぐためだったが、35MPaの圧縮水素では十分な航続距離は得られなかった。
水素の比重は空気を1.0とした場合0.07、発熱量はガソリンと比較して40%程度で、つまり水素によるエンジン出力はガソリンと比べ最大で50%、航続距離も50%と考えられる。したがって航続距離を稼ぐにはより大量の水素が必要で、そのために高圧縮する必要があり、従来挑戦してきた水素エンジン車の35MPaに対し、カローラ スポーツは70MPaの高圧縮として、できる限り航続距離を確保しようとしているわけだ。
70MPaという高圧化のため、水素ステーションでは特殊な電動圧縮機を使用し、水素をあらかじめ80MPaまで高めて置く必要があることはいうまでもない。そしてFCEVにも言えることだが、水素を圧縮する際に使われる電力も課題としては残っている。
技術的な課題
水素を使用する燃料電池では水素の純度を99.9%という高純度でなければ発電スタックが作動しないのに対し、水素内燃エンジンはもっと低い水素純度でも燃焼可能だ。
一方で、水素内燃エンジンはガソリンに比べ燃焼速度が早く、その速さは8倍に達し、3000度近い高温になる特性がある。ガソリン並みのパワーを発生させるために水素を大量に供給することが必要なためターボで高圧過給し、なおかつデトネーションやノッキングを回避しながら燃焼速度をコントロールすることが必須となる。
現在では直噴インジェクター、吸排気可変バルブタイミング機構などを組み合わせることで高圧過給とノッキング、デトネーション回避は可能と考えられる。
ただ高温燃焼のためNOxが発生するのでNOx用の触媒を装備しないとクリーン排気ガスとは言えなくなってしまう。
一方で、レースと言えども航続距離が問題となる。ラップタイムはともかく、一定の航続距離が稼げなければ、水素補給のために極端にピットイン回数が多くなってしまう。この航続距離とエンジンの出力は相反する。
現状では、1回の水素の満充填で富士スピードウェイを10周できるかどうかとなっているようだ。そのため、走行時間は15分間~20分間と想定され、やはりガソリン車と比較すると半分以下の航続距離と考えられる。
また通常のガソリン車のようにピットでは水素補給ができず、場内にある臨時水素ステーションまで場内移動が必要となる。
こうした課題に対して、パワーを抑えるか、航続距離を重視するか判断が難しいところだろう。ただ実際にはデータ収集用に多種類の計測器を積んで走るため、レースの勝ち負けというよりは、データ収集を兼ねた実証実験的な意味合いが強いということになる。
一方で、排気ガスゼロ、カーボンニュートラルを目指し、なおかつ内燃エンジンを活用する方法としては、水素とCO2から合成する「eフューエル」やバイオマス燃料の方が液体燃料として扱いやすく、なおかつ高出力を期待できるという意味で王道ではないだろうか。
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みんなのコメント
水素燃焼エンジンをレースで鍛えようとするトヨタの意気込みや意図は何なのか。
恐らく 水素は一つの手段であり、続く新型燃料などの可能性を追求しているように思えます。
エンジンの火を絶やさず 燃焼技術を突き詰めることが全世界を走る内燃機関のCO2低減になり、
最も効果的かつ経済的な脱炭素への回答となるので、この日本の技術はガラパゴスにはならない。
ユーザーに余計な費用を負担させないことが重要で、世界中の人々から支持されるはず。
だから今回のトヨタの挑戦や自工会会長として豊田社長の発言は支持するし応援したい。
「この先は無いけどそれまでは宜しくね」で協力業者は付いてくるだろうかう?
日本一デカイ企業、世界各地に工場が有る企業には協力業者だけで無くその先の下請け町工場にまで雇用を守る責任が有る。
内燃機関を続けると言う事はそれらを守ると言うこと。
2040年で内燃機関エンジンを止めると言ったホンダ。
ソレまで培った技術や下請けの事はどう考えているのか?
個人的にはゴーン体制で下請けを切った日産もそうだが元請け企業にはそうした責任を果たせと言いたい。