現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ANAが「MSJライバル機」を導入発表! 一体なぜなのか? P&W製GTFエンジン巡る攻防、日本への影響を徹底解剖する

ここから本文です

ANAが「MSJライバル機」を導入発表! 一体なぜなのか? P&W製GTFエンジン巡る攻防、日本への影響を徹底解剖する

掲載 更新 5
ANAが「MSJライバル機」を導入発表! 一体なぜなのか? P&W製GTFエンジン巡る攻防、日本への影響を徹底解剖する

新世代GTFエンジン搭載機の競争

 ANAホールディングスが、三菱MSJのライバル機だったエンブラエルE190-E2を最大20機(確定発注15機、オプション5機)購入することを発表した。

【画像】マジ!? これが「自衛官の年収」です! グラフで見る

 両機がライバルとされていた理由は、どちらも新世代のギヤード・ターボファン(GTF)エンジンを搭載し、同じマーケットで正面から競争する関係だったためである。

 両機のエンジンは、MSJが推力1万5000ポンドのPW1200G、E190-E2は2万ポンド級のPW1900Gだが、どちらもP&W社のPW1000G系列のGTFだ。

航空業界を変える燃費革命

 GTFは従来のターボファン・エンジンの発展形ともいえるが、最前面の大きなファンを駆動するために、プラネタリー・ギヤ(遊星歯車)による減速機構を採用しているのが特徴だ。ジェット旅客機のエンジンは、より燃費がよく静かなエンジンを求めて、ターボジェットからターボファン・エンジンに進化し、燃焼室を通らないパイパス流の流量を向上してきた。

 例えば、初期のボーイング737などに搭載されたターボファン・エンジンJT8では、燃焼室を通過するコア流との比(パイパス比)が1:1程度であったが、ボーイング787に搭載されるエンジンでは、バイパス流がコア流の10倍にまで大きくなっている。

 E190-E2やMSJが搭載するPW1000GシリーズのようなGTFエンジンは、10~12以上のバイパス比を持つと同時に、パイパス流の速度を減速することで最適化し、低燃費や低騒音の性能を向上させるものだ。このようなGTFエンジンは、小型プロペラ旅客機用のターボプロップ・エンジンと、従来型ターボファン・エンジンの、中間を狙う存在といえる。ANAでは、既にPW1000Gシリーズを搭載したエアバスA320neo、A321neoを導入済みだが、今回のE190-E2導入でリージョナル・ジェットにもGTF化が及ぶことになる。

 E190-E2の競合機としては、同じくP&WのGTFエンジンを積んだエアバスA220があるが、実はエアバス社が開発したものではない。カナダのボンバルディアが開発したCシリーズを、エアバスが提携して自社のラインナップに加えたもので、最終組み立てはカナダ(米国市場向けには米国)で行われている。まったくの新型機だったA220に対して、E190-E2は実績のあるエンブラエルEジェットシリーズの派生型だ。その点でE190-E2には安心感があり、ANAが採用した理由のひとつに挙げられるかもしれない。

 既存のE190および兄弟機のE170シリーズは、国内でもJAL系のジェイエアや、フジドリームエアラインズが使用しているが、今後はこれらの航空会社もGTFエンジンを積んだE190-E2を採用する可能性がある。

低騒音・低燃費の実力

 GTFエンジンの魅力は低燃費や低騒音だと書いたが、空港でGTFエンジン搭載機の離着陸に遭遇すると、その低騒音性能を体感することができる。筆者(ブースカちゃん、元航空機プロジェクトエンジニア)はMSJの飛行試験を何度も目にしているが、そのたびに騒音が小さいことを実感した。低燃費と低騒音は、現在の旅客機に強く求められている環境性能であり、国内各地を結ぶ路線にE190-E2の就航が増えれば、空港周辺の騒音軽減にも繋がることが期待できる。

 環境性能の点で大きな魅力を持つGTFエンジンだが、リージョナル・ジェット旅客機用としては、これらの機種に搭載されているP&WのPW1000Gシリーズが、事実上唯一の選択肢になっている。P&Wのライバルとされているジェネラル・エレクトリック(GE)社はGTFエンジンを供給しておらず、ロールス・ロイス(RR)社が現在開発中の「ウルトラファン」はPW1000Gシリーズより大型機向けで、まだ実用段階には至っていない。

 P&WがGTF市場で独占状態にある理由として、同社が米国で取得した特許が背景にある。2012年に出願されたこの特許(特許番号:US8935913)は、プラネタリー・ギアを使用してファン速度を減速することに関するもので、従来から存在するアイデアを包含してしまう内容であった。この特許が承認されてしまったことで、GE社での開発が困難になってしまったのだ。GE社は米国特許庁に異議申し立てを行ったものの、リージョナル・ジェット機用エンジン市場では、P&Wに大きく差を付けられる結果となったのである。

 このようにシェアを巡る競争の激しい航空エンジン産業だが、日本の重工各社にとっても他人事ではない。PW1000Gシリーズは国際共同開発が行われており、日本の重工大手3社(IHI、川崎重工、三菱重工)も日本航空機エンジン協会(JAEC)を通じて、開発と生産に参加しているのだ。

開発コストと収益の危機

 日本企業のプログラムシェアは各社合計で23%だが、巨額の開発コスト負担や設備投資などを償却するためにも、同エンジンの販売は重要だ。

 2023年にA320neoとA321neoが搭載するPW1100Gに問題が発生した際は、責任がない日本企業も巨額の損失を計上する事態となり、IHIは営業利益計画を900億円の黒字から800億円の赤字に下方修正する重大な危機に陥った。

 航空機産業はグローバル化が著しく、今後PW1000Gエンジン搭載機の就航が順調に推移するかどうかは、日本企業の収益にも大きく関わってくる。

関連タグ

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

「ハイブリッド車」神話崩壊? 豪州調査で判明「走り方次第でガソリン車より燃費悪化」 100万円高いHV、本当に元取れる?
「ハイブリッド車」神話崩壊? 豪州調査で判明「走り方次第でガソリン車より燃費悪化」 100万円高いHV、本当に元取れる?
Merkmal
ステランティス、日本で「最大50万円」値下げ! 輸入車市場に波紋、BMW・ベンツに挑むラストチャンス? 撤退か、反転攻勢か
ステランティス、日本で「最大50万円」値下げ! 輸入車市場に波紋、BMW・ベンツに挑むラストチャンス? 撤退か、反転攻勢か
Merkmal
新品より3~7割も安い! 自動車「リビルト部品」に注目集まるワケ かつては「安かろう悪かろう」も、いまや年率14%という成長市場
新品より3~7割も安い! 自動車「リビルト部品」に注目集まるワケ かつては「安かろう悪かろう」も、いまや年率14%という成長市場
Merkmal
リニア中央新幹線だけじゃない! 80年代、横浜で「世界初」営業運転があった! なぜ短命に? 幻の技術と夢の跡
リニア中央新幹線だけじゃない! 80年代、横浜で「世界初」営業運転があった! なぜ短命に? 幻の技術と夢の跡
Merkmal
スズキ「フロンクス」勝利! 日産「キックス」失速の理由とは? 生い立ち似たSUV、命運はなぜ分かれた? 設計思想と市場タイミングが残酷なまでに分けた明暗とは
スズキ「フロンクス」勝利! 日産「キックス」失速の理由とは? 生い立ち似たSUV、命運はなぜ分かれた? 設計思想と市場タイミングが残酷なまでに分けた明暗とは
Merkmal
テスラの強み、「EV」だけじゃなかった! “第2の柱”が年率100%成長、蓄電池で日本逆転なるか!? 新エネルギー覇権争奪戦、勝者は誰だ
テスラの強み、「EV」だけじゃなかった! “第2の柱”が年率100%成長、蓄電池で日本逆転なるか!? 新エネルギー覇権争奪戦、勝者は誰だ
Merkmal
春の珍事!? ジムニー&ロードスター「4月販売台数」前年2倍超! SUV・HV一強の裏で一体何が起きたのか?
春の珍事!? ジムニー&ロードスター「4月販売台数」前年2倍超! SUV・HV一強の裏で一体何が起きたのか?
Merkmal
IQ高い人が選ぶ「自動車メーカー」が判明! 衝撃のランキング発表! 日本メーカーは何位?
IQ高い人が選ぶ「自動車メーカー」が判明! 衝撃のランキング発表! 日本メーカーは何位?
Merkmal
トランプ戦闘機F-47の「コンペで敗けたメーカー」が余裕しゃくしゃくなワケ F-35で“まだまだいける!?”
トランプ戦闘機F-47の「コンペで敗けたメーカー」が余裕しゃくしゃくなワケ F-35で“まだまだいける!?”
乗りものニュース
トヨタの源流「豊田自動織機」非公開化の衝撃! なぜ今なのか? 系列再編・EV集中投資で進む中核集約、創業家の覚悟とは
トヨタの源流「豊田自動織機」非公開化の衝撃! なぜ今なのか? 系列再編・EV集中投資で進む中核集約、創業家の覚悟とは
Merkmal
軍事オタクはなぜ“戦車”に執着するのか? 「いいえ、航空機・艦船にも執着します」
軍事オタクはなぜ“戦車”に執着するのか? 「いいえ、航空機・艦船にも執着します」
Merkmal
「やっぱ『グリペン』にする」北欧戦闘機なぜいま選ばれる? コスパだけじゃないその理由
「やっぱ『グリペン』にする」北欧戦闘機なぜいま選ばれる? コスパだけじゃないその理由
乗りものニュース
日産はなぜ何度も「経営危機」に陥るのか? 鮎川財閥からゴーンまで…繰り返される「社内権力闘争」という病理
日産はなぜ何度も「経営危機」に陥るのか? 鮎川財閥からゴーンまで…繰り返される「社内権力闘争」という病理
Merkmal
ANAの“いぶし銀”旅客機、「エンジン再検査」から徐々に復帰…安全で「超快適」な客室が増える!
ANAの“いぶし銀”旅客機、「エンジン再検査」から徐々に復帰…安全で「超快適」な客室が増える!
乗りものニュース
味スタに行くと見かける“レア飛行機”実は新型が登場間近!? 元の良さは活かしつつ大幅進化
味スタに行くと見かける“レア飛行機”実は新型が登場間近!? 元の良さは活かしつつ大幅進化
乗りものニュース
「かっこいい」だけでは語れない! 令和のクルマ選び、本当に知りたい情報とは? 経済合理性、ライフスタイル適合…活字評論が示す納得の評価軸
「かっこいい」だけでは語れない! 令和のクルマ選び、本当に知りたい情報とは? 経済合理性、ライフスタイル適合…活字評論が示す納得の評価軸
Merkmal
水に浮かぶSUVに踊るスーパースポーツカー! 中国車の尖った技術を見て「日本車は抜かれた」の論調は果たして正解なのか?
水に浮かぶSUVに踊るスーパースポーツカー! 中国車の尖った技術を見て「日本車は抜かれた」の論調は果たして正解なのか?
WEB CARTOP
マツダ「2025年3月期決算」発表! 注目の「次期CX-5」「自社製EV」「新型エンジン」にも言及! 売上高は“過去最高”の一方「トランプ関税」の影響も!?
マツダ「2025年3月期決算」発表! 注目の「次期CX-5」「自社製EV」「新型エンジン」にも言及! 売上高は“過去最高”の一方「トランプ関税」の影響も!?
くるまのニュース

みんなのコメント

5件
  • del********
    なぜなのかって、三菱が開発やめたからじゃん
  • cab********
    ライバル。つーたって
    三菱はやめたんだから、エンブラ買うしか手が無い。
    筆者。ものの判って書いてる?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村