日本にも順次導入される予定であるプジョーのハイブリッド&EVモデル。そのハイエンドモデルとなるのが508ハイブリッドだ。ハイブリッドを主張しない控え目な仕立てのセダンをパリで試乗した。その実力をお伝えする。
差別化はオーナー心をくすぐるインテリアに
3008や5008といったSUVラインナップのヒット後も、日本で208や2008といったスモール・セグメントのニューモデルが好感されているプジョー。とくに後者はEVの国内展開も控えているが、本国では全ラインナップの上から下まで、すっかり電化モデルが揃っている。来年2021年あたり、日本にも順次導入される見込みだが、そのハイエンド側を担うプジョーの現・最上位機種が、2世代目となる508のハイブリッドだ。
じつは日本には導入されなかったが、プジョーは先代508で世にも珍しいディーゼル・ハイブリッドの「508 RXE HYBRID 4」を欧州では市販していた。ネーミング通り、後車軸側が電気モーター駆動というAWDだった。ところがプラットフォームがEMP2に、エンジンはピュアテックというガソリンのダウンサイジングターボへと代替わりした今、後車軸側の電気モーターで4WDというレシピは、今のところ5008や3008といったSUVモデルに限られる。アウディのオールロードクワトロ系やボルボのCC系のようなAWDのステーションワゴンの展開が、プジョー508にもありそうというウワサもなくはないが、ひとまず508サルーンと同SWは、直4の1.6リッターターボ180psに110psの電気モーターをアイシン製8速を介して前車軸に組み合わせた、FFのPHEVとなった。馬力の合計は290psあるが、同時に全開にはならないためだろう、システム総合出力は225ps・360Nmという数値が発表されている。ちなみにホイールベース内、リアシートから荷室床下にかけて収められたリチウムイオンバッテリーの容量は11.6 kWh、EVモードでの走行距離はWLTP値で約54kmとアナウンスされている。
外観から見る限り、通常のICE(内燃機関)モデルの508との相違は、リアのクオーターウィンドウのHYだけが青い"HYbrid"のロゴと、左側のリアフェンダーに充電口があるので、そのトラップが設けられていることぐらいだ。グリルやリアのオーナメント上のロゴも通常ロゴで、e-208などに用いられる半分ブルーのライオンのロゴではない。PHEVだからと外見での特別仕立ては一切ないのだ。
だが「GT」仕様のインテリアの仕立ては、明るいグレーベージュのアルカンターラとレザーのコンビによるスポーツシートを採用。グレーのウッドが惜しみなく張られたダッシュボードからドアにかけては、クロームのインサートに沿ってブルーのアンビエンス光が組み合わされている。外目には分からなくても、オーナー心理だけをくすぐるという控え目な専用仕掛けといえる。
過激さは踏み込むべき領域ではない
3008や5008と共通のバイ・ワイヤのシフトレバーをDレンジに入れ、メーターパネル右下のバッテリー残量はほぼフル、95%ぐらいの状態で発進する。Bモードこそ追加されたものの、いつもと同じカタチの同じ感触だ。走行モードはノーマルだが、なるほど電気モーターだけで積極的に走ろうとする。フランスの50km/h以下に制限される街乗り状況では、ほとんどICEは介入してこない。よほど強くアクセルを踏み込んで加速しない限り。
ICEの介入は加速時は穏やかでスムーズだが、街乗り程度の速度域では減速時にむしろ、8速ATのロックアップと回生エネルギーの協調グセというか、前のめりのショックがややある。いっそBモードでワンペダル気味に走ろうとするが、ブレーキペダルに足をのせないと完全停止には至らない。プジョーらしいオーソドックスな味つけだな、と感じた。
面白いのは加速感だ。決して強烈に速くはないのだが、電気モーターのアシストのおかげでICEがゆっくり回転数を伸ばしながら速度がのっていく過程を、その微妙に遅過ぎない絶妙さが、低中速域から味わえる。この電気1本足打法でもない、かといってICEに頼り過ぎない局面が、パワートレインのフィールとしてドライバーの感覚にもっとも合う。遮音はがっちり効いていてエキゾーストノートは遠くで唸っているような印象だが、スポーツモードでシフトが低めを選ぶようになっても、格別に勇ましい感じはしない。やはりノーマルPHEVとは別に、エクストリームなスポーティさを狙ったプジョー・スポール・エンジニアードが控えているためだろう。過激さは508ハイブリッドが踏み込むべき領域ではなく、むしろ29g/kmの低CO2排出に狙いを絞っているようだ。
ハンドリングはプジョーらしいニュートラルステアだが、1700kgを超えているせいもあり、操舵感にマスの大きさは感じる。乗り心地はコンフォートモードまで用いれば相当に滑らかだが、大きく上下する局面で多少バタつく。いずれ思い切りスポーティに走らせるには、トルクはともかく、もう一息パワーに伸びがあってもよい気がする。前後左右、操作系を介してドライバーが作り出そうとする動きは、いずれの方向もフェルトに包まれたような穏やかさが、一貫している。心地よいと思うか物足りないと思うかは、乗り手の気分次第かもしれない。
そして燃費だが、渋滞やバイパスを混ぜながらパリと郊外を走っていると、現実的にEVモードで走れるのは35kmほど。Dセグという車格を思えば健闘している。バッテリー残量を固定して保持しておくモードもあるが、寄り道などをして一度イグニッションOFFにするとメモリーしない点は、他社のPHEVと同じくだ。ちなみにバッテリー0状態での燃費は、瞬間燃費で確かめた限りだが、約7.5L/100km、つまりリッター13kmほど。DセグPHEVとしても細かく回生し、ICEも1.6Lターボと小さいので、燃費が大崩れすることはなかった。
しかし問題は外出先での充電だ。今回、パリ郊外のショッピングセンターの無料充電ステーションで付属の充電コードを用いて挿してみたが、30分ワンショットで回復度は6%、満充電までの残り時間は8時間55分。無料の22kW規格のステーションなので、それ以下の数値しか出ていないとは思うが、なかなか手厳しかった。だが通勤のような決まったルートと一定の距離レンジでは、PHEVはEVに近い乗り方をできれば力を発揮するのは周知の通り。
おそらく日本では50kW規格、つまりCHAdeMOによる急速充電にも対応する可能性が高い508は、PHEVという細く深い道を究めた1台になる可能性はある。要注目だろう。
文・南陽一浩 写真・Groupe PSA 編集・iconic
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